第11話 友達は転生者
時がたつにつれて、俺はリアンの記憶をかなり読めるようになっていた。
彼の家は親父が騎士爵をもらっているが一代限りの家柄だ。受け継ぐ財産なんてものはほとんどない。
有利なことと言えば、平民よりは将来のための勉強をさせてもらえたことくらいかな。出身の北部は魔王城が近く、危険な地域なので早くから訓練される。だからは火魔法も風魔法も使えるし、剣もずっと子どもの頃から学んでいる。
ただヒロインでもあるせいか、背が低い。
15歳で160ないってどういうこと? って言いたくなる。
アルなんかは、190以上あるぞ。
リアン本人も気にしていたらしく、勉学の方もおろそかにしていなかった。
人手が不足する北部とは違って、中央では見た目も気にされる。
彼は騎士科を専攻していたが体格で雇ってもらえないことも考えて、文官として仕官することも考えていたようだ。
彼は絶対に北部には帰らないと心に誓っていた。
冒険者はどこにも仕事が見つからなかったときのホントに最終手段らしく、まだ登録していなかった。
リアン本人は死んだのかもしれないけど、意識不明かもってアルは言っていた。
俺は憑依になるらしいので、俺がさぼりまくって元の世界に帰ったら本物のリアンの意識が戻ったら路頭に迷ってしまう。
だから将来のために努力を怠ってはいけないと言われた。
もし帰れなければ、俺の人生になるかもしれないし。手を抜くわけに行かなかった。
そんなわけで騎士科では取る必要のない、芸術(音楽・絵画・詩歌)を一つ学ぶことにした。文官には必要らしい。
詩歌は論外だ。作れる気がしない。
絵画を描いてアルとエリーちゃんに見せたら、2人ともしばらく黙っていた。
「……えーと。これはロズウェル事件か、何かかな?」
「親子が散歩してるところだよ!」
「お兄さま、すごい。エリー、なにかのきごうかとおもった」
そう言った後、失言だったとエリーちゃんが口を押えていた。
「ごめんなさい……」
謝られた方がきついわ……。
するとこぐまのモカに後ろから肩を叩かれて、『がはく』と書いた紙をもらった。
「がはく?」
エリーちゃんが不思議そうに聞く。
「ああ、聞いたことがある。日本ではとても奇妙な絵を描くヒトのことを画伯と言うそうだよ」
そうだけども! ってかこいつら詳しいな!
そう思ってふと疑問を感じた。
「アルはともかくモカはどうして知ってるんだ?」
「ああ、そうだね。君はパーティーメンバーだし、沈黙を解除しようか」
アルはモカを抱っこして「解除」とつぶやいた。
すると彼女の体が輝いて、口を開いた。
「ぷはー、やっと喋れる~。もう伯父様は心配性なんだから。あたしだって喋らないようにできるんだからね」
「却下。それを信じて2回失敗したよね? そのたびに喋るこぐまを寄こせとエリーが襲われたよね?」
「3度目の正直だから!」
「二度あることは三度ある」
アルはエリーちゃんの兄で、モカはエリーちゃんの子どもだから、伯父でいいのか。
ゲームでは喋る動物型キャラはたくさんいるので、一人と一匹の争いの意味がわからなかったが、この世界ではドラゴンのような高位の存在でないと動物の姿のまま話せないらしい。
「この世界は基本的にテイムもできない。召喚できるのは精霊だけだ。ゲームのエリカは獣人タイプの精霊だったんだろうね。彼女を呼べたアルフォンス君は本当に才能ある少年だったんだよ」
「じゃあ、みんなのことはどう言い訳してんのさ?」
「せい霊であるエリーの従魔ということにしている。実際そうだし」
「リアン、よろしくね。あたしモカ。歌って踊れる神獣様よ」
キャッキャウフフとご機嫌で踊っている姿はかわいいけど全く神々しくないです。小さい女の子が抱いているぬいぐるみみたいだ。
「それからあたし転生者なの。日本人よ。向こうでは中2だったわ。事故でね。死んじゃったの」
「あっ……、ごめん」
「いいのよ。ずっと前だし、今はみんなといられて幸せだから」
「だからガルビーとか知ってたんだね」
「ウチのお兄ちゃんがポテチを袋ごと口によく流し込んでいたから。男の子にはコレねって思ったの」
うん、間違ってはいない。
でもたぶんそれ、デカいままじゃなくだいぶん細かくなったヤツだと思う。
「モカは好きなアニメとかある? マンガでもいいけど」
「うーん、いっぱいあったはずなんだけど細かい作品名とか思い出せないんだよね。
誰でも知ってる耳をかじられて青ざめたネコ型ロボットとか、お腹がすいたら頭を取って食べさせてくれるヒーローとかはすぐに言えるんだけど」
「そっかー、転生すると全部覚えてないってラノベにもあるしね」
「リアンはこの世界を元にしたゲームで推しとかいる訳?」
「まだプレイしてなかったからなー。でもすもも様のファンだからプラムちゃんかな。ほらいつもカイルの側にいるオレンジピンク髪の女の子」
「ああ、あの子ね。うん、確かにかわいい。でもあたしはもちろん、エリーも喋ったことないんだ。一度カイルってヤツに近づいたら、アイツエリーの事バグ呼ばわりして蹴とばしたのよ。許せない!」
「本物のカイルは心の優しい正義感あふれる人物なんだ。でも今の中のヒトは犯罪者だ。もうモカもエリーちゃんも近寄ったらダメだよ」
「うん、今度エリーにひどい事したら、あたしアイツの土手っ腹に穴開けちゃいそうなんだよね。こぶしで。でも犯罪熊になりたくないし」
何それ、ちょっと怖い。
「モカって武闘派なのか?」
「お兄ちゃんがいろんな武道やってて、あたしもちょっとかじってるんだ。専門はフィギュアスケートとバレエなんだけどね。オンライン格ゲーで日本のランキングだけど100位以内に入ったことあるんだよ。すごいでしょ」
「ええっ、それめちゃくちゃスゲーじゃん」
「でもお兄ちゃんは初めてやったのにTOP10に入っちゃって世界目指しませんか? って電話かかってきたんだよね。リアルチートなの」
そ、それは……せっかく誇れることなのに、なんかちょっと辛い感じ……。
「ああいうのってどうやって調べてくるんだろうね? 電話番号」
「わかんねー」
前世の話だから慰めるのも変だよな。
このゲームについても、プレイしたことはないものの色々詳しく知っていた。
「あたしね、リアンの男の娘設定いらないと思うのよね」
「うん、俺もそう思う」
「だってさ、女の子の真似をしないと愛されないって、ちょっと腐女子界隈わかってないって感じなのよね」
うん?
「最初から女の子になりたかった、女装が好きでそれを隠してたってならともかくよ。おんなじ性別に生まれてしまったけど愛してしまった。その葛藤が女装に走ったことでごまかされてるっていうか、そういうのがなくても妄想できるのが楽しいのにさ。付き合い始めてから恥ずかしいけど着てみたとかならかわいいけど」
好きな男のために羞恥心に悶えながらの女装はOKらしい。よくわからん。
「えーっと、もしかしてモカって腐女子さん?」
「あっ、リアン。心配しないで。あたしリアルの知り合いには興味ないから。知り合いでも親しくなかったら妄想できるけど」
「そうなんだ」
「一番最悪だったのがね、ずーっと最推しカプとして推してたキャラがさぁ、中身が伯父様だったと知ったときよ。まじスンってなるから」
はっきりとは教えてくれなかったが別の依頼でそういうことがあったみたいだ。
「リアンだって、プラムちゃんの中身がお母さんだとわかったら引かない?」
「ああ、それはちょっと、いやかなりヤダ」
思ってもいない腐女子さんとの出会いだったが、無理にくっつけようとするんじゃないならいいや。
ちょっと特殊だったけど、なんて事ないことが話せて楽しい!
アルとエリーちゃんは外国人で、こういう会話はできないからな。
モカと友達になれたことで、俺の心はずいぶんと和らいだのだった。
お読みいただきありがとうございます。
腐女子界隈の話はあくまでモカが考えるものであり、個人の嗜好は自由だと思います。




