第48話 リアン君からの手紙
目が覚めるとエリーちゃんはいなかった。きっと朝ごはんを作りにアルの部屋へ戻ったのだろう。俺も彼の部屋へ食べに行こうとしたが、入学式前にはまだアルフォンスと出会っていないことに気が付いた。突然平民が貴族用の寮に向かうのもおかしいし、学食へ向かうには時間的にもまだ少し早い。
それで先にリアン君からの手紙を読むことにした。
彼は普段俺が書いている通りのきれいな字だ。こっちの字は日本語でもアルファベットでもないからリアン君の記憶頼りに書くしかなかったんだ。
リアンへ
女神さまに君の名前を聞いたけれど発音が難しかったので、とりあえずリアンで。
まずは助けてくれてありがとう。どうやら俺も君のおかげで助かったようだ。君が俺に憑依していなかったら、俺の体はとうに死んでしまっていてもおかしくなかった。なぜなら俺はあのときひどくケガをして死にかけていたんだ。君が俺の魂をこの世に繋いでくれたと俺は思っている。
意識を失った時、覆面姿の二人組から襲撃を受けたんだ。君はベッドで目を覚ましたそうだけれど、俺が襲われたのは食堂から寮へ帰る道の途中だった。
1人は男で大したことがなかったけれど、もう一人は相当な手練れだった。胸が膨らんでいたので女性だったと思う。彼女は剣士というより魔法士だ。俺は彼女の魔法で動けなくされ、2人から滅多打ちにされた。殺すのなら剣で心臓を貫けばいいのに、どうやら自然死に見せたかったようだ。俺を死ぬ寸前まで殴って、それで体の表面の傷だけ癒せば何かの発作での死んだように見えるということを男の方が言っていた。
どうやら俺がいるだけで邪魔なのだそうだ。そんなこと言われても相手がどんな人間かもわからないから対処が出来ない。それは今の君にも当てはまると思う。怪しい男女の2人組がいたら気を付けてくれ。
それから俺の結婚については、ずいぶん心配してくれたようだけど何もしなくていい。フレディと俺はシンプソン子爵家をただ再興するのではなく、その権利を彼女の遠い親戚に譲るつもりだったんだ。
ただ爵位に付随する魔剣『火焔』は彼女の愛剣だからその分を金で相殺しようと貯めていたにすぎない。王様から拝領したって言っても、男爵に授ける程度の同じような剣がいっぱいあるものだ。銘も凝ってないしな。だけど彼女にとっては自分が育てたもので、ある意味半身と言っていい思い出深い物だったんだ。それは俺も同じで彼女の形見を失いたくはない。
俺は何の責もなくただ愚かな結婚相手のせいで受けたとばっちりを、すべてフレディ1人に押し付けた貴族社会が大嫌いなんだ。君も貴族になりたくないと思ったみたいだから、この気持ちはわかってもらえるだろ。
女神さまに聞いたら他者の記憶を正確に読み取るには相当な修練が必要で、初回の魂である君には無理なのだそうだ。だから読み違えをしたことは気にしなくてもいい。俺もフレディ以外にはシンプソン家を再興すると言っていたから間違いでもないぞ。俺が継ぐとは言ってないけどな。
ただもし頼めるのなら友達を作って欲しい。女神さまのおっしゃるには俺とリアンはどこか似ていて、共感性が高いから憑依できたのだそうだ。だから君の友達なら俺の友達になれる可能性が高いそうだ。
記憶を読んだなら知っていると思うが俺は故郷で孤立していた。幼い頃はよかったけどみんなが色気づいて来たら、男女問わず周囲から欲望の対象になってしまったんだ。だから俺が心を預けられるのはフレディしかいなかった。彼女を失って俺は本当の孤独に陥ったんだ。
だからこちらでは親友とはまでは言わない。ただの友達が欲しいんだ。ちょっと喋って飯食って笑いあえる程度でいい。その中からフレディのような相手を見つけられたらそれはとても幸せなことだし、結婚してもいいと思う。それまで俺は独身でいるし、周りが変わり者と思ったってちっとも構わない。
もし君の死と同時に俺も死んでしまっても、それは受け入れる覚悟は出来ている。だができれば俺の体は大事に扱ってくれ。俺はフレディの分も長生きするためにこちらに来たのだから。
君も異世界から来て大変だと思うけど健闘を祈る。
リアン=マクドナルド
これを読んで最初に思ったのは勝手なことをした申し訳なさと、カイルがリセットしてくれてよかったことだ。すでにリリーたちに貴族の後ろ盾を求めていると伝えていたからな。
俺が中途半端に記憶を読んで、勝手に行動したからだ。でもリセットのおかげで最初からやり直せる。
それから怪しい2人組とはカイルとアイリスだろうか? でもアイリスの魔法は身体強化が中心でそこそこぐらいだぞ。手練れとまでは言えない。プラムは癒しが出来るけど、戦闘は浄化だけで押しまくるはずだし。
だがそれ以外で怪しい人物はいない。北部の人間がリアンを故郷に帰らせるためにやったんだろうか? いくら考えてもわからなかった。
考えがまとまらない。きっと腹が減っているせいだ。前回は体が痛くて食べなかったんだっけ。そういえば机の上にあった水を無意識に飲んだんだ。ああ、あれがポーションでそれで体調がマシになったから、入学式に向かったんだっけ。今回はきっとエリーちゃんが治してくれたんだろう。
とにかく今は痛くもなんともないので、エリーちゃんは誘ってくれたけど俺は学食へ向かった。行くとまだ早めの時間なのになかなかの賑わいを見せていた。
カイルは……いない。俺と同じクラスのヤツはちらほらいる。まだこの時点では声掛けされないけど、テンペストに捕まる前に適当に席を見繕って座ることにした。友達も作らなきゃいけないしな。
隣に選んだのは前に婚活について教えてくれたヤツだ。確か文官を目指していて、俺も同じ授業を取っていたから話しかけやすかったんだった。
思った通り気のいいやつで、彼なら女の子の窮地を助けなくてもモテそうだ。俺が思うに結婚相手を探すなら、美形もいいけど話しやすいっていうのは大きいからな。
彼は中等部からの進学組ですでにダンジョンメンバーは決まっていたが、教室に行ったらすぐにパーティーメンバーを募るといいと教えてくれた。確かそれでカイルを誘うんだっけ。
嫌だけど誘うのか? ダメだ、カイルは襲撃犯の可能性が高い。でもまずはゲーム通りにするのがいいだろう。すでにアイリスと組んでいるはずだから、誘われてもそんな高貴な方とは緊張して無理だとでも言おう。
入学式が済んでクラス分け通り教室に入る。もちろん知っているメンバーばかりで中等部からの進学が8割だ。でも後の2割はまだパーティーを組んでいない。俺は近くにいた外部生たちに声を掛けた。
「なぁ誰か一緒に組まないか? 北部出身でこっちに知り合いが全然いないんだ」
すると相手の男はちょっともじもじして鼻の横をかいている。緊張してるんだろうか。
「ふぅん、君の冒険者レベルは? こっちではそれで判断するんだ」
「北部は冒険者ギルドがないんだ。住民全員が戦闘員で、敵に会ったら戦うしかないからさ」
「えっそれじゃあ、もしかしてデーモンと戦ったことあるの?」
リアン君は下級デーモンを倒したことがあるし、俺もリセット前に倒したけど彼のように単独討伐ではなかった。あまり自慢げに話したくない。
「デーモン討伐戦に参加したことはある。それなりには戦えると思うよ。なんならお試しで打ち合ってみてもいいし」
参加したことがある=でも倒してないって、受け取られると思うけどそれが狙いだ。なぜならこっちの生徒は依存体質なヤツが多いからだ。チェリーやミナ、俺が教えたら頑張っていたけどサリーもそうだったし。
俺の申し出に皆なかなか煮え切らない。なんかこっちをチロチロ盗み見るだけだし。手札をもっと切るべきなのか? でも依存されたら困るのはリアン君だ。やる気のある仲間が欲しい。
俺は最上級の笑顔で伝えた。
「是非一緒に組みたいな。よろしく頼む」
そう言うとすぐに5人も男が寄って来た。えっと確かダンジョンメンバーって将来の結婚相手を探す場でもあるんじゃなかったけ?
なんかみんな目がギラギラしていて、ちょっとキモい。
「ありがとう、俺はリアン。魔法剣士だ。ポジションはアタッカーだ。後方支援も出来ると思う。でもタンク向きじゃないな」
「「「「「俺?????」」」」」
何だこの反応は?
「えーっと、もしかしてぶっきらぼうな話し方なんじゃなくて君、男? 」
「そうだけど」
すると全員大きなため息をついた。
「うーん、君が女子だったらすぐに一緒に組もうって思うんだけど……ごめん、やっぱやめる」
「はぁ?」
「ああ、君が女の子だったらなぁ」
「もったいない……」
「むしろ女子より美人すぎ……」
「……紛らわしいんだよ」
周りの男子に口々に言われて引いてしまった。さすが友達兼ライバルキャラだったのにヒロインに昇格? したリアン君の美貌。男物の制服着ているのに女子と間違えられてしまった……。
「そう言われても困る……俺それなりに強いと思うよ」
「いやそういうんじゃなくてさ。俺たちは学校卒業と同時に婚約者も探している訳。だからかわいい子が靡きそうな男は困るんだよな」
「そうそう、顔で選ぶ子少なくないもんな」
「はぁ」
せっかく声を掛けたのに、全然見つからなかった。ゲームではどう誘っていたんだ。普通に募集しただけだぞ。でも結婚相手として女子だけを選ぶわけにも行かない。リアン君の希望から外れるからだ。
それで嫌だけど、一応カイルのパーティーにも声をかけたが、プラムにメンバーがここにいないから決められないし、他を探した方がいいと言われた。アイリスはAクラスだしね。
最初から期待していなかったとはいえ弱ったな。
お読みいただきありがとうございます。




