第18話 中間テスト
今日は学園最初の中間テストだ。
この学校は魔法を学び、それを社会に生かすことを目的としている。
1に魔法、2に魔法である。あとは3,4がなくて5に教養だ。
その教養だって魔法のためのものだ。魔法書を読むために難しい古文や精霊語を覚える。文官になるための詩歌、音楽、絵画だって、自分だけの詠唱文を作る、精霊に好まれるよう歌うように詠唱する、すばやく魔法陣を描くためである。
すべて魔法のためである。
そしてその力量を図るために行うのが学校のダンジョン攻略である。本物にそっくりの疑似ダンジョンだ。
各自作ったパーティーで役割分担しながら助け合い攻略していく。時にはその役割分担を変更することも含まれる。自分はアタッカーだと信じて2年半やってきて芽の出なかった生徒がサポート側に回ったら飛躍的に成長したなんて話はざらにあるからだ。
それでウチのパーティーのメンバーである。俺とアルのたった2人だ。
でもアルはこれまでずっとソロで、エリーちゃんを召喚して済ませていたらしい。ゲームではモブキャラを脅して付けていたけど、誰かわからなくて頼まなかったんだって。
俺は魔法剣士なのでアタッカーだ。これは思い込みではなく、北部の実戦経験で色々やってみてわかったことだ。前準備や簡単な料理や応急手当くらいならできるが、細かいサポートには適していない。俊敏性は高いので斥候はできる。
そして今回、俺はアルの手下と言うことで荷物持ちをする。大きな背負子を背負っているが実際はとても軽い。
戦闘服もアルからの支給品だ。貴族の従者としてふさわしいものでないといけないらしい。
なぜか襟にテントウ虫のバッチがつけられた。はぐれた時の発信機なのだそうだ。もうちょっと普通のボタンにしてくれたらいいのにと思ったら、エリーちゃん製なのでかわいくなってしまうのだそうだ。
「ご希望ならポメラニアンブローチになるが、どっちがいい?」
……そうなるとテントウ虫の方がまだましか。
アルは社会的にも認められた国家魔法士であり、火水風土と精霊を呼ぶ召喚魔法が使える。もしかしたら他の魔法も使える。
だけど表向きには彼が召喚した精霊(と思われている)エリーちゃんが出来ることが専門だ。アルフォンスが魔力太りのせいで運動が得意でないと思われているのもある。もし前線に送られてもサポートが基本になると思う。
だが実際にはオールマイティータイプだ。ぶっちゃけ何でもできる。
俺は冒険者活動でないときは彼に剣の稽古を受けているが、全く歯が立たない。美形で魔法も一流、剣も一流なんて、やっかみしか起こらない。
俺がそう言うと、
「女神の守護騎士だからね。チートなのさ」
重い使命もあるのはわかっているけど、やっぱずるいと思う。
エリーちゃんは完全なサポートタイプだ。回復魔法も、付与魔法も、錬金術も、魔法陣も何でもござれだそうだ。出来るそうだがあまり戦闘は行わない。今の3歳児でもちょっと本気の攻撃魔法なんて撃ったら大陸1つぐらいなくなるという。
神というのはざらではないのだ。
そして彼女の代わりに誰が攻撃するかと言うとモカ、ミランダ、モリー、ルシィの彼女の子どもたちである。彼らが倒すのはもっぱらシステム上で出来た敵だ。彼女たちは魂のある存在は狙わないのだ。
聞いてびっくりしたけど、神は世界を運営するためにゲームのようなシステムを使うことがあるらしい。
つまりカーライル社やソルダム社などにいるシャーマンたちが作り出したゲームは、実際の世界を模している。ゲームが先ではなく、世界が先なのだ。
一体何のためにそんなシステムが必要なのかと聞くと、魔法を使うには魔素と言うものが必要なのだがそれをヒト族が使うには多くの無駄が発生するのだそうだ。その無駄をモンスターという形で解消しているのだという。
ダンジョンが出来たのは最初自然発生に任せていたら至る所に出て、思ったよりも死亡者が出た。それで場所を限定することにしたのだそうだ。
だから魔法が使えない世界では余剰魔素が少ないのでモンスターがほとんどいない。魔素そのものがないわけではないので全然いないわけではない。ただ多くの人間が感知できなくなっているだけだ。だがたまに感知するヒトがいてそれは霊感があるとか、勘が鋭いとか言われているのだ。
というわけでこの世界のダンジョンに出てくるモンスターは魂のないシステムが作り出した余剰魔素の解消のためなのだ。
エリーちゃんが前に魔王を気にせず倒していいと言ったのは魂のない存在だからだ。
俺にそんなことを教えてもいいのかと聞くと、アルはニヤリと笑った。
「冷たい言い方をするけど、知っているからと言って君に何が出来るの? せいぜい友達に話して中二病って言われるぐらいじゃないかな? あるいはスピリチュアルに凝り始めたとか、ああシャーマンには小説の題材にするタイプもある。そういう小説を書くぐらいはできるかな」
そうか、それを証明する手段を持たないから誰も信じない=話しても問題ない、になるのか。
ダンジョンに入る順番は成績順だ。つまりAクラスの成績同率1位だが伯爵令嬢で身分の高いアイリスになる。つまりカイルとプラムちゃんのパーティーが最初に入る。
その次に入るのが同率1位のアルフォンス=レッドグレイブになる、俺たちのパーティーだ。
だから嫌だけど顔を合わせることになった。
向こうも俺たちのことが気に入らないようだが、エリーちゃんはアイリスにあえてパァッと明るい笑顔になった。
「アイリスさま、今日はリアンがにもつもちしてくれるので、ごはんごうかなんです。よかったらいっしょにたべませんか? カイルさんとプラムさんもごいっしょにどうぞ」
「ハン! 何でこんなけったくそ悪い顔を見ながら飯食わなきゃなんねーんだよ。大体お前のせいでエリカがいないんだ!」
エリーは困ったように、でもはっきり言った。
「わたしもお兄さまもエリカさんのことをしらないです。そんなに会いたいならカイルさんがしょーかんしたらいいです。アイリスさまがみとめたんだから、すごいまほうしなんでしょう?」
するとカイルはカッと怒りの目でこちらを睨みつけた。ゲームで彼は勇者になる。だけど優れた魔法剣士になるけど、精霊召喚はできないのだ。
できるキャラは限られていて、アルフォンスとあと2人だけだ。その1人がチェリーだが勇者編で彼女が命がけで召喚し、成功するも彼女は死ぬ。それは魔王との決戦でみんなを助けるためだ。だけどそれはチェリーが他のキャラより弱い設定だからで、彼女がパーティーにおらず強いキャラで固めていれば起こらないことだ。
「エリー、1番目が行かないと次が行けない。みんなが迷惑するブヒッ」
「ごめんなさい……」
アルが注意してエリーちゃんが引いたので、その場は一応治まった。
けどアイリスはなんであんなカイルが好きなんだろう? 彼女という恋人がいながら、他の女の心配をしているのだ。いやきっと蓼食う虫も好き好きってやつなんだろう。エリカのことも助けないといけないって言ったそうだから、優しいと思っているのかもしれない。
「ウォルフォード様、と同行者の方々、どうか出発なさってください」
俺も従者として勧めると彼女たちは先に進んだ。




