第51話 魔王城へ
そうして俺たちは魔王城へ侵入した。
3匹の下級デーモンなんか目じゃなかった。ただひたすら大量のモンスターたち
をバッサバッサ倒していくしかなかった。エリーちゃん以外のみんなが全員で休まず倒してくれて、俺は直接おそってきたヤツだけ戦うが一撃で倒せなければモリーやルシィが止めを刺した。
不甲斐ないと笑われてもいい。これ、俺一人じゃ絶対無理だ。とてもじゃないけど生きて帰れるとは思えない。カイルにも無理だ。いや今は前のカイルよりリセットさせてさらに弱くなってるんだっけ。絶望的だ。アイリスにだって無理な気がする。
アルたちはさすがに勇者パーティー(以前いた世界で取った称号だそうだ)なだけあって、澱みも迷いもなくモンスターたちを倒していく。こんなレベルでないと魔王城なんて言ったらダメなんだな……と圧倒される強さだ。
「休憩所だ。ここでいったん休もう」
アルの一声でモリーが部屋を浄化して、彼が床に敷物を敷いた。その上にエリーちゃんが用意した料理や飲み物をストレージから出す。なんか絵本で読んだアラビアンナイトのご馳走みたいだ。
これまでも何度か休憩したがほとんど俺のためでみんなには必要なかった。自分が足手まといなのを感じる。
「リアン、がんばったね。ごはんたべてゆっくりやすむのよ」
エリーちゃんのいたわりが染みる。俺何の役にも立ってなかったのに。
俺の落ち込みに気づいて、背中をさすってくれる。すると疲れや重苦しい気持ちが晴れる。彼女には『女神の癒し手』というスキルがあって、触れるだけで癒してしまうのだ。だけど心の奥底の思いまでは、魂への介入になるから癒さない。
「リアンはここまでちゃんとついてこられたよ。それはとてもすごいことなの。わたしたちはみんなにんげんじゃないからとても強いのよ」
この城の中は瘴気に満ちていて普通だと立って歩くのも辛いし、そうでなくても体力的に辛い行程だ。たとえエリーちゃんの加護があっても簡単ではないそうなのだ。
「そうだ、最短コースで攻略しているから、普通に来るよりもモンスターが多いしね。そんな気落ちする必要はないんだ」
「おにいさまのいうとおりなの。つぎはまおうのへやよ。ここをふんばれればかてる。このゲームをおえて、おうちにかえりましょう」
「うん。俺頑張るよ」
とうとう魔王の間に入って、彼と対峙する。禍々しい瘴気に満ちた部屋だが、俺の側にぴたりとエリーちゃんがいるからか息苦しさはない。
『よく来たな、勇者たちよ』
まるでエコーがかかったような魔王の声に体が動かない。するとエリーちゃんがそっと教えてくれた。
「このログをきくまではうごけないんだって、おにいさまがいっていたよ」
内容はここまで来たことを褒めると同時に生きては帰さないということだ。それはゲームでもその通り言うそうだ。つまり魔王のセリフが終わったと同時に戦闘開始となる。するとエリーちゃんが俺の肩までよじ登ってきて首にしがみついてくる。
「わたしのことはきにしないで」
そんなことを言われても気にならないわけがない。
『我が城に足を踏み入れたからには生きては帰さぬ。全員死ぬがいい!』
セリフが終わったと同時に魔王は全体攻撃を仕掛けてきた。これは受けないといけないらしく、全員で浴びるが何の変化も感じなかった。
「エリーにはきかないの。だからエリーがくっついているリアンにもね」
なるほど、だからよじ登って来たのか。
周囲を見ると他のみんなも涼しい顔をしている。
「いくぞ!」
アルの言葉に全員で攻撃する。俺も行こうとしたがエリーちゃんから1本の剣を渡された。
「そのけんはリアンくんのだいじなものだから、これつかって。このせかいのものじゃないからちょっとだけね」
確かにフレデリカの形見の魔剣を折ったりしたら大変だ。それにしてもエリーちゃんの存在を隠すためにだいぶん気を遣わないといけないんだな。ちなみにアルの聖剣はいいのかと尋ねると、彼の魂の一部だからいいんだそうだ。
1分経つとミランダの動きやルシィの魔法の威力がほんの少しだけ弱まった。モリーの防御力もだ。
あの魔王の攻撃は時間が経つにつれてパラメーターの1つが10%ずつ下がるそうで、つまり10分以内に倒さないと俺とエリーちゃん以外の誰かが死ぬのだ。
「あたしのパンチ力も下がっているから、ATKが下がるみたい」
つまりミランダがAGI、ルシィがMP、モリーはDEFってことか。俺とエリーちゃんは除外だから……。
「つまり僕のHPが10%下がったってことだ」
この中でエリーちゃんを除いては一番能力が高いのがアルなので、この事はわかっていたそうだ。他の子たちも得意分野が削られるのだ。だが時折一番弱いキャラのHPを削ることもあるそうで、俺のHPつまり体力0で死亡ってこともありえたわけだ。
エリーちゃんがくっついてきたのはそれから俺も守るためだったようだ。
魔王の攻撃は魔法を使ったものと、使い魔召喚だ。例のピクシーなんかがやってくる。アルが剣を振るうとピクシーたちは炎に焼かれ、ルシィが水で押し流してしまう。魔法攻撃はモリーが聖女の結界で防御して、モカとミランダが大型の使い魔たちを片付けていく。最初の魔法攻撃のダメージが痛いがそれでもこちらの攻撃の方が優勢らしく、ガンガンに攻撃が入っていく。
ただ俺は何もしていない。ただ息を殺して待機しているだけだ。
「リアンはね、さいごのとどめをさすからたいきなの」
つまり俺のアカウントを利用したゲームだから俺が魔王を倒せば終わる。それまで俺が死んだり、ケガをして攻撃力が下がったりする方がダメなのだ。
「リアン、そろそろなの。けんにまりょくこめて」
すでに使い魔たちはすべて消え、魔王に対して全員で攻撃している。まだ3分ぐらいだ。決定打を打たないのは下手に傷つけすぎると回復されるので、大体魔王のHPが1/4以下にならないようにそのギリギリを狙っているという。
つまり俺は最後の1/4を一気になくなるくらいの攻撃が必要なんだ。
「リアン、だいじょーぶ。エリーがてつだうね」
そう言ってエリーちゃんは肩の上から俺の右腕を掴む。構えていた魔剣にみるみる魔力が込められる。エリーちゃんの力ではなく、俺の(正確にはリアン君の)魔力だ。名唸っても彼女の癒し手によってすぐに満たされるのだ。
「いまよ! まおうのみぎうえにジャンプ!」
俺は言われるがまま飛びあがると、アルたちの牽制のおかげで魔王の左側の首ががら空きになっていた。ここを狙えってことか。首を落とすのか切り込むだけでいいのか迷ったが、エリーちゃんがすでに狙いを定めていてそのまま切り込むことになった。
「うぉおおおおお~」
俺は全力で魔王の首筋に剣を揮った。魔剣はまるで吸い込まれるように突き刺さり魔王の体は崩壊した。
これで終わり……のはずだった。
シンとする魔王の部屋で響いたのはアルの焦った声だった。
「おかしい。ゲーム終了時のファンファーレが鳴らない」
「おにいさま! まだゲームは終わってない」
「なんだって⁈ それではこのゲームはリアンのアカウントでプレイされていないのか?」
俺のアカウントじゃないって、それってどういうこと?
お読みいただきありがとうございます。




