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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第23話 閑話 チェリーの事情1


 私はチェリー・ウィンター。平民ですが1代限りの魔法士の娘です。

 そして亡くなった上級国家魔法士メイベル・スプリングの孫でもあります。


 祖母は魔力も強く優れた回復魔法士だったのですが求婚してきた貴族たちを押しのけて、魔法の使えない平民の祖父と結婚いたしました。おかげで魔法の才能が子に引き継がれても、資格は1代限りのままです。

 愛のない結婚はしたくなかった。それが理由だそうです。


 そのせいか父は祖母ほどの魔力は持てませんでした。それにも負けず魔法の知識を学び、座学ではいつもトップだったそうです。付与魔法に才能があり、本人は戦えなくても戦闘魔法士や回復魔法士の補助を行うことが出来ました。器用な性質で低魔力でも運用がうまく重宝されていますし、先日新しい付与魔法も構築いたしました。それにより今回上級国家魔法士に認定されることが決まっています。だから祖母も父も尊敬しています。


 ただ1つだけ、どちらも魔法の使えない平民を配偶者に選んだこと以外は。

 せめて父だけでも貴族でなくてもいいから同僚の魔法士と結婚して欲しかった。

 私の魔力が扱えないのは平民の血が濃すぎて、魔力が上手く放出できないからだと言われたからです。


 魔力の強い魔法士の娘として魔法学園に入学した時は、この状況をそれほど気にしていませんでした。そのうち使えると高をくくっていたのです。

 ですが入ってみればただの落ちこぼれでした。

 それに魔力が強いと言ってもレッドグレイブ様のように容姿がゆがむほどの魔力がある訳でもありません。



 魔法学園の目的は魔法の使い方を学び、国や民のためにその力を行使する魔法士となるためが表の目的ですが、裏の目的は結婚相手を見つけることです。

 国家魔法士になればそれなりに選択の余地が出来て猶予もありますが、Cクラス程度の成績ならばここで相手を見つけておかなければ、外で出会えることはほぼ難しいのです。父のように平民相手なら別ですが。

 ああ、母が嫌いなわけではないのですよ。優しくて大好きです。でもそれだけ。


 下手に魔力があるせいでこのままでは魔道具に魔力を注ぎ込むだけの存在になってしまいます。それは低賃金で辛い仕事です。生きていくために貴族の愛人となって子どもを産む道具のように扱われるとも聞いています。



 最初パーティーのメンバーは気持ちのいい楽しい人たちでした。でも魔法が使えない私はだんだんみんなのお荷物になっていきました。だからパーティーの雑用は全て引き受けていました。みんなに捨てられないように必死でした。


 友達のサリーは平民ですが土魔法が得意で、みんなの助けになっています。いつもそれと比べられてとても辛かった。

 でも彼女は気づいていません。いい言い方をすれば悪意があることを知らない、悪い言い方をすれば鈍感なのです。

 いえ、気が付かないふりをしているだけなのかもしれません。


 それでも私がパーティーに置いてもらえるのはサリーと仲良しだからです。彼らは私を下手に切って彼女も出て行ってしまうと困るのです。でもそれがもうじき終わります。サリーがパーティー以外の商人と婚約したからです。

 彼女は魔法なんていらなかったのです。魔王との戦いに駆り出される魔法士なんかになりたくないのです。それなら私にくれればいいのに。


 もう彼女目当てで私は置いてもらえなくなりました。

 次の中間テストのダンジョン攻略で私は切られる。そう感じていました。


 ただリーダーのキースだけは私の顔が好みらしく、少しだけ優しいのです。なんとかCクラスになって、彼の妻になりたい。

 私は自分と子どものためにも、絶対貴族と結婚したいのです。魔力が使えないからと馬鹿にされ、知らない人にまで人格否定され、魔力のためだけに奴隷扱いされるのはイヤ。



 だからあのカイルが言うことは本当なのです。私はあのパーティーで疎まれていました。

 彼との出会いは高等部が始まる前に、街で破落戸ごろつきに絡まれているところを助けてもらいました。魔法さえ使えていれば、あんなの全然怖くないのに……。


 カイルは自分の所に来れば苛められないと言っていましたけど、彼も平民なのです。しかも美人の幼馴染と剣聖のアイリス様を侍らせています。あの2人を越えて彼が私を愛するようになるとは思えません。


 そういう意味ではリアンの方が条件はいいのです。彼の才覚はレッドグレイブ様の従者になれたことでもはっきりしています。アイリス様と剣で打ち合えるのは彼だけと噂が立っていて、今平民男子の中で一番注目されています。


 ただみんなあまり声を掛けません。彼は美形すぎるのです。自分よりも愛らしい男性にみんな躊躇しているのです。

 北部の人の特徴である透き通るような白い肌に、ふわっと柔らかそうなピンクブロンド。大きな黄緑色の瞳はいつもキラキラしています。

 政略結婚のため、同性としかお付き合いが出来ないテンペスト様がすぐにお声がけするほどです。



 私もそれなりの容姿を持っていると思っていますが、彼のように目立とうとは思いません。身分が低く成績の悪い女子にとっての美貌は、異性には効果がありますが遊び相手と見なされます。同性には嫉妬の対象です。それに多情な女は異性にも同性にも嫌われます。

 私はキース狙いなのです。だから普段は髪型をボサボサにして顔を目立たせないようにしています。


 だけどいくら彼に近づきたくても、どうやっても魔法が使えません。いえ年に2.3回たまに使えることもあるのです。それでなんとか中等部の卒業試験に通ったのです。身体強化や視力強化できる程度の平民の方が私より優秀になっています。

 いつもいつも私が一番下。


 でもそう思っていることは表に出しません。根暗な女も嫌われるのです。

 ただこのままではマズい。でもどうしたらいいのかわからない。

 そのうっぷんを私は刺繍にぶつけていました。



 私はいつものように校庭のベンチで刺繍を刺していました。この刺繡の内職は少しだけお金になりますし、一心不乱に差せば少しは嫌なことを忘れます。

 サリーはよくやるねーっと横でお喋りを続けています。私は彼女の話半分、後は刺繍に集中していました。

 そんなとき、私の元にレッドグレイブ様の精霊、エリー様がやってきたのです。

 気が付くとあの方は宙の浮いた状態で、私の手元を覗き込んでいました。


「これ、ふるいししゅうのさしかただね。だれにならったの?」


 私はびっくりしました。こんなに間近で精霊を見ることも話すことも初めてだったからです。しかもエリー様はそれまで見たこともないほど美しく、そして実体があるのです。


「祖母です。国家回復魔法士でした」


「チェリー、あいされているね。これはふるいまほうなの。かんたんに人におしえないもの」


 私が名乗る前にエリー様は名前を知っていました。この間リアンと話したからでしょうか。

 サリーは割と能天気なので、しっぽ触りたいなんて言います。

 でも考えてみてください。最上位の魔法は精霊魔法です。その前の精霊召喚だってほとんどの魔法士は出来ません。

 その魔法を行使できる精霊様が目の前にいるんですよ。不敬罪になってしまいます!


 そしたらエリー様はニッコリ笑いました。


「耳やしっぽはダメだけど、髪の毛ならいーよ」


 それからエリー様はご自分も手仕事が好きで刺繍をすること、お友達が欲しいこと、私たちと一緒に刺繍を刺したいと仰ったのです。


「エリーのことは、エリーって呼んでね」


 とても気さくで愛らしいのです。しかもお菓子作りが得意でいつもおいしいお菓子を持ってきてくれます。



 アイリス様はお強いけれど賢くないのですね。このように美しく愛らしい、性質も穏やかで優しい精霊を呼べるということは、レッドグレイブ様も同じ性質を持っているということ。それが共感性ですから。

 つまり魔力成長が落ち着けば、あの方の容姿はかなり美しく、性質も優しいはずです。

 リアンがテンペスト様に付きまとわれているのを助けたところを見てもわかります。ご自分が悪者に見えるよう、テンペスト様を立てたのです。


 たぶんテンペスト様やお取り巻きの方々は同性愛者ではないのです。ただご自分が置かれた境遇に何らかの反発をしたい。最後の思い出が欲しい。でも契約で女性と付き合えない。それで疑似恋愛を楽しめる相手を探しておられるだけなのです。

 ですがほとんどの男子生徒は同性愛者ではないから、リアンを人身御供にして自分たちは助かりたいと思っていたのです。

 そんなときに手を差し伸べるなど、なかなかできません。



 それでリリー・ペンシルトン様は、レッドグレイブ様を未来の夫に定めてしまいました。私はキースを狙っているので近づきません。

 ただエリーと一緒に刺繍を刺すことで、私も目立っていたようです。

 ペンシルトン様とお取り巻きのご令嬢たちに呼び出しを受けてしまいました。サリーはすでに婚約済みなので呼び出されていません。


「あなた、レッドグレイブ様の精霊様や従者とも仲良くしているそうだけどどういうことかしら?」


 私は血の気が引く思いをしました。怖すぎます。


 私は素直にすべてを話しました。

 どちらもあちらから話しかけてきたこと、私の目的が同じパーティーメンバーのキースと結ばれたいと言うこともです。

 彼の名前を出したのは、この方たちが根っからの悪人でないからです。本当の悪人なら、邪魔者を排除するために私から事情を聴く前に人を使って傷物にすれば簡単なのですから。 確認してくださるのはまだマシなのです。


 ペンシルトン様は言うに及ばず、他のご令嬢たちも伯爵家、子爵家の方なので男爵家の三男など相手にしていません。

 婿入りを欲している方でもできれば格下からの婿入りは望んでいません。それにキースのためには残念なことですが、彼は彼女たちが婿に望む魔力、成績、財力などほんの少し足りていないのです。

 だから同じパーティーメンバーに平民の私やサリー、ミナしかいないのです。


「そう、それならあなたの成績をもう少しなんとかなさい。そうすれば彼と婚約させてあげる」


「本当ですか! 願ってもないことです。ありがとう存じます」


お読みいただきありがとうございます。


書くのを忘れていましたがチェリーは黒髪赤目の美少女で普段はボサボサ髪で顔を隠しています。ゲームでは不思議ちゃん系なのですが、本人はものすごく現実的な人間です。

嫌味を言われてものらりくらり返していたので、不思議ちゃん認定されてしまっただけです。


一代限りの魔法士は任命された季節が苗字になります。そしてその子どもは魔法学園にいる間は親がもらった苗字が使え、任命されたらその季節の苗字になります。

上級魔法士はそのさらに上に当たり、魔力のある貴族と結婚すればその貴族の姓を名乗ることになります。

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