第40話 勇者としてふさわしいのは……
リアン君のシンプソン子爵家再興のために、結婚相手への繋ぎをつける。
そんな重い目的を抱えながらの合コンである。こちらではお食事会って言われていて、週に1,2回行われている。一緒にご飯食べて、ダンス踊ったり、ゲームしたりする。ゲームはだいたいがしりとりのような言葉遊びやゼスチャー当てだ。カードやスポーツ系ではない。勝ち負けを競うより、仲良くなりたい相手と楽しむことが重要なのだ。
食事も学食だ。これで費用が抑えられるし、場所も準備も食堂に頼むだけでいい。くじ引きで席を決めて、まずはそのテーブル内で話をする。それから自由時間があって気になる子がいたら話しかけに行くのだ。
これに参加するのはBCDクラスだけだ。Aクラスは高位貴族や高魔力を誇っている人が多く、確実に貴族付き魔法士または国家魔法士になる方々だ。アルフォンスやアイリス、リリーがそうである。彼らは基本的に政略結婚が主だから来ない。
Bクラスから来るのは跡取りなら政略結婚になるので下級貴族でも次男以下、女性は平民に嫁いでもいい方だけだ。キースやラルフがそうだ。この会に来る方は自分の継げる爵位がなく、財産分与も少ないと思われるから金持ちの子女狙いである。リアン君のためにはこの辺りの女性がいいかもしれない。
Cクラスは成績が良い平民ばかりだ。つまりここが魔法士として出世しそうな一番ねらい目のクラスだとも言える。カイルやノートン、チェリーやサリーもここだ。
それなりの魔法士になれそうだから、次点はこのクラスの女性だ。
Dクラスは魔力を仕事に生かす職人が多い。だけど安定しているともいえるので、結婚相手を魔法士にこだわらない人はこのクラスで相手を探す。
リアン君の目的には不釣り合いになる。でも話くらいはしておこう。
リアンはどうやら人気の的のようだ。アイリスと剣を打ち合える実力、アルフォンス専属従者で、卒業までそのままなら就職先もレッドグレイブ男爵家かウォルフォード伯爵家だ。高収入が見込まれる。しかも北部でももてはやされた可愛い系美男子だ。女の子が入れ替わり立ち替わり、次々とやってくる。
来るのは自分に自信のある派手な子が多い。チェリーを苛めていたミナも来た。わかりやすく好意を示してくれているのはいいけど、肉食獣の前にいるような緊張感もある。地味でおとなしめの女の子は、自分よりリアンの方が可愛いからと遠慮しているみたいだ。俺としては実際は平凡なのでそういう子の方が落ち着くんだけど。
いや、俺の彼女を探してるわけじゃなかった。
結果、ピンとくる子はいなかった。サリーがモテんのわかる。あの子は相当喋りやすい。
そう考えたら彼女は本当にみんなの憧れの的だったのだろう。実家が金持ちで、すごい美人ではないが愛嬌があってとてもかわいい。明るくて気立てがよく場を和ませる。きっと接客もうまいんだろう。魔法もそこそこ使えるから貴族の方も狙っていたようだ。
チェリーがパーティーに居られたのはサリーと仲良かったからと言うのがよくわかる。
逆にチェリーは前評判が良かったけど、魔法が全然使えなくて魔法士になれない可能性が高かった。美人なのに前髪を伸ばして顔を隠していたから、変な子とも思われていたみたいだ。俺も不思議ちゃんなんだろうって思っていたしな。話をして見て、人見知りするだけとわかったけどね。音楽の授業で気分が高揚してなかったら、たぶん話も出来なかったかもしれない。
それでもリアン君のためにも、この合コンはしばらく通わないとな。
こんな風に日々を過ごしているうちにやっとアルとエリーちゃん、エリカが帰ってきた。期末テストまであと3週間しかない。その後は夏季休暇だ。ゲームの進行が早ければ王宮編に入るけど、カイルはそこまで進めているんだろうか?
エリーちゃんがモカたちにただいまの頬ずりをしている。長かったからルシィがちょっと夜泣きしてたんだよな。みんなでモフモフ団子にならないと泣き止まなくて、俺もポメ化して慰めたんだ。
アルの部屋の要はエリーちゃんだ。女神ってだけでなく、彼女がいるだけでとても落ち着く。トコトコと歩いて、紺色のお仕着せにふさふさしっぽが揺れているのを見るだけで和む。モカたちもみんなが笑顔になってる。やっぱ家族は一緒がいい。そう思うと俺も早く家へ帰りたかった。
「結局、何でこんなに伸びたんだ?」
「向こうでエリカの美貌に人気が出て社交の申し込みが殺到したことと、ペンシルトン公爵の熱意のせいかな。アイリスとの婚約解消後の根回しを行っていたんだ。公爵は僕とリリー嬢との結婚にかなり乗り気でね。他の婚約話に乗り換えられないようにの布石のようだ。実際ペンシルトン公爵がいない社交ではそういう話も出たからね」
「そうなんだ」
「それと僕が常に2体のせい霊を顕現させられると証明出来たので、その有用性も買われたおかげでもある。公爵には婚約を了承しているから無下にできなかった」
「アルは決まってていいなぁ、俺がこれから婚活しなくちゃいけないのに」
「婚活? なぜ君が? もう元の世界に帰るのを止めたのかい?」
そんなわけない。それで俺はリアン君のシンプソン子爵家再興と魔法士の結婚が早い話をすると、アルはしばらく考えていた
「このゲームを僕らの勝利で終わらせれば君は結婚しなくてもよくなるけど、確かにリアン君は困るね。再興については僕も考えてみるけど、ただ魔王が消えるから北部の状況も変わるはずだ。故郷にも帰れるんじゃないかな」
「それでも当分は落ち着かないだろ? 1度出来上がった慣習が卒業するまでの3年弱で変わるとも思えない。リアン君は身の安全も求めているんだ。子爵になって結婚すれば確実にこっちにいられるだろ」
「だが君が女性を選んでしまっていいのか?」
「それはいい訳ないけど……でもやるしかないだろ。結婚してなかったら人格疑われるみたいだし。それか本物のリアン君と話できないかな?」
「エリーが君とリアン君を完全に読み取ればできるかもしれないけど、あまりさせたくないな」
「完全に読み取るって何をだよ」
「魂に刻み込まれた情報を全てだ。君は初回だから15年程度だがリアン君は20回程度は転生しているようだ。エリーに数百年分を読ませるのはな……君やリアン君にとっては一瞬で済んでも、あの子にはその情報分負担になる。それに彼の意識が戻れば君が消える可能性もなくはない」
リアン君には悪いけど、それは困る。
「神様でも難しいんだな、ごめん」
「いや、君は知らなかったのだから謝らなくていいよ。ただ神と言っても万能ではないと言うことだけ覚えていてくれ。だからリアン君の結婚相手は重要だけど、そのためにエリーの力を使いたくない。
それよりこの夏休み中に魔王討伐をしよう。早く終わらせて君が帰れば自ずとリアン君を元に戻せるし、自分で結婚相手を探せるだろう。
むしろ勝手に決められる方が彼の迷惑なんじゃないかな?」
そう聞くとそれが一番いいような気がする。だいたい俺に決める権利なんてないからな。焦らないでいいならそれに越したことはない。
「アイリスとの婚約解消より、魔王討伐が先でいいのか?」
「もちろん。何より君を元の世界へ返すことが一番大事だからね。元々アイリスから同意書を得る必要はなかった。あれは彼女に危機感を持たせて、じぶんの行く末をちゃんと考えるようにするためのものだ。僕が成人して爵位を継いだら、リリー嬢と正式な婚約する前に死亡するつもりだ」
リリーとの婚約前に死ぬのは、彼女に婚約解消の瑕疵をつけないためだそうだ。初めて知ったけど貴族令嬢にとっては婚約者との死別でも傷と見られるらしい。婚約者が何度も変わることになるからだ。
それなら夫を殺されたフレデリカは魔族に傷つけられなくても、とんでもない傷持ちになっていたのだろう。
でも俺が憑依したリアン君の方がカイルよりも勇者の過去としても、実力もふさわしいような気がする。だってアイツが勇者になろうとする理由って、近所に越してきたプラムが魔族のせいで孤児になったからだ。カイル自身は特に何にもないんだよな。
すもも様をゲームに投入するために都合がいいキャラだっただけのような気がする。キャラが中途半端な気がするのは中のヤツのせいだろうけど。
お読みいただきありがとうございます。
作中リアン(中の人亮平)がリアンと呼んでいるのは、自分とリアン君と両方の意味があるのでそうしています。




