第15話 アイリスからの誘い
今日は騎士科の実技の授業だ。
カイルとプラムちゃんは普通科、アルは魔法士科で一緒なのはアイリスだけだ。
彼女は青紫色の髪に琥珀色の瞳の、巨乳の母親と違ってスレンダー美女だ。父方の血なのかな?
剣聖の称号持ちでヒロインの中でも別格に強い。
そして実は俺も強い。今のクラスで彼女と打ち合えるのは俺だけなのだ。
なぜならリアンはカイルの友達キャラで、ヒロインの1人で、彼を成長させるライバルとして翻弄する立場でもあるからだ。
このゲームは全年齢型なのでNTRや裏切りなんかはない。
だから何でカイルを翻弄するかと言うと、強さや成績なのだ。
最初はリアンの方が圧倒的に強いが、だんだん近づいていく。だがなかなかカイルはリアンを乗り越えられない。共に戦う中で成長して、カイルは強くなるのだ。
そのついでにリアンは彼に恋をする(←やっぱこのくだり、いらねぇ)。
すでに俺はカイルと決別しているので、そうなることはない。
「やるわね、リアン=マクドナルド」
「剣聖であるウォルフォード様にお褒めいただき光栄です」
俺が強いのはリアンの父親が所属する北方騎士団が立地的に魔王城に近く、最前線で戦う猛者ぞろいだからだ。
あの地の出身者はみなカトラリーを握れるようになったと同時に魔族と戦うことを教えられ、子どもであっても兵士と見なされている。こう言っては何だが他の地域と心構えが違うのだ。
リアンは見た目が女みたいだから結構下に見られて、油断されやすいと言うのもある。
だが小柄で細身と言うことはそれだけ機動性俊敏性に富んでいるのだし、身体強化などで弱みを補う術も心得ている。実際の戦闘経験が何度もあるので、のほほんと学園で過ごしている学生とは一線を画している。
このリアンの身体能力のおかげで俺もアルと行くレベル上げについて行けるのだ。
「やっぱりあなたをパーティーメンバーに加えるべきだったわ。
あの時はごめんなさい。
どう? 今からでも来ない?」
「お誘いは嬉しいですが、すでにメンバーは決まっているのでしょう?
俺はレッドグレイブ様と学園での従者契約を結んでおりますので、申し訳ございませんがご一緒できかねます」
「そうなの……残念だわ。
実は決まっていると言ってもカイルの頭の中だけなのよね。あんな奴と組ませて悪かったと思っているのよ。テンペスト卿のところならそんなに悪いと思わなかったから」
「……俺は母親に似て女顔です。それで馬鹿にするやつは少なくありませんでした。俺を女みたいに扱おうとするヤツもです。テンペスト様のご事情を聴いてなおさらご一緒できないと思いました」
王都近郊に領地がある世間知らずのアイリスはよくわからないみたいな顔をしたが、リアンはよく知っていた。
最前線では女性の数が圧倒的に少なく、女性や子どもを襲うことは重犯罪になる。だから弱い男が女の代用品になることもある。戦闘で狂った熱を抑えるには人肌が良いと言われているからだ。
だがリアンも俺もそれに志願しようとは思わない。
実はそういう誘いを受けるので、二度と戻らないと中央の魔法学園に来たのだ。
リアンは火と風の魔法が使えて、同年代ではかなり強い方だ。でもさすがに1対1ならともかく、大多数に襲われたら逃れられない。
それで魔法能力の向上を理由に逃げてきたのだ。
だからリアンはものすごく同性愛的な行為を嫌っている。子どもの頃から女顔を囃されて嫌な目に遭っているからだ。いやだからこそ心血を注いで訓練してきたと言っていい。
たとえカイルに心酔しても、ヒロインや男の娘になるはずがない。
しかも彼は女性が大好きなのだ。
あまりにも可愛すぎるがゆえに最前線にいる女性陣のアイドル的存在で、すでに手ほどきも受けていて何人も女性経験があるのだ。
憑依したおかげでリアンのそういう経験の知識だけが飛び込んできた。俺は同じ年でもまだ童貞なのに……グスン。
「でもアイツ横暴でしょう? こき使われて辛いんじゃない?」
「最前線の生活になれていたらこの程度屁でも、いえ失礼しました。問題ではありません。北部では女子どもがいるところでも魔族の襲撃がありますから。ひとりでも生きて行けるようになんでもやらされるんですよ」
「……そう」
「それより失礼ですがカイル君とはどちらで知り合われたのですか?
彼は南部の農家の出と聞いていますので、ウォルフォード様とは接する機会はなかったと思われますが」
「ええ、わたくしがレッドグレイブ男爵領に行ったときに、彼に助けてもらったの」
ああ、アイリスがアルフォンスと婚約した時だな。でもレッドグレイブ男爵領は南西部だけど。ぎりぎり南部になるのか?
「そうだったのですね。でしたらこの学園で再会出来てさぞ喜ばしいことでしょう」
「えっ? ええそうね」
あれ? 再会が嬉しくなかった? いや入学より前から会ってたってことか。
俺もざっと公式情報を読んだのをリアンの知識で補完しているだけで、アイリスの事はあまりよく知らない。
それでも彼女の重要性はわかる。
ぶっちゃけリアンとリリーとチェリーはいなくてもいいけど、聖女になるプラムちゃんと剣聖アイリスは手元に残しておかないと今後のダンジョン攻略にも差し障る。ギャルゲーの方もリリーへ紹介してくれるのはアイリスだ。
俺でも押さえに行くな。
「レッドグレイブ様だけでなく、同僚もいるのですよ。エリーと言うせい霊です。優しくて料理上手なとてもいい子なんです」
ついでに俺の里親だそうです。可愛すぎるポメのおかげです。
「ええ、エリーはいい子よ。なんであんな奴にくっついているのか意味が分からないけど」
ああ、この人はアルフォンスがアルになったことを知らないんだな。もうほんと別人だから。ちゃんと向き合って話せば絶対わかるのにな。
「ねぇ、カイルから聞いてって言われたんだけど、アイツの所にエリカってメイドは本当にいないの? その人も召喚精霊みたいなんだけど」
「いませんね。それにエリーはクー・シーの中でも結構高位らしいので、レッドグレイブ様も他に召喚できないそうです」
もちろん嘘だ。できるけどしないだけです。だって召喚したら女神であるエリーちゃんに恭順を示してしまうからな。世界に影響を与えないためにエリーちゃんはこの世界で従魔契約をしないつもりなのだ。
それだけあの里親宣言は特別なことなのだ。なんだか迷惑かけて悪いけど。
「そうなの。困ったわ。カイルが彼女は絶対に助けないといけないって言うものだから、他のメンバーを増やせなくて」
「せい霊であるエリーが嘘を言うとは思えません。メイドなら斡旋所のようなところを当たってみたらどうでしょうか? ああ、でも召喚精霊がそんなところにいる訳ないですね」
エリーちゃんもそうだけど、普通精霊あるいは聖霊を召喚してメイドにするなんてアルフォンスとアルくらいだよ。
しかも出しっぱなしできるというのもすごい魔力量だと思う。アルフォンス=レッドグレイブは召喚の維持に魔力を使っていても、容姿がゆがむほどの魔力量なのだ。
精霊を呼びだし操れるなんて、普通の魔法士とは一線を画した力だ。
リアンも北方で火の精霊を召喚できる魔法士に会ったことがある。精霊を呼んで1発攻撃を打つだけで魔族を蹴散らしていたが、それだけで肩で息をしていた。2発目で昏倒だ。
カイルはそんな魔法士より強くなるのか……。中身は犯罪を厭わない箍の外れた人物なだけに注意が必要だな。
お読みいただきありがとうございます。




