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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第20話 別れ話


「もうやめて! カイル」


 今までずっと黙っていたプラムちゃんが叫んだ。


「あなた一体どうしちゃったの? 俺は勇者になるんだって私と約束したこと忘れてしまったの?

 いくらアイリス様が大事だからって、お金のために人殺しをしたらアイリス様の剣聖の称号は失われる。そしたら魔王と討伐するなんて夢のまた夢じゃない!」


「プ、プラム……」


 このゲームのプラムの設定は北西部の小さな村の出身で、幼いころ魔王に村を焼かれてカイルの居る南部の村にやってきたのだ。その彼女の苦しみに共感したカイルは勇者になることを志す。そして戦いを繰り返していくうちにカイルが重傷を負って、彼女は自分の気持ちに目覚め真摯な願いで神に祈り聖女となるのだ。


 こんなバカでどうしようもない男でも、信じて支えているなんてなんて優しい子なんだ。それなのにそんな彼女の説得にもカイルは応じない。

 こんな自分勝手な殺人を言い出す男なんか、彼女の恋人にはふさわしくない!



 アイリスもヤツを宥めに掛かった。


「カイル、ありがとう。わたくしを思って言ってくれたのね。でもプラムの言う通りよ。わたくしは罪もない人を殺めることなんてできない」


「コイツは絶対叩けばほこりが出るって!」


「ではマクドナルドはどうするの? 彼は何の罪も犯していない。しかもアルフォンスの元に行かせたのは、あなたがパーティーに入ることを拒否したからでしょう? 彼は優れた魔法剣士でわたくしも1撃で倒せる自信はないし、やりたくもないわ」


「いや、だって……」


 そりゃあ、言えないよな。俺がいつか女装しだす男の娘になるなんて。

 なる訳ねーけど。


 それ以上、アル殺害を言い張ることが出来なくて、カイルはやっと抜いた剣を鞘に納めた。

 その姿をアルはものすごく馬鹿らしいと言うような冷めた目で見ていた。

 そりゃそうだよな。俺も稽古つけてもらっているけど、本当の彼の実力は多分アイリスより格段に強い。



「アルフォンス、今のやり取りは忘れてちょうだい」


「ならば対価が欲しい」


 アイリスはすごく嫌そうな顔になったが、貴族は弱みを見せてただ頼むだけで引いてくれるわけがない。


「わかったわ。何かしら」


「借金返済のために僕との結婚をしないと約束して欲しい。それとも僕と結婚したいのか? ブヒッ」


「しないわよ! そんなの」


「では婚約解消成立だ。彼の失言も忘れよう。ダンジョンから戻ったら書類を送るのでサインしてくれ、ブヒッ。

 親思いの君がそこまで思いきれるか心配だったのだ。僕もカイルとの子どもを跡継ぎにしそうな君とは絶対に結婚したくない。それに君と結婚しなくても僕にはいくつか縁談がきているブヒッ」


「何ですって?」


「嘘だろ? お前みたいなブ男にそんな話あるわけがない!」


 あーあ、カイル墓穴掘ったな。そんなヤツの心をアルは折りに行く。



 アルはカイルを無視して、アイリスに向かってだけ話し続ける。


「そうだな、君と親しい人ならリリー・ペンシルトン嬢から話が来ている。もちろん君との婚約解消が成立してからだが。ブヒッ」


「そんなリリーが? 信じられない……」


 彼女はかなりその気だぞ。まぁアルフォンスにじゃなく、アルの飛びぬけた音楽の才能にだけど。

 現ペンシルトン公爵は元々伯爵家の方だ。そのせいか伯爵位を継ぎ、巨万の富を相続する彼との結婚はかなり賛成らしい。

 本物のアルフォンスじゃないから結婚しないけど、婚約することで彼女をカイルの魔の手から守ることも狙いだ。


「信じるも信じないも好きにしてくれ、ブヒッ。もう話をすることもないから1つだけ。婚約した時に君に抱き着いたことは悪かったブヒッ。僕は君が家族になると思って嬉しかっただけだ。

 ではリアン、行くぞブヒッ」



 俺たちは身体強化して、そのまま先へ進んだ。カイルたちは追ってこなかった。


「エリーちゃんを眠らせたのは別れ話だったからか?」


「ああ、きっと残念がると思うけど、理由を話してわかってもらうしかないな」


「そうか……」


「それよりすんなり婚約解消してくれないかもしれないな」


「えっ何で?」


「カイルがリリーの攻略に成功しないからさ。アイリスはヤツに従順だから、何かと理由をつけて話を先延ばしにするように言うと思う」


「そんな! だったらなんで言ったんだよ?」


「それは彼に思いっきり振られてもらうためにさ。ペンシルトン嬢にはすでに婚約解消出来たらと仮の承諾をしてある。彼女は粗野で教養のないカイルに全く興味がない。アイリスに対しても趣味が悪いと失望している。十中八九彼を受け入れることはないだろうね。万に一つ受け入れたとしても、彼女の自由だ」


「ヤツが振られたらどうなるんだ?」


「何らかの行動に出るだろう。またリセットするか、他の方法を取るか。どちらにせよ悪魔から授かった力を行使するだろう。そのときに尻尾を掴む」


「アイツ、死ぬかもしれないぞ」


 リセットの対価は寿命20年。あと1回できるかどうかなのだ。


「僕の予想だとギリギリ大丈夫だと思う。

 それに悪魔の力を好きに使って、生き長らえる方が難しい。

 ちなみにどうして不正ソフトの捜査が難航したか教えてあげよう。利用者全員が変死したんだよ。アルフォンス君を殺した男も取り調べの後死んだ。エリーが向こうにいれば彼だけは救えたかもしれないけど、僕の側に居てくれたからね。

 だから今のカイルはまだましだよ。エリーに魂だけは救ってもらえるかもしれないから」


「それって俺もそうなるの? 俺も狙われてるんだよ」


「いいや、なぜなら君はエリーが認めた里子だ。何があっても僕たちは君を家に帰す。安心してくれていい」



 正直アルが冷酷にも感じたけど、それはエリーちゃんの決意と同じなんだろう。それだけ悪魔討伐は辛くて厳しい。


 それでも俺は自分だけ助かることを喜ぶことは出来なかった。


お読みいただきありがとうございます。

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