第36話 婚活の必要性
アルたちは予定外の社交が入ったらしく、もう1週間ほど帰ってくるのが遅れることになった。お金は給料をもらっているから困ってないけど、そろそろ体を動かしたい。
ダンジョンに行きたいとモカたちに言うと、連れてけと目をキラキラさせてこっちを見てきた。そう言えばモカはランボーなんだっけ。つまり武闘派ってことだ。
それで週末冒険者ギルドにダンジョン入場の申し込みをしたら、未成年でEランクのソロ入場は認めてないと言われてしまった。いつもはアルがいるからよかったらしい。
困った……。冒険者ギルドに一時的にパーティーを組める知り合いもいないし、一応アルフォンス専属従者ってことになっているから学校にも頼めない。モカたちを連れていることも出来るだけ伏せておきたいし……。
それでエリーちゃんがいつもやっているお使いクエストでもするかと掲示板を見ていたら、いつの間にか側に来ていたサリーに肩を叩かれた。
「リアン、もしかしてダンジョン入場断られたの?」
「うん、わかる?」
「だって、いかにもダンジョンに入りますって格好なのに、お使いの掲示板見てるんだもん。だったらあたしたちと入らない?」
彼女と一緒にチェリーと婚約者のキース=ドレナー男爵令息もいた。ランクは同じEだ。今までの他のメンバーは結婚相手を探すため解散したそうだ。おかげでメインアタッカーがいないらしい。彼らはどうやらサリー目当てだったそうだが、彼女は外部の商人の息子との婚約を決めてしまった。実は王都でも老舗の商会のお嬢さんでかなり裕福なのだ。
「俺がサブアタッカーと魔法士を歴任していたんだ。今はチェリーもサリーも攻撃できるけど、メインがいないからちょっと心許ないかなって思ってね」
ドレナーの杖は頭に丸い飾りがついていて、振り回せば十分強力な鈍器だった。オークぐらいまでなら倒せるか。でもそれ以上のモンスターだと心配だな。
「俺は構いませんが……、実は連れがいるんです。それでもいいですか?」
ドレナーは貴族なので敬語で話す。彼らが不思議そうな顔になった。1人じゃないならダンジョンに入れるからだ。
みんなのことは明かしたくなかったけど、このメンバーならエリーちゃんと仲がいいし、アルが口止めできるだろう。
俺はカバンの中を開けて見せた。
「こちらはエリー様からお預かりした、あの方の従属精霊たちです。皆さまの運動のためにと思ってお連れしたのですが……構いませんか?」
「もちろん、光栄です! 精霊様、俺たちもご一緒して構いませんか?」
モカが代表して頷く。一番体が大きいからな。っと言っても体長30cmぐらいだけど。
「それでは決まったと言うことで、ドレナー様。戦闘中は敬語の不使用をお許しねがえますか?」
「いや、戦闘中でなくても構わないよ。俺はしがない貧乏男爵の三男坊だから。キースと呼んでくれ」
「じゃあよろしく頼む」
俺はキースと握手して一緒にダンジョン入場することになった。
「それにしても結婚相手を探すのにパーティー抜けるって、気が早くないか?」
理由はサリーが率先して教えてくれる。チェリーはキースの恋人だから俺と話し込んだりしなくなった。
「あら、リアン知らないの? 魔法士はすごく忙しいから学生時代に相手を見つけておかないと結婚しにくいのよ」
「そうなのか? 俺、職場結婚を目指していたんだけど」
「リアンの美貌なら出来るかもだけど……、基本的には周りは既婚者ばかりだと思っていいよ」
なんてことだ。どうしよう。
このまま何にもしなかったら、リアンは結婚できないかもしれないのか。でも俺がこのままこの世界にいるならともかく、勝手に決めたら彼の意識が戻ってきた後俺が選んだ相手と結婚することになるのか? さすがにそれは彼に悪い。
しかも選べる気がしない。こちらは本物のリアンと違って、女の子の手も握ったことのないDTなんだから。
「君はレッドグレイブ様の従者で出世間違いなしだから、今すぐ決めなくても大丈夫じゃないかな。だけど女の子たちと顔つなぎだけはしておいた方がいいよ。俺たちはもう参加しないけど、ちょっとした出会いになる食事会があるから行ってみるか?」
いわゆる合コンだな。向こうでも行ったことないけど。キースの提案にちょっとホッとする。俺は女の子に手当たり次第声を掛けるなんてできない。
「ありがとう。よろしく頼む」
今日彼らとダンジョン入ってよかったと心から思う。アルもきっとこの情報を知らないのだ。もうすでに婚約解消後の婚約者まで決まってるからな。
でもこっちで結婚することは北部に帰らなくて済む1番いい方法だ。本物のリアンなら絶対に望むに違いない。
「報酬の分け方なんだけど、普段はどうしてる?」
「えっと倒した人が半分取って、残りを頭数で割ってた」
「それじゃあ、アタッカーがほとんど取ってたってことか?」
「最初は全部頭割りだったんだけど、私が全然役に立たなくて……。だから準備とか簡単な手続きとかは率先してやってたの」
チェリーが申し訳なさそうにしおれていた。段々残りの分け前も多いって言われてたんだろうな。
「でもそれじゃあアタッカー以外、収入があんまりなかったんだ」
「うん、でも私以外のみんなは倒せてたから、困ってなかったというか……」
「困ってたじゃない。だからチェリーはいつも刺繍の内職してたでしょ」
だから休み時間や放課後に刺繍してたのか。それでエリーちゃんが話しかけやすかったんだから良しとしてもらおう。
「頭割りにしちゃうと精霊様の分もになるんだけど……。みなさんお強いからね」
「それじゃあ、倒した人がそのモンスターの分を貰い、交代して戦うにしようか。もちろん強くて危険なモンスターの時は複数で当たってそれは頭割りにしよう」
キースの鶴の一声で決まった。
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