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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア  レイシアの心
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覚醒

 八日程が過ぎて、再び人類軍が攻めて来た。

 「行って来るぜ!」

 早速ヤーズエルトが迎撃に出て行くのをみんなで見送る。今回の襲撃はパペット達の情報によると、少数精鋭なのか勇者と百人程の兵士だけがやって来ただけみたいで、他の人類軍は魔王城の包囲をしているだけのようだった。

 なのでヤーズエルトが部下にゴブリン達の半分を連れて、勇者達を迎え撃つみたいだった。

 それから数分もしないうちにヤーズエルトが苦戦しているとの報告が上がって来た。

 「ヤーズエルトが苦戦しているみたい!」

 「ふむ。どうやら例の技能を使ったようじゃのう。わしが出よう」

 「少し厄介かもしれませんね」

 短いやり取りをして、ウクルフェスさんが援護の為に出て行った。この状況を王子はちょっと楽観し過ぎていたのかもといった感じで呟いていたのが聞こえて来た。

 司書パペットからの報告を多目的シートで見ると、ウクルフェスさんの魔法に勇者は苦戦しているようで、先程までの余裕がなくなったみたい。今回は何とかなったようでホッとする。そのまま戦闘も直ぐに終わり、勇者が撤退して行く事で双方が引き上げたようね。

 「油断したな。奴はまだまだ余裕を残していたのを見落としていた。実力を隠していたらしい」

 「ホッホッホ。わしの魔法があれば早々負けはせんよ。それよりもじゃ、今の戦闘で大分こちらの戦力を削られてしもうたのが痛いのう」

 「すまん。七十体はやられた」

 「そんなに!」

 「どうやら今回はこっちの戦力を削りに来たみたいだった」

 「どうやら勇者を舐め過ぎていたようですね。次でしとめる方向で考えましょう」

 王子がそうまとめて、油断しているのならその間に倒してしまおうという作戦で行くことにしたのだけれど、司書パペットからの報告で勇者が戦線を離脱したことがわかった。人類軍は包囲したままその場に残っているので、逃げたとか撤退したとは考えにくいんだけれど、一体何でだろう?

 とりあえずしばらくは時間ができそうだったので、生き残っているゴブリン達にはこれ以上数が減らないように経験集めをしてもらい、私の方は研究を優先させてもらうことにした。バグの育てていた子達を死なせてしまった事に、申し訳ない気持ちで一杯だった・・・


 あれから何日経過したのか、研究に没頭していると時間の感覚がなくなる気がするわね。そんな私の元に情報がもたらされる。その情報とは勇者が何故戦線を離れたのかという理由で、この情報はみんなにも伝えておいた方がいいかもしれないと、そう判断して四天将達に報告しておくことにした。

 「勇者が戦線を離脱したのは、魔道具を受け取りに行く為だったみたい」

 「それは厄介だな。魔道具で底上げしているっていうのは確定みたいだな」

 ヤーズエルトが今以上に底上げされるのかって、嫌そうな表情を浮かべる。

 「それと東の方で異形が数多く出現しだしたみたいで、その対応に呼ばれたみたいね」

 「では、もうしばらく時間ができますね。今のうちに研究を終わらせられればいいのですが・・・」

 「バグの方は、まだ進展していません」

 「いっそ罠でも仕掛けておくかのう?」

 「周りの兵隊には効くだろうが、勇者には効果がないだろうな」

 「そうじゃろうのう」

 「では、引き続き皆さんは経験集めを行ってもらい、レイシア嬢には研究を進めてもらいましょう」

 簡単に今後の活動についての会議を済ませると再び研究を続けることにしたのだけれど、どうやら東の方の国々で数多くの難民が出ているのでその対応をして欲しいと、サフィーリア教会の方から救援要請が来ているようだった。今は影武者パペットが教会本部へと向い、難民への対応を話し合っているみたい。

 どうなったかは、後で情報が上がって来ると思うので、とりあえず結果が出るまでは研究をしていようと考えた。

 基本的には私が手を出すまでもなく、バグが予測していたのかお任せしていればホーラックス達やパペット達がそれぞれに問題なく動いてくれているみたいなので、今回の知らない勇者が出て来るみたいな予想外の事態がなければ、私の判断とかは必要としなかった。

 パペットからこんな事があったと情報が来て、対策したよ、最終的にこうなったよって感じの報告がされる。ほんとに、バグの創った子達は優秀だなって思った。


 数日して東の国々についての情報が集まって来た。

 今回の人類軍に関して、かなり強引に兵士を集めたり食料などの救援物資を集めたりと、無理をしている国が多いせいか異形もそれに比例するように増えて、それによりさらに国が荒れて異形が増えているようだった。こういうのって悪循環って言うんだろうね。

 多くの難民が出たのはそういう理由により国を逃げ出すしかなかったみたいで、どうやらレイバーモルズの二号、三号の町を作ることで難民受け入れを進めることになったみたいだった。

 その対応の為、レイバーモルズ町の方はこちらが見ていなくてもいいだろうと思えるところは、ほぼ町人に任せるようにして二号、三号の町の方へとイオルド達人員を移動させることになったらしい。

 犯罪などが起こる可能性もあるので、パペットによる監視はそのまま残してあるようだけれどね。

 こちらが難民に対応していると、勇者が再び人類軍へと復帰する為に移動を開始したとの報告が上がって来る。もう少し時間ができるものだと考えていたのだけれど、どうやら自国内の異形だけ対応して、これ以上異形が増える前に魔王を倒そうって感じになったみたい。周辺の協力してくれた国は無視したのね・・・

 難民に対する対応などは、影武者パペットがしっかりやっているようなので、研究の方に戻ることにした。早くバグに会いたい気持ちもあるけれど、勇者自体に嫌な予感があったので早くバグを目覚めさせたかった。


 勇者が前線復帰するまでに数日の時間はあったものの、もう少しで研究も成果が出せそうという段階で、タイミング悪く三度目の戦闘が開始されてしまい、今回は私も対応に出ることになった。

 前回と同じで勇者は百人近くの兵士だけを連れて攻めて来ていて、それに対して私とヤーズエルトにウクルフェスで対応することにした。雑魚の兵士なら十分と思えるのだけれど、勇者相手にゴブリン達をぶつけてこれ以上死なせたくはなかったからね。

 初めて見る勇者はバグと同じ黒目黒髪の優男で、少しだけバグを思い出してドキリとしてしまう。

 「君は女性かな? また新顔が出て来るとはまあいいよ、三対一でもお相手しようじゃないか。その前に新顔がいるのなら名乗っておかなきゃね。俺の名前はタダヨシ、人類最強の勇者と言われる男だ。これで死んでも地獄で誰にやられたか悩む事はないね」

 魔王軍の仕事なので、黒尽くめに仮面を付けていたので私の事をはっきりと認識できなかったようだけれど、女性であることはなんとなくわかったみたいね。そしてきざったらしい男はあまり好きになれなかった・・・

 こんな人、バグと全然似てもいない・・・ もう黒目黒髪に惑わされることはないと思えた。私が戦う気満々になっていると、ヤーズエルトが勇者に話しかける。

 「余裕そうだな」

 「まあ、君達二人はもう僕の敵じゃないからね」

 「ふん、言うじゃないか。後で泣くんじゃないぞ」

 「その言葉、そっくり返すよ。僕に本気で相手して欲しければ、もっと強くなることだね」

 「行くぞ!」

 「漆黒の闇に沈むが良い、カオスフォール」

 「同じ手は効かないよ、リフレクトマジック」

 ウクルフェスさんが開発した新魔法は、周囲にいた人類軍兵士を飲み込んだものの、勇者を倒すことはできなかったみたい。

 「ほう、魔道具で魔法対策をして来たということじゃな」

 「まあ走ればこんなもの、簡単に無力化できるだろうけどね。面倒だから対策させてもらったよ」

 魔道具の底上げも、ほんとに厄介だわ。これでほぼウクルフェスさんが戦力にならなくなったかもしれない・・・ そういう私も魔法が通じないのでは、奥の手の銃器は使えないかな?

 そうなるとやっぱり召喚で攻めて行くしかないかもしれないね・・・ 昔に火属性しか使えなかった時も、こんな感じだったな~ 今はできることをやるだけね。

 「召喚、ヒュドラ。召喚、ヘカトンケイル。召喚、デュラハン」

 魔法が効かないみたいなので、なるべく物理攻撃ができそうな子を呼び出してみた。後は私も剣で斬りかかれば何とかなるかな?

 「これは少し厄介だな。でもこういうのって召喚者を狙えば、消えるって言うよね!」

 そう言った勇者は私に向って突撃して来る。

 それを阻もうとヤーズエルトが間に割って入り攻撃するものの、素早い動きで回避してこちらに来ようとしていた。ヤーズエルトが間に入ることで、少しでも勇者の視界を塞いでくれたのを好機と、私は自ら勇者の方へと踏み込んでいった。


 ガッキン


 お互いに距離を詰めた為、私の不意打ち気味な攻撃が勇者に当たるはずだったのに、盾で防がれてしまったみたい。でも、完全には受け止められなかったのか、バランスを崩させることには成功していたようで、そこをヤーズエルトが攻め立てる。

 「ちょ、召喚術師って言えばメイジ系だろ。何で接近戦もできるんだよ。まったく常識が通用しないな、異世界って奴は・・・」

 初めはヤーズエルトの猛攻に、押され気味だったものの直ぐに体勢を整えてしまう。

 使い魔達も一緒に攻め立てるものの、何とか囲まれるのを避けているようで、決定打を与えることが出来ない。

 それよりも勇者は今異世界と言っていなかった? ひょっとしてバグと同じところから来た人なの?

 「ほいほいっと、アースウォール」

 そんな戦闘の最中ウクルフェスさんがアースウォールで勇者の退路を断つ様に魔法を唱えて行く。直接の魔法は封じられたものの、こういう補助的なものまではどうにもできないみたい。さすがよく気が付いたって感じだね!

 「これは中々に厄介だな」

 「いつまでそうやって余裕ぶっていられるかな!」

 私も使い魔達に混じり、不意を付くように攻撃に参加するものの、その殆どを盾で受け止められてしまう。ちなみにヤーズエルトの攻撃は普通に回避されていた。

 お互いに膠着状態になって来ると、勇者は突然バックステップで距離を取り出し、こう言って来た。

 「今日はこの辺にしておいてやろう、じゃあまたな」

 追撃しようとするのだけれど、それもうまく行かなくて逃げられてしまう。そんな感じで、今回はこちらに被害はないものの、またしても勇者には逃げられちゃった・・・


 使い魔を送還して、私達は魔王城へと帰還する。

 次の襲撃までもう少し時間ができるだろうから、この間にバグを覚醒させないとだね・・・ そう考えて、報告などはウクルフェスさんに任せてもう少しだった研究を再開させる。

 うまく行きそうだと思っていたものの、勇者にペースを乱されたからかちょっと手間取ったみたいで結構な時間を取られ、それでも何とか魔道具を進化させる事に成功する。

 私達は早速バグの魔法を解除する準備を整えると、儀式魔法を使うことにした。

 この魔道具は八つの装置に別れていて、部屋の天井に四つと床に四つ配置し、その魔道具に囲まれた全ての者の魔法威力を向上させる効果を持たせることができる物になった。そして眷族で魔法を使える者が儀式魔法に参加し、ベルスマイアさんが神官魔法でさらに私達の魔法威力を強化させてくれる。

 儀式にかける時間は私の限界を考えてまる一日に集中して行う。

 もうこれ以上はないという程みんなで力を合わせた結果、やっとバグの魔法を打ち破れた時には私達全員気が抜けたように消耗していた。

 「バグ!」

 無事に復活したようで、目を開けたバグを見た瞬間我慢しきれなくなって抱きついてしまう。疲れ果ててはいたものの、何とかそれくらいの力は残っていたみたい。抱き付く私を受け入れて、優しく抱きしめ返してくれたので、がんばったかいがあったなって思えたよ。

 「ホーラックス、状況を教えてくれるか」

 できれば二人っきりでいたかったけれど、バグが寝ていた間の報告を聞いていた。

 長い間待ち望んでいたバグの声を聞いて、私は心底安心できた。疲れ果てているのに、妙にテンションが上がってしまう。

 私がバグの温もりを感じつつ抱きついている間、バグとホーラックスは会話を続けていて、その声を聞いていると妙に落ち着く声だなって思えた。


 今現在の状況を聞いたバグは、早速魔王城に行って丁度やって来た勇者を相手して来るものの、バグでも取り逃がしてしまったのには驚いた。ひょっとして長い間寝ていたから、体が鈍っちゃったかな? 一年も寝ていたら仕方ないよね。

 とにかく今回は何とか勇者が攻めて来る前にバグを目覚めされることができたので、次までにまた時間ができた。その間にせっかくバグが整えた戦力をかなり失ってしまったので、増やさなければいけない・・・

 モンスターを失ったと報告するのはとても気が重くなったけれど、こればかりはちゃんと報告しておかなければいけなかった。

 正確な数を報告する為に、生き残りを集めるように指示されたのでゴブリン達を集めていると、バグはどこかに出かけたみたい。どこに行っていたのかはわからないけれど、直ぐに戻って来たバグにゴブリン達の数を報告すると、新たな眷族を創り出した。

 眷族に戦力を集めるように指示を出した後、またバグはどこかへ行ってしまったので、仕事を始める前に眷属がどうやって戦力を集めるのか気になって付いて行くことにした。すると、戦場で死んでいった死者を素材とした魔法を使ったことで、この眷族の事を理解する。

 ネクロマンサー。

 死者の冒涜者として、大抵の人から毛嫌いされている存在。魔王軍だからこその人材とでもいえるのかもしれない・・・

 私としても、さすがに死体を操るその魔法はあまりいい気がしなかった。

 バグの創った眷族なのに、どうしても感情が付いていかないのが情けないなと考え、気持ちを切り替える為にもまずは自分のやれることをする。

 生き残りのゴブリン達を、今現在進化できる最高のモンスターへと合成するように頼まれたので、その作業を始めることでなるべく深く考えないようにした。

 しばらくして戻って来たバグは、ウルフを一杯連れていた。

 そのウルフ達はグループに分けられダンジョンに行かされている。次の戦いには間に合わないけれど、後々の戦力にするんだそうだ。

 それにしてもバグがいてくれるだけで、これほど素早く戦力が充実するなんて思ってもみなかったな。バグが国を作ったら、簡単に世界征服できちゃいそうで逆に怖い気もするね・・・ バグに征服欲がなくてよかったなって考えた。


 前回の襲撃から一週間程すると人類軍が総攻撃を開始した。

 そろそろ魔王軍の戦力も打ち止めだろうと判断したのが、総攻撃に踏み切った理由なのかな?

 しかしこちらの戦力は生き残りのゴブリン達が九十体くらいと、バグが急遽連れて来たブラックドラゴンが三体に死者の軍団が五百体。失った戦力を補えるくらいの戦力は十分過ぎる程あると思う。

 実際包囲している人類軍は、ドラゴンがいる事で前に出ることを躊躇している感じで、そのドラゴンの足元にもジャイアント種やヴァンパイア、ケルベロスやワイバーンなどさまざまな上位モンスターが控えているので、戦い慣れた上級冒険者でもこの中に飛び込もうと考える人はいないと思えた。

 そんな中、躊躇なく突出して来た勇者をバグが迎え撃っている。

 正面から進んでいた軍隊は、それを見てさすがに何もしないわけに行かなかったのか攻撃を開始する事にしたみたいなので、それならばと私も後ろにいるモンスター達に迎撃を命じることにした。勇者が相手でないのなら、おそらく私達に負けはないだろうね。

 「攻撃開始! 部隊召喚、ワイバーン。部隊召喚、アラクネ。敵の陣形を乱して」

 勇者のことはバグに任せておけば大丈夫。こちらはこちらで出来る事をしようと思い、正面から攻めて来た敵兵の相手をする。

 正面の人類軍兵士の数はおよそ五千人で、それに対してこちらはゴブリン達が二十体と死者の軍勢が百体にドラゴンが一体。それに私が呼び出した召喚のワイバーンが三十体とアラクネ五十体が私に任された全戦力だけれど、戦力が他より少なめな分こちらに眷族のネクロマンサーであるトールティが来てくれていた。

 ウクルフェスさんも範囲攻撃の手段があるので、配置されている味方が少なかったと思う。護衛と戦いを避けて進もうとする兵隊を倒す為の戦力って感じかな?

 そしてヤーズエルトが大半のゴブリン達を連れて戦っているはずだった。

 隙間を抜けて来る兵隊も必ず出て来ると予測できていたので、王子の下に五体のジャイアント種が残っていて、パペットの報告を見ながらバグの眷族がジャイアント種達を送り込んで戦うのが王子の役目になっている。

 みんなそれぞれに戦っているので、私もがんばっていかないとだね。


 手始めにワイバーンが群れをなして襲って行くので敵軍はうまく隊列が組めないところに、アラクネの魔法や糸が撒き散らされ動きを封じ、そこに生き残りのゴブリン達が乱入して行った後をアンデット達が蹂躙して行く。

 そしてそこで命を落とした者は、こちらの手勢のアンデット集団にゾンビとして加わる事になり、他の兵士へと襲い掛かって行った。

 見た感じこちらに出ている被害はアンデットだけで、倒れて行くアンデットがいる一方で、それを補うようにアンデットが増えていっている感じみたい。それでもこちらの戦力の五十倍近い敵兵を前に、正面の戦場は押され気味になっていた。このままでは物量で突破されかねないわ。

 「部隊召喚、リッチ」

 少しでも戦況を良くする為に新たな使い魔を投入する。リッチ三十体の魔法攻撃は、多少の戦力差でも押し返すだろうと考られた。だってリッチ一体で、上級冒険者を全滅させる事もあるのだから、かなり心強い味方だと思う。

 それでもこちらまで辿り着いた兵士が私に襲いかかって来る。おそらく召喚者を倒せば、使い魔が消えると判断しての突撃だったんだろうね。でも・・・

 「馬鹿な! 魔法戦士だとでも・・・いうのか・・・」

 バグから貰った剣での一刺しの前に、辿り着いた兵士が崩れ落ちる。鎧を着ていてもお構い無しの一突きだった。

 「全員でかかれば、こやつ一人など!」

 死に物狂いで潜り抜けて来た兵士の一団が次々と襲い掛かって来たものの、その程度の腕前では私には勝てないと思うよ。抜けて来られた兵士は二十人程だったけれど、全員私の目の前で倒れることになった。

 そんな彼らもアンデットとなって、戦場へと突入して行くのを見届ける。

 リッチが参入したおかげで敵の勢いが一気に落ちて、苦肉の策で突出させた部隊は私が倒した。さらに背後にはドラゴンが待ち構えているこの状況なら、私の担当地域はまず負けはないんじゃないかと考えていたけれど、大きく回り込んで別働隊みたいなのがこちらに迫って来ているのが、上空を飛んでいたワイバーンより知らせられた。

 まだまだ決着は付いていないから、油断はできないね・・・

 そう思っていると、隣に転移して来る気配を感じた。

 「バグお帰り!」

 別働隊に対処しなければと考えていたところにバグがやって来て、無事だった事が嬉しくて戦いの最中なのに思わず飛び付いてしまう。

 「レイシア、とりあえず目の前の人類軍を蹴散らすぞ。いいか?」

 「うん。わかった」

 バグが来たってことは勇者は何とかなったってことだね。それならばこの戦争はもう終わりってことだわ。

 別働隊に向ってフェニックスを召喚すると、もはや勝敗の決まった戦争の後始末をする為に使い魔達に指示を出していく。

 バグが勇者を倒したおかげで今回の戦争は、魔王軍の勝利で決着が付いた。


 結局バグを目覚めさせるのに一年もかかってしまったので、その間の出来事を伝え今後の事を考えていると、黒騎士が呼びに来たので付いて行ってみると、そこで初めて魔王様と面会する事になった。

 一体魔王様とはどんな人なのか、元々は人間だったと聞いてはいたものの、実際に会ったこともなかったのでどうしてもおどろおどろした感じの魔王しか想像できなかったけれど、実際に会って見たら好感が持てそうな好青年って感じのちょっとカッコイイ系の男性だった。

 ひょっとしてバグに出会っていなかったら惚れちゃったかな?

 ちらりとバグの様子を窺ってみるものの、バグは今後の予定でも考えているのか、あまり魔王様を気にしてもいない様子だった。そして、うんちょっと頼り無さそうな外見だけれど、やる時はちゃんとやるバグの方がやっぱり魅力的だなと思う。

 そのままバグの事を見ていると、王子が魔王様とずっと会話していて、大体の事情を聞くことができた。

 正直なところを言えば、過去の出来事や魔王のシステムなどに興味はなく、バグがこれからどうして行くのかの方が私には重要だと思えた。


 そのバグは魔王様との会合の後、騙まし討ちした上にマグレイア王国に戦争を仕掛けて来たファクトプス国を制裁しに行くと言うので、黒尽くめの衣装を準備して一緒に付いて行くことにする。

 バグが城壁を破り軍事施設を破壊しながら進むので、それらの施設に火を放つことで施設の完全消滅狙い、そのまま二人で王城へと攻め込むことにした。

 途中私達を止めようと兵士がやって来たけれど、私が魔法で蹴散らしていく。

 バグと出会って攻撃魔法もそれなりの威力を持つようになり、今では手加減ができるくらいには魔法も上達している。

 どうやらバグは町中にいる兵士は殺す気がないようで、対応を全部私に任せてくれている。信頼されていると思うと、いつも以上に力が沸いて来る気がするもののやり過ぎて殺してしまわないように、調整するのがかえって大変だなって戦闘しているのに余裕があるのが不思議に感じた。

 王城内に入ると、バグが待ち構えていた騎士に対して容赦のない風属性魔法を放ったので、バグの考えがなんとなくわかった気がした。

 兵士は市民から選ばれた兵隊さんだけれど、基本は家族を守りたいとか考えているどちらかといえば一般人に近い気がするのに対して、騎士は貴族階級の者ばかりでこういう国の場合は自分達の都合がいいように好き勝手に動く事が多い。

 つまり彼らは暗殺しようとして来た王子と同じ権力を振りかざす者達の一員なので、ここからは容赦しないという意味だと思う。

 まあ中にはそれが国の為って信じた人や、逆らえなかった人もいるんだろうけれど、そんな都合は暗殺されかけたこちらには関係ないよね。それならば!

 「フリーズブリッド」

 こいつらには私もやりたい放題やられた怒りがあったから、バグの魔法から逃れた騎士に手加減を止めた本気の魔法を撃ち込んで倒していく。それに何の罪のない一般市民を殺した相手に、容赦するつもりなどなかった。

 その後、国王や王族達を倒した後、バグと分担して悪徳貴族達を倒して回った。


 バグはフラムイスト国も同じく攻撃しようと考えているみたいだけれど、ラデラ皇女の事があってどうするか少し悩んだみたい。

 女心がよくわからないと言って、私に意見を聞いて来たのでもう恋愛感情はないよと教えてあげたものの、アーデリム王子は殺さないで残しておこうと考えたみたいだった。

 私の事を抱えてフラムイスト国の王城上空へと転移して来ると、ファイアランスが一杯飛んで行くのを見届けた。

 その後城内に残っている人々が慌てて逃げ出すのを見届けて王城を破壊し、こちらも悪徳貴族だと判断した者を倒していく。

 バグは私怨が入っていると言っていたけど、やっとちょっかいをかけて来る国が無くなってスッキリできた気がする。

 その後魔王軍の拠点へと帰って来ると、今回の騒動で東の方の国々が乱れていると言われ、その原因になっている国を潰すようにと黒騎士から頼まれたので、バグは一人でその仕事をしに行ってしまった・・・

 まあ危険はないからいいと思うけれど、それでも一緒がよかったなって思ったりもする。見ているだけになるけれどね。

 帰って来たバグは、所属を完全に魔王軍へと移すことに決めたようで、その為の引継ぎ作業を始めた。

 拠点の外で活動していたパペットや眷族を回収していると、眷族の一人が脱走したという話を聞く。ホーラックスの副官としてバグが創った眷族で、ダンジョンでモンスターを召喚して配置したり、ホーラックスのサポートをしているところから、私の立ち位置に良く似ていてちょっと興味があったサキュバスの人だったはず。

 何故逃げ出したのかわからず、バグが追いかけて行ったもののそんなにかからずに人間の男性を連れて戻って来た。

 バグとホーラックス、それから逃げ出したサキュバスのメリアスさんと、おそらく好きになっちゃった人間のフィリオ、そして私で話を聞く事になったので、とりあえずみんなにお茶を配る。

 話し合い自体は私達の拠点にフィリオを連れて行きたくはなかったので、魔王軍の拠点にお邪魔して話し合うことになった。だから離れたテーブルには、くつろいでいるヤーズエルト達がいるわね。

 そんな状況の中、フィリオという男の人は魔王軍と名が付くにもかかわらず、拠点の中に人間が普通にいる事にちょっと戸惑っている感じかな? 話はまあフィリオを連れて来た時に予想できていた通り、恋愛を認めてもらえないと思い込んで逃げ出したというものだったけれど、バグがそもそもそんな事をいちいち気に留める性格ではなかったようで、別に好き合っているのなら良いよって感じで話はまとまった。

 フィリオは一応魔王軍の事を知ってしまったので、メリアスさんのお手伝いをしながらここで生活してもらうことになったわ。周りがモンスターばかりだったのなら息苦しいかもしれないけれど、ここには結構人間もいるので、そこまで劇的な生活の変化はないと思う。

 とりあえず心の中で、認めてもらえてよかったねと呟いておいた。


 バグがいる生活が戻り、引継ぎ作業も落ち着いたので、のんびりとお茶を飲んでいると優雅な音楽が聞こえて来る。

 せっかく創った眷族だったけれど、ダンスを教えに行く事もなくなったので、食堂で演奏をしているのだそうだ。今は私達がお茶を飲んでのんびりしているので、曲もそんな感じにのんびりできるようなものが演奏されていた。

 この世界の曲といえば吟遊詩人のリュートによるものか、原始的部族の太鼓くらいだったので、こんな優雅なものがあるとは思ってもいなかった。なんだかとても贅沢な空間になっているわね。

 そんなのんびりとした時間を味わっていると、バグも今は急ぎの仕事とかなさそうだし、しばらく一緒にいられなかったんだし、どこかに遊びに行きたいなってつい言ってしまった。

 すると行こうかと言ってくれてバグが肉体変化のスキルで別人のような姿に変身していた為、私も幻術で変身すると早速レイバーモルズ町へと遊びに出かけた。

 露店の串焼きを食べながら町の雰囲気を見て回る。

 バグが管理していた時より少しだけ治安は悪化したかもしれないな~ そう思うとバグに管理されていた方が、私達は幸せになれるんじゃないのかなって思えて来る。逆らうと悲惨な事になるのかもしれないけれど、大体そういう人は悪人が多いので自業自得かなって気もする。

 一通り見て回るとバグは満足したみたいなので、次はリンデグルー自治国へと向う。

 バグが寝ている間に自治国へと変わったから、町もどう変わっているのかちょっと楽しみだった。

 こちらは昔とそこまで変わったって感じはなさそうかな? ブレンダのお店があったので入ってみたけれど、品揃えの方はかなり変化しているようだったけれど、普通の商品とかが並んでいて売れ行きもそこそこって感じ。続いてギルドの方にも行ってみる。

 中に入ると、このざわざわした雰囲気が結構落ち着けた。

 ギルドの食堂で食事しながら、昔を懐かしむように冒険者だった頃の事を思い出していた。私はあまり喋る方ではなかったけれど、こういう人がお喋りしているのを聞いているのは結構好きだったな~

 バグも私に付き合って、特に会話もないままギルドでのんびりと過ごしてくれた。何も言わず聞かないで、そっと付き合ってくれるのって嬉しいよね。


 翌日からはまたモンスターの進化を手伝うことになる。

 今回は育って来たウルフの進化を試して行くので、そっちの合成表を作って行く作業が始まった。

 途中でバグが様子を見に来たかなって思ったら、どうもホムンクルスという人造人間のことを聞きたかったみたいなんだけれど、でもそれって異端視されている研究で詳しい事を知っている人は、あまりいないんだよね・・・

 私がホムンクルスを創れないってわかるとそこまで残念そうではないけれど、別の事を考えながらどこかへ行ってしまった。

 どうやらホムンクルスの代わりとして、ゴブリンの中でも頭がいいメイジ系の子達に、学校のような教育を施して行こうという計画を考えているみたいね。

 モンスターの学校か、ちょっと楽しそうだね。そんな発想が出て来るという事は、私も大分魔王軍に馴染んで来たのかもしれないな~

 数日後にふらりとやって来たバグは、進化したウルフを相手に訓練をしていた。

 しばらくスキルの使い方とかいろいろ教えていたけれど、どうやら思っていたものと違う結果だったらしく、うまく行かないなって感じの表情をしていた。

 うーん、だからホムンクルスとか、ゴブリンの学校とかいろいろ試していたのかな?

 さすがにホムンクルスはどうしていいのかわからないのがちょっと悔しいなって思う。おそらくケイト先生とかに聞いてもこればかりはわからないかな? 多分知っていたとしても教えてはくれないだろうね。


 そんな感じでいろいろ試していると、ハウラスが上級冒険者を集めてこちらに向かって来ているという情報が入って来た。まだ到着には時間があるみたいで、バグの様子は普段通りって感じかな? それでもいろいろ新たな指示を受ける。

 ウルフは思っていた感じじゃなかったからか、アースドラゴンみたいな肉体だけで戦うタイプの種族に進化させて欲しいという指示をされた。

 確かに複雑な戦い方をさせるより、この子達には向いているかもしれないなって思う。それと進化させる対象に、アンデットは含まれているかどうかを聞かれる。さすがにスケルトンやゾンビを進化させるとか、誰も考えた事が無かったから、こっちはまるっきり予想外で返事に困ってしまった。

 バグってほんとに他の人が考えもしない事を考え付くよねって思うと同時に、実際誰も試していない事をするのには興味が湧いて来る。

 バグに言われてトールティがゾンビを一体連れて来たので早速合成してみると、暗黒騎士と言われるちょっと上級のスケルトンに進化した。アンデットでも進化するんだ!

 この結果を見たバグは、早速アンデット達にも経験稼ぎをさせて死の軍団を強化することにしたみたい。ゴブリンに引き続きウルフやアンデットまで、ダンジョンで経験稼ぎをしている・・・ モンスターとの生活は不思議が一杯だなって思えたよ。

 後私の負担を軽くする為だって言って、錬金術が扱えるパペットを創ってしまった・・・

 今まで魔王軍で錬金術が使えたのは私だけだったから、唯一のお仕事が・・・ 確かにこれからドンドン進化させていかないといけなくて、大変になるんだろうけれど私だけがバグの役に立てるお仕事だったのにと、内心複雑な気持ちになったよ・・・


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