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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第31話 カイルとの手合わせ


 俺とカイルは作法に従って一礼してからお互いの剣を下段で軽く合わせ、自分の得意な構えを取った。そして教師の始め! という掛け声で打ち合い始めた。

 数回剣を合わせてみて剣撃の重さや反応速度など悪くはないが、なんというか決められた型をさらっているような……。


 あっそうか、これあれだ!

 ゲーム内の攻撃そのまんまなのだ。

 つまりカイルは実際の剣術はほとんどやっていないド素人なのだろう。


 威力はあるので弱い相手なら1撃で吹っ飛ぶが、初期のライバルキャラでもある俺は、この時点のカイルよりも数段身体レベルも高いし実践経験も豊富だ。

 このゲームはまだ未プレイだけれど、ある程度打ち合っていたらいくつかのパターンの組み合わせに過ぎず、ちょっと飽きがきていた。

 でもこれは練習だから、決められた3分ぐらいは打ち合うことにした。でもちょっとはフェイント掛けるとか、何かないのか?


 とりあえず彼が引き継いだと思われる2つのスキルは、剣術系ではなかったのだろう。今の打ち合いなら初級剣術レベルで、練習したら簡単に獲れるものだ。だが思ったより威力があるので身体強化あたりは取ってんのかな。魔法剣士を名乗っていたからもう1つは魔法だろう。



 でもこれまで無視し続けてきた俺と打ち合いに来るぐらいだから、もう少し手ごたえがあってもいいんじゃねーか?

 そう思ってハッとする。

 コイツ、アーツを放った後のクールタイム気にしてんのか?

 この打ち合いはたった3分。でも20秒も動けなかったら、俺が簡単に勝利できるものな。


 カイルはあまりRPGやりなれていないのかな?

 それなりに金持っているみたいだから、ゲーマーかゲームオタクな大人だと思ってたんだけどな。

 それかギャルゲーしかやんないとか? それでもバトル要素が入っていることもあるはずだ。


 あっそうか、リセットの弊害だ。

 スキルを2つ持ち越せても、リセットすることで初期値にもどっているんだ。だからどんなに育ててもいつまでも初期キャラの能力しかない。



 だいたいわかったように思えたので、俺はカイルの隙をついて尻もちをつかせて首筋に剣を当てた。


 教師がおれの勝利を宣言する。


「勝者、リアン=マクドナルド」


 俺は最後の握手のために手を差し伸べながら言った。


「カイル、もう少し努力した方がいいよ」


 このセリフはゲームでリアンの好感度が低い時に言っていたはずだ。彼はライバルと言っても友達だから、成長を促すようなことをちゃんと言うのだ。でもこのあと練習に付き合おうかと言うんだけど、それは言わない。


 だがヤツは俺の手を弾いた。


「まだ時間はある」


 いや、この一連の流れでもう過ぎたよ。それに体勢を崩して首に剣を当てられた時点で、実際の戦闘なら首を落とされていても文句は言えない。


「負けを認めて、次に生かせよ。こんなことで時間を取るな」


 ぶっちゃけレベルが低くて、相手してられない。アイリスの実力との差が大きすぎる。こんなののことを良く好きでいられるな。



 俺は挨拶を終えたのでカイルに背を向けてその場を去ることにした。いつまでもここに居たら次に打ち合う者たちの邪魔になるからだ。

 その時後ろから殺気と剣圧を感じた。


 避けなくてはと思うと同時に俺は宙を舞っていた。

 エリカが俺をお姫様抱っこして、その場から飛び立っていたのだ。


 後から聞いた話では、カイルは悔しさのあまり剣を地面に叩きつけて、それが俺の方に飛んで行ったのだという。でも殺気を感じたから事故に見せかけて攻撃したのだろう。


「リカ、下ろしてよ」


 正直、攻撃を受けるよりもこの体勢の方が恥ずかしい……。


「ダメ、アイツ危険だべ。リアンはまだ弱いだ」


 そりゃエリカよりは弱いけど、今のアイツじゃ俺を倒せないぞ。


 カイルは剣術の教師に叱られていた。


「負けん気が強いのはいいが、これは訓練だ。ちゃんと礼儀を尽くしなさい。しかも大事な剣に当たるとは何事か!」


 それから教師は俺を振り返った。


「マクドナルド、ケガはないか?」


「ありません。ちょっと精霊様にご心配いただいただけです」


「そうか、ならいいが……」



 エリカはただ教師に薄い微笑みを浮かべるだけだ。人間と話をしたくないからだ。そして俺を抱き上げたままスタスタと歩き始めた。結構なスピードである。


「おい、マクドナルドどこへ行くんだ?」


「ちょっとお待ちください。先生。

 リカ、俺はもう大丈夫だから下ろしてよ」


「ダメ、エリー様はリアンを守れと言っただ」


「もう守ってもらったよ。授業をさぼるのはエリーちゃんやアルに迷惑がかかるんだ」


 さすがに主であるエリーちゃんに迷惑がかかると言われると、エリカは仕方がなさそうに俺を校庭の隅に下ろした。

 ちなみにアルのことはエリーちゃんの兄であり強者として、上位者と認めているようだ。彼は彼女の主であるという演技以外で命令しないけれど、それに合わせるくらい敬意を払っている。


 俺はカイルの方をそっと伺うと、教師に叱られたことよりもエリカが俺を守ったことの方にショックを受けていたようだ。

 まぁそうだよな。無理やり召喚されて、不満に思っているはずなのだから。



 だがそれでは終わらなかった。

 エリカはカイルが俺に当てそこなった(正確には地面に叩きつけて飛んで行った)剣を拾った。そのまま彼に返すのかと思いきや、彼女は彼の顔ギリギリに投げつけたのだ。剣は地面に突き刺さった。


「ヒッ!」


 カイルの喉から叫びにならない空気音が漏れた。

 クラス全員が水を打ったように静まり返った。

 精霊が攻撃したからだ。

 教師も通常なら注意が飛ぶところなのだが精霊には文句が言えない。


 この世界の最上の魔法は精霊魔法であり、それを使う精霊は魔法士にとってもっとも尊ぶべき存在なのだ。精霊たちの怒りを買っては、普通の魔法すら使えなくなる可能性もある。

 彼らを召喚できる存在はごくわずかだし、俺のように守ってもらえるなど通常ではありえない。


 さすがのカイルも驚愕に目を見開いていた。

 あれだけしつこくエリカ、エリカと言っていたからきっと推しなのだと思うが、自分を頼ってくるはずの存在が逆に敵対行動を取ったからだ。


「次はない」


 エリカは風と氷の魔法を使う精霊だ。魔法を使わなかったからまだ警告の段階で、カイルにそう言うと姿を消した。エリーちゃんの元に報告に行ったのだろう。

 俺はみんなに警告だということを伝えたが精霊の怒りを鎮めるために、教師に退席の許可をもらって後を追った。



お読みいただきありがとうございます。

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