第26話 精霊女王会議2
セルキー水着を着ていてよかった。
今俺たちはボートに乗せられて、そのまま海中を進んでいる。
櫂がなかったのはあっても意味がなかったからだ。迎えに来た人魚がこのボートを引っ張っているのだ。
特に空気の膜で覆われていないから、つまり直接水の中に放り込まれた状態だ。着ていなかったら息もできない。それに俺はボートから飛び出さないようにエリーちゃんが抱きしめてくれている。みんなは慣れているのか魚がいるだの、前より速いねとか呑気に話している。
いや、だいぶん乱暴だよね。どうなるこの会議……?
人魚は海底に岩陰に乱暴にボートを止めた。俺は投げ出されそうになったけど、エリーちゃんがしっかりと押さえてくれた。
「付いてきてください」
ここからは泳いでいかないといけないようだ。
俺はまだ泳ぎがおぼつかないので、アルの背負子の箱に入れられた。海水が入って来たけど息は出来るし、すでにずぶぬれだからはぐれてしまうよりマシだ。
本当に場所がわからないように厳重にされているんだな。
さすがにかなり寝ていたので、今度は眠らなかった。箱の中は意外と快適で歩いている振動はない。きっとこれも軽減の付与がかかっているのだろう。しばらく経つとふたが開いた。
「リアン、ついたよ。とじこめててゴメンね」
俺は首を横に振った。箱に入ってなかったら、海の中で行方不明だ。
そこは広いお城の玉座の前だった。
玉座には濃紺の髪に青いドレスの美しい、いや怖いぐらいの迫力美人だ。水の精霊女王ウィンディーナだ。
精霊女王の中で最年長であり、長女的存在の御方だ。そして人間嫌いも一番強い。
その横に他の精霊女王サラマンドラ、シルフィーナ、フィオレンティーナがいる。
これ、会議と言うより、尋問会だな。
「それが、今聖霊様が守っている人間なのか?」
「うん、リアンよ。ここに来るからポメラニアンになってもらったの」
「今さら我が眷属が人間の男に騙されるとは思わぬが……気を使わせて悪いな」
そっか、でも向こうでも水の精霊と人間の裏切りの伝説多いもんな。こっちにもいろいろあるんだ。
「それで精霊召喚の魔法陣はどうなったのだ」
「もちろんわたしてないよ。それにいせかいのになるし」
「それは心配しておらぬ。だがその者は魔法陣の才があるのだろう?」
「かのじょはせいれいしょうかんのさいはないの。でもいのちをだいしょうにすればよべるっていったら、こわがっていた」
「ふむ、魔法陣の中でも精霊召喚は特別魔力が必要だからな。だが他の人間の命を代償にすれば別だ」
「ごくふつうのやさしいこだよ」
「……そうか。信じてよいか?」
「うん、まかせておいて!」
精霊女王たちはみんなニッコリ微笑んだ。
ああ、よかった。彼女たちとエリーちゃんの間には信頼関係があるんだ。
アルは心配してなかったみたいだ。
(精霊たちは物事の本質を見抜くものだ。エリーはいい子だろ。何の心配にいらない)
「だがその者をそそのかしたヤツがおるはずじゃ」
「うん、いる」
「その者はどうするのじゃ」
「かれはいせかいじんなの。このせかいのいぶつ。もとのせかいにもどすよ。でもいまはできない」
「なぜじゃ」
「リアンのいのちがかかっている。このこはね、しょかいなの」
うん? しょかいって初回? 何の?
「うまれたてのいのちなの。だからたすけてあげたい」
「そうか……」
「だからほら、こんなに小さくてあいらしい」
? よくわからなかった。
(リアン、エリーが言っているのは君が1度も死んだことのない命、忘却の川を渡って記憶を消したことがない、転生したことがないんだ。それは君を動物に変えた時にわかった。あれはね、魂の年齢を表すんだ。ほぼ生まれたての君は抵抗力のない赤ちゃんなんだ。だから彼女は君の里親になったんだよ。
僕もエリーも、何度も何度も転生した強い魂を持っている。だから君の初めての生が守ってあげたいんだ)
そうだったのか……。だから俺を守ってくれているんだ。
甘えていいのかな……?
ウィンディーナとエリーちゃんの話は続いていた。
「だがこのままなのは許すわけにはいかない。それはわかるか?」
「うん、もうすこしじかんをちょーだい?」
「どうするのじゃ?」
「もう少しでかれのしょうたいがわかる。わたしのなかまがしらべているの」
「わかった」
そこでアルが補足した。
「彼はもすでになんどかリセットしていて寿命が短い。精霊たちは必ず守る」
うん、カイルの死は決定なのか。
精霊女王会議は何の問題もなかった。
そのあと彼女たちと踊ったり、歌ったり、楽しんでいた。
今回の会議の目的は、ただエリーちゃんの確約が欲しかったようだ。
彼女は神だから、言った事はその通りになる。いやこの場合はその通りにするのだ。
俺は初めての生で、経験はあまりない。それでもやっぱ甘えてるだけは嫌だ。
元の世界に戻るのは手伝ってもらうけど、俺は俺の出来ることをしよう。
だが俺はカイルの中の人が死ぬことはどうにも落ち着かなかった。
なぜエリーちゃんも、アルも彼の寿命が短くなっていることを気にしないのか?
それだけがどうしても納得できなかった。
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