第53話 託された2人
アイリスから放課後残っているように言われて身支度を整えて待っていたら、彼女はカイルとプラムを連れて戻って来た。
「カイル、私が選んだリアン=マクドナルドよ。あなたたちは同じクラスだから自己紹介はいらないわね」
「アイリス……俺のケガが治ればコイツいらないぞ。同じ魔法剣士だそうだからな」
ケガって、本当はリセットによるレベルダウンだろ。そう思ったが顔には出さないように気を付けた。
「いいえカイル。彼の剣は一流よ。彼は魔法士としても強いわ。それに北部で下級デーモンの討伐歴もある。彼はすでに魔王城の入場条件を満たしているのよ」
「アイリス様、なぜそれを?」
俺もリアン君もそのことはこちらでは誰にも、いやあちらでも学校へ行くため上層部にしか話していないのに……。
「わたくしは剣聖としてこの国の騎士の頂点なのよ。当然その騎士を目指すものの情報は事細かに入ってくるわ。
いい、リアン=マクドナルド。私たちが目指しているのは魔王を討伐することよ」
俺はすぐに返事が出来なかった。アイリスは俺が驚きで話せなくなったと思っているが違う。俺としてはこいつらが魔王城へ行ってくれた方が助かる。でもリアン君はどうだろう?
彼は貴族にも勇者にもなりたいわけではない。フレデリカの遺志を継いで、彼女の爵位を親戚に継がせるようにするだけで後は平穏に暮らしたいのだ。ただの友達でいいから欲しいなんて、そんなささやかな願いを言うくらいとても孤独で辛かったのだろう。そんな彼の大事な体で魔王城へ行くのか?
自分の都合ばかり考えていないか? そう頭によぎったのだ。
だけどアイリスは貴族でしかも剣聖だ。彼女の要望に応えないとなるとこの国で騎士として、いや王都で生きていくこともままならないだろう。今の彼女には逆らえない。
それにリアン君は俺にこの体を託してくれた。俺は彼の信頼にこたえるために覚悟を決めた。
「かしこまりました。ただカイル君は反対のようですし、進級まで固定パーティーを組めないままでいることは出来かねます。ですから引き続きパーティーを探すことをお許しください」
「どうして? これは命令と思ってくれていいのよ」
「でしたら固定パーティーとして入らせてください。彼のケガが治って試験直前に不採用と言われればさすがに困ります。学校の方針でソロでの行動は許されていませんし、次のパーティーを組むこともほぼ絶望的になりますから」
今のところは俺が他のパーティーを組める可能性は少ないが、正式メンバーなら夏休みに討伐へ行こうと言える。
それでもアイリスはそれでも俺をパーティーに入れるとは言わなかった。彼女はずっと彼の様子を窺っている。一番大切なのはカイルで、その彼が嫌がっている俺を自分の裁量で入れられないのだ。
俺の方も試験については最終的にアルの所へ入れてもらえばいいけど、このままいけば彼は9月末に爵位を継承する。そしてアイリスが結婚を拒否すれば彼女は平民となりどこかに売られてしまう。そうなれば魔王討伐へは行けない。だからどうしても夏休みに魔王城へ行かなければならないのだ。
俺はアルにゲーム通り10月まで待てないか尋ねたら、レッドグレイブ男爵が待てないのだという。カルミア夫人の存在をどうしても早く消してしまいたいらしい。もしかしたら再婚相手が気にしているのかもしれない。
だからどうしてもこの夏休みまでにカイルの能力を上げて、魔王城へ討伐に行くしかないのだ。
どうやったらコイツにやる気を出させるか、それが問題だ。数日悩んでいたらキースからサリーとチェリーを預かって欲しいと言ってきた。どうやらラルフがサリーにしつこすぎて彼女が辞めると宣言してしまったのだ。
「サリーがいなくなればチェリーへの苛めもひどくなると思う。俺は彼女の刺繍の能力に賭けてみたい。だからそれまで頼む」
キースはチェリーに好きだと告白したらしい。ただ結婚するには魔法陣士としての実績がいる。それでサリーと共に俺の元へ行って、その実績を積んでくれれば婚約できると告げたのだ。
俺としてのメリットはパーティーを組めることだが、それ以上にこのチェリーを使ってカイルの底上げを出来ないかと思い始めた。彼女が勇者パーティーに入れるキャラだからだ。それにさすがにあの全然動けない2人よりは今のカイルでも動けるはずだ。その2人に褒められながら一緒に訓練すれば、強くなってくれるのではないかと思いついたのだ。
それで俺はアイリスたちとの打ち合わせの時にそのことを持ち掛けた。
「彼女たちは今までのパーティーでひどい目に遭っていたそうなのです。それを案じたキース=ドレナー様より、2人と正式なパーティーメンバーになって欲しいと託されました。ただ彼女たちは今までほとんど戦闘に参加していません。彼女たちの強化と共にカイル君の復帰訓練も同時に行ってみてはどうでしょうか?」
ほぼ初心者の2人と組ませて、彼のリハビリ(と言う名のレベル上げ)を行おうというのだ。
「それはどういうことかしら? 彼女たちは中等部を卒業しているでしょう?」
「同じメンバーに自分たちが倒したところを褒めろという人物がいて、何もさせなかったようです。そのせいで戦闘も指示通りにしか動けません。そうしないと不機嫌になり居心地が悪くなってしまうんです。だからまるで初心者のようにしか動けません。それにカイル君も復帰訓練を兼ねて彼女たちと一緒に身体強化や戦闘をした方がいいと思うんです」
「馬鹿にすんな! 俺にそんなものは必要ない‼」
苛立ちが隠せなかったのか、どう怒鳴りつけて彼は部屋から出て行った。
「待って、カイル」
プラムがすぐ後を追いかける。それを不安そうにアイリスが見つめていた。いくら幼馴染でも他の女と仲良くされるのは嫌だよな。
「どうも俺は余計なことを言ってしまったようです」
「いいえ、戦えない剣士が1人いることはパーティーとしてよいことではないもの。あなたにも負担をかけることになるしね」
「仮とはいえ同パーティーメンバーです。協力し合うのは当然ですから。今回の提案もそのつもりだったのですがわかってもらえず残念です。ただドレナー様のご希望にもお答えしたいと思っておりますので、女性2人を訓練することをお許しください」
「構わないわ。カイルが心を決めてくれなければあなたをパーティーから出さなければならないもの」
「ありがとうございます」
それで俺はサリーとチェリーのレベル上げをすることになった。
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