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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第21話 婚約の行方

 中間テストは俺とアルのパーティーが1位になった。


 あの後フラストレーションの溜まった俺たちは、ダンジョンモンスターを狩りに狩りまくったのだ。

 エリーちゃんはお昼ごはんの時に起こした。

 よく眠れたとなんの疑問も抱いていない。


 そしてアルの予想通り、アイリスへ送った婚約解消同意書は返送されてこなかった。


 婚約解消と同時にアイリスは貴族ではなくなる。彼女の娼館行きは阻止できるとしても、王宮編に行くためにはアイリスとリリー2人からの紹介でローズ王女に会わなければならない。そうでないと王宮へ招待されないのだ。


「カイルは戦々恐々としているだろうね。ペンシルトン嬢を奪われたら、王宮編に進めないのだから。

 今回の会談の目的はアイリスのためだけではなく、彼を煽るためでもあった」


 そうだ。巨乳の大人っぽい女が好きなら、王宮編の暗殺者ダリアも狙っているに違いない。彼女は表向き王宮侍女として働きながら、王直属の影なのだ。ローズと急接近したカイルに危機感を覚えた王は彼の暗殺を命じる。だが勇者の力に目覚めつつあるカイルが撃退し仲間にできるのだ。



「でも約束破ってるじゃん」


「アイリス嬢はすぐに返送するとは言っていなかった。だからまだ破ってはいない。

 彼女の性格ならそうしただろうけど、カイルに止められたのだろう。でもこれで彼の弱みを1つ握ったことになる」


「アルに対する殺害予告だね。でも証拠が……」


「ぬかりなく録画してある。そのために君に従者のお仕着せをきせたのだ」


 彼は俺の従者服の襟に付けたテントウ虫を見せた。実はこれはエリーちゃん特製の魔道具で発信機でもあるが、録画もできるそうなのだ。


「魔力を通すだけで簡単に録画状態になる。カイルたちの姿が見えた時に作動しておいた」


 映像を見ると俺たちのやり取りがすべて記録され、アルに向かって剣を抜き、「殺そう」と叫んだところもばっちり撮れていた。


「僕に付けると彼が誰に対して言ったかわからないからね。君に付けておいてよかったよ」



 もう1つの懸念事項はどうなったんだろ?


「エリーちゃんの説得は出来たの?」


「事実は伝えた。アイリスが愛する人と結ばれるならと納得していた。ただ口にはしなかったが、どう考えても幸せになれそうにないと悲しんでいた。彼の残された寿命はあまりないから。元々僕はアルフォンス君ではないから、結婚できないのはわかっていた」


 やっぱアイツの寿命、ヤバいんだ……。


「せめてもうちょっとマシな相手だったらよかったけど」


 ゲーム通りのカイルだったら、何の問題もなかったのに。唯一の救いは彼女が今のカイルの好みのタイプでないことだ。アイリスはスレンダー美女だからな。彼女はキープをされるけれど性的強要は受けないだろう。

 俺たちが早々に魔王を倒せば、彼女も救われるはずだ。


 俺がそう思うと言うと、アルは呆れたようにため息を漏らした。


「君は純粋すぎるね。でもだからこそエリーが里親になったのだけど」


 どういうことだろう?



 次の音楽の時間、上機嫌なリリーは今までと違い、ためらいなくアルに話しかけに来た。アイリスと解消後の婚約話を受けたからだ。


「わたくしの所にアイリスがやって来たわ。あなたとのことを考え直せですって」


「そうですか、ブヒッ」


「だったら婚約解消を止めて、自分に課せられた義務を果たせば? と伝えたのよ。それはそれで嫌だそうだわ」


「僕もそれは困りますブヒッ」


「幼いころからの幼馴染でしたけど、本当に彼女にはガッカリですわ。まさか自分の都合のいいことしか受け入れたくないなんて貴族としても剣聖としても失格なのではないかしら? あなたはどう思って?」


「生理的嫌悪というものは、簡単に我慢できるものではないそうです。自分の心を偽ると戦いに赴くことは出来なくなりますブヒッ。

 彼女が剣聖として生きていくには必要なことなのでしょう、ブヒッ」


「生理的嫌悪って、あなたの容姿のことかしら? 冷静に考えればすぐにわかることですのに? 魔力成長が止まれば解消されることですし、今は美しくても老いることで大きく容貌が変化する方は大勢いますわ。

 なによりあなたはエリーのような素晴らしい精霊と共感できる。彼女が風の精霊女王のシルフィーネと手を繋いで、共に空を飛んでいるのを見かけましたわ」


 普通の精霊は精霊女王と親しくなどできないからな。


「ええ、四大精霊女王は皆様、エリーと親しくしてくれています。ブヒッ」


 水の精霊女王ウィンディーナ、火の精霊女王サラマンドラとも仲良くしていて、サラマンドラとのお茶会はバーベキュー大会だったそうだ。もちろん肉や野菜を準備たのはエリーちゃんだ。

 モカがその時の写真を見せてくれた。

 絶妙な火かげんだったそうで、みんなでバウムクーヘンも焼いたんだって。

 すっげー楽しそう。俺もやりたかったし、肉食いたい。



 その後、みんなでアルのヴァイオリンを楽しんだ。今日の曲はメンデルスゾーンの『歌の翼に』だ。短いけど美しい曲でなんだかキラキラして見えた。

 そしてリリーは幸せそうだった。結局破談になるからちょっとかわいそう。

 でもこれはカイルからの魔の手を防ぐためのものだ。

 

 ただカイルのリセットは近い。

 それでヤツが死ぬのはなんだか怖かった。


お読みいただきありがとうございます。


風の精霊、シルフィードはシルフィーナ。

水の精霊、ウィンディーネはウィンディーナ。

この作品では名前ということ変更しています。


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