第52話 カイルのパーティーへ
困ったように額に手を当てていたアルは聖剣を消し、エリーちゃんに指示した。
「とにかく報酬だけもらって戻ろう。その宝箱を開けてくれ。そうしないとこの部屋から出られないし、魔王も復活しない」
エリーちゃんが開けると、中からザクザク金貨や宝石が出た。これはどちらかと言えばハズレらしい。魔王を倒すことで得る平和が最大の報酬だからな。
「これからどうするんだ? あっちの状況はどうなってる?」
「うーん、元の世界とこの世界の時間の流れが違い過ぎて連絡がとれないけど、こちらで分かった情報は送ることは出来ている。それに君のアカウントを盗んだと思われるプレイヤーはずっと探しているんだ。見つかりさえすればそちらから事情が分かると思う。ただ犯人=カイルだと思っていたのは違うってことは伝え直さないとね」
「どういった方法で伝えているんだ?」
「エリーが自分の世界に戻って、伝言を残すんだ。その伝言を仲間が向こうに知らせて調べてもらっている。向こうも同じように伝言で僕らに情報を教えてくれる」
エリーちゃんのご用事は自分の世界に戻っていたことのようだ。こちらからは俺の状況など知らせることは多かったが、向こうは時間が余りたっていないためまだ新しい情報はなかったそうだ。
「なんてややこしいんだ。直接連絡が取れないのか?」
「出来ないんだ。カイルのようにログアウトできるなら別だけど。まず1つ目は前にも言ったがこちらとあちらの時間の流れが全く違う。こっちよりかなり遅いんだ。それからエリーの力を使って直接送れば、彼女がこの世界にいることが敵にバレる可能性が高くなるのでダメだ。そして3つ目がこの世界で強い力を使うことは管理権をエリーのものにしなければならないからだ。僕らにはそこまでの余力がまだないんだ。
一刻も早く君を助けたいけれど、エリーが倒れれば全員倒れる。悪いがもう少し我慢してくれ」
「……わかった」
この3つの理由は前にも聞いていた。同じことばかり聞いてゴメン。でもわかっていることと納得することは違うんだ。
早く帰りたいのもあるけど、リアン君に俺のことでこれ以上負担を掛けたくないんだ。俺のした選択が彼の人生を左右するなんて怖くてたまらない。
彼が苦労人で愛する人も失って、俺なんかよりずっとつらい思いをしていて……。それなのに俺のために大事な体を貸してくれているんだ。彼に迷惑をかけるのは嫌だ。
それに彼の希望する友達作りすら出来ていない。俺そんなに付き合い下手だったかな。なんか自信無くすよ。
「これは危険も伴うけど……リアン、次はカイルのパーティーに入ってみないか?」
「えっ?」
「前回アイリスから誘われただろう? 今の君はリセットされて初期値になっているのではなく前の能力のままこちらに来ている。つまり今のままでアイリスと打ち合える剣士だってこと。カイルはますます弱体化しているはずだから、彼女に誘いを掛ければ乗ってくると思う。えーっと日本語でなんて言ったっけ? そうそう虎穴に入らずんば虎子を得ずだ」
つまり知りたい情報を得るためには多少の危険を飲み込めってことだね。
「わかった、やってみる」
「だがあまり自分を危険に晒すような真似はしないでくれ。例えば情報を得るためにカイルを煽るなんて以ての外だ。僕らがエリーを隠したのはその理由もある。僕がエリカだけを出していれば、やっと元のゲームに戻ったと思うだろう。だが男の娘になる必要はない。その方が安全になるけどね」
ゲーム通りに動くキャラなら、動きが把握できると油断させられるとのこと。
「その気はない。リアン君は絶対にそんなことを望まないから」
それから俺はアルたちの力も借りて冒険者レベルを上げることと、それと同時にアイリスと親しくなれるように努めた。そうはいっても相手は貴族だ。騎士科の授業の時にただ素振りのときに丁寧かつ力強く動くとか、授業の後始末を率先的にやるとかで目立つようにしたのだ。
俺がやるのを見て自分たちの使ったものをほったらかしにする奴もいるが、そういう行動は案外周りの人間は見ているのである。
もちろんやっておけとか言う面倒なヤツのことは断固拒否している。なぜなら騎士は自分の始末は自分で付けるもので、それが出来ないということは、騎士になる資格がないのだから。そう指摘した俺を殴ろうとしたヤツは教師に肩を叩かれていた。騎士になりたくないのなら早めに転科届を出せと言われて青ざめていた。
その中にはキースと同じパーティーのラルフもいた。俺が女だと思ってナンパしてきて男だとわかってから、余計突っかかってくる。ヤツはどうやら騎士を排出する家系らしく女癖や金遣いなど素行が悪いけれど、騎士になれるということで身売りさせられずにいるのだ。
そういうことを繰り返していくうちに、俺は品行方正で貴族を相手にしても良いと認められてアイリスと剣で打ち合うようになった。騎士科は実力重視だから結果として、俺か教師しか相手が出来ないとなったのだ。
「やるわね、リアン=マクドナルド」
「剣聖であるウォルフォード様にお褒めいただき光栄です」
彼女はしばらく迷っていたようだがとうとう切り出した。
「あなた、まだダンジョンパーティーが決まってないと聞いたけれど……」
「はい、お恥ずかしいことに助っ人には呼んでもらえるのですが、固定パーティーに入ることは出来ていません」
「どうしてなの?」
「……これは私見ですが、俺の容姿が気にいらないのではないかと……」
「容姿? あなたはかなり整っているとわたくしには見えるけれど」
「女性の気を惹く容姿のため、仲間になりたくないと言われたことがございます。結婚相手を見つける邪魔になるそうです」
「なるほど、魔法士の結婚は早いですからね」
「助っ人に入った時も女性メンバーに話しかけると男性陣がひどく不機嫌になって空気が悪くなります。俺としては必要なことを伝えたかっただけなのですが……正直困っています」
「早く婚約者を決めたらどう? そうすれば周りも自分の領分を侵さないとわかるでしょう?」
「俺は北部で婚約者を失ってまだ半年もたっていません。こちらの常識と違うかもしれませんが今すぐ次の相手を決めるなんてとてもできません」
「そう……そんな事情では紹介することもできないわね。わかりました。それではわたくしのパーティーに入りなさい。今剣士がわたくししかいないので手伝って欲しいの。固定パーティーにするかどうかはあなたの働きを見てから考えるわ」
「それは願ってもないことです。ですがアイリス様のパーティーは貴族の方のみではないのですか?」
「そこはすでに辞めています。わたくしの冒険者仲間と組んでいるのだけれど、剣士の1人がケガをして今はあまり戦えないの。勇敢で志の高い人です。わたくし1人で他の2人を守ることはできるけれどやりたくないの」
「どうしてですか? アイリス様はこの学年、いやこの学園で最強だと思いますが」
「もちろんそうよ。でもひとりは男性なの。誇り高い人だからわたくしに守られてダンジョンを巡るのを良しとしてくれません。わたくしは彼の気持ちを尊重したいの」
なるほど、自分の方が強いのは仕方がないとしても、好きな男に恥をかかせたくないという乙女心か。
「アイリス様とお仲間のご期待に添える働きをしたいと思います。どうぞよろしくお願いします」
なんとかアイリスのおかげでカイルのパーティーに入れそうでホッとした。同時に敵陣の中に入るのだ。気を引き締めることにした。
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