第60話 値踏み
午後になり前衛と後衛が交代することになり、やっとカイルの戦うところを見ることが出来た。
ヤバい、マジでヤバい。
なにがヤバいって? 弱すぎるんだ。しかも初めて剣を握ったのかとおもうほどの不格好なフォーム。中の人、どんくさ過ぎねーか?
アイリスが俺を解放しない理由、それはこのせいだったんだ。
なんていうかゲームが下手なのか?
こんな高額不正ソフトを買うんだからそれなりのゲーム歴があるんだとばかり思っていた。
それともシステムに慣れてないとか? でも何回もリセットしているとはいえ、そこそここの世界にいるんだろ?
まさか生体コンピュータに慣れてないとか? つまりコイツは俺と同い年ってことか?
いやないか、中学卒業程度で何千万もする不正ソフトなんて買えないよな。
一応ゲームのルールではリセットしたら、スキルを2つ引き継げるけどレベルは1まで落ちるそうだ。だからレベル1に落ちたのだから、今このぐらい戦えるのは頑張ったのかもしれない。
それでもとてもコイツを魔王城へ連れて行く気にはならない。
俺は今ステータスを見られないから例えになるけど、剣聖であるアイリスを100としよう。彼女は上位デーモンを運が良ければ単独討伐ギリギリできるかどうかってところだ。当然一人で魔王城へは行けない。
そのサポート役に選ばれた俺は、前回アルたちと魔王城をクリアしたおかげでずいぶんと能力が上がっている。70ってところか。
元々リアン君が60ぐらいで単独で下級デーモンの討伐に成功しているから10しか上がってないけど、たぶん60以上からレベルアップが難しくなっているんだと思う。
そう考えたらアイリスはかなりのチートキャラと言えるかもしれない。
ちなみにフレデリカは75ぐらいだったようだ。デーモンの討伐経験が豊富な彼女が生きていたら、アイリスは絶対仲間にしただろうな。
それで本題のカイルはせいぜい20ってところだ。
サリーが18,チェリーが16ぐらいだから、連れて行くのを断念したんだぞ。ほぼ同レベルじゃねーか!
これから夏休みまでに最低40も上げるにはどうしたらいいんだ? さっぱり思いつかない。
この値踏みはリアン君の能力だ。相手の能力を見極めて討伐したり、仲間と共闘したり、時には逃げ隠れもしたんだろう。生きるか死ぬかの土地に暮らしていたら必須の能力だったに違いない。
そんな中1人だけ全くわからない人物がいる。プラムだ。強さも感じないが、弱さも感じないのだ。
彼女が聖女だから? でも大聖女のモリーは感じるぞ。とんでもなく強いってな。当然モカ、ミランダ、ルシィも同じような感覚だ。
勇者の称号持ちのアルも同じくとんでもなく強いだ。アイリスなんか比べ物にならない。10000なのか100000なのか、それ以上なのかもわからない。
エリーちゃんは隠しているから全くわからない。だけどそれは彼女が女神であることを隠さないといけないからだ。
だからプラムもそれと同じように能力を隠しているんだと思う。
彼女も女神なのか? 一応ソルダム社のスターだからチートはチートなんだろう。でも本物の女神と同等はさすがにあり得ないはずだ。
もしかしたらこれから能力を覚醒するといった設定のせいでわかんなくしてるのかもな。
でカイルのことに戻るのだが、ヤツの気持ちがよくわからない。プラムとの間に恋愛感情は皆無だ。確かにこれならアイリスが嫉妬することはないだろう。
でも暗めの過去持ち設定とはいえ、トップアイドルキャラだぞ。その彼女が生身で自分の幼馴染だなんてちょっとは色目で見たっておかしくないのに。
アイリスのことだってそうだ。自分に惚れ切っていると信じ込んでいるのだろうか?
彼女に色々負担をかけても感謝も労いもしない。
こんだけレベルが低くて弱いんだから、ごめんの一言ぐらい言ってやれよ!
釣った魚に餌をやらないタイプなのか? でもまだ関係が安定してないだろ?
なんか気持ちがどんどん離れてってるぞ。
もし俺の予想が確かで以前のカイルのことを覚えているなら、今のヤツの行動は悪手でしかない。
それともチェリーの攻略を先にしようと言うのか?
目の前に彼女が現れて、ヒロインらしくかなりの美少女で目移りするのはわかる。
だけどそれだったら、もっと彼女のことを知ろうとしろよ!
今のキースとの婚約内内定状態で他の男に靡くと思うか? ちょっと聞けばわかることじゃん。
あれか、パーティーから抜けているから、追い出されたと思い込んでいるのか?
とにかく今このパーティーはある種の緊張状態にある。カイルの無神経さに女の子(+俺)が振り回されてんだ。迷惑この上ない。
日帰りなのでダンジョン攻略は今日中に終えた。俺がアイリスに挨拶をしようとしたら彼女の方から声を掛けてきた。
「試験のことだけど、お互い別パーティーで行いましょう」
「ありがとうございます。彼女たちもその方が安心できるでしょう」
「ですが夏休みまでに彼女たちを鍛えて置いてちょうだい。一緒に魔王討伐へ連れていきます」
「ええっ? 俺はともかくサリーとチェリーもですか? 彼女たちは魔王討伐へ行けるほどのレベルではありません。まさかカイル君の意向だからですか?」
「違うわ。サリーはかなり裕福な家庭らしいわね。彼女の家から支援を受けたいの。北部までの滞在費などね。もちろん贅沢なんかしないわ」
「それならば金銭交渉だけすればいいじゃありませんか。むしろ連れて行く代わりにと言えば出してくれるでしょう」
「いいえ、彼女は私の手の内に置いておきます。まだ貴族であるうちに。その方がお金を出すわ」
確かに実家のウォルフォード伯爵家に余分な金はない。しかも彼女は貴族籍を失う瀬戸際で後押しや融資してくれる貴族なんかいない。
なんてことだ。まさかそんな理由でサリーをつれていこうだなんて!
「それにチェリーの魔法陣はプラムの魔力温存のためにも必要だわ。彼女も連れて行きます」
「彼女はドレナー様の婚約者として内々定を受けています」
「ドレナーなどたかが男爵家ではないの。わたくしは伯爵家なのよ? それに大きな功績がなければ彼女だって内々定を切られるのではないかしら?」
その可能性はなくはない。でも命を失ったら元も子もないだろ?
「ですが!」
「あなただって功績は必要でしょう? 田舎から出てきて実力だけで希望の場所の騎士になんかなれないわ。いえ、わたくしが言って北部へ送り返してもいいのよ。そうしたらあなたの嫌な男たちの相手とやらもしないといけないかもしれないわね」
……こんなアイリスは知らない。彼女は清廉潔白でこのような脅しをかけるような女性ではなかったはずだ。
それだけ追い詰められているってことか? アルは一体何を言ったんだよ!
「わたくしには後がありません。言うことは聞いてもらうわ、リアン=マクドナルド」
クソっ! 俺が素直に事情を話したことが、弱みになっちまった。リアン君、ごめん。俺は悔しさに唇を噛んだが、いうことは一つだった。
「……俺に関しては、仰せのままに従います。でも彼女たちの意志は俺には曲げられません」
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