第39話 リアン君へのお礼
俺はCクラスのクラスメイトに婚活に聞いて聞いてみた。婚活っていう言葉を使うのは俺の心の中だけだけど。同じ騎士科の人間は避けておいた。どうも俺がアイリスと互角(ではないけどそう見られている)なことに嫉妬されてる気がするのだ。
聞いた相手は気のいいやつで割とすんなり教えてくれた。基本的に魔法士は魔法の才を子孫を残すことが重要なため、早期の結婚が推奨されていると言う。だからできるだけ学生のうちに結婚相手を決めておいた方がいいんだそうだ。それは魔法士科、文官科、騎士科共通でだ。
「結婚相手がいないっていうのはものすごい変わり者か、何らかの難があるって思われる。さっさと見つけるに越したことはないね」
「じゃあ、お前もいるのかよ?」
「婚約までしてないけど、ちょっとイイ感じになってる子はいる」
なるほど余裕だから、教えてくれたわけね。ちなみに同じパーティーの子で危ないところを助けて他より抜きんでたらしい。
そんな常識を知らなかったせいで、まだ1学期もすんでないのにもう出遅れているのだ。地方出身ってそんなデメリットもあるのか……。
リアン君の体を借りてるんだから、なんとか繋ぎぐらいはつけておかねば……。せめて彼の好みのタイプぐらいわかればなぁ。
全員年上なのはしょうがない。彼はまだ15歳なんだし。相手の女性は体型も顔立ちもまちまちで、誘われたら断らないのだ。強いて言うならおっぱいが好きなくらい? でも筋肉質なスレンダー美人ともそういう関係になっているしなぁ。
それでリアン君の記憶を辿って赤裸々な女性遍歴を辿ると、ちょっと重たい過去があることがわかった。
一応彼の名誉のために弁護すると、北部では女性が非常に少なく大切にされている。比率で言えば男7に対して女ギリギリ3ぐらいって感じだ。でも戦闘が多い地域で兵士は常に不足し補充しなくてはいけない。だから子どもの誕生はとても尊ばれている。
そのため出来上がったのがお試し交際である。交際と言っても要は女性からベッドに誘われたら相手が決まっているか、よほど嫌いでない限り、受けなければならない。それが男の甲斐性って文化になっているのだ。つまり馬には乗ってみよ人には添うてみよってヤツだ。
だけどやっぱり生涯のパートナーを嫌いじゃない程度では選べないので、たとえそのお試しの行為で妊娠しても結婚は強制されない。なぜなら子どもは貴重なので、母親が所属するコミュニティーで育てるからだ。だからこれぞと思う人とだけ結婚する。もちろんお相手が受け入れたらだが。だって相手も他の男とお試しするんだから。
だけどこのシステムには問題もあって求められるのは人気のある男に集中し、あぶれる男たちが続出するのだ。そういう男たちは女性の気を惹くために手を替え品を替え、金をかけてご機嫌取りをし、お付き合いしてもらう。でもやっぱりあぶれるから、例の弱い男が……になるのだ。
本当はそういう女性のお相手をするのも15歳からなのだが、リアン君はあまりにかわいいから13くらいからそういうお誘いを受けていたようだ。元の世界の基準では淫行に当たるが、異世界だから許してくれ。
リアン君の始めてのお相手は彼の憧れの女性だったから、一も二もなく受け入れた。むさ苦しい男より、柔和で愛らしい彼の美貌が好まれ可愛がられたのだ。向こうでも同年代では敵なしで結構強いしね。
そして男どもからは嫉妬と欲望のからんだ恨みがましい目で見られていた。
この憧れの女性ってのが彼の辛い初恋の話だ。裏切りとかNTRとかじゃない。彼女は死んでしまうのだ。
お相手はフレデリカ=シンプソン。リアンより15歳年上の勇士だ。
彼女は華やかな金髪に青い瞳の美しい女性だったが、その顔と体にはかぎ爪で付けられた大きな傷があった。
元々王都にあるシンプソン子爵家の跡取り娘で16歳の時に結婚したのだが、その結婚式に魔王の手先である上位デーモンが現れた。
彼女の夫とその友人たちが結婚前のちょっとした力試しにとデーモンの巣にイタズラを仕掛け、怒りを買って襲撃されたのだった。当然夫と友人は死に、行き掛けの駄賃とばかりに何の関係がなかった彼女も呪いのこもった傷を負わされた。
そうなるともう王都にはいられない。彼女の受けた呪いはデーモンやモンスターを引き寄せるので、『災いの花嫁』として追い出されてしまったのだ。
普通の令嬢だったら悲嘆にくれて死んでしまうが、彼女は違った。元々シンプソン子爵家は騎士爵から陞爵されて出来た貴族家で、彼女もまた魔法剣士の才があったからだ。
それからどれだけの研鑽を積んだのかはリアン君も知らない。ただ結婚式から2年後単身北部にやってきて、魔王と戦う勇士となった。そして見事呪いをつけた上位デーモンを単独ではないものの討伐したのだ。
女を売り物にしない、自分の剣と魔法の力で呪いを弾き飛ばした女性。当然北部では体の傷なんて気にしない。むしろ強いことを示す勲章だ。そんなカッコイイ彼女にベッドに誘われたんだぞ。そりゃあ15歳差があっても行くよね。まぁリアン君が抱いたと言うより、抱かれたって感じだけど。
それから婚約みたいになったというか、彼女から彼を情夫にする宣言がされた。だけど恋愛関係と言うより、男どもからレイプじゃなきゃいいだろとセクハラに遭いかけていた幼いリアン君を守るための措置だ。実際関係も持ったけど弟子みたいな扱いだった。だから他の女性からの誘いも受けるように指示されていて、彼の女性遍歴が多いのはそのせいだ。この魔法学園に進学することを薦めたのも彼女だ。元々子爵令嬢だったから勉強も見てもらっていた。彼が文武両道なのは全て彼女のおかげだ。
リアン君が出会った時にはもうすでに貴族令嬢の欠片も残っていなかったけど、かわいらしいものが好きな女性だった。彼をかわいがっていたのも最初はそのせいだっただろう。
彼はそんな彼女のことが大好きで結婚を望んでいた。道端に咲いている小さな花を摘んで帰ったり、俺と違って絵も得意なので木彫りのブローチを作ってあげたりしていた。彼女はこんなのもう似合わないと言いつつ、ちょっと照れながらも受け入れていた。とても幸せな時間だったのだ。
だけどリアン君が14歳の冬、彼女は別の上位デーモンに殺されてしまった。勇士となったならその可能性はいつだってあった。彼は悲しみに暮れたがそれ以上に自分の置かれている立場が危ういことにも気が付いた。
彼は周囲からフレデリカの代わりに北部で勇士になることを望まれたのだ。それはあぶれた男から襲われる可能性か高くなる。さすがに14歳で複数の仲間を切り殺すなんてできないからな。
彼はお礼参りとしてデーモンの討伐に出かけ、下位デーモンを見事単独で倒した。そしてフレデリカが自分の財産をリアン君に受け継がせる代わりに、魔法学園を卒業して正式な魔法剣士になることを求めると書き残してくれていた。それを盾に両親の反対にもあったが、彼は故人の遺志を継ぐことを宣言し無事北部を脱出できたのだ。
この記憶を知って、リアン君がすぐに結婚したいかわかんなくなった。だってフレデリカは初恋の相手で恩人で師で、とても大切な人だったのだ。その人を失くしてまだ1年も経っていない。
彼女は子爵位をまだ有していて、その権利もリアン君に残していた。彼の持つ魔剣もフレデリカのものだ。この剣は綬爵した時に王から賜ったもので、爵位に付随している。つまり彼女の代わりにシンプソン子爵家の再興を求められているのだ。
プライバシーを考えて、ちゃんと記憶を読まなかったことの弊害が出た。まさかそんな目的があったとは……。ますます結婚相手は気軽に選べないことになった。
基本的に魔法士なら許されると思うけど、できれば平民よりも貴族の方がいい。でも家の再興となると、彼は平民同然だから何か功績が必要になる。
ああそうか、それで勇者として立ったカイルに手を貸したのか。勇者パーティーとして魔王を討伐したなら、フレデリカの家を再興出来る。
でもカイルがプレイヤーのせいで男の娘になると嫌われた。勇者パーティーに参加することは出来なくなってしまったのだ。そのルートでの立身出世はもう無理だ。
俺がリアン君のために出来ることが決まった。貴族になるための道筋をつけておくことだ。それが彼の体を借りていることへのお礼になると思う。
記憶をさかのぼってみて、改めてアルの従者になってよかったと思う。彼が貴族とのつながりになってくれる。再興するときの後ろ盾もみつけやすいはずだ。
エリーちゃんとアルとする魔王討伐も彼の功績になるかもしれないが、彼らは名前を伏せて冒険者活動をしているのでリアン君の名前が出るかわからない。
彼は両親の期待に背いたと思っているみたいだけど、俺はそうは思わない。きっと両親も彼が狙われていることを知っていて、だからフレデリカに預けたのだ。だってそれまで彼女とはほとんど接点がなかったんだから。
それに初めから行ってこいと送り出すにはあの土地は閉鎖的過ぎる。反対したのも師匠への恩義に報いたい息子の固い意志の結果、出て行った形にしないとおさまりがつかなかったのだろう。
リアン君がシンプソン子爵家を再興するには結婚も重要だ。結婚はしないといけない。とりあえず相手を探していることのアピールはしないとな。でもこちらではお試し交際なんてないし。条件と気が合わない子だったら意味がないんだ。結婚相手なんだから。
とにかく合コンに行ってみよう。その中に彼がいいなと思う子もいるはずだ。とにかく友情から始めよう。
お読みいただきありがとうございます。
今までややしかったですが、今後はリアンとだけ呼ぶ時は中の人は亮平、リアン君と呼ぶときは元々この世界にいる本物のリアン、とすることにします。
どうぞよろしくお願いいたします。




