第49話 意外な相手
俺のメンバー勧誘はことごとく失敗した。よく知らない相手と急に手を組んでくれと言うのも早計だったかもしれない。とりあえず授業で能力を見てもらって、どこかのパーティーにお試しで入れてもらおう。そう思ってクラスのみんなとよく話をするように心掛けた。みんなの居るところに積極的に参加して、あとテンペストたちが近づいて来たら、そっと席を外すなどもしている。
そうしていると思ってもみない意外な相手からパーティーを組みたいと話しかけられた。サリーとチェリーだ。
「リアン=マクドナルドくん、同じクラスのサラ=リッドです。こちらはDクラスのチェリー=ウィンター」
「リッドさんはわかるよ。みんなからサリーって呼ばれてるよね。チェリーさんは初めまして」
何も知らないフリをして俺が手を差し出すとチェリーはおずおずと握り、小声で初めましてと言うだけだった。音楽の時間と全然違う人見知りだ。
「私たち中等部から魔法学園にいるから、すでにパーティーを組んでいるのだけど……」
そこからのサリーの話はすでに知っている話だ。チェリーは魔力は強いけど魔法を発動できなくて今のパーティーから追い出されそうになっていること。サリーは王都の大店の娘で同じパーティーメンバーに結婚を望まれているがいいと思う相手がいないこと。最近実力行使に出そうな気配がするので、親の決めた相手と婚約するか迷っていることである。
サリーの婚約者って親が決めてたんだな。この情報は知らなかった。
「リーダーのキースはいい人なんだけど、あとの3人がね。1人は女子で同じクラスのミナなんだけどチェリーのことを下に見るし」
「そうなんだ。それでもうパーティーは解散したの?」
「いいえ、先にあなたの了承が欲しかったの」
「でもそんな事情じゃ揉めない? それに俺を君の結婚相手に決めたって思われないかな? いくらなんでもよく知らない子のために体張って盾になる気にならないし、ダンジョンで何も出来ない子を引き受ける気もないけど」
厳しいことを言うようだけど、結局はキースのことが好きなチェリーは前回うまくいっていたのだから、そちら方面に誘導できればと思っている。
「さ、さすがに私もよく知らないあなたと結婚するなんて考えられないわ。でもあなたの様子から無理強いしたり、嫌みを言ったりしないと思ったの」
「俺も婚約者を失くしたばかりで、結婚はまだ全然考えられないな。それよりチェリーさん、魔力が発動できないなら魔道具とか魔法陣とかを使うようにしてるの? 例えば魔剣に魔力を注いで育てるってことも出来るけど」
なんにも言わないチェリーに話しかけてみると、首を横に振った。やったことがないとのこと。
「剣を振るうことができないと思う……」
「そうなんだ。武器は体力的な問題もあるしね。じゃあ魔道具の製作は? 自作ならガンガン使って壊してもまた作り直せばいいじゃないか。簡単なものならスリングショットの玉に魔力を込めて打ち出せばいい。玉のお金はかかるけど攻撃できるよね?」
「そういう作るのもあんまりなの……」
「うーん、やる気がないのかな? 俺だったら下手でも必死でやるけど。……おや、かなり精巧な刺繍だね。自分で刺したの?」
チェリーが俺の言葉に泣きそうになってハンカチを出したので、指の間からちらりと見える刺繍に目を留めたふりをして、見せてくれるように頼んだ。彼女は涙を拭くつもりだったのに話が逸れたことに驚いて、ハンカチを俺に渡した。
「これ、古い刺繍方法だ。俺は北部でこういう刺繍で刺した魔法陣を見たことあるよ。魔法陣を刺すのならできるんじゃない?」
「でもそんな魔法陣描けるかどうか……」
「教科書に載っている程度でもいいじゃないか。図書館にも参考になるものがあるんじゃないかな。そういうことを先生に教えてもらうのが学校だよ。そしてそれを努力するのは君自身だ」
今回は複写の魔法陣については言わない。エリーちゃんしかできない特別な魔法陣だし、正直チェリーは刺繍が刺せても、高度な魔法陣を使いこなせていなかった。Dクラスにいるせいであまり勉強に熱心でないのだ。
「わっ私だって努力してる!」
「ああ、ごめん。何の努力もしていないと言ったわけじゃない。苦手だから出来ないじゃなく、積極的にやってみたらどうかって話だ。それには努力がいるってだけだよ。話をしてみて、性質的に魔剣よりも魔法陣の方が向いていそうだと思ったからアドバイスしただけ。それをやるかどうかは君次第だし。余計なお世話だったかもしれないけど」
「チェリー、リアン君の言う通りにしてみたら? 今までこんなこと誰も言ってくれなかったじゃない!」
「でも……」
「余計なお世話ついでだけど、これからも魔法士になるのなら自分の得意な分野でやっていくしかないと思う。無理したって続かないし、体を傷めることもある。魔力の発動が不得意なら何か別の形にするんだ。運動が得意なら身体強化や剣技を覚えて魔剣を育てる。設計や細かな組み立てが得意なら魔道具製作、君の場合は刺繍かなって思っただけだから」
するとチェリーではなくサリーが俺の手を握った。
「リアン君、ありがとう。あたしたちもう少し話し合ってみるわ」
「リアンでいいよ。つまり今のパーティーでやっていくんだね?」
「あたしもサリーでいいわ。それもちゃんと話し合う。ごめんなさい、こちらの都合ばかりで」
「構わないよ。ああ言い忘れていた。俺はダンジョンに入ったことがないけど、北部は土地そのものがダンジョンみたいなところで結構厳しかったんだ。だから一緒に組むならそれなりに戦ってもらいたいんだよね。自分の命は自分で面倒を見るんだ。もちろん俺が助けられるところは助けるけど、おんぶにだっこ状態はごめんだ。それは理解してくれ」
「わかったわ」
チェリーはまだショックから覚めていないようで、サリーが彼女の肩を抱いて連れて行った。もしかしたらもう来ないかもしれない。ごめん、リアン君。
でも元々彼女はキース狙いだし、サリーも親の勧めに乗るみたいだから。
こうなったらアルの従者ルートしか残っていないか。それでも俺、なんとかクラスに溶け込むように努力するから。きっと気の合う友達が出来ると思う。
お読みいただきありがとうございます。
チェリーはDクラスで行動も前向きでないので、ハッキリ言って教師から見放されています。だから誰も指導してくれていません。




