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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第58話 溢れる感情


 チェリーがさらなる魔法陣作成をがんばるということでサリーと図書館へ行くことになり、俺は2人とここで別れることにした。と言うのは建前でホントのところはエリーちゃんにリアン君のことを相談がしたいからだ。


「きょうはアイリスさまにごほうこく、ないんでしょう? いっしょにごはんたべよ~。しろごはん、たいてあるよ」


「うん、楽しみ」


 リセットされてから初めて一緒に食べるんだ。学食も悪くないけど、やっぱ和食が恋しい。大人が実家に帰るってこんな感じなんだろうか?



 俺がそのまま貴族寮に入るのはおかしいのでポメ化されてから部屋に入った。部屋の中は前回と変わらない。アルはいつものイケメン状態で仕事中のようだ。後ろにエリカが立っているが手伝ったりはしない。見た目だけは完璧メイドだけどな。


「おにいさまは、レッドグレイブだんしゃくりょうのしごとしているんだよ」


「ああ、早く爵位を引きつげってことね」


「うん」


「ウォルフォード伯爵領の仕事はいいのか?」


「あっちは、くにのみはりがしっかりなの。だからアイリスさまのおかねがつかわれちゃう」


 下手な領地経営をしてこれ以上レッドグレイブ男爵を怒らせると国の恥になるから、国王直々の命令で不正を行えないようになってるのだ。それで娘のなけなしの金を贅沢品に流用するなんて最低だと思う。



 エリーちゃんが夕食の準備をしてくれたがサラダやゆでたまごなどのサイドメニューはあるけど、メインがない。どうしたんだろうと思っていると、アルがストレージから寸胴鍋を取り出した。出してすぐ匂いでメニューがわかった。カレーだ。俺は唾をのみ込んだ。


「エリーね、おくににかえったでしょ。そしたらキラおねえちゃんが、ぜったいカレーがこいしくなるっておしえてくれたの。にほんじんならだれもですきっていっていたよ。リアンはどう?」


「もちろん好きだ」


 キラお姉ちゃんとは俺とは別の時に異世界転移した聖女だそうだ。ある小説の悪役聖女だったが、彼女が保護されるはずだった王族から姿を隠していたから断罪はなかったという。その後フリーの冒険者として生きて、今は魔族と結婚しているそうだ。

 こんな風に異世界転移しても、ゲームやラノベ通りのストーリー展開になることはほぼないのだという。


「たとえ自分が物語の通りに動いても、相手はそうじゃないからね。どんどん物語からそれていくんだ。だいたい完璧ではないにしろそれに近いほどの異世界の情報を読み取れるシャーマンはほとんどいないからね」


 アルの言葉に納得だ。リアン君は絶対カイルに恋したりしない。



 カレーはチキンカレーだった。エリーちゃんならスパイスから仕込みそうなものだがちゃんとおうちカレーだ。前に俺の世界に行った時にキラさんの願いでカレールーを買い込んだのだという。

「似たものは作れるけど、なんか違う」らしく、どうしても欲しいと言われたのだ。


 一口食べたらすごくうまい。ベースのスープや食材の質が上質でなおかつ馴染みのルーの味だ。そして何だか泣けてきた。エリーちゃんが俺を喜ばせたくて作ってくれたというのに、ウチのカレーはポークカレーだったと思うと無性に母さんのカレーが食いたくなったのだ。


「リアン……」


「ごめん、なんか思い出しちゃって……」


 エリーちゃんがそっと俺の目にハンカチを当て、背中をさすってくれた。ああ、俺は高校生にもなったのにガキみたいに涙が止まらない。溢れる感情が止められないのだ。


「よけいつらくさせちゃったんだね。ごめん」


 違うんだ、エリーちゃんが俺を喜ばせようと思って作ってくれたのはよくわかるんだ。気持ちはすごく嬉しいのに、コレジャナイって思ったんだ。

 アルも申し訳なさそうに言った。


「リアン、君に負担をかけてばかりですまない……」


「ううん、泣いたらちょっと落ち着いた。俺今リアン君の気持ちに引きずられて、北部に行くのがイヤで仕方ないんだ。でも家族の元に帰りたいし、なんか不安定になってさ」


 俺はカイルたちと魔王討伐に行かなくてはいけないのに、アイリスにパーティーを辞めたいと言ってしまった事を話した。



「リアン君がリアンをあやつることはないけど、エリーがかれをおこしたことでしんそこねがっていることがうかびやすいんだわ。リアンはやさしいからそれをむしできない」


 エリーちゃんが困ったと眉根を寄せていた。

 それは俺がきっぱり彼の願いを無視すれば済むことなのか? でもそんなこと出来そうにもない。

 リアン君の感情を止めるためには彼の魂をもっと深く眠らせる必要があるが、そうなると俺が元の世界に帰った時に彼が自然に目覚めるかがわからない。それに俺としては彼に負担を強いたくないのだ。



「ごめん、わがままだよな」


「ううん、エリーもリアン君をきずつけたくない」


 それを聞いてアルが考え込んでいたが、エリカを振り返った。


「リカ、リアンの護衛としてカイルたちと行動を共にできるかい?」


「できる。でもアイツにさわられたくない」


 俺に優しくてもエリカは決して人間が好きになったわけではないので、ベタベタしたがるカイルが嫌いなのだ。今も肩とか手を握られそうになって軽く避けるのだという。


「でもそうなったら誰が精霊術士になるんだ? 俺がなったら帰った後のリアン君に迷惑がかかるよな?」


「影に潜ませて同行していることを隠すしかないな」


「オラもそれがいい」


「だいたい魔王討伐には夏休み前に行ってもらわないといけないしね」


 それで出来るだけアイリスに早めに討伐に行くことを決心させることにした。


お読みいただきありがとうございます。


作中に出てくるキラお姉ちゃんが登場する作品はこちら。


『したかったのは異世界転生であって転移じゃない1』

https://book1.adouzi.eu.org/n0335hq/


『したかったのは異世界転生ってあって転移じゃない2』

https://book1.adouzi.eu.org/n1834hq/


ランキングタグの貼り方をすっかり忘れてしまって、ここではリンク張れていないですが念のためURL置いておきます。よろしくお願いいたします。

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