表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
14/72

第14話 確執の理由


「あ、悪魔って? サタンとか、メフィストフェレスとか? あの魂を売り買いする?」


「メフィストフェレスはしんせきだよ。エリーのこどものかぞくなの」


「上位魔族に性別はないがとりあえず彼らと言うことにする。

 彼らは悪魔ではなく魔族だ。あまりに強い力と魅力があったせいで混同されているだけだ。

 悪魔とはもっとひたすらに力に飢えた存在さ。知恵のあるブラックホールのようなものをイメージしてくれ。

 あれらは自分の力を強めるためには、犠牲者に力を与えて肥え太らせる。

 だからね、魂を買いはするけど、売ったりしないんだよ。


 みんな知らないだけで、実は異世界転生はごくありふれたことなんだ。

 だけど前世の記憶を残してとか、チート能力を与えられてとか、勇者として異世界へ転移するとかは、悪魔が自分の力を増強するために行っていることが多い」


「えっ? いい方の勇者召喚も?」


 本当に困って勇者召喚するケースだってあるんじゃねーの?

 俺はそう思ったが、アルはそれを否定した。



「だいたい自分たちの世界で大きな問題が起これば、その世界の管理者である神が収めるんだ。なのになぜ外の世界から呼ばなければならない?

 そこの管理者が力を失っているか、悪魔が内密に人間と手を組んで行っている可能性が高い。

 よく考えてみてくれ。

 君は今魔力を持っているが、頑張れば異世界にいる者を呼び出すことが出来ると思うかい? たとえ君が何千何万人集まっても、世界の異なる向こう側の人間と話をすることもできないだろう。

 つまり異世界から誰かを呼び寄せると言うのはそれ以上の莫大な魔力と、世界に介入できる権利が必要なんだ」


「権利」


「そう、異世界間をつなぐことのできる権利、神と呼ばれる管理者かそれに準ずるものだけが持つものだ。そして悪魔はその権利を不正利用して自分の力を蓄えているのだ。

 エリーが異世界のカーライル社と連絡が取れるのも、彼女が神だからさ」


 そんな悪魔に俺は狙われちまったってこと? なんで?


「まだ情報が少ないからわからない。

 ただ不正プレイヤーであるカイルの中の人は、君の名で呼びかけた時に恐怖を覚えた顔をしていた。僕はそれを見て本人か、君のことを知っているのだと思った。

 君に思い当たる人物はいないか?」


「わからないよ。俺はただの中学生だし……犯罪者と知り合う機会なんてないよ」


「そうだな、すまない。でも何か思い出したら、まず僕かエリーに話して欲しい。

 それと、焦ってカイルに突進しないでくれ。

 彼は非常に小心者の臆病な人間だが、そういう人物は追い詰められると何をするかわからないからな。窮鼠猫を噛むって言うだろう?」


 俺は頷いた。相手は何千万もの大金を不正ソフトにつぎ込める、どこか歯止めの効かない人間だ。それにこの前、次に近づいたらボコボコにするとも言われている。



「あのさ、ちょっと頼みがあるんだ」


「頼み?」


「俺、それでもカイルの邪魔をしたい。それでチェリーを一緒のパーティーに引き入れたいんだ」


「チェリー・ウィンターか。Dクラスの魔法が使えない落ちこぼれだね」


「彼女、一緒に音楽の授業を受けている」


 そしてたぶんアルのファンでもある。だから追放されたらきっと入ってくれると思う。


「知っているけど、彼女はアルフォンス君の興味を引くような相手でないだろう?

 まだ魔法の才能に開花してないし、平民だし。開花しても能力が被っている。引き入れるメリットがあまりないな」


「ダメかぁ、カイルの魔の手に堕ちる女の子を減らしたいって思ったんだけどなぁ」


「ふむ、僕が前に出るのはダメだけど、エリーを近づけてみるか。彼女が仲良くできるなら引き入れてもいい」


「アイリスもなんとか引き込めねーの? 一応婚約者だろ?」


「彼女はダメだね。エリーが頑張ってくれたんだが親の洗脳を受けていて頑なでね。まぁそれだけ純粋だから、剣聖の称号が手に入ったのかもしれないけど」


「洗脳って穏やかじゃないな」


「それにはレッドグレイブ男爵と彼女の両親であるウォルフォード伯爵夫妻との因縁から始まっている。

 元々男爵は伯爵夫人となったカルミア・クレイトン子爵令嬢と婚約していたんだ。クレイトン子爵家は以前から大変な負債を抱えていて、男爵の力を借りて経済状況を立て直してもらったんだよ。

 だけど子爵家が盛り返した途端、カルミア嬢は男爵と結婚したくなくなった。幼馴染だったウォルフォード伯爵家の長男に嫁ぎたくなったんだ」



 そっからがヒデー話だった。

 身銭を切ってまで子爵家を立て直してくれた男爵に横領の罪を着せて、婚約破棄に踏み切ったのだ。でっち上げの証拠のおかげでレッドグレイブ男爵家は財産を没収の上取り潰し。男爵の父は鉱山奴隷に、母と妹は娼婦として売られ、彼も鉱山へ行かされるところだったが父に庇われて国外に逃げた。


 そこから男爵は復讐の鬼になった。

 まず偽名を名乗り少ない元手を使って優れた魔道具を作り、その売り上げである廃鉱山を買った。もちろん勝算があってのことで、誰も見つけられなかった魔法石がたくさん出てきたのだ。彼はこの手のことを何度も成功させ、巨万の富を得た。


 見つけられたのは不作が続くクレイトン子爵領でなんとか売り出せるものはないかと、彼が開発した魔力測定器があったのだ。それによって土地の魔力量に合わせたつくりやすい作物を中心に植え、子爵領は利益が上がっていたのだ。

 だが彼はその測定器のことをカルミアには話していなかった。

 そのころ彼女が男爵に冷たくなっていたからだ。そのおかげで測定器は奪われなかった。


 そして儲けたお金を使って、クレイトン子爵家が行っていた不正を調査し明るみにした。同時に自分が背負わされた冤罪を晴らしたのだ。

 クレイトン子爵家は取り潰し、子爵は鉱山奴隷に夫人は娼館に売り飛ばした。そんなことでは賠償できないほどの苦しみだったけれど。

 ただカルミアだけは伯爵夫人であり、剣聖の称号を持つ娘がいたことから追い落とせなかった。


 それから男爵は父母妹を買い戻そうとした。だがすでに父母は死去し、妹も病に臥せっていた。急いで引き取ったがしばらくして彼女も亡くなってしまった。

 彼は先に家族を買い戻せばよかったと後悔した。だが無実であることが判明する前にそれをすると彼自身の正体が明るみに出て捕らえられてしまう。それでは家族の生活と名誉を守れないと調査を先にしたのだ。



 レッドグレイブ男爵は復権したが、更なる復讐を誓ったのは間違いない。

 そしてその機会は3年前のハリケーンで得ることが出来たのだ。

 俺はひどいと思ったけど、アイリスの家族を鉱山や娼館へ行かせようとしたのは先に彼らがそうしていたからだった。

 復讐は何も生まないと言うけれど、自分の欲望のために人を陥れ、家族を最悪な形で離散させた上に、罰から逃れてのほほんと生きてきたカルミア夫人のことを思えば報いを与えたいと思ってもしょうがないだろう。


 このカルミア夫人、実はゲーム上で攻略ヒロインなんだよな。結構カルミアって可愛らしい花だし、アイリスの母親だけあってかなりの可愛い系巨乳美人なんだよ。

 勇者編になってヒロインたちと離れ離れになっているときに、カイルを支えるのが彼女だ。なぜかその頃には未亡人になっていて、彼を母のような愛で包み込むって話だ。熟女好き向けキャラだった。

 でもそのレッドグレイブ男爵とのいきさつを聞けば、かなりヤバい女のようだ。全年齢型ゲーム向きのヒロインに適していないことだけは確かだ。



 そんなわけで王の温情による婚約なんてレッドグレイブ男爵側にとっては屈辱的なことだし、アイリスの態度が悪くて婚約破棄になっても何の問題もない。

 アル自身もアルフォンスでないので将来結婚できないし、するつもりもない。


「ただエリーがとてもアイリスのことを気に入っていてね。姉として慕っているんだよ。僕としては無下に出来なくてちょっと困っているんだ」


 そんなわけでこの状況を静観して、彼女はカイルといるのが幸せだスタンスで行くつもりのようだ。それをいずれエリーちゃんに納得してもらうつもりらしい。

 彼にとっては何よりもエリーちゃんの気持ちが一番重要なようだ。



「アルはヒロインになる女の子たちが心配じゃないのか?」


「心配はないとは言い難いけど、僕らにとって重要なのは君を無事に帰すことと悪魔討伐だ。彼女たちは一応カイルの恋人候補なのだから、すぐに殺されることはないだろう? 

 それに僕たちは許可を得ているとはいえ、この世界のイレギュラーだ。できるだけ介入は最小にしたいんだ」


「目の前で犯罪者にいいように騙されていてもか?」


「エリーは神だけれど、この世界では3歳の姿でしか来られなかった。それぐらい弱い力でないと世界に与える影響は大きいんだ。

 この世界の神の座を持つ者は別の世界も管理している。しかもここに管理者を置いていない。下手を打つとエリーに管理権が移ってしまうかもしれない。それは避けたいんだ。だから必要のない行動はしない」


「世界が手に入ると、そんなにマズいのか?」


「エリーはすでにいくつもの世界を救いその中の一部の管理権を持っている。今のところは管理人を置いているがそれも永遠にはできない。

 普通に考えてくれ。1人でいくつもの会社を経営するにしても限度があるだろう?

 それと同じで、しかもそこにはたくさんの命がある。簡単には投げ出せない。

 エリーには悪魔討伐と言う責務もあるんだ。これ以上はダメだ」


 神様の世界もどうやら厳しいようだ。



「それなのに悪魔討伐より、俺を帰す方が優先順位が高いのか?」


「神言はたいてい達成されるが悪魔が絡むと必ずではなくなる。

 エリーは君の里親宣言をした。何があっても君を帰すと誓ったんだ。だから僕らも君を命がけで帰すよ。安心してくれていい」


 いやそんな命がけって! そりゃ帰りたいけれど‼

 俺はすでにアルやエリーちゃんに親しみを感じているし、モカに至っては友達だ。

 彼らを犠牲にしていいのか?

 里親って、そんな重いことだったのか⁈


「それだけ君のポメラニアン姿がかわいかったのさ。かわいいって罪だね」


 そう言ってアルはニヤリと笑った。

 何だと……理由はポメ化のせいなのか?

 ってか、からかったんだな! チクショー! 心配して損した。



お読みいただきありがとうございます。


カルミアは五角形の白やピンクのかわいい花で、花屋さんで売っていることもあります。

だけどあまりプレゼント向きではありません。

花言葉は『優美な女性』などいいものもありますが、悪いものは『裏切り』『野心』で植物全体に毒があるそうです。

可憐で美しいけど毒のある野心家、ウォルフォード伯爵夫人にぴったりな花です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ