第42話 リアン君への迷惑料
俺の嫌な予感は当たった。
「リアン、君にはリリー嬢のために生徒会の手伝いをしてもらいたい」
「俺が? でもカイルもいるんだぞ」
カイルは生徒会長のリリーを攻略するために、すでに生徒会の手伝いをしているのだ。
「カイルはアイリスの手伝いだ。彼女がリリー嬢を支援しているので、その手伝いになっているだけだ。表向きは僕の次期婚約者殿を手伝うため、でも実際はリアン君のシンプソン子爵家再興のためでもある」
「どういうことだよ?」
教えてもらったことを簡単に言えば、ペンシルトン公爵家をリアン君の後ろ盾にするための工作という訳だ。次期王妃を娘に持ち、国の重責を担っているペンシルトン公爵ならば、彼の後押しなど簡単だという。その代わりしがらみも出来るけど。
「でもシンプソン子爵家を公爵家に取られねーか?」
「その心配はいらない。シンプソン家は呪いを払ったとはいえ、一時は『災いの花嫁』を出した家柄だ。ペンシルトン公爵家にとっては再興させる必要はない。だけど僕がリリーの持参金を少なくする代わりにリアンの後押しをしてくれと頼めば別だ」
「そんな! だってレッドグレイブ家には何の益もないじゃないか?」
アルにとって俺はエリーちゃんの里子で守るべき存在だし、そのためにもリアン君の存在は必要だ。でも家同士の関りである結婚の持参金代わりにするほどの何かが、彼にあるとレッドグレイブ男爵が認めるかわからない。
「あの人には君が僕の従者をしていることの給金代わりだとでも言っておくさ。
むしろこれはリアン君に対する迷惑料でもある。
僕らが介入したせいでアルフォンス君は実力以上の精霊術士になってしまった。その従者は精霊に好かれる、あるいは嫌われない者でなければ務まらない。実際僕は誰も使用人を使っていなかった。
だが君が来てエリカを増やした。さらにエリカが君を守ったことも周知されている。これによって世間から見てリアン君は精霊に好かれやすい性質ということになる。それはこの世界では尊ばれることだ。
だがそれはゲーム内で見られなかったことだ。つまり彼の中に初回の無垢な魂を持つ君がいるからであってリアン君の特性ではない。その彼をそのままにしておいていいのか? 否だ」
俺の存在が本物のリアンに迷惑をかけてしまうということか?
「リアン君は子爵になる権利を有している上に、見た目も美しく頭もよく戦闘能力も高い。再興のためにある程度の資金も持っているはずだ。そこに精霊に好かれやすいなんて性質も加われば、利用価値が上がりすぎる」
その通りだ。フレデリカは勇士として稼いだ褒賞をほとんど使わず残してあるのだ。リアンがこの学園に入学できたら正式婚約し、16歳になったら結婚しようって話になっていた。その時彼女は勇士を引退して、王都に出てくるつもりだったのだろう。Dクラスの職人の中には魔力の発現が遅かった年上の生徒もいるので、結婚している人もいる。だから校則上問題はない。
「そこで必要となるのが彼を守ってくれる存在だ。本人の地位を上げるのが一番だが、それがすぐには難しいなら長いものに巻かれるのも一つの手だ。ペンシルトン公爵家は次期王妃のために派閥の拡大にも努めている。リアン君は能力の高さから、侍従騎士にもなれる存在だ。そんな駒を欲しがらないはずがない」
侍従騎士とは貴族の側近くに仕えつつ護衛の任務も負える、なかなか重宝される立場だ。秘書兼ボディーガードってところだな。高い能力がないと出来ないし、場合によっては右腕のような存在にもなる。爵位があればなおさらだ。
彼にないかもしれない精霊からの好感も、アルが消えれば聖霊のエリーちゃんも精霊のエリカもいなくなるから問題にならないはずだ。
でも駒って、あんまりいい気がしないな。
「僕が死んだ後でもペンシルトン公爵家は、元々の彼の持つ高い能力を買ってくれると思う。ちょっとした後ろ盾になることで、お家再興という最大の恩義も売れることだしね」
「なるほど。すごく貴族的な考えだな」
「彼は貴族になるんだ。郷に入れば郷に従えさ。
それから僕たちの魔王討伐の武功をリアン君のものにすることも考えたが、その後の彼の人生がさらに大変になるから止めた」
「どう大変なのさ?」
「それから先の人生、勇者として扱われる。ずっと平和でちやほやされるくらいで済めばいいが、有事には最前線に立てと言われるだろう。政治的に使われることも考慮しなくてはならない。それを実際に戦う僕たちでなく、体を使われただけの彼に負いかぶせていいものだろうか?」
俺だったら嫌だな。意識がない内にあなたは勇者になって魔王を倒しましたなんて言われても信じられない。しかも義務として戦地へ行けってどんな罰ゲームだよ!
「本人がそうしてもいいと思ってくれるなら構わないんだが……。聞けない以上出来るだけ世の常識に則った方法がいい」
納得した。俺もその方がいい。
「勇者になったらそれこそリリー嬢やローズ王女と政略結婚ってことになりかねない。その場合は子爵からもっと上の位に陞爵されるから、シンプソン家再興にはならない。それに彼女らはほぼ平民のリアン君を蔑む可能性が高い。僕らのせいで彼がいらぬ苦労するのはちょっとね」
「アイリスならいい?」
「彼女はダメだ。莫大な借金があるし、カイルのことを本気で愛しているんだ」
「つまり他の女性を探せってことか」
「そうだが、たぶんペンシルトン家の意向は入ってくるよ。彼らが納得する女性でないと消されるかもね」
何それ、怖い! 殺されるってこと?
「納得ってどんな?」
「そうだな、あまり身分は高くなく、それでいて彼らの益になる女性だ」
「そんなの、俺にはわからない」
「わかりやすく簡単に言えば彼らの派閥の女性ってことさ。できればリアン君が好きになれる女性なら、なおいいね」
「もしかして婚活はしない方がいいってこと?」
「いいや、続けるといいよ。可能性を狭める必要はない。その中からリアン君が選ぶのだ。貴族たちの唯々諾々である必要はない」
何もしなかったら宛がわれるだけだから、自分で探しますアピールがいるってことだ。どうしても見つからなかった時だけ、貢物はいるけど探してもらえばいいそうだ。
なんか貴族めんどくさい。でもリアン君に迷惑はかけたくないから俺ががんばるしかない。
とにかく生徒会の手伝いをしてリリーのご機嫌を取って、お食事会で女の子と話を続けよう。
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