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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第28話 考え方の違い


 俺は毎日朝8時にアルの部屋を訪ねることにした。彼らの仕事を手伝うためだ。

 この兄妹は日々同じ時間に起き、同じ時間に食事をするそうなので、彼らの朝食とかち合ったことはない。


 ただしモカとルシィは寝坊助だ。特にモカはみんなが寝てからグフグフ笑いながら何かを描いているらしい。きっと腐な怪しいものを描いているのに違いない。


 起きている時間に描けばいいのにと彼女に言うと、どうやらミランダがアンチ腐女子らしい。なんど説明してもいつかモカの脳みそが腐ると信じていて、エリーちゃんが影響を受けて腐ったらどうしようと心配でたまらないそうなのだ。実力行使も辞さないらしく、ちょっとその内容に触れようとしただけで身体強化+風魔法の全速力で意識を刈り取られるんだそうだ。


「あたし、妄想で腐るんじゃなくて、ミランダの蹴りの衝撃で頭取れるんじゃないかって心配なの」


 それでも夜更かしして、薄い本を描いているのだと言う。

 今書いているのはテンペストとその取り巻きの話なんだそうだ。俺がその対象になりそうだったことは伏せておく。ネタにされたらたまらない。


「これはね、異世界にいるあたしの友達のために描いているの。中学の時の親友で一緒に本作ってたんだ。お遊びだったから売るまではしてなかったけどね。

 同じ事故で死んで同じ世界に転生したんだけど、あっちはお姫様であたしはクマだったんだよね。だから会ってもお互い全然わかんなくってさ。わかった時にはあの子は政略結婚で別の国へお嫁に行くことが決まっていたの。アレコレあってあたしもエリーについて行くことになったから、手紙と本のやり取りだけしてるの。ちなみにその子は小説書くのよ。今では王妃様で3人の子持ちだからなかなか書けないみたいだけどね。

 興味あったらリアンも読む?」


「ううん、遠慮しとく」


 出来るだけBL的なものからは離れておきたい。絶対ないと思っているけど、強制的に男の娘ルートに入ったら困るからな。



 ある休日、俺たちは日々の書類整理に勤しんでいた。

 アルはマジで忙しい。2つの家と言っても領地経営だから、それなりに大きな会社を2つ経営しているようなものだ。そのうち1つは災害の復興中で毎日のように報告書が届く。

 アルは彼エリーちゃんにそう言った仕事はさせない。ただでさえ女神職は負担が大きく重責だから、復興途中の領地のことで心を痛めてほしくないんだそうだ。


「そろそろおひるにしよ!」


 エリーちゃんの一言でみんながテーブルにつく。外へ出て行った子も転移して戻ってくるんだ。

 穏やかな光景だ。これを見てエリーちゃんたちが悪魔と戦っているなんて思えない。幸せな時間だ。



 食事が終わってアルが質問した。


「エリー、エリカの選定は終わったのかい?」


「そうねぇ、どのこがゲームのエリカなのかわからないの。

 リアン、なにかしってる?」


「ゲームでは黒髪黒目のきょにゅ……胸が大きい美人さんだったよ」


 俺がそう言うと、エリーちゃんは困ったようにため息をついた。


「そのこたちはみんな、エリカのはながさくところうまれのかぞくなの。だからみんなエリカだし、よくにていておなじとくちょうなの」


「髪はおかっぱだったよ」


「それだとすえっこちゃんかな」


 だが聞けば末っ子はまだ4歳なのだという。狼だったら成獣だけど、精霊だとほんのひよっこだそうだ。普段は幼児の姿だが、大人の女性の姿にもなれる。


「でもあのこにかじはむりだとおもう。にんげんのくらしをしらないし、ものをていねいにあつかうなんてできないよ」


「ああ、だから掃除や洗濯が苦手だったんだ……」


 ゲームでのアルフォンスの部屋は汚部屋で、彼自身も不潔だった。それは嫌われ者の理由の1つだ。でもたしか体を洗わせる手伝いをさせてたはずだぞ。


「それさぁ、逆じゃない? エリカの体を洗ってあげていたんだよ。自分をうまく洗えなくても、人の汚れってわかるものだからさぁ。でも狼が体を洗われるなんて嫌だから泣いていたんだよ」


 モカにそう言われたが、まだ納得いかない。


「じゃあ夜の隠密行動は?」


「オオカミだから運動をさせていたんじゃないか? 僕は彼の振りをしているが、今のところ誰もスパイさせる必要がないからね。しいて言うならアイリスとカイルの浮気現場を抑えるぐらいだろうか。でも彼はそんなことを望んでいなかったし」


「なんでそんなことがわかるのさ」


「僕は3年もアルフォンス役をやっている。わざわざスパイなんかさせなくても彼女らがキスをしていた証拠ぐらいすでに押さえてある。でもゲーム内ではそういうものは1つもなかったんだろう?」


 確かにその通りだ。


「アルフォンス君はアイリスと家族になりたかったのさ。寂しい少年だったから」


「それも3年間のアルの経験でか?」


「ああ、男爵家の人間には仕事以外ほぼ無視されていた。でも僕にはエリーがいたからね。

 彼がエリカを呼べたのは彼の孤独と狼の精霊の感性が近かったんじゃなかろうか。だから僕にはエリカは呼べなかった」


 悪役にだって人生があり、事情がある。なんとなく見た目と行動で嫌な奴だと思い込んでいたけど、それだけじゃなかったんだ。

 じゃあ、あのカイルもそういうところがあるのかもしれない。



「じゃあ、すえっこちゃんにきてもらうね」


 召喚は出来ないのでエリーちゃんは子どもたちを連れて、エリカがいるシルフィーナの元へ迎えにいった。

 

 それで俺はアルと2人になった。


「なぁ、なんでカイルの中のヤツが死んでいいと思ってるんだよ」


「前に言ったよね。悪魔と関わってその利益を受けたら長生きできないって」


「それでも俺だけ助かるのはなんか嫌っていうか、それでいいのかわかんねーんだ」



 彼はしばらく思案していたが、パッと何かに気づいたようだった。


「そうだな、君と僕たちの考え方に違いがあるんだ。

 まず大前提だが君は人間だ」


「当たり前じゃん」


「そして僕たちは元人間だけど、神族だ。つまりヒトとしての種族が違う。僕たちにとっての死は魂の消滅だ。悪魔に魂を喰われて消滅するのは最悪の事態だと思っている。だけど肉体の死は誰にでもいつか起こることでそれが早まっただけで、転生の輪から外れなければいいんだ」


「でも俺は死なせずに帰してもらえるんだろ?」


「ああ」


「カーライル社に頼まれているからか?」


「それもあるし、君が明らかな被害者なのもある。

 でも魂を悪魔の糧にするぐらいなら、このままリアンとして生きてもらうかもしれない。そうなれば亮平はいつか死ぬ。それでも僕らはよかった。

 でもエリーは君が初回の魂だから、人生を全うして欲しいと救済することに決めた。僕らは彼女の眷属だから、君を生かして元の世界に戻すんだよ。それをカイルに適用させるつもりはない」


「そんな理由で贔屓されても……」


「嫌ならエリーに言ってくれ。彼女は悲しむだろうけど前言を撤回するし、それで僕らは元に戻す手間をかける必要がなくなる。あとは君が悪魔に喰われないようにするだけでいい。ただ初回の魂が悪魔にマーキングされたままなら、二度と転生できないと思ってくれ。その傷が癒える前に消滅するだろう。

 君は僕らを冷たいと思うだろうけど、国や世界が違えば価値観や考え方も変わる。そう理解してほしい」


「アルは人間だった時もそう思ってた?」


「全く思ってなかった。人命は大事だし、死んだらおしまいだし、転生が本当にあるとも思っていなかった。エリーがたまたま神に選ばれて、初めて知ったんだ。そして時間をかけて変わった。僕は神族になって、君の人生よりも長く生きているよ」


 だから嫌なことかもしれないけど呑み込んで欲しいとアルは悲しそうに微笑んだ。


 なんだか俺が悪いような気がしたが、彼はこうやって話し合わないと考えの違いがわからないから素直に聞いてくれてよかったと言われた。


 まだすっきりしないけど、これ以上は彼らを傷つける。そんな気がした。


お読みいただきありがとうございます。

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