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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第十七章  新婚生活
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ヴァンパイアとの共存

 その後も根気よく教育を続けていくと、肉体言語ならある程度覚えてくれる事がわかった。ただ、ゴブリンは僕の胸より下くらいの身長しかない為、手を上げた時にびくびくと怯えたようになる姿を見ると、子供を虐待している親のように思えてしまい、こっちが精神的に辛くなった。まあこんなのでも、自分より弱いから言えることで、一般市民なら殺されたりする凶悪なモンスターだよね。

 女性ならもっと酷い目に会うって小説などでは描かれているか。それはオークだったか? ゴブリンは殺されるだけだったかな? まあこっちの世界では聞かない話だけれどね・・・・・・そもそもが遺伝子が違うのに子供ができるっていうのがファンタジー過ぎるな。

 まあとにかく殴って言う事を聞かせるのは罪悪感があるので、しばらくは餌で釣ったりいろいろ試しながら教育していると、たまたまだけれど魔王軍の生き残りではなく眷属として創り出し、そのまま成長させた時に必殺技のようなものを覚えないかと考えていた眷属が一緒にいたら、連中が襲って来なかった事実を確認する事ができた。

 そこで試しに何度か眷族と行動してみたり、レイシアや兵士の隣に眷族を配置して歩かせてみたりすると、じっと見詰めて来るだけで襲い掛かって来なかった事から、事態は急展開を迎えるようになった。

 どうやら上位者が人間と仲良くしている姿を見せれば、襲わないようになる可能性が出て来たのだ。

 以前ならば眷族を創り出して指導者にするところなのだけれど、今の僕には眷属が作れない為に上位者を召喚することで対応することにする。

 「召喚、ハーピークイーン。召喚、ミノタウロスキング。召喚、トロールキング。召喚、サイクロップスリーダー」

 何でか、サイクロップスには王様みたいな者がいなくて、集団のリーダーならいるみたいだった。

 どうやらせいぜい少数で群れるくらいで十分って感じだったようだな。まあ、サイクロップスクラスの敵が群れていたら上級冒険者でも逃げるだろうけれどね。


 さて、これでゴブリン達は何とかなりそうだけれど、次は頭のいい連中だな。特にヴァンパイアは半端にプライドとエリート意識が高くて人間との共存は難しそうだ。

 そこでまずはヴァンパイアという種族についての情報を集めようと思う。

 一応共存に賛成して、早速この町に馴染んだヴァンパイアがいるので彼らから情報を集めてみると、いろいろとわかったことがある。

 まずは十字架、あれは何の意味もなく触ってもらってもこれが何って顔をされた。そして銀についても触ったからといって焼けたりとか鳥肌が立つといった現象も全然しないようだったな。聖水については効果が有るようだったけれど、それはアンデットであれば仕方がないそうだ。

 日の光は眩しくて苦手であるようで、能力が下がる感じかな? まあ夜は逆に能力が上がる感じだろう。日の光は苦手なだけであって、別に日光で灰になったりはしないみたいだな。

 後はにんにく・・・・・・特に問題ないという話だったので、試しに日本で仕入れたにんにくを栽培したものを収穫して、ガーリックライスを作ってみたら美味しいと言って一杯食べていた・・・・・・

 まあ、多少嗅覚は鋭いらしく、にんにくの匂いが臭いって騒いでいたけれどね。ただそれだけだった。

 後は吸血に関しては、血であるのなら人間でなくても動物でもいいのだそうだ。ただ、臨時でないのなら不味いので遠慮したいという話で、やっぱり人間で若い女性の血が好まれるのだそうだ。男性の場合は子供ならいいのだが、青年まで行くと癖があるらしいので、そっちも緊急の時じゃなければいらないと言われた。

 後は血を吸うと眷族になるという話は事実で、吸血によって死亡した場合一定の確率でヴァンパイア化するのだそうだ。ここでヴァンパイアにならない時はレッサーヴァンパイアとなるらしい。ほぼゾンビだな。ただ、ちょっと噛み付かれて血を吸われた程度ではヴァンパイアにはならないのだそうだ。ここもよく聞くヴァンパイアの特徴と違っていたところだね。

 吸血によってヴァンパイアになった者は、眷族として主の命令に逆らえなくなるのは日本に伝わっているヴァンパイアと同じみたいだ。たまにヴァンパイア同士で噛み付き合えば、支配できるとかあるみたいだけれどそういう事はないそうだ。

 視線による魅了とかそういうものも無いようだった。


 聞き出せた情報を吟味していて一つ思い付いた事があった。

 ヴァンパイアは若い人間の血を好むという部分だが、丁度最近起きた出来事で、不老不死を望んでいた貴族や王族などに心当たりがあった。今は高齢者だが望み通り若返らせて、不老不死にしてやれればヴァンパイアとの交渉が上手くまとまるかもしれない。

 早速ロップソンの魔道具を調べてそれを改良した魔道具を開発することにする。わざわざ永遠の命と若さを与えてあげるのだから喜んでもらおうか。そして自分達のやった犯罪の罰を受けてもらおう。幸の支援にもなって良い事尽くしだな~

 魔道具の方は改良するだけなので、構造が理解できればそこまで大変ではなく結構直ぐに作れた。

 後は幸達に襲いかかって来た貴族や王族の情報を調べて、連れて来れば準備は完成ってところだな。交渉が上手く行くかどうかはなんとも言えないけれど、少なくとも無駄にはならないと思う。

 という訳で早速転移して生贄となる貴族と王族を連れて来ることにした。

 「誰・・・・・・だ・・・・・・」「何・・・・・・者・・・・・・」

 転移でいきなり現れ、一瞬で監獄へと連れて来られた生贄は、ろくに抵抗する事無く捕獲されて呆然としていた。おそらく護衛達も何が起こったのかわかっていないだろうな。今回ここに招待した者は全部で五人。

 まあこいつらの事情は置いておくとして、さっそくこの者達を一定年齢まで若返らせて不老不死の魔道具を埋め込むことにしよう。まずはほんとに不老不死にできるものなのかどうかを、試してみなければいけないからね。


 「ようこそ、不老不死を求める者達よ。今から君達にそれを与えてあげよう」

 「何? それは本当なのか!」

 「それよりここはどこよ? 私をこんな所へと連れて来て、どうなるかわかっているのかしら?」

 僕の言葉を聞いた彼らの反応はさまざまだったが、大分けすると不老不死に反応する者と、状況がわからずいらだつ者って感じだな。まあどう反応しようとやることは変わらないので、サクサクと進めるかな。

 「じゃあ、順番に処置して行くぞ」

 僕はそう言うと不老不死に反応を示した男から、問答無用で魔道具を埋め込むことにした。

 男の心臓に当たる部分に無理やり魔道具をねじ込んでいる姿を想像すると、まるで心臓を握りつぶそうとしているかのようだな。実際に胸部に穴を開け心臓に直接魔道具を埋め込む作業は、その瞬間大量の血が噴出し、だが男が死ぬ前に魔道具によって命が繋ぎ止められて男が死ぬ事を防いでくれたけれど、傍から見たら普通に攻撃しただけに見えただろう。

 さてまずは魔道具を操作してこの男の肉体年齢を若い頃の細胞へと交換して行くように設定し、それと共に傷の再生を促がす様に設定してから手を離した。

 魔道具が僕の指示に従い胸に開いた傷が治して行くと同時に、男のしわがれた肉体が徐々にみずみずしい若々しさを取り戻して行き、それは青年を通り過ぎて小学生くらいまで時間を巻き戻してやっと止まった。その間、古い細胞で構成されていた肉体は、新しい細胞と入れ替わるたびに光の粒子となって消えて行き、ちょっと神秘的で綺麗な光景となった。

 まあ、おっさんがキラキラ光っているところなんが見ていても面白くもなんともないのだけれどね。ちょっとだけ魔法少女ものの変身シーンみたいだったけれど、おっさんの時点で台無しだな・・・・・・

 年齢についてはヴァンパイアからの情報で、男なら子供が良いっていう話だったので、強制的に子供まで若返らせてもらった。魔道具は心臓に寄生しているようなものなので、もう男から取り出すことはできない。

 これ、抉り取ったらどうなるのだ? やっぱり死んだりするのか、それとも離れていても生きていられるのかな? まあいいか、死んだら死んだで・・・・・・

 この魔道具は、ヴァンパイアが交渉に応じて大人しくしているのなら永久的に動き続けるけれど、いずれ増長して暴れ出した時には防衛手段として魔道具は生贄諸共消滅するように設定されている。まあ、逆を言えば不老不死といいつつ、ヴァンパイアの行動次第でそれは終わるってことだね。

 いうなれば、擬似的不老不死とでも言えばいいかもしれない。そういう意味では永遠の命など、僕にも創り出せないってことだと思っていてもらいたい感じだな。実際、僕も自動復活のスキルを持ちながら、死んだ事があるので絶対に死なないようにはできないと考えている。


 さて、一連の出来事を近くで見ていた生贄達は、初め血が噴出したことで恐怖し殺されると思って慌てていたのだが、しわくちゃの老人が生命力溢れる少年へと変わった事で、まるで今まで望み続けて来たものに辿り着けたかのように、にやけた表情を浮かべていた。

 これから得られる不老不死を確信して、欲望に染まった表情を浮かべているのだろう。

 次の生贄にも同じように魔道具を埋め込むと、その老婆は十代のみずみずしい若い肉体を手に入れ狂ったように高笑いをしていた。残った三人の人間は、自分にも早く不老不死をって感じで、自分から魔道具を埋め込んで欲しいって感じでこちらに寄って来る。

 こっちはまだ対価や、何故不老不死などを与えるのか説明もしていないのにな・・・・・・


 「体が軽い、何て生命力に溢れた肉体だ。だが幼過ぎるのはいただけないな。おいそこの男、もう少し成長させることはできんのか? 何故子供にする必要がある。そこの女のぐらいの肉体にせんか。不老不死に出来るほどの力があるのだから、それくらいして見せろ」

 「あら、可愛らしくていいじゃない。成長するよりもう少し子供らしい無邪気さでも学んだらどうかしら?」

 「ふん。俺はそんなもの求めていない。これでは周りに舐められるじゃないか。おいそこの男、早く成長させろと言っているのがわからんのか!」

 そんな感じで好き勝手しているのだが、まあなんと言われても気にすることもないだろう。

 「少し実験をさせてもらおう、不老不死になっているかどうか確認したいのでな」

 男の言葉を無視して、僕は一方的にそう言って煩い少年に攻撃を加えた。

 即死級の攻撃を受けた少年はその場で倒れて大量の血を流すが、しばらくビクビクと痙攣しているのがわかる。普通ならとっくに動かなくなる頃になっても死ぬ様子は見られない。それにいつまで経っても血が止まる様子もなかった。

 実験は成功かなって考え、少年にヒールを使って肉体を再生させる。つまり不老不死ではあるが、何も肉体が自動再生するような機能は魔道具にはないのだ。そして大量の血を流す事になっても、生命維持に必要な血液の増量は続けられるので、その血が尽きることはない。生命を維持する為の再生能力は持っているということだ。

 よくある自動再生で、肉体が元に戻ると共に時間が巻き戻したように血も体に戻るとかあるけれど、それでは血の供給という役目が果たせないのでこんな魔道具にしてみた。これで交渉に必要だと考えている材料は揃ったな。

 ここにいたり、生贄になった彼らはなにかがおかしいのではと疑問を感じたようで、僕を恐れと共に見詰めて来た。

 「お前達は不老不死を求めてロップソンを襲ったようだな。その罪と、不老不死を与えた対価を支払ってもらう。今後の人生全てを僕の為に捧げて貰うのがお前達への罪と対価だ」

 「何だと・・・・・・お前やつの関係者だったのか・・・・・・」

 「冗談じゃないわ、国に帰しなさい。さもなくば許しませんよ」

 「そうだ、貴様なぞ何とでもできるのだからな」

 「なるほど、権力があるから何でもできると勘違いしているようだな。抵抗したいなら好きなだけしていいぞ。痛い想いをするのはお前達だからな」

 その後も騒ぎ続けている彼らを連れて、ヴァンパイアとの交渉に向った。


 主だったヴァンパイアの集まった部屋で、こちらの共存という趣旨に賛同してもらえるのなら、どれだけ血を吸っても尽きない生贄を渡すという条件で交渉していく。それでも反対する者は反対していたが、それは上位者のプライドが邪魔しているのだと思われた。

 餌である人間の意見し従う気はない、力付くで奪えばいいって感じで実際に襲い掛かって来た程だった。

 「力が強い方が相手を従えるという考えが望みの者は、決闘するということにしようか? こちらが負けたら先程の交渉に持って来た死なない人間を譲ろう。こちらが勝った場合は、共存に賛同できないヴァンパイアの命をもらいたい。決闘は反対意見の者全員まとめてかかって来てもいいぞ」

 「ふっ、人間風情が随分と舐めてくれたものだな。だが力でねじ伏せてわからせるというのはわかりやすくていい。せいぜい後で後悔しろよ」

 そんなやり取りをした後決闘したけれど、十人程の反対していたヴァンパイアはろくな抵抗もできずに一撃で倒れていった。十対一で戦って、ドンドン減って行く仲間を見て、さすがにやばいと思ったのかこちらに従うと言い出す者もいたのだけれど、決闘に持ち込むまで抵抗していた者達を賛成派に組み込んでも、後々反乱を起こされると考えられたので、そのまま倒させてもらう事にした。一応代案で、他の国に移ってくれてもいいって話もしたのにな~ 決闘で全てを手に入れたいと考えたのは、彼らの方だ。

 力だけでしか判断できない者はこの時点でいなくなった。

 それも相手の合意の下排除して行くことができたので、残りのヴァンパイアは積極的にこちらの共存しようという意見に賛同してくれる。交渉も上手くまとまった事だし、せっかくなので彼らから住民であるというカードの魔法をかけさせてもらう事にしよう

 「魔法をかける前に軽く説明しておこう。これはこの国で人間はもちろん、他のモンスターとも共存していく事を認めた者にかけて行こうと考えている。どんな魔法かと言うと、相手がこの国の者かどうかを知りたいと考えれば、相手の種族がカードという形で表示されるといった感じだな。つまりカードが出ない者はこの国で保護された者ではないということだ」

 「カードが出ない者はどうすればいい?」

 「その時は基本的に無視すればいい。襲い掛かって来る者ならば返り討ちにしてもらっても構わない。問題はカードが出るにもかかわらず襲って来る者だが、できれは生け捕りにするのが望ましいが自分の身を守ってもらう事を優先してくれ。こちらも発見次第捕獲するように考えている」

 「基本的には自分の安全を優先したらいいだけってことだな」

 「そうだ、面倒なら関わらなくても構わない」

 「なるほど、その条件で死なない人間がもらえるというのなら悪くないな。ただ、こいつらはもっと数が欲しいな。それと仲間を増やしたい時はどうすればいい?」

 「ふむ、今後増えた時は持って来ることにしよう。悪さもしていない者を生贄にはしたくないから、しばらくはそれで我慢して欲しい。

 それと仲間を増やしたい場合は相手に合意を求めてくれ。無理やりに仲間を増やそうという行動には賛成できないが、相手が仲間になりたいというのならそれを邪魔する気はない。ヴァンパイア化の情報が手に入れば、確実に仲間にする方法もわかるかもしれないしな。立ち合せてもらいたい」

 確か聞いた話では、相手を魅了したり精神支配して従わせるみたいな能力は無かったはずだった。まあ普通にそういう魔法が使えるやつはいるだろうけれどね。

 「この国の人間で仲間にしたい者ならそのまま連れて来てくれればいいが、他所の国の人間ならまずその人間に、こちらの国に来てもらってくれ。国境を通過してこの国に入る時にこのカードの魔法をかけさせてもらおうと考えているから、カードの魔法がかかった状態になると思う」

 「わかった。と言うことは、他所の国に行っても構わないってことなんだな?」

 「ああ、そこまで縛るつもりはないが、この共存のシステムはこの国だけの話だ、他所の国に行ったら普通に襲われるかもしれないところは気を付けてくれ」

 「なるほど、了解した」

 こうしてヴァンパイア達を勧誘することには成功した。ただ、生贄はもう少し必要らしいので、そっちはもう少し手に入れていかないといけないな~。


 その後しばらくは、カードの魔法を住民達に施して行く作業をしなくてはいけなかったので、少し忙しかった。魔道具の形でカードの魔法をかけるシステムを作ったので、他の眷族に手伝ってもらえたから多少は楽だったのだけれどね。

 カードによる住民登録をしていると、再び軍隊がやってきたりするけれど逆に捕まえて、強制的に町の巡回兵にして行く。まあ揉め事が起きた場合、彼ら兵士は何の役にも立たないのだけれどね。

 モンスター達よりもひ弱で、殆どのモンスターからは舐められている種族なので、問題が起きたとして注意してもほぼ言う事を聞いてくれないことの方が多いだろう。彼らを巡回させる理由は、モンスター達を人間に慣れさせるだけの理由しかなかったりする。

 稀に迷子になっているようなモンスターには、道案内という役割で役に立つ事もあったけれど。めったにそういう場面はないかな。

 既にこの町には国中にいる共存できそうなモンスターが一杯いる。完全ではないのだけれど、ある程度は町に来てくれて共存も何とかなりそうな雰囲気があるのだが、やっぱりもう少し時間はかかりそうな感じだった。

 その代表格のゴブリン達はまだ住民と認めるには早い感じかなって考えていると、ポルヌクツから連絡が来た。そういえばそんな生徒もいたな~

 『先生お久しぶりです。今よろしいですか?』

 「ああ、構わんぞ。何かあったのか?」

 風の魔法での会話なので多分一分程のタイムラグがあったな・・・・・・面倒だけれどまあ仕方ない。しばらく待ってみると続きの連絡が来た。そういえば、あいつ王様になったのに王様自らが通信していていいのだろうか?

 『以前の伝染病なのですが、完全に駆逐できたようで完治祝いをしたいと考えていまして、その祝いの席にご招待したいと思っているのですが来ていただけるでしょうか? パーティーは一週間後を予定していまして、問題が無いようでしたら先生達を国内に紹介したいとも考えています。日時など希望などあれば言ってください』

 問題が起きたって訳じゃなかったか。それならレイシアとも打ち合わせしておいた方が良いな。

 「レイシア、一週間後くらいにポルヌクツのいる国で伝染病の完治パーティーをするらしいのだが、行くか?」

 『バグが行くなら行きたい』

 ふむ、念の為レイシアに聞いてみたけれど、普通に問題なさそうだな。

 「ポルヌクツ、特に日時は問題ない。ただ国中に名前などを広めるのは止めてくれ。こっちも国を創ったので、フォーレグス王国の者が支援したとだけ伝えてくれるか?」

 ついでに生徒達の国の者が僕の国と仲良くできるものかどうか試せるようなら試してみるのもいいかもしれないな。既に必要な金額は稼いでいるので、ここで縁が切れたとしても痛手にはならないだろうしな。こっちはモンスターをまとめて人類と戦いたい訳ではないので、共存を目指す国を他のところでも探して行きたいと考えてみる。

 そう考えると、元生徒が国王をしているというのは、丁度いいとも判断できるな。まあ、あまり期待し過ぎるのも問題だろうが、可能性の一つとして試してみよう。

 それでも、まだこちらに呼ぶには時期尚早だろうけれど・・・・・・

 せめてゴブリンが人間と仲良くできるくらいまで打ち解ければ、人を呼んでも問題は無いだろうな。

 『わかりました、では一週間後午後から王城にてパーティーを開かせてもらいますので、よろしくお願いします』

 「ああ、ではまたな」

 こういう時、携帯が欲しいって思うよな。まあ、通信魔道具を渡したらいいだけなのだろうが・・・・・・日本人は心にゆとりがないって思ってしまう。

 「レイシア、一週間後の午後に向こうに行くことになった」

 『わかった~』

 後は日程を忘れないようにしないとだな~


 まだまだモンスター全般が共存を受け入れてくれてはいないものの、徐々に町での生活に慣れて来たようでゴブリンも大分ここでの生活に馴染んで来ていた。

 現在のゴブリン達は一体が一工程の木工作業をして、みんなで一つの机を作る作業をしている。本来なら一人でできる作業だったとしても彼らにはそこまでの賢さが無い為、常に同じ作業をさせて仲間と流れ作業をさせればちゃんと一つの生産品を作り上げることもできるようになった。

 意外と彼らは単調作業には向いていて、人間なら飽きたり疲れたりする作業を、ゴブリン達は一心不乱に繰り返していた。

 何故彼らは文句も言わず大人しく生産活動しているのかといえば、ちゃんとした物を作れば美味しいご飯が食べられるからである。

 本当は給料を支払っていきたかったのだけれど、彼らはお金を理解できなかったのだ。お金があれば好きなご飯を食べに行けるのだけれど、即物的にご飯を要求された。

 まあそこで彼らに対しては、労働に見合った美味しい食事を与えるようにしてみた。そうしたら、ますます喜んで仕事をするようになったのだ。いずれ賢くなったら給料制にするとして、当分は仕事に見合った食事を与える事にする。

 そんな感じで人型の姿をしたラグマイズが餌付けしているせいか、ゴブリンも大分人に慣れて来たような気がする。もう少ししたら、彼らも住民として迎え入れることができそうだった。


 『バグ様、町の外でこちらを窺っている老人がいるのですが、いかがいたしましょうか?』

 ゴブリンの様子を見ていたら、司書パペットからそう報告が来た。

 「一人か?」

 『はい、何日か前から見かけるようになりました』

 「こっちで接触してみよう」

 そう言うと、とりあえず会ってみることにした。今のこの町は、外壁もしっかりした物が出来ていて、中を覗こうと思ったら出入り口から少し中を窺うくらいしかできなくなっている。後は畑が町の周辺にあるので、そこで働き出したコボルト達を見られるくらいかな?

 監獄も町の外にあるのだけれど、こちらは中の者を閉じ込める為、覗き込める場所自体がない。そう考えると、コボルトが畑仕事しているのを珍しがって、町の中が気になったといったところなのだろうか?

 ちなみに、コボルトは土いじりに適正があったみたいなので、野菜の栽培をさせている。彼らもいろいろ教えていくうちに、自分達が育てた野菜が美味しいご飯になるのだと理解できたのか、一生懸命栽培するようになって来た。ただ、まだ人間が畑に近付くと怒って暴れだす事があるので、まだまだ教育が必要だと思う。

 おそらく野菜に愛着が湧いて来たのか、食料を奪われると思って警戒しているのだろう。味方じゃない者が一定距離に近付くのなら、野菜泥棒として攻撃しても仕方がないと考えているので、ある程度までは襲い掛かるのを我慢するようにと教育している最中だった。


 さて問題の不審人物だが、多目的シートで場所の確認をしてそちらに向ってみると、確かに門の前を行ったり来たりしながら街を窺っている老人と言うかまだ中年くらいの男性がいた。白髪になりかけているので、年齢は相当行っているのかもしれないが、僕の感覚でいけばまだまだ元気な年齢だと思える。とりあえず冒険者の類ではないかな?

 「何かこの街に用でもあるのか?」

 「あ、いや・・・・・・すまんがこの町にはモンスターがいるのかな?」

 「ああ、ここはモンスターとの共存を目指しているのでな。いずれはフォーレグス王国全土がこうなってくれるといいのだが、まだこの町だけで試験中といったところだ」

 「そうか。お前さん、それなりの地位の者じゃな。この町に住んでみたいのじゃが受け入れてもらえないかな」

 いきなりやって来て、町で住みたい? 変人とか言われる人種か? 目を見てみるけれど、狂っているとかそういう感じではなさそうだな。

 「まだ、モンスター達の意識改革が終わっていないから、完全に安全とは言い切れないぞ」

 「もう結構な年じゃからな。その時はその時じゃ。して、どうかの?」

 「まあ、下手にモンスターを刺激しないのならば構わんが、とりあえずこの町で暮らして行きたいのならば、周りの者に危害を加えないという誓いとこの国の住民となる証の魔法を受け入れてもらいたい」

 「証の魔法とは?」

 「こちらのルールを理解して、それに従うということを誓った者かどうかわかるようにした魔法って感じか」

 「ほうー そういう魔法が存在するのか。ならば誓ってもいいぞ」

 「そうか、ならば魔法を受け入れろ」

 カードの魔法を使うと、中年男性は魔法を受け入れて無事に町の住人となった。この魔法は相手が心から同意しなければ失敗に終わる。つまり表面だけ仲良くしようとか言っている者には効果が出ないのだ。この男性はほんとにモンスターと仲良くしてもいいと考えているってことだな。こういう人材は結構貴重だ。

 まずは魔法の効果と、この国のルールなどを説明してやらないとだな。

 「では相手がこの町の住人かどうか知りたいと思って僕を見てくれ」

 「ふむ? お、おおー 何か出て来たぞ! 何じゃこれは」

 その男性は目の前に現れた半透明のカードを触ろうと手を出して、不思議そうにそれを見ていた。まあこっちからは見えていないので、男が不思議な行動をしているように見えるのだけれどね。

 「目の前に表示されたカードは、この国の正式な住人になった証のカードで、つまり野良モンスターか人間と共存するモンスターかがわかるようになっているのだ。まあこの国の中だけに有効な魔法だけれどな。それで相手のカードが見えない場合は、討伐しても構わないモンスターだってことになる。人間の場合は余所者か、共存を受け入れていない者だな」

 「なるほど、敵味方を識別する為のものなのじゃな」

 「ああ、そうだ。それよりここに滞在したいのではなく、住みたいって話だったな」

 「そうじゃ。わしはモンスターを研究している者でな、モンスターを間近で見られる町は、わしにとっては天国みたいなものなんじゃよ。どこか家など借りられぬか?」

 「案内しよう、こっちだ」

 まさかこんな形で人間を受け入れる事になろうとは思ってもいなかったな。モンスター研究家か、そんな物好きもいるのだな~


 物好きな男性を案内して来た所は、町の中央部にある兵舎近くの民家だった。ここは元々人間を住まわせようと考えていたので、多くの空き家が立ち並んでいる。どんな人間を住まわせればいいのかは、考えていなかったけれどね。

 その一つの家をこの男に貸すことにした。

 「そういえば、名前を聞いていなかったな。僕はバグと言う、そちらは?」

 「わしはグロッサブと言う、これからよろしくじゃ」

 一応タダで家を与える訳にもいかないので、できそうな仕事を探してもらってお金は街中で稼いでもらうように話をして別れた。まだモンスターにお金の概念が伝わっていない為、仕事を探すといってもそう簡単ではないのだけれど、何かしらの仕事を始めてもらってそれに応じた給料をこっちで用意しようという話しで落ち着いた。

 まあこれも共存する為のサンプルになる気がする。人間と関わり合う事で、お金という存在をモンスター達が理解していってくれればいいなとは考えているが、現状の彼らは物々交換といった感じだな。

 まあ出来たての町、そして国なので初めは他者と取引するという事を、覚えてくれればいいだろう。それ以上を望むのはまだ早いと判断した。


 『バグ様、再び幸さんが賊に狙われたようです。今回も襲撃自体は撃退できたようですが』

 「そうか、賊の素性などはわかったか?」

 『はい、多目的シートに情報を出します』

 「ありがとう」

 司書パペットがまとめた情報を見てみることにする。今回も狙って来たのは老貴族といった感じの者だったらしい。何度も襲撃されたロップソンを保護しようとブレンダが手を回したようで、どうやら王城近くの屋敷にパーティー全員で暮らすことになったようだな。

 そうなると襲撃は無くなって生贄の確保ができなくなるのだろうか?

 幸達には嬉しい事だろうが、こちらは若干面倒になった気もするな。今回の襲撃者近辺を、根こそぎ生贄にすることも考えないといけないかもしれない。まあでも、保護したくらいで襲わなくなるような連中じゃあないだろうな~

 そう思いつつ、なるべく罰を与えた方がよさそうな者をピックアップして生贄にし、ヴァンパイア達に引き渡す事にした。今回引き渡した生贄をヴァンパイア達は喜んで受け取り、フォーレグス王国での生活が自分達にとってもいい変化だと理解してくれたようで、このまま良好な関係を続けて行きたいと言われた。

 今後も生贄を作る機会ができるのなら、ヴァンパイアとの関係はうまく行きそうだな。

 他の知能の高い連中も、町には馴染んで来たようだし、後はドラゴンのような力があってプライドの高い者がいるのでそっちの対処と、逆に知能が低過ぎてこちらの話を理解できないゴブリンなどが上手く馴染めば、もっとモンスターの町を増やしていけそうだ。

 まだ始めたばかりにしてはいいペースで町造りが出来ていると判断していいだろう。いずれは世界中でこんな感じの町が造れたらいいものだな~


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