第30話 エリカのお披露目
季節は初夏を迎え、夏の訪れを肌身に感じるようになった。
それでエリーちゃんはとうとうエリカを15歳の姿にした。
ゲームの通り、楚々とした黒髪巨乳美少女だ。これならカイルも気に入るはずだ。
いや気に入ってもらっては困るんだった。
エリカにはカイルをしっかり振ってもらわないといけない。
それにゲームではアルフォンスに不満を持っていてそれをカイルに愚痴るんだけど、今の主はエリーちゃんでエリカは毎日幸せそうだ。
メイド仕事なんてできないと思っていたけれど、エリーちゃんのお手伝いはしたがるからちょっとしたことならできる。ワゴンを押すとか、荷物を持つとか程度だけど、それでも野生の狼がそうすることを思えばすごい上達だ。
「そういえばカイルって今どこまで攻略できているの? リリー攻略は失敗するんだよな」
「そうだな、彼は生徒会の手伝いに入っていてリリー嬢は彼をうまく使っているよ。その報酬に王宮に就職したい生徒が行く研修団に彼を入れてあげたそうだ」
「そんな! それじゃあ王宮編に突入するのか?」
「まさか。王宮編になるにはリリー嬢とアイリスが親しい友人としてローズ王女に紹介しなくてはならない。だけど彼女は彼を使用人になるための研修しか許していない。そこは大きく違う。なぜなら彼はローズ王女に直答を許されない存在だからだ」
「じゃあ話しかけたら……」
「即王宮から放り出されるし、二度と足を踏み入れることはできない。でも成功できなくもないよ。ローズ王女が直答を許すように仕向けることができればね」
なんていうかアルの取る手段ってきっついな。本当に心を折りに行ってるんだ。
そしてエリカに振らせるのもその一手だ。俺はアルを敵にしたくない。
とうとうアルはエリカをお披露目することにした。といってもパーティーを開くとかじゃなく、授業に行くときに俺の後ろを歩かせるだけだ。ちなみにエリカの仕事は俺のおもりだ。俺の方が世話してるつーの!
とにかくエリカにとっての俺は赤ちゃんポメで、人化していることになっている。
「オラ、リアンが心配だべ。人間、悪いヤツ多いべ。おめーはオラが守ってやっからな」
「ありがとう、リカ」
うん、彼女が善良で世話好きなのは間違いない。
俺たちの中ではエリカのことをリカと呼ぶことになっている。
エリーちゃんとエリカと名前が似すぎていて、混同するからだ。女神であるエリーの名前を変える訳にいかないということで、エリカがリカである。
エリカの野性的でありながら秀麗な美貌は人目を惹いた。彼女の頭から生える狼の耳と尾は明らかに彼女が精霊なのが見て取れる。
一番初めに近づいてきたのは、アルの婚約者予定のリリーだ。
「ごきげんよう、レッドグレイブ様。そのお見かけしない顔ぶれですわね」
「ごきげんよう、ペンシルトン嬢。僕の新しい仲間であるエリカです。どうぞお見知りおきください」
エリカは口を開くことなく、薄く微笑んで軽く会釈した。
これは彼女の訛り対策で、話ができない設定にしたのだ。彼女には人間と話さなくていいから微笑むように言ってある。
「まぁ、お美しい精霊様ね。どういったお方なのかしら?」
「黒狼の精霊です。北部にある荒野に棲む風の眷属です」
これ以上は言わない。精霊の細かい力など手の内を晒す必要がないからだ。
「あらっ? レッドグレイブ様。呼吸が良くなられたのではありませんか?」
「ええ、さすがに2体精霊召喚すると、魔力成長が収まりつつあるようです」
アルがあのブヒッって鼻息をつけるのが面倒になってきたので、エリカ召喚で魔力を使っていることにして止めたのだ。
「素晴らしいわ! こんなに美しくしとやかな精霊様とも共感性があるなんて」
「いえ、僕とはあまり共感性はありません」
「まぁ、それではどうやってお呼びになりましたの?」
「申し訳ございません。国家魔法士の秘法と言うことで、黙秘させていただきます」
「それでしたらこれ以上お尋ねするのは無粋ですわね」
国家魔法士は自らの手の内を全てさらけ出す必要はない。なぜなら敵に研究されて有事の時に防がれてしまっては元も子もないからだ。
それに言ったって誰も真似は出来ない。
精霊女王たちに信頼してもらい、精霊に来てもらうことが出来るのは、たぶんエリーちゃんにしかできない。
とはいえ共感性がない精霊を呼べるということは、大変な魔法だ。
皆がこぞって知りたがることだ。リリーが引いてくれたのは彼女がいずれ婚約者になるからということだろう。
だからアルに尋ねられない分、俺のところに聞きに来る奴は多かった。
その中にはチェリーもいた。
「リアン、あのお方が……例のエリカ様なの?」
「うん、まぁそうなんじゃないかな? 俺はカイルじゃないからわからないけど」
「まさか私が言った方法で?」
「そんなことあるわけない。精霊たちの友であるアルフォンス様が聞いたら、今度は威圧じゃすまないよ。
チェリー、精霊たちは一応君を許したけど、今も警戒している。めったなことは言わない方がいい」
俺は小声で、今度こそ魔法陣を失うぞと言うと、彼女はすぐに口をつぐんだ。脅すようで悪かったけど、精霊召喚の魔法陣の話は広めてほしくない。
剣術の授業では当然ながらアイリスにも聞かれた。他の人間に聞かれたくないからか、打ち合っている最中にだ。気を散らしていても俺に負けないってことか。
ちょっと馬鹿にされている気がしたが、今の俺では打ち合えるだけで剣聖である彼女との差は確かにある。
「ええ、彼女がエリカです。カイルの言う精霊様と同じかどうかは存じません」
「秘法で呼んだって聞いたわ」
「ええ、詳しくは契約で申し上げられませんが、アルフォンス様しか出来ない方法だそうです」
「アイツは才能だけはあるものね」
「才能だけでは精霊様は呼べません」
そうだ、能力よりも彼らとの信頼関係が重要なのだ。
アイリスはそれで引いてくれたが、次はカイルがやって来た。
彼は中間テストのダンジョン攻略以降、剣術が認められてこの騎士科の剣術の授業に出ている。
これまでずっと無視されていたが、俺も無視していたので問題ない。
「次は俺の相手をしてもらいたい」
「わかりました。お受けしましょう」
お読みいただきありがとうございます。
なんとか30日毎日投稿できました。明日以降は書けたらになります。
,以前は3日ごとにしていたのですが考え中です。
どうぞよろしくお願いいたします。




