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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第13話 女神


 授業が終わると俺はアルに連れられて、誰もいない教室に連れ込まれた。


「どうしたんだ? 庭に行くんだろ?」


「そうだが相手は精霊女王だ。この姿では行けない」


「でもエリーちゃんが招待されているんだから、しゃーねーじゃん」


「ダメだ。エリーの兄としての偽りの姿では行けない。

 ただ元の姿に戻しても、君と一緒にいると正体がバレてしまうかもしれない。

 だから君には姿替えをしてもらう」


 俺だって嘘つきたくねーけど?

 そう思った瞬間、アルは俺の手首に銀色の腕輪を嵌めた。


「君の安全は保障する。しばらくの間、我慢してくれ」


 何をするんだ? と抗議しようとしたが俺の声はキャンとしか言わなかった。

 気が付くと俺はみるみる内に小さくなってしまったのだ。


「おや、思ったより可愛らしくなってしまったね。さすがヒロイン枠。

 ポメラニアンの子犬かな。なかなかいい毛並みだね。きっとエリーは気に入ると思う。

 ほぅらよしよし、良い子にしているんだよ」


 いや、俺はヒロインじゃねーから! しかも何ポメ化してんだよ‼

 ふざけんな! さっさと戻せよぉと抗議したかったが絶妙な安定感で抱き上げられた。その上に背中をトントンと優しく叩かれるとものすごく眠くなって、そのまま意識が遠のいた。




 俺は夢を見ていた。

 なんてことのない日常だ。俺がゲームのし過ぎで寝坊して、母さんが片付かないからさっさと食べろとテーブルに朝食を並べてくれる。父さんはタブレットで新聞を読んでいる。

 いつも生体コンピュータの起動は家を出る直前にしているのだ。理由は寝ぼけているからだそうだ。それちゃんと読めてんのかよって、つい突っ込みたくなる。

 ちょっと前まで当たり前のことだったのに。



「なかなか起きないのですね」


「お兄さまのトントンスキルがすごすぎるの」


「トントンスキルとは?」


「僕は子育てを何度もしているので、小さい子を優しくトントンと叩くと寝かしつけられるのですよ。エリーも僕が育てましたしね」


「エリーもできるのよ」


「素敵ですわ。わたくしもたくさん子どもがいますけれど、あやしたり寝かしつけたりするのは風の精霊女王シルフィーナの役割ですから」


「なるほど、ゆりかごを揺らすようにですね」


 3人が機嫌よく笑っているようだ。


「おや、リアンのまぶたが震えている。そろそろ起きるんじゃないか?」


「ホントだ、フルフルしている。ああ、泣いているわ。

 やっぱりつらいよね」


 そしたら何かが俺の頬を突いた。


「あっダメよ、ルー」


 俺がまぶたを開けると、目の前にはドアップでキューキューと鳴く赤ちゃんセルキーのルシィと黒白のハチワレケット・シーのミランダがいた。

 どうやら俺の顔を突いていたのはルシィの前足のようだ。

 ちなみにモカは健康のため森へ狩猟に、モリーはモカが獲物を取りすぎないようにストッパーとして同行しているらしい。

 ミランダがエリーちゃんにミャーミャー鳴いている。


「わかったわ、ミラ。ほっとけないよね。


 リアン、いいえ川原亮平さん。わたし樹霊神ユグドラがあなたのさとおやになります。あなたがほんとうのおやのところにもどるまで。


 エリーのこと、ママってよんでいいよ」


 すると俺とエリーちゃんが光った。なんだこれは?

 


「しん言だよ」


「さとおやけいやく、せいりつね。ウチの子になってくれてありがとう」


 けいやく? 嫌って程じゃないけど、そんなのした覚えがないよ。


「家族から引き離された君の不安な気持ちがそれを認めたのだ」


 確かに不安だけども!


(リアンはとてもよわいの。ミラがまもってあげるの)


(リアンはルーのおとうとでちゅ。ルーもまもってあげるでちゅ)


「15さいときいていたけど、こころはこんなに小さな子犬だものね。

 ミラ、ルー、よくめんどうをみてあげてね」


 いや、ちょっと待って! 俺もう高校生だから‼ さすがに赤ちゃんセルキーの弟って‼

 抗議しようと声を出しても、キャンとしか言えない。

 クソっー、アル。恨むぞ。


 気持ちは慌てているのに、いつの間にか俺はエリーちゃんの膝の上で抱っこされていた。



 それにしてもここはどこだろう?

 見渡す限り花でいっぱいの庭園だ。

 手入れはされているけれど、庭木だけでなく雑草の花もたくさん咲いている。

 なんてきれいなんだ。


「ここは花の精霊女王フィオレンティーナの庭だよ。

 確かにすばらしくキレイな所だね」


「かおりもステキよ。招待してくれてありがとう、フィオ」


「女神であるユグドラ様とその兄君にお褒めいただき、生涯の誉れでございます」


 そう答えたのは淡い黄緑色の髪に、濃い緑のドレスを着た女性だった。長いウェービーヘアが地面すれすれまで伸びていて、髪にもドレスにもいたるところに花が飾られていて、花冠を被っている。

 いや飾りではなく、彼女自身から花が咲いているのだ。


 これが精霊女王か。ものすごくキレイだ。


「まぁ、ありがとう。あなたも可愛らしいわ」


 えっ、もしかして俺の心の声、聞こえてるの?


「うん、ぜんぶきこえてるよ」


 マジで? は、恥ずかしい……。


「そんなことないよ。家族にもう1度会えるかどうか心配なのは当然だよ」


 エリーちゃんだけでなく、アルにも聞こえているのか?


「ごめんね。君は今子犬で話が出来なくから、心話ができるようにしたんだ」



 それもショックだったが、もう1つ気になることもあった。


 さっきからエリーちゃんのことを樹霊神とか女神とか呼んでるけど、どういうこと?


「エリー、せーれーなの」


 だから精霊でしょ?


「いいや、聖霊だ。ほらキリスト教の聖句で、父と子と聖霊の御名においてって言うだろ。その聖霊。つまり神だ」


 エリーちゃんが神? こんな小さくて幼気な子が?

 ってことはさっきのしんごんは神言か?


「なんかね、えらばれちゃったの」


「僕は彼女の兄だから、彼女の守護騎士ガーディアンナイトになったんだ。だから異世界を移動してもそれに耐える肉体と能力を持っている。本来なら君を先に救出して安全を確保してから、不正ソフトの使用者を捕まえるつもりだったんだ。だけどなぜかアルフォンス君の代わりをすることで動けなくなってしまった。この世界を多少壊すつもりなら抜け出せるけどね」


「たぶん世界のほせい力なの」


 そういうものがあるなら、そうなんじゃないの?

 なぜ疑問があるんだ?


「でもそれは神がさだめたものじゃないから。

 とてもきけんなものなの」


「通常の世界なら死んだあるいは意識のない人間に憑依なんかしないし、成り代わりも強制されない、。君の周りでそういう憑依が行われていたか? あっても悪霊に取り憑かれたとか、宇宙人の侵略とか言われてなかったかい?」


 実際にそういうのを見たことがあるわけじゃないけど、確かに憑依と言うのは危険な何かが取り憑いたとされているな。


「つまり今この世界は悪魔の侵入を受けているんだ。

 そのきっかけとなったものが、例の不正ソフトだ」


「エリーたちはあくまのとうばつに来ているの」


「不正ソフトの探索は悪魔の探索だったんだ。君はその事件に巻き込まれている。つまり悪魔に狙われているんだよ」


 思ってもみないことを次々言われて、俺は呆然とするしかなかった。



お読みいただきありがとうございます。

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