第37話 温いダンジョン攻略
この世界のダンジョンに出てくるモンスターはスライムからではない。なぜならこちらのモンスターはほとんど人型だから。オークも豚型ではなく、指輪を捨てに行くファンタジー映画に出てくるような醜悪な怪物だ。元エルフかどうかまでは知らないけど。
ぶっちゃけアルの太ってる時の姿に似ている。彼が次期伯爵様なせいか俺が従者だからか直接聞いたことはないけど、たぶん陰では言われてると思う。
むしろリリーやチェリーみたいに魔力太りだからと好意的に受け止められていることの方が意外だった。やっぱ一芸に秀でるってすごいことなんだ。
だからこの世界にスライムはいない。つまりモリーだけなので、彼女は俺たち以外の前に姿を見せない。今も俺の胸ポケットの中にいる。
猫やアザラシはいるけどケット・シーやセルキーのような動物型のモンスターはいないし、獣人もいない。つまり彼らはすべて精霊扱いになる。もちろんこぐまのモカもだ。彼女は熊といってもリアルな感じでなくぬいぐるみみたいだからな。
最初の攻撃は誘われた俺からってことになった。
ダンジョンを進んで出てきたのはゴブリンだ。1匹だけだったのでさっくり剣で仕留める。モンスターは倒すと全部魔石になる。ドロップは時折、宝箱もまれにある。
「魔法は使わないんだね?」
「ああ、剣だけで倒せるのに、魔力の無駄遣いだろ?」
一応魔剣も持っているけど、それも使わない。お互いの力量を見せるためとはいえ、こんな序盤で魔法なんか使ってられない。
「次は精霊様たちに倒してもらおうか?」
キースの言葉にモカは首を横に振った。簡単すぎて嫌なんだな。
「いや、この程度を精霊様たちの手を煩わせるのもな。次はキースたちが倒してくれ」
俺とアルがダンジョンに潜ったら、この辺は身体強化で走り抜ける。それで出会ったモンスターだけ倒すのだ。魔石やドロップはいつのまにかエリーちゃんが拾ってくれるし、宝箱もエリーちゃんが開ける。
いや、俺が開けたいって言えば開けさせてくれるんだよ? でも神であるエリーちゃんが開けると罠の発動はないし、その階層で手に入る最高の宝が手に入るんだ。だけど俺が開けたらその確率はグッと下がってしまう。3回ほどやって、ぜんぶミミックだとわかってからはほぼ開けてもらっている。
あっ、ミミックは出てくるな。人型じゃないヤツ。実はこれもめったに出ないそうで、大体の宝箱は開けたら罠が発動するものだ。毒が噴射されたり、炎がでてきたりの即死型の罠のことが多いそうだけど、なぜか俺にはミミックしかでてこない。そしてどいつも俺の手を齧ろうとする。
モカが俺の手をじっと見る。
「リアンの手って甘いのかな? ルー噛んでみて」
そう言われて、ルシィに1回齧じられた。一応気を遣って甘噛みにしてくれた。
(あまくないでちゅ!)
うん、それは噛まれる前からわかってたよ。
ちなみになぜモカが齧らなかったかというとセクハラになるからだそうだ。一応元女子中学生だもんな。赤ちゃんセルキーならまだいいのか?
「リアンの手にエリーの肉球スタンプがあるからさ。強い力に惹かれるんだろう。でもミミックしか出てこないのとは別だけど」
アルが結論を言う。『いのちだいじに』スタンプは強い守りだけど、噛むぐらいならできるようだ。それにどうやらミミックが出てくるのは俺のせいらしい。今回も宝箱が出たら他のメンバーに開けてもらおう。
こうして別メンバーと攻略してみて初めてわかったこと。もしかしてみんなかなり弱すぎねーか? むしろやる気あんのかって感じ。
目の前にいる5匹のゴブリンなら、俺なら身体強化で上げたスピードで一気に切り倒せば終わりのはずなのだが、みんな1匹ずつしか倒さない。
そして残った2匹に襲われて殴られそうになったのを、早く倒した人が助けてとなんだかもどかしい戦い方だった。っていうかみんな魔法が使えるんだからもっと距離をおいて攻撃すればいいし、なんなら全体の動きを止める攻撃魔法をかけてもいい。
全体攻撃たってそんな強い魔法でなくて、例えばサリーなら土魔法の遣い手だから足元に低めの壁を作るだけだ。ゴブリンは知能が高くなく、動きも鈍いので使える手だ。
それであいつらの前衛が転んでいるうちにキースとチェリーが魔法で後衛を倒し、それからみんなで転んだ前衛を倒すだけだ。
せっかく宝箱が出たら開けてもらおうと思っていたのに、こんなダメダメな戦闘じゃ出てこない。あれはクリティカルヒットを連発するような華麗な勝利の時だけ出てくるのだ。
これは辞めたアタッカーたちに頼り切っていた弊害なのかもな。キースはソイツらが獲り逃したモンスターだけを倒せばよかったみたいだし、指示待ちなのか?
聞いてみたら正にその通りだった。
「アタッカーのラルフは剣が上手いから、あたしたちが出ると機嫌が悪くなるの。それにわーすごい! って褒めないといけなかったんだよね。もう1人のノートンは戦略を立ててくれるのはいいけど自分で攻撃しちゃうんだ。私たちがやった方がいい時だけ使ってくれるけど……チェリーは……嫌味言われてた」
ノートンは同じクラスだから知っている。秀才で座学1位を鼻にかけていたのに俺やカイルの方が成績良くていっつもブスッとしているヤツだ。
ラルフはBクラスの女たらしで有名な輩だ。お金も持っているって、ほとんどの収入を自分のものにしてたんならそうだろう。
「そいつらと別れてよかったな。期末テストだったら受からないぞ」
まさかのゴブリン5匹でおたおたしてたら初心者じゃん。
次に7匹出てきたのを俺が1人で瞬殺したら、呆然とされてしまった。
「中等部の卒業はダンジョンの5階層に行けたら大丈夫だったんだ。高等部は10階層だよ」
なんちゅうレベルの低さなんだ。そんな攻略意味があるのか?
生徒から死人を出さないって意味はあるか。
「じゃあ卒業までにもう少し戦えなくちゃダメだ。10階層はオーガが出る」
「それ外のダンジョンでしょ? 学校のダンジョンならそこまでじゃないよ」
「それにゴブリンだって知恵のあるメイジとかナイトとか強い奴いるだろ? 今までそれもアイツらが倒していたのか?」
「うん、概ね。だから俺はポーションの作成やギルドとの折衝、報酬の計算なんかがメイン」
ああ、ちょっとめんどくさい事務系の仕事ね。
次はサリーだ。
「あたしが土魔法とそのアイツらを褒める係……それと剣を研ぐのもやってた」
褒める係って接待か! そんなのはダンジョンにはいらない。研磨もダンジョンでは使いにくい。
「あたしは前準備とか、食事の支度とか。ポーションのための薬草買いに行ったりとか、ギルドでダンジョンの入場予約したりとか……」
雑用係ね。ってか採取もしないんだ。そういう準備は個人個人でやらないと何か不備があった時に全部チェリーの問題になる。
「もうひとり女の子いたんだよね?」
「ミナは水魔法が使えて、あと褒める係……でもあたしたち一応中等部から上がってるんだよ」
ミナってのも確かCクラスにいるな……。いるってことぐらいしかわからない。異世界に来て混乱していたから、クラスの女子と親しくする暇がなかったんだよ。
ってかこれでいいなんて、すげーなこの学校。
ああそうか、都会の奴らは北部の魔王討伐なんて関係ないんだ。戦闘能力よりも適度に魔法を使える魔法士を排出してれば学校として成り立つんだ。
これは確かにプラムでなくても、温いって思うわ。
「男どもはともかく、その女子次のパーティー入れるのかな?」
あまりにも役立たずすぎて、俺だったら入れたくない。
「うーん大丈夫じゃないかな?」
チェリーがおずおず言うと、サリーがきっぱり言った。
「チェリーの事苛めてたけどね。男の子とは仲良くできる子だからなんとかなるんじゃない? でもミナも辞めてなかったらリアンと仲良くなれたのにね」
「あたしたちと回っているって知ったら、絶対キーキー言うね」
そんな裏表の激しそうな女の子と仲良くなりたくないよ。
でもさすがの俺でもわかる。こんだけぶっちゃけるってことは、俺はこの子たちの対象じゃないってことだ。まぁ2人も婚約が決まっているからな。
「俺は普段アルフォンス様と回っているんだから、今後は君らと一緒には回れない。とにかく簡単な連携を教えるから、自分たちで足りない部分を補ってもらえるメンバーを探すんだ。ダンジョン舐めたらいつかケガするぞ」
チェリー、もしカイルのパーティーに入ってたら、魔法陣があってもついていけなかっただろうな。それでも行くあてがなかったから食らいついて行ったんだろうか。
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