第19話 借金返済について
アイリスたちが行ったので、次は俺たちの番だ。
アルはエリーちゃんを抱き上げるとそのまますたすたと歩きだした。子どもたちはエリーちゃんの肩掛けバッグの中だし、俺もその後をついて行った。
ひと気が無くなったので、アルはブヒッと言わなくなった。
「ここら辺のモンスターはとても弱いから、リアンが倒してくれるかな。荷物が邪魔なら僕のストレージに入れよう」
「他のパーティーに見られたら面倒だからこのままでいい。めっちゃ軽いし」
「おもさをかるくするふよ、かけといたよ」
重量軽減はかなり高度な付与だ。本当にエリーちゃんはいろんなことが出来るようだ。
出来ないことはあるのか聞けば、人を生き返らせることは出来ないそうだ。時間を戻すことは代償があればできるらしい。でもそれは相当重いそうなので、よほどのことでないと戻す気はないそうだ。
「例えば友達や子どもたちが死んでも?」
「うん、いちどだいじな人がしにそうになって1分だけもどしたら、ものすごいペナルティがかけられたの。そのあいだ、なんにもできない。もしてきのこうげきをうけてもね。
だから……うけいれるの。そのかわり、わたしはみんながしなないようにがんばる」
いのちだいじによ! とエリーちゃんは俺にくれた加護を確認していた。
悪魔と戦うってやっぱつらいんだろうな。
ダンジョンは初級らしく、モンスターも弱く1体しか出なかった。アルのスパルタで日々何十体もモンスター狩りをさせられている俺にとっては楽勝だ。
エリーちゃんはそれで落ちたドロップ品(ほとんど魔石だ)を拾って、俺の背負子の箱に放り込む。
「なんか、手ごたえがなさすぎる」
「今日は特に弱く設定してあるんだ。高等部から入ったばかりの生徒のためにね。
エリー、ちょっとポケットに入っていてくれるかな。これから飛ばしていく」
「わかったー」
エリーちゃんは小さくなってアルの胸ポケットの中に入ってしまった。
彼がエリーちゃんをポケット越しに優しくトントン叩くと、そのうち彼女は眠ってしまった。これがトントンスキルか。俺もポメの時これで眠らされたのだ。
アルは彼女が眠ったことを確認すると、俺に振り返った。
「ここからは飛ばしていく。目標はアイリスたちに追いつくこと。ドロップや取りこぼした敵は僕が始末する」
「了解。でもなんで?」
「彼女に話がある。だが人前でない方がよかったから先ほどでは無理だった」
それはエリーちゃんもってことか。つまり嫌な話をするってことだな。
「カイルやプラムちゃんはいいのか?」
「彼らは関係者だからね」
俺たちは身体強化して先を急いだ。俺がモンスターを倒すと、アルが魔法でドロップを拾っていく。数が2体に増えても動きが遅いのでさほど問題ではない。
そうして走って行くと10分ほどして、カイルのパーティーに追いついた。
彼らも俺らと同じように身体強化して進んでいたようで、俺たちが追いついたことに驚いていた。
「アイリス=ウォルフォード嬢、少し話がある。ブヒッ」
真面目な顔をしているのに、設定通り鼻息を鳴らした。これはカイルを油断させるためなんだろうか。
アイリスが答える前にヤツが粗野に答えた。
「こっちはおめーなんかに話はねぇんだよ!」
「君には用はない、ブヒッ。 済めばすぐ君たちから離れる。こちらも君らと親しくするつもりはないからな。ブヒッ」
カイルがギリギリと敵意を露わにしたが、アイリスがそれを止めた。
「なにかしら? 手短にお願い」
「僕と結婚したくないなら、自分に借金返済の能力があることを父に示すんだ。ブヒッ」
「はぁ? それどういう意味?」
「君の家から今のところ1ルーンも返済されていない。君の両親は君が僕と結婚することで借金から逃れようとしている、ブヒッ」
それを聞いてアイリスは真っ青な顔色になった。
「そんな! わたくしはこれまで冒険者で稼いだ報酬を返済してきたわ」
「それのほとんどがカルミア夫人の宝石やドレス代に消えたと思われる。ブヒッ」
「お前の親父がネコババしたんだろ!」
アルはあざけるように、鼻でせせら笑った。
「愚かだな。この借金返済は王命なんだ。返済には王の指定した管財人の立ち合いの元でないとできない。だからウォルフォード嬢も父親であるウォルフォード伯爵に返済を託したのだ、ブヒッ」
「カイル、彼の言う通りよ」
「僕は9月末に成人する。そしてウォルフォード伯爵位は僕のものになる、ブヒッ。このままではウォルフォード嬢は僕と結婚しないと貴族籍を失う。だから父に返済能力があることを示さねば、この学園を退学になり娼館へ行くことになる。ブヒッ」
「そんな! 平民として通えばいいはずよ」
「いいや、父はカルミア夫人への復讐を1日たりとも忘れたことがない。だから君も娼館に送るつもりだし、契約もそうなっているブヒッ。無実の罪で娼館に売られた僕の祖母と叔母のようにね。もうその娼館の選定もすんでいる、ブヒッ。あまり高級な所ではなく、底辺の病気が蔓延しているようなところだ、ブヒッ」
「それは何かの間違いだってお母様が! あなたのお父様が嘘の報告をしたって‼」
「父が君の祖父たちの不正を暴いたとき、お得意様である他国の王族の後ろ盾を得てきたんだ。だから国王陛下も無視できず、国の調査が入ったのだブヒッ。そしてそれが正しいとされた。契約変更できるのは父だけだが、ウォルフォード嬢に有用性があると示せれば変更してもらえる可能性が高い、ブヒッ。父だって何もしていない君を娼婦にして入るはした金より、全額が返ってくる方がいいからな。ブヒッ」
「わたくしは剣聖なのよ!」
「まだそれらしい成果を上げていない、ブヒッ。これから君が堕落してその称号を失うこともありうる。君はその証明をしなくてはならないのだ、ブヒッ」
そう言われてアイリスも黙ってしまった。まだ学生で遠征に行くことはできない。
まぁ北部に行けば、自動的に兵士として扱われるからいくらでも成果をあげられるけどな。
それを言った方がいいのかな?
すると激高したカイルが剣を抜いて、とんでもないことを言い出した。
「アイリス、ここでこいつらを殺そう!」
「カイル、何を言っているの⁈」
「こいつが爵位継承前に死ねばいいんだ」
「馬鹿か? 僕が継承する代わりに、父が継承するだけだ。ブヒッ」
これだけの人の前でよくそんなこと言えるな。
このカイルの中の人はマジ危険だ。普通借金返済できないからって、こんな唐突に人殺しなんかしないだろ!
ホント、考えなしとしか思えない。
やっぱりこいつが俺をこの世界に連れて来た張本人なのか?
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