第47話 リセット
とにかく様子がおかしいので、俺たちは早急にダンジョンを出ることにした。
カイルたちは思った以上に先行していて、全く追いつかない。それでも必死で駆け抜けた。エリーちゃんはモカたちをカバンの中に入れて、エリカが抱っこしされている。アルがアルフォンスらしく太った状態だと、肩車では肉付きが良すぎて座りが悪いそうなのだ。
その後は何事もなくダンジョンの出口まで近づくと、何やら口論する声が聞こえてきた。
アイリスとカイルだ。プラムはどうしたらいいのかわからないようでオロオロしている。
話の内容は思ってもみないものだった。
「アイリス! 俺を裏切るのか⁈」
「違うわ、一番大切なのはあなたよ。だけどわたくしにはお父様とお母様を見捨てられないの。このままだとお2人は奴隷になってしまうのよ! わたくしだってどうなるかわからない。
でも卒業まで我慢して、アイツと結婚してしまえば後はこれまで通りよ。
式が終わればその足で魔王討伐に行くの。そうすれば床入りすることなく、剣聖としての務めを果たしつつ、あなたの側に居られるわ」
呆気にとられるとはまさにこのことだ。
アイリスがそんな策を弄するなんて思ってもみなかった。清廉潔白でなければならない剣聖が不倫の関係を望むと言っているのだ。いやカイルと深い関係にさえならなければいいのか?
でもその場合、どうなるんだ?
アルは夏休みに魔王討伐を済ませて俺を帰したらこの世界にいなくなるから、卒業までここにはいない。残るのはアルフォンスの死体だけだ。つまりアイリスは金を返せないまま爵位を失い、借金の形になるのだ。
ゲームではアルフォンスをカイルが決闘で打ち負かして、自由を獲得し彼と結ばれる。だけどアイリスのこの選択は彼女にとっては偽装結婚でもアルフォンスを選ぶことになるから、アイリスルートがバッドエンドになる。カイルにとって最悪なものになるのだ。
それに婚約を続行したら、リリーとの関係も最悪になるだろう。すでにペンシルトン公爵が根回しを行っているから、彼のメンツも潰すことになる。そうなったら王宮編に移行することも出来ないはずだ。
「アイリス様、それでは不倫関係になってしまいます。婚約を解消しないまま、この夏休みに魔王討伐に出かけましょう。そうすればレッドグレイブ様もあなたを責めることは出来ないと思います」
うん、プラムの言う通りにすれば、さすがの男爵も文句はつけられないだろう。それに魔王討伐の報奨金を借金返済に充てることが出来る。
「ダメだ! そんなことしたらリリーにもらった紹介状が使えなくなる」
「紹介状ってあの王宮へ行くもののこと? あんなの、魔王討伐すれば王宮へいくらでも行けるし、彼女だって咎めないわ」
「それに俺はまだ……そこまでレベルアップしてないんだ」
するとアイリスはグッと唇を噛み染みていたが、ため込んでいたものを吐き出すように疑問を口にした。
「わたくし、ずっと不思議だった……。
カイル、あなたどうしてそんなに弱くなったの? わたくしはずっとあなたと剣の修行をしていたのに、なぜ今は打ち合えなくなったの? あなたはリアン=マクドナルドに引けを取らない剣士だったはずなのに……おかしすぎるわ。
最近あなたはとても変わってしまった。前は精霊であるエリーとは親しい方がいいって言ってくれていたのに、今は一緒にお茶を飲むだけでも許してくれない。それにどうしてエリカ様にそんなにこだわるの? 前は彼女の名前を1度だって口にしなかったのに、入学した途端彼女の話ばかり……」
貴族であるアイリスの目から涙がこぼれた。相当な不安だったのだろう。
それはゲームで中の人が変わったことと、何度もリセットしたことの弊害だ。きっと前のプレイヤーはアイリス推しで彼女を大切にしていたのだろう。
「あなたはわたくしを愛していると言ってくれたけれど、今は誰を愛しているの? エリカ様? リリー? それとも王宮にいる誰か?
ねぇ、あなたは本当にわたくしのカイルなの⁈」
それを聞いてカイルがヒュッと息を飲む音がした。真実を言い当てられた狼狽で唇が震えて返事が出来ない。それは別人であると肯定したも同然だ。
「あなたは一体誰なの? わたくしのカイルを返しなさい‼ そうしなければ斬る!」
アイリスが剣を抜き、カイルに飛び掛かった。
「リセット‼」
カイルのその声と共に、目の前が真っ暗になり耳鳴りがする。
あっこれ、強制ログアウトに似ている。
そして俺の意識は暗転した。
目が覚めると俺は寮の部屋にいた。
側でエリーちゃんが俺の手を握っている。
「よかった! リアン、気が付いたのね」
「アイツ……、リセットしたのか?」
「そうよ。そしたらリアンのたましいが、からだからぬけそうになったの。それでリアンくんにおねがいしたの。もうすこしだけリアンに、からだかしてって」
リセットと同時に俺の魂がは抜け落ちそうになったのか……。
「強制ログアウトかと思った」
「ログアウトじゃなく、しぬところだったよ」
そうだったんだ……。助かって良かった。
いや待て。リアン君と話をしたってことは、もしかして俺と彼の魂の情報を全部読むってヤツをやったってこと? それってものすごく負担になるんじゃないの?
「エリーちゃん……」
「しんぱいしないで! わたし、リアン君にきいたの。あのね、けっこんをいそがなくてもいいんだって。リアンへのおてがみもかいてくれたのよ」
いや、俺が心配したのはそれじゃない。でもリアンを守るのは里親の務めとポンと胸を叩く彼女に負担のことは聞けなかった。
それに手紙はありがたかった。
「いまはにゅうがくしきのまえのひよ。こんやはゆっくりねむってね。エリーがそばにいるからあんしんよ。おきたらお兄さまのところへいこうね」
そう言われて目を閉じさせられた。それからチュっとまぶたにキスされた。これは良い夢を見るためのおまじないなんだそうだ。エリーちゃんはこれを家族にしかしない。
これからどうするかはアルに相談して決めよう。
とにかく俺はよく眠って明日に備えることにした。
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