第59話 リセットの弊害
俺がサリーとチェリーにカイルたちとのダンジョン行きを話すと2人は困惑したようだ。俺がアイリスの元へ報告に行く以外はほとんど彼らと接点がなかったからだ。
「いつかアイリス様と一緒のパーティーになるって言ってたけど、本当だったのね」
「まだ決まってないよ、サリー」
「断れないの? いくら何でも私たちはアイリス様のレベルになんか達していないし」
チェリーの不安もわかる。たまに彼女たちよりレベルの高いダンジョンに行くが、2人が討ち漏らした敵は俺が全部倒していたからだ。
「俺も行きたくないけど、アイリス様はこの国の騎士の頂点なんだ。あの方の命令に逆らうことは騎士科の俺にとって退学を意味する。
とにかく今回だけは付いてきて欲しい。君たちはすごく成長したけど、やっぱり魔王討伐に連れて行くのは無理がある。そのことはアイリス様に伝えたが、カイルが連れてくるようにと言ったそうだ。
とにかく実際に見てもらって君たちは来なくていいように交渉するつもりだ」
「どうしてかしら? 私カイルって人とクラスも違うのよ。どう考えても足手まといだし」
「同じクラスでもあたしだって話をしたことなんかないわ。いつもプラムにべったりだし」
そういえば俺もアイツとクラスで話したことがない。
チェリーが本当に訳が分からないと首をかしげているが、君がフラワーヒロインの1人だからだよ。こんなこと説明できやしないけど。
「彼は今ケガしていて本調子じゃないそうだ。だから君たちのペースで動くのがいいのかもしれない。行くダンジョンも君たちのレベルに合わせてくれるんだ」
「そういうことなら、行くだけ行こうよ。リアンにはずいぶんお世話になってるしね」
サリーがそう言ってくれたので、チェリーも頷いてくれた。
それなのに顔合わせの時から不愉快だった。
「アイリスがどうしてもというから組んでやる。せいぜい役に立てよ」
それを聞いて一番苛ついたのがサリーだ。なぜならカイルはちゃんと挨拶した彼女を無視したからだ。
「アイツ、何様なの? 同じ平民でしょ?」
一応アイリスの手前、小声で話しているが相当苛ついた様子だ。
「どうも勇者になるらしいぞ」
「ホントに? 全然強そうに見えないんだけど」
「どのくらいの強さなのか俺も知らない。ただ俺と同じくらいは強かったそうだぞ」
「うーん、それなら問題ない?」
「いや、俺以上に強くなってもらわないと問題だよ。俺はせいぜい下級デーモンしか倒せてないから」
そうして思った通り問題だらけだった。
まずヤツは自分の荷物を持てと俺に命令してきた。だから仲間とポーターは違うと俺は拒否するところから始まった。
「悪いが俺はパワー系の魔法剣士ではないし、荷物持ちをするとは全く聞いていない。ポーターが必要なら専門メンバーを雇うべきだ。それと今回のダンジョンは泊りではないから荷物も少ないはずだ。その程度は自分で管理しろよ。
それとも荷物があれば、剣が振るえないほどの大けがなのか? だったらDクラスに落ちてケガを治してからCクラスに上がればいい」
俺の言葉にカイルは気色ばんだが、アイリスが諍いを止めた。
「今回はあなたたち3人の実力を見るためだから、カイルの荷物はわたくしとプラムで持つわ。あなたは剣とポーションだけを持ってくれればいいから」
最後の言葉はカイルに振り返って言っていたが、甘やかしすぎじゃないか?
「アイリス様、本気ですか? そこまで具合が悪いなら俺はダンジョン行きを勧めません。さっきは冗談のつもりで言いましたが、本気でDクラスに編入することを考えた方がいいですよ。ケガはしっかり治さないと後に引くんです」
だが彼女は取り合ってくれなかった。
「悪いけどわたくしたちには時間がないの。とにかく3人には前衛をやってもらって、後ろから様子を見させてもらうわ。私たちが交代するときは少し荷物をお願いするけれどいいかしら」
ああ、アルが彼女に最後通告をしたのか。今回は従者じゃないからいつ言うのか知らなかったからな。
彼はアイリスと婚約を継続しないから、借金を全額返さなければ彼女は10月から平民に落ちてもしかしたら娼館へ行くかもしれないと伝えたのだろう。
「仕方ありませんね。サリー、チェリー、その時の荷物は俺が持つから。俺の代わりに周囲への警戒は怠らないでくれ」
「「わかったわ」」
俺たち3人は午前中ずっとダンジョンモンスターを倒し続けた。サリーが土魔法で障壁を作って敵を留めているうちに、チェリーが魔法陣を起動して倒す。俺はいつも通りそれで倒せなかった敵を始末していた。
ヤツは妙にニヤニヤしていた。俺にはゲームシステムが見られないから確認できないが、どうやら経験値がパーティーリーダーである彼に入るように設定してあるようだ。
俺はこのダンジョンで成長することはないけど、2人はまだ伸びるはずだ。その成果を奪われていることは腹立たしいが口には出せなかった。
昼食の時もカイルの横柄さが続いた。サリーとチェリーが全員分の食事を用意してくれていたのだが、サリーにだけおかずが冷たいだの、まずいだの言うのだ。しかもそれを用意したのはチェリーなのだ。それでチェリーが謝ったら、ますますサリーに辛く当たるのだ。
「なんなの! アイツ。昼食は善意で用意したのに! 文句を言うなら食うな‼」
「アイリス様が後で昼食代を払ってくれるそうだよ。カイルはケガで苛ついているだけだから許してくれだそうだ」
「お金の問題じゃないわ。次があったら、いやもう一緒に行きたくない。……あんな奴の一体どこがいいの?」
全く持って同感だ。
アイリスが直接彼女たちに言わないのは、今ヤツの機嫌を取っているからだ。そううところも俺たちを苛つかせた。
「なんかチェリーには妙に優しくてさ。あの子を大事にしてくれるだけならいいけど、なんか魂胆でもあるんじゃない?」
うん、彼女の見る目は正しい。ヤツはゲームヒロインとそれ以外で態度を変えているんだ。チェリーも居心地が悪いみたいで困っていた。
「変に優しくされると、アイリス様の視線が気になるの。私にはキースがいるから止めて欲しい……」
「魔法陣士は少ないから、魔王討伐に加わって欲しいのかも?」
「そんな! 絶対無理‼」
一応ヒロインとしてついて行くルートもあるんだから、そのポテンシャルはないことはないはずだ。でも彼女はそうするつもりはない。だって恋したキースに受け入れられたからな。
俺は気づいた。
カイルはこの世界がゲームだと思い込んで疑わないのだ。まぁ自分で買ったソフトで異世界に行ってるなんて思いもしないよな。だから横暴でわがままな態度も許されていると思っている。
でも前回のアイリスの逆ギレを忘れてしまったのか? お前を殺そうとしたんだぞ。彼女の不信感はどんどん募っているぞ。
そういえばアイリスのために本物のアルフォンス=レッドグレイブを殺したプレイヤーがいたよな。たぶんソイツはアイリス推しで彼女の前で相当かっこつけていたに違いない。
確かそいつは殺害後、ゲームを終了させずリセットして他のヤツにソフトを転売したんだよな。アルフォンスがいないことで攻略が全部だめになったと思っていたみたいだけど、アルが代わりをすることでソイツの攻略情報が生きていたとしたら……?
アルフォンスとアイリスの回想シーンはこんな序盤じゃなく、ゲーム中盤の終わりぐらいに出てくるそうだ。つまりそのプレイヤーはそこまでレベルを上げていたはずだ。今のカイルとは比べ物にならないほど強くて、彼女に優しかったに違いない。
不正ソフトのゲームを説明書通り最後までプレイしなかった弊害だ。最後までやらないと前のプレイヤーの記憶が消えないんだ。そして別人のように女の子に優しくするカイルにアイリスが冷たい視線を送っている。それをチェリーが気にしているんだ。
でもアイリスのカイルはもう戻ってこない。だってアルの仲間たちが見つけたプレイヤーはみんな死亡していたって言ってた。
なぁ、これって相当ヤバいんじゃないか?
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