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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第38話 ハリケーンの余波


 結局ダンジョンはチェリー、キース、サリーのための連携講座になってしまった。

 でもキースは2,3回指摘するとすぐ飲み込んで動ける。男爵令息だからある程度の教育が出来ているんだろう。

 というか本当は出来るのを隠しているみたいな……?

 これは女子がいない所の方で確かめた方がいいかもしれない。


 チェリーは魔法陣の使い方に慣れておらずオタオタしがちだ。いろんな魔法陣を刺繍しているけど、使いやすいファイアーボールを中心に発動速度を速めるように練習していくことになった。


 でも一番成長したのはサリーだ。

 どの程度の土魔法なのか聞くとゴーレムを作れるほどではないけれど、石も壁も出せるし発動速度も速い。狙いも正確だ。よく使う魔法は石礫ストーングラベルだそうだ。 これは小石を1~複数投げつける魔法だ。使い方によっては有効だけど、殺傷力は低い。


「ゴブリンならストーングラベルでもいいけど、オーク以上になると皮鎧着ているから殺傷力が弱まるんだ。もっと小さく硬いストーンバレットにして、貫通力をあげるといい。サリーは狙いが正確だからきっと効果が高い。あとメタル系が使えれば刺し殺すことも出来るけど」


 ちなみにグラベルを降らせるのはノートンに指示されたときだけだったらしく、使い時がいまいちわかってなかったらしい。


「グラベルは固くて重い石なら当てるだけで殺傷出来ることもある。でも今のサリーのならゴブリンとかがたくさん出たときに逃げる間の時間稼ぎ用に降らせる程度じゃないかな。それよりストーンウォールを寝かして出した方が相手が動けなくなるよ」


 俺的にはヌリカベでぺしゃんこ方式がおススメだ。


「それじゃあ倒せないじゃない?」


「壁の下敷きにしたまま、複数の動きを止めることが肝心なんだ。そこを魔法で攻撃したら死ぬ。こんな風に自分の魔法を工夫と練習次第で使えるようにはなると思う」


「やってみる!」


 驚いたことにこんな初歩的なことも知らなかったようだ。というかそれが魔法学園の指導方針なんだろう。向上心の高い者にはどんどん教えるが、さほどではない者にはそれなりにしか扱わないのかもしれない。サリーは大店のお嬢さんで、戦うことがイヤだそうだからそれでよかったのかもしれない。

 でも今は魔法が楽しいようだ。

 これってちゃんと教えない学園側のせいじゃないか?


 そう思ったらカイルは弱かったけど、こいつらよりは全然強かった。アイリスがカイル程度でも側においているのはそのせいか? いやこのパーティーがひどいだけで、他はもうちょっとましだと思いたい。



 休憩時間になった時、俺は3人と一時的に別行動を取りたいと申し出た。あまりにもゆっくり過ぎてフラストレーションがたまる。


「悪いんだけど俺ちょっと動いてきていいかな? 精霊様たちの運動にならないからさ。

 ここは休憩所だからモンスターは入ってこないし、キースがいるからさほど危なくないと思うんだ」


「そうだな、俺たちの練習ばかりになってしまったから、1時間だけなら構わない」


 キースが許可してくれたので、俺は1時間だけ彼らより先の階層に進んでモカたちの運動をさせた。そして戻った時には彼らの10倍以上の収入を得ていた。

 いつもの通り身体強化で走り抜けながらモンスターをみんなで倒して、魔石やドロップの回収はモリーがしてくれた。スライムの体が触手みたいに伸びて拾ってくれるのだ。

 10階層のボスのオーガを倒して、また走って戻って来ただけで特筆するほどでもないけど、モカたちがお手本のような連携を見せてケガすることもなかった。これぞダンジョン攻略って感じだ。ちなみにドロップはあったけど宝箱は出なかった。急いでいたからクリティカル判定にならなかったのだろう。



 でもなんでみんなやる気がないんだろう?

 お金も稼げるし、成績も上がるし、不思議でしょうがない。

 ダンジョンからの帰り道、女子がおしゃべりに夢中になっている時を狙ってそっとキースに事情を聞いてみた。


「実は……あんまり優秀だと思われるとさ、親に売られてしまうんだ。テンペスト様みたいにさ」


 アーサー=テンペストは次男坊の伯爵令息で成績優秀、見た目もハンサムで人望も厚い。なんとリリーの婚約者候補だったこともあるそうだ。だが3年前のハリケーンでこの国の2/3の領地がやられてしまった。その中にテンペスト伯爵家もあった。彼は優秀で有名だったため、資金援助の代わりに外国の年増の貴族の所に婿入りすることがすぐ決まった。学園を卒業すると同時に国を出て、たぶん一生帰れない。女性と必要以上に話をしてはならないなど相当な束縛を受ける魔法契約も結ばされてることから、奴隷のような生活が待っているだろうと思われている。


 だけど領主である親たちにしてみれば、自分の子どもが見目よく優秀ならば金になるとわかってしまったのだ。だから売れそうな子どもは見合いの席に出され、気に入られていい待遇なら婚約、まだましな待遇なら就職、そして最悪の待遇がほぼ奴隷契約だという。これまでだって下の子どもは婿入りするんだけど、ある程度は本人の希望を聞いてくれた。だが今はどれだけ金を支払ってくれるかに変わっているのだ。


「貴族にとっては跡継ぎ以外はただのスペアだ。三男の俺なんかが目立ったら、確実に売られる。しかも見栄えがしないから下働きか奴隷だ。それなら貴族籍のある冒険者でいい。成人して結婚さえしてしまえば、親に俺を売る権利がなくなるからそれまでの辛抱だと思っている。それに俺の家は元は魔法陣士を排出していたんだ。ノートンとは血のつながりはないが親類にあたる。彼の叔父は平民ながら魔法陣士で俺の伯母と結婚しているからだ。そして俺は魔法陣士になれるチェリーと婚約した。彼女のことは元々好きだったし、本当に有難いと思っている」


 貴族の跡継ぎになる場合は16歳で成人が認められるが、ただの魔法士では18歳だ。だから学校を卒業するまでに婚約することが必要なのだ。

 次兄は国内で婿入りが決まっているそうだ。お相手は同い年の子爵令嬢でハリケーンの被害が少ない地域である。これはすごい幸運らしい。


 しかもチェリーが国家魔法士になれば、男爵家はキースが跡取りになるかもしれないそうだ。母親は長男に嫁がせたいようだが、チェリーは人見知りするたちで彼に靡かなかったのだ。

 でもキースはそこまで望んでいないらしい。自分の結婚のせいで長兄が売られてしまうのも良心が咎めるし、チェリーにそこまで負担を強いたくないからだ。


「俺たちが結婚相手を早く見つけるのも、サリーの言った理由だけじゃない。学園内で婚約すれば相手も魔法士だ。魔法能力を確実に子孫につなげられるし、何より平民相手でも婚約解消するのに金がかかるからだ。それを払ってでも俺たちを高値で買う客なんか、そうそういない」


 それを聞くとどうして彼みたいに人当たりも要領も悪くないのに、性格の悪いノートンや遊び人のラルフのような問題のあるヤツと組んでいたのかわかる。自分の評判をあげすぎないためにだ。好意を持っているチェリーを追放するのも、婚約を決めなければ自分が売られてしまうを恐れてだろう。案外ラルフの素行の悪さも同じ理由かもしれない。



 聞けば聞くほど3年前のハリケーンって言うのが、すべての不幸の元凶のようだ。アイリスの婚約もテンペストの身売り婚も、キースたちは男側の事しか言わなかったけど、女性たちもたくさん嫌なことがあるはずだ。


 そう言えばアルがこの世界に来たのも3年前だ。これは何か関係があるんだろうか?



お読みいただきありがとうございます。

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