表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
6/72

第6話 不正ソフト

やっとタイトルの異世界が出てきました。


 帰れなくなったと深刻なことを言う割には、アルフォンス=レッドグレイブは全く慌てていなかった。


「でも僕には、というかアルフォンス君には召喚能力があってね。ほらエリカを呼び寄せるストーリがあるだろ。代わりに僕のかわいい妹を召喚したんだ。エリーは実の妹なんだよ」


「エリーはね、せーれーなの。

 いちおうクー・シーって、せっていなのよ」


 クー・シーとは、犬の妖精だったと思う。

 たしか番犬として時には人間を襲うこともあったはずだけど、主の仕事を手伝う側面からメイド姿で描かれたりすることもある。


「じゃあエリーちゃんは、あなたに召喚されたんですか?」


「そう言っていいかな。エリーは僕の召喚せい霊扱いで、特別にカーライル社運営と連絡も取れるんだ。彼らが言うには、君はあるプレイヤーがログインしているゲームの中にいるそうだ」


「カイルですね。俺が男の娘キャラだって知っていました。アイツが犯人なんですね」


「そこまではわからない。僕も軽く接触してみたけど、思慮がなく短気で気弱さを隠しているだけの小心者のプレイヤーだ。あんな人物がアカウント強奪なんて繊細な仕事が出来るとは思えない」


 昔はそこまでじゃなかったそうだが、生体コンピュータの普及で不正アクセスは非常に高度な技術が必要なのだ。

 俺は外部端末だからそれよりはやりやすいとはいえ、カーライル社のセキュリティーは業界トップレベルだ。侵入は難しいはずだ。

 つまり一流のハッカーでないと出来ない=短気な小心者では出来ないのだ。


 ということは俺のアカウントを奪った犯人は一流以上のハッカーってことか。



「事情を話して、カイルに助けを求めることは出来ないんですか?」


「僕は敵役だからね。近づこうとしたらひどく警戒されてしまった。エリーにも行ってもらったが、今度は幼児過ぎてバグって罵って蹴ったんだ。こんなに小さな子に対してひどいと思わないか?」


 思うけど本来のエリカは黒狼らしく、大人っぽい巨乳美人だ。こんなちびっ子が来たらそりゃバグだと思う。


「そのう、エリーちゃんに大人になってもらうわけにはいかないんですか? 精霊なら容姿を変えられますよね?」


「中身も3歳児だからねぇ。ちょっと無理かな」


 それは無理だ。

 って言うかVRは12歳以上と年齢制限がある。プレイができない年齢じゃないか。


「それでどうしたらいいんですか?」


「ここはある意味RPGでもある。つまりゲームをクリアして終了させれば自ずとログアウトできると推測されている」


「クリアできなければ?」


「この世界で死ぬ」


 う、ウソだろ? そんなの絶対に嫌だ!


「それは……推測ですよね?」


「そうだけどほぼ確実だろうね。

 大体はプレイヤーがゲームの元になった異世界に間違えて足を踏み入れてしまう程度だけど、それもログアウトができるから気が付いてないことが多い。行方不明になっているケースもあるからたぶん死んで戻れなくなったんだろう。

 ただこんな風に既存のキャラクターに憑依するなんて、君が初めてのケースだよ」



 俺は耳を疑った。何言ってんだ? このヒト。


「い、異世界?」


「君は思ったことないか? このゲーム、やたらリアルだよなぁってさ」


「あります。カーライル社やソルダム社には多いですよね」


「ソルダム社には柳みやびと言うゲームクリエイターがいてね。彼女の母親の柳ほまれと同じくシャーマンの素質がある。本当の異世界を元にゲームを作ってしまうんだ。彼女の母親は漫画家兼イラストレーターだったけど」


「シャーマン?」


「神の声を聞いたり、未来を預言したりするあれさ」


 意味がわからなかった。そんな人間がいてゲームで異世界に行けるとしたら問題ばかりじゃないか!


「そんな簡単に普通は行けないよ。ただ優れたシャーマンは異世界に実際ある状況をゲームや小説にするケースがあるんだ。力で見たものをアイデアだと思うらしい」


「ソルダム社ってたくさんゲームありますよ。そのほとんどがこんな風に異世界とつながっているんですか?」


「いいや、ある特殊な要素がないとそうはならない。その要素については守秘義務でこたえられない。

 君が聞いても真似はできないけどね」



 俺が驚きのあまり、二の句が継げないでいるとレッドグレイブ氏は思ってもいないことを言いだした。


「初めに僕は君のことを不正プレイヤーだと思っていたんだよ」


「そんな! 俺は新品を買いました‼」


「うん、そのことの裏付けも取れている。新品購入のレシートやパッケージのビニールも部屋に残っていたそうだから。でもあからさまな偽装工作にも見えた。

 しかも君の救出のためにこのゲームに入ったのに、なぜか僕は3年前に来てアルフォンス君と周囲に認識されてしまった。まるで彼の代わりをしろと言わんばかりにね。

 何かの罠だと思っても無理ないだろ?」


 3年!

 そんなに長く? いったいどうやって生きているんだ?



「その、あなたは大丈夫なんですか? そんなに長くなんて……。

 それにアルフォンスの代わりって?」


「1つずつ答えるね。僕は特殊なスキルもあるし、訓練を受けているから大丈夫だよ。

 もともとこのソフトの不正使用を調査するために動いていたんだ。裏サイトで高額取引されていると情報が入ってね。

 ニセ情報も多かったが異常があるソフトはわかっているだけで1本だけ。その1本にログインすると隠しルート、別名アダルトルートと呼ばれているゲームがプレイできるというものだ。なぜなら本来のゲームではシナリオ上のキスやボディータッチ程度だったのが、性行為まで自由に及べるからだ。

 だからクリーニングせずに別プレイヤーがログインを繰り返している」


「そんな夢みたいなソフトがあるんですか?」


 自分の推しと恋愛だけでなく、エッチも出来るなんて本来ならありえない。

 いやR18 のソフトだと、そういう機能付きのものがある。

 だけどそれは制作側が作った疑似的な行為だから、それで満たされるかといえばそうでもないらしい。


「もちろん夢ではなく、プレイヤーはログイン中異世界に来ているんだ。そのことに全く気付きもしないでね」


 ゲームによる精神汚染がどんなふうになるのかは知らないけど、場合によっては寝たきりになると聞いたことがある。でも全年齢型ゲームのヒロインとエッチできるのなら、人生掛けるヤツもいるだろう。

 特にプラムちゃんなんて、絶対に手の届かないスーパーアイドルである。



「そのソフトの使用方法は3つ。プレイヤーは1度きりしかプレイできないこと。ログイン中は何をしてもいいけどシナリオを大きく壊さないよう最後までプレイすること。最後に絶対リセットやクリーニングを行わないことだ。

 結末がどうであろうと最後まで終わっていれば、次のプレイヤーは最初からプレイすることになる。女性たちは性的被害に遭っていることになるけど一応は恋愛なんだし、初めからプレイすることで時間が巻き戻っているから記憶がない。経験値や好感度は初期値になるが、これまでに習得したスキルが2つ残せるんだ。カイルがサポートキャラである君の存在を不要にしたのはそのせいだね」


 納得だ。リアンはカイルのライバルで強くなるためのキャラでもある。それならいなくても問題ない。それにしてもクリーニングをしてないなんて。


「いつ事故が起こってもおかしくないですね」


「だから僕はカイルの中の人が君だと思って入ってきたわけだ。後ろから彼に君の名を呼んだら相当狼狽していた。もしかしたら君の知り合いかもね」


「ならどうしてカイルが俺じゃないってわかったんですか?」


「どんなに調べても君にはこのソフトの金額が払えないからだ。ちなみにいくらだと思う?」


「……100万円以上ですか?」


「今わかっているのが2000万円で取引されたのが最新の情報だ。このソフトの噂を聞きつけて今では5000万円以上で買うという声もでているよ。」


 そんな金、俺だけじゃなく親父でも出せない。

 家だって借家だ。貯金はあるらしいけどいくらか知らない。



「次はもう1つの質問の方だ。こんな状況になった原因の1つが、今のカイルの直前のプレイヤーがアルフォンス君を殺害したせいだと思われる。だからその時間以後の世界にアルフォンス君はいない。

 だけどなぜか僕がダイブした時は、彼が死んだ直後の3年前の現場に入ってしまった。どうしてそうなったのかその理由はわからないから教えられない。

 よってメイドになるエリカという狼獣人もいない。なぜなら僕が召喚していないからだ」


 でもその理屈だと、リアンも死んでいることになる……。

 いや、そのことはとりあえず横に置いておこう。


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ