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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア  レイシアの心
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勇者タダヨシ

 さらに一週間程の時間が経過して、ベルスマイアさんから治療の目処が立ったと報告を受け、私達は早速バグの元に集まり解呪を始めてもらうことにした。

 「では、バグ様の意識をサルベージします」

 「サルベージ? って・・・」

 「レイシアさんは、バグ様が異世界の人だと知っていますね?」

 「はい」

 「あちらでは海底に沈んだ物を引き上げる作業の事をサルベージと言います。バグ様の意識はこの海底に沈んだ状態と似たようなものだと考えていただければよろしいかと」

 「ベルスマイアさんは、バグからそういう知識とかも教えられて創られたのですか?」

 「いいえ。ネットワークと言ってもわからないですね。そうですね。私達にとってバグ様は、いろいろな知識が書き込まれている本なのです。バグ様が生きている限り我々眷族やパペット達はその本を自由に閲覧させてもらえる状態だと言えばわかりますか?

 バグ様は我々眷族が成長して自我を持てば、やがて反旗を翻す可能性があると思われていたようですが、我々はバグ様の体で言えば髪の毛のような存在なのです。バグ様にとっては髪の毛が抜けても気にする必要はありませんが、我々は離れてしまえばそれで終わりと考えて差し支えありません」

 「へ~」

 召喚主と使い魔の関係と似ているのかもしれないな。ちょっと羨ましいなって思うけれど・・・ そういえば初めは私達もそんな関係だったんだな。

 「それではそろそろ始めます」


 呪い。そもそも呪いというものはどんなものを指すのかといえば・・・

 直接的な距離や時間などを飛び越えて、対象に影響を及ぼすことができる力で、その殆どの場合は恨みや憎悪といったものが原動力となって発動する。

 例外的に、強過ぎる愛がこれに似た力になる事もあるという。

 今回の場合はファクトプスの王子がその原因で、対象が既に死んでいても彼がバグを憎悪したという事実を受けて発動し続けているようだった。何故そこまでバグに拘ったり、魔道具が発動する程の憎悪が湧いたのか、その理由は分からないし知りたくもなかったけれど、とりあえずその憎悪の元を断つところから解呪は始まる。

 無詠唱魔法の為、ベルスマイアさんがどんな魔法を展開しているのか不明ではあるが、鏡の魔道具の周りに光の結界のようなものができて、その中が清浄な空気で満たされていくのがわかる。というのも、魔道具の周りから時折黒いしみのようなものが剥がれ落ちるように分離して、そのしみが宙に浮かびながらもがく様に光を放ちドンドンと小さくなって消えていったことから、浄化されていっているんだなってわかった。

 その一方バグの体にも魔法がかけられたようで、暖かな光が降り注いでいたけれど次第にその光が集まり、束ねられた光はバグの心臓に向って集中しだした。

 そこからしばらくは見た目には何の変化も起こらなかったけれど、それが表面的なものだという事はベルスマイアさんの表情を見れば直ぐにわかる。何かを必死になっておこなっている最中だった。

 それから五分程その状態が続いた後、ふっとベルスマイアさんの表情が和らいで、それと共に光が薄れて消えていくのがわかる。

 「終わりました。これでバグ様は鏡の魔道具から解放されましたので、もういつ御起きになられても問題はありません」

 「ベルスマイア、よくやった。休むがいい」

 「そうですね。では少し休ませてもらいます。後はホーラックス、任せましたよ」

 「ああ、任せるがいい」

 「ベルスマイアさん、ありがとうございました」

 「レイシアさん、私達は眷族です。主であるバグ様を助ける事は当然のことですよ。後はよろしくお願いしますね」

 そう言って、少しふらつきながらも転移して行った。相当精神力を使ったんだろうね。さて、今度こそ私達の出番だわ。


 「まずは魔法解除かしら?」

 「無駄だ。主の魔法を有象無象が解除できるものか」

 「それはホーラックスもですか?」

 「言ったであろう? 有象無象ではと、我も主にとっては有象無象だ」

 「そうなると、魔法の増幅とかかな?」

 「主の精神がいか程かを教えよ」

 「え? あ、えっと・・・ 精神は二千五百二十一です」

 改めて見ると、バグは凄いな。これって何度も進化した影響になるのかな? それともモンスターだったからLVが上がればこんなものなのかな?

 「十倍に増幅しても、まだ届かぬか。さすが主、厄介な事だ」

 ホーラックスのもらした呟きには、悔しさのようなものが混じっていた。魔法を十倍に増幅なんて、早々できるものじゃない。魔法使いにはさまざまな形で魔法力を強くする方法があるものだけれど、そのどれもが二倍に届く程強化できたという記録は存在していなかった。それは確か神官の奇跡でも同じだったと習った記憶がある。

 しかし十倍か・・・ それでもバグにかける魔法としては役不足だとホーラックスは判断したんだよね・・・ ほんとにどんな化け物なのって言いたい程、バグの力は桁違いに高過ぎる。

 「あ、影武者の子ならバグと同じ力が使えるんじゃない?」

 自分の閃きに希望が出て来たって思ったんだけれど・・・

 「あの者は主と同じ類の力が使えるのみ。同等の力は無い」

 えっとつまり同じ技とかが使えるけれど、威力は元の自分の力ってことかな? それじゃあ意味がないか・・・

 「じゃあ、パペットに増幅用の魔道具を開発してもらうっていうのはどうかな?」

 「増幅量次第だな。試すしかない」

 「ええ、お願いできる?」

 隣にいたパペットにそう言うと、頷いてくれたのでしばらくは魔道具の開発待ちになるかな。それとは別に、他の方法も考えておかないとだね。


 その後パペットは増幅魔道具を開発したものの、作れたのはせいぜい二倍に増幅するものだった。本来なら凄いのだけれど、まだ始めたばかりだったのでそのまま研究してもらい、少しでも増幅できるようなものを開発してもらうことにする。

 自分に与えられた仕事の間にいろいろと考えてみたものの、せいぜい考え付いたものといったら儀式魔法というものくらいだった。

 儀式魔法とは魔法陣を描き、そこに魔力をつぎ込む事で魔法を発動されるタイプの魔法で、その性質上複数の術者が同じ魔法を使うことで、魔法の威力を増幅することもできる魔法の事だった。後は魔力を注ぎこむ時間を長くすることでも威力を高めることができる。一人でもできるけれど、今回の場合は増幅する為の威力が半端ない為、複数人でやるのがいいと考えた。

 後考え付く事は、神官が使う魔法威力強化くらいかな? それでどれくらいバグに迫る事ができるのだろうか・・・

 私達がそんな感じでいろいろと考えていると、またパペットからの報告があがって来た。

 ファクトプス国とフラムイスト国が連合を組んで、マグレイア王国へ宣戦布告をして来たというもので、宣言と同時に国境を越えたと報告されていた。布告の内容は、フラムイスト国へ視察に赴いていたベイグランド第一王子をマグレイア王国が送り付けて来た暗殺者に殺された為の報復となっている。

 何度も何度もどこまでふざけた事をすれば気が済むのだろうか・・・ これじゃあバグだけじゃなくて、私まで人間不信になってしまいそうだった。それにしても・・・

 「ねえ、マグレイア王国の境界には結界があったんじゃないの?」

 疑問に思ったのは、今までマグレイア王国には敵が攻め込めなくなるような結界があったはず。何故その結界を通り抜けることができたのかということだった。

 「この結界は本体の方の僕が張ったものだが、永久的なものとして張ったわけではない。

 結界が消える条件は、マグレイア王国側が軍事行動をとった時に、自然消滅するように設定されていたものだ。僕が来る前のこの国は弱くて何の利益も不利益ももたらさない無視してもいい国だったが、住みやすい国にするのに比例して自然軍事力なども発達すると予想していたので、マグレイア王国がその軍事力を他国に向けた場合、僕の庇護下から抜け出すことを意味すると判断して消滅するように条件付けてあった」

 「え、でも今回は敵の方が先に戦争を起そうとしたんだよ?」

 「結界が消えたのは今回ではない。以前一般人を殺された時に、国境の兵士達が対処しようと行動を起こした事が、軍事行動とみなされたようだ」

 「そんな・・・」

 影武者のパペットが疑問に答えてくれたけれど、なんともやるせない気がした。確かに軍事行動に思えるけれど、それは一般市民を助けようとした為なのに・・・

 「とにかく、今攻めて来ている敵を何とかしないと、大勢の人が酷い目に会うわね」

 こんなやり方、ヤーズエルトさんなら許さないって一緒に戦ってくれるかもしれないと、魔王軍の拠点へと向った。事情を説明すると、思っていた通りヤーズエルトさんが一緒に行こうと言ってくれる。


 「ちょっと待ってくれんかのう」

 「うん? 何だ、ウクルフェス」

 「その役目、わしに譲ってはくれんか? バグ殿にはいろいろと世話になりっぱなしだし、ここらで恩師に借りを返しておきたいのじゃよ」

 「一緒に行けばいいだけだろうが」

 「新魔法を試してみようと思ってな。バグ殿の魔法を研究して編み出した魔法じゃ。バグ殿の留守を守る為に使うには、中々洒落の効いた方法じゃろうて」

 「まあ、俺としては直接行ってぶっ飛ばしてやりたい気分だが、そこまで言うなら任せるよ。魔法に失敗して結果が出せないとかは無しにしてくれよ」

 「ホッホッホ。そんな無様な真似はせんとも。そういうことじゃ、レイシア殿案内してくだされ」

 「ウクルフェスさん、よろしくね」

 丁度魔王軍で雑務をこなしている眷族のビルトフォックさんが歩いて来たので、現地に転送をお願いして飛ばしてもらった。そこは国境からマグレイア王国へ入って最初の村が見えて来る直ぐ手前で、もう少しもたもたしていたら村が被害にあっていたところだったかもしれないと考えると冷や冷やした。

 「中々際どかったのう。では早速始めるとするかな。レイシア殿は範囲外になった敵をお願いしてもよろしいかな?」

 「はい、任せてください。部隊召喚、グリフォン。部隊召喚、アラクネ。魔法の発動を待って、生き残りの兵士を全て捕獲しなさい」

 「そちらの準備ができたかな?」

 「大丈夫です」

 グリフォンとアラクネが左右に別れて魔法の範囲外に展開して行くの確認しながら、ウクルフェスさんに大丈夫と合図を送る。

 「では始めさせてもらおうかのう。漆黒の闇に沈むが良い、カオスフォール」

 連合を組んで攻めて来ている軍隊、おそらくは二千人くらいはいそうな兵隊達の真ん中辺りに黒い巨大な球体が出現すると、次の瞬間人も馬もそして地面すら吸い込み始めた。球体が存在していた時間は僅か十秒程だったにもかかわらず、その現象が収まった後に残っていた者はほんとに数える程の兵士で、何もかもが消えてしまっていた。

 その圧倒的なまでの魔法を前に呆然としていると、悲鳴が聞こえて来てやっと意識を戦場へと戻す。とは言っても既にやる事はもう無くなっていたけれどね・・・ グリフォンとアラクネに捕獲された生き残りの敵兵は、たったの二十八人だった。

 「じゃあわしは戻るのでな、後は好きにするといい」

 「はい、ありがとう」

 ウクルフェスさんが帰って行った後生き残りの兵士を連れて村に入り、彼らを捕虜として拘束しておくように頼んでおいた。しばらくしたら、兵士がこっちに来て捕虜を連れて行くだろうからね。いつまでもここにいると厄介事に巻き込まれるかもしれないし、事情説明を村長に任せることにして拠点へと戻って来ることにした。


 バグを目覚めさせる決定的な方法を見付けられないまま、それぞれにできることをして過ごしていると、何週間かたった頃パペットが魔法の威力を三倍にまで増幅する魔道具を開発してくれた。でもこれが限界らしいので、これ以上は魔道具に頼れそうにないね。そしてこれだけでは全然足りない。

 複数人で一日がかりの儀式と強化魔法でさらに増幅しても、まだ七倍に届くかどうかといったところだった。ホーラックスと相談して、実際にはどれくらい魔法を強化しなければいけないのか、正確な値を調べて見ると・・・

 ホーラックスを基準として考えた場合、十四倍程の強化が必要であると判明した。つまり、まだ半分しか達成されていない。

 バグって一体どれくらいの存在だったのか・・・

 「勘違いしているな。我は主より人を導く者として人の身で抗える強さに創られし者。故に今ではお前とそう違いはあるまい」

 「え、そうなの!」

 ホーラックスのステータスを見てみると、確かに全般的な能力が同程度高いものの、私の知力と殆ど違いは無さそうだった。さすがにHPとSPは、桁違いだったけれどね。

 「そうなると、他に知力の高い人にお願いした方がいいのかな?」

 「いや。主の配下で一番秀でておる者は、我である。我以上の者は存在しておらん」

 「結局のところ、ホーラックスを越える者を創る必要が無かったってことなのかな?」

 「だろうな。それ故に主を助ける手段もまた、今のところ無いがな」

 私達が力を合わせて辿り着けたところは、結局のところバグの半分までという結果だった。今のところ打つ手が無いので、それぞれに打開策を考えながら過ごして行く。マグレイア王国の方はあれから睨み合いが続いていて、あれ以上の危険などは無さそうだった。


 バグが倒れてから半年近くが経過し、私達はまだバグを目覚めさせる方法を見付けられずにいる。ウクルフェスさんにも協力してもらい、新たな強化魔法の開発をしているけれど、神官の魔法程の効果を得られていないのが現状だった。それでも研究しているのには訳があって、神官の使う魔法と系統が違うからか、神官の使う強化の奇跡と干渉しないで使うことが可能で、うまくすれば多少でも魔力の増幅に貢献できると思ったから研究を続けてもらっていた。

 副次的なもので、神官の強化魔法も威力が上がらないかの研究もしてもらっている。

 ホーラックスとベルスマイアさんは、専用ダンジョンを創って経験を積み能力の向上を目指している。半年もの間、成果らしいものがなくて焦る気持ちはあるものの、冷静さを失えば余計に何も思い付けなくなるから、とにかくいろいろな事をやってみることにする。全然関係のないところでヒントに繋がるものを考え付くかもしれないから・・・

 「やあ、苦労しているようだね」

 「黒騎士・・・」

 「今は鎧なんか着ていないんだけどな~ まあいいや。で、バグ君を起す為のヒントをあげに来たよ。彼には貸しが一つだけ残っているからね。まあ本人に返したかったところだけど、君に返しても問題は無いだろう?」

 「それでヒントって一体何?」

 現状は何の成果も得られていないから、できる事があるのなら何でもしておきたかった。

 「錬金術。君はモンスターを進化させる為に利用しているようだけれど、それは特殊な使い方のさ。本来は生物の合成は錬金術の分野じゃない。というか邪道なんだろうね~ 錬金術の本来の形は、物質の変化。モンスターが進化できるのなら、魔道具も進化できて当たり前じゃないかな?」

 「まさか、魔道具を合成する事なんてできるの?」

 「魔道具なんて、ゴロゴロ転がっていないからその発想に至る者はいないだろうけど、理論上はそうじゃないかい? それにいきなり望む結果が得られる事なんかないんだから、後は研究次第さ。まあがんばれ~」

 それだけ言うと、黒騎士はどこかに行ってしまったけれど、必要なヒントは既に聞いたので後は実験を繰り返すだけ。パペットに早速増幅用の魔道具の量産をお願いして、魔道具の合成を始めることにした。


 「なあ、勇者って何人もいるものなのか?」

 さまざまなものと合成して、望む効果を発揮する魔道具の進化を試していると、唐突にヤーズエルトがやって来てそう言った。

 「さあどうなのかしら。私の知っている勇者ならハウラスだけだけれど」

 「だよな~ フレスベルド国の東の国々から噂みたいなものが聞こえて来たんだが、どうも勇者が召喚されて、人々をまとめて魔王を倒そうって活動し始めたって言うんだが、どう思う?」

 「パペットに調査してもらうわ」

 「よろしく頼む」

 なにやら厄介事が起こりそうな予感もするので、早速拠点に戻って書庫を訪ねると、司書パペットに情報を集めてもらった。現時点でわかっている事は、オクロウス国というところで、現状を打開するべく召喚された者がいるのは本当の事なんだそうだ。

 しかし呼ばれた者は、城の兵士にも負ける程実力が無く、一般市民のように戦いと無縁であったとか。

 ただ、召喚の魔法で人間を呼んだという事実がその人物を勇者ではないかと誤解させているらしい。今は修行しているのでオクロウス国でも様子を見ているという感じだった。

 何か起こるにしても、しばらくは時間がありそうね。一応今ある情報を四天将に伝えて、魔道具の合成に戻ることにした。


 それから一週間もしないうちに、新たな情報が上がって来た。例の召喚された勇者が異形を退治したというものだった。その情報を四天将に伝えると、一度会議を開こうという話になる。

 「まずは最新の情報を教えてくれるかな?」

 そう言って来たのは初めて会う事になった知謀四天将で、現マグレイア王国の第一王子であるオーリキュースだった。

 何で王子様がこんなところに?

 「まず召喚された勇者の名前はタダヨシって言うみたい。

 呼ばれた当初は剣すらもまともに持った事が無い一般人だったらしく、城の兵士にも勝てなかったらしいけど、今現在は異形も倒す程の実力だという話ね。それをもってオクロウス国は正式に勇者であると発表して、周辺国に協力して魔王を討伐するよう呼びかけているそうよ。

 これに賛同した国には勇者を派遣して、国内の異形を退治する事で協力関係を確かなものにしている感じみたい」

 「その異形というのは、デミヒュルスの事だな?」

 「ええ」

 「あの怪物、デミヒュルスって名前が付いたのか」

 そう口を挟んできたのはヤーズエルトで、東の方では名前とか付けていなかったことがわかった。まあ名前なんかどうでもよかったのかもしれないね。

 「うむ。さて、素人がいきなりデミヒュルスを倒す程に強くなったということだが、才能に目覚めたにしては強くなるのが急過ぎる気がするな。何かしらの魔道具で底上げしているのか、勇者に祭り上げる為に強い部下をパーティーに入れたとも考えられるな」

 「情報によると、パーティーの方は無いかな。彼は一人で行動しているみたい。魔道具の方は事実関係がわらないけれど、いくつかの魔道具を所持していることは確認できているみたい」

 「ド素人が魔道具を使ったからといって、即上級冒険者を越える程に強くなったりはせんじゃろう。おそらくは何かしらの技能を手に入れたのじゃろう」

 ウクルフェスさんが意見を言って来た。技能、スキルだったら確かに可能性があるね。

 「では一番可能性の高いのは、魔道具で底上げして技を使って劇的に強さを手に入れたという線か。そうなって来るといずれこちらにやって来るのは確実だろうな。防衛の準備を進めておいた方がいいかもしれん」

 「じゃな」

 「だがよう、魔王軍は実質的にまだ稼働前で、戦力は無いぞ」

 「問題はそこじゃろうな~」

 「レイシア嬢、モンスターは使えないのかな?」

 「コボルトが大体七十体。ゴブリンとオークが大体五十体ずついるけれど、まだ経験集めの途中で異形を倒す相手に戦力になるとは思えないわ」

 合成で進化している者が中にはいるものの、全員にはまだ手が回っていない。進化していたとしても結局は異形と張り合える強さをもっている子はいないと思えた。

 「勇者はヤーズエルト殿とウクルフェス殿がお相手してくれるだろうか? 周りの兵士の相手をモンスターがするのであれば、何とかできると思うのだがどうだろう」

 「おうよ! 任せておけ」

 「わしもそれで構わんよ」

 「じゃあなるべくモンスターには経験を積ませて、進化させるようにしておくわ」

 「レイシア嬢、モンスターの状況はなるべく詳細に教えておいてくれ」

 「わかったわ」

 方針が決まったので、それぞれ準備をする為に行動に移った。バグを起こす為に魔道具の進化を試したいけれど、まだ目処も立っていないから、先にモンスターを成長させることにした。


 それからはまるでお互いに争うように互いの戦力を整えて行った。オクロウス国は勇者を中心に人類軍を名乗り、周辺の国々からかき集めるように兵士を集めて物量で勝負といった感じで、それに対して魔王軍は個々の質を高める為に連日ダンジョンへと潜って経験を稼いでいた。

 勇者が人類軍を設立して魔王城まで遠征しようと動き出すまでに、かなりの時間を必要とする。

 人が動くには道中の食糧とかも必要になるから、ただ馬車に乗り込めばいいってものではない。だからといって補給物資をいちいち運んでいてはそれだけ運べる人員も減るし移動速度も鈍ってしまう為に、道中の通過する村や町にあらかじめ補給物資を届けるように、周辺の国々に手配しているようだった。

 準備を整え魔王城の周辺まで勇者がやって来るまでにかかった時間は大体二か月くらい必要だったみたいで、その間にこちらのモンスター達は全員LVを上げて、元がどんなモンスターだったのか誰も見た目ではわからない程に進化していた。

 元が何だったのか知る事ができるのは言葉で、彼らは種族が違うものの元々の仲間で群れを作り固まって行動している。

 これから戦いが始まるという空気を感じた為か、なんとなくぴりぴりした雰囲気でオーリキュースの指定する配置へと向って行った。

 LVだけで言えば、彼らは十分強くなったと思うけれど、なんといえばいいか変わった実際の種族と比べると戦い方が直線的なのが、ちょっと心配な感じがする。

 それでも、今はあの子達にがんばってもらうしかないと考えた。

 魔王城を取り囲む兵士の数は約一万。これは今現在の兵力で、今後周辺の国からまだ兵力が集まって来ると思われる。その為魔王軍は戦力を削られないよう行動しないと、一気に物量で押しつぶされるのがわかった。

 私は時間が空けばバグを起す為の研究をしていく。

 バグが目を覚ます前に戦闘に入る事はもうわかっているけれど、下手をすればこのまま壊滅したりするかもしれない。今いるメンバーで何とか持ちこたえている間に、バグを目覚めさせろというのがオーリキュースからの指示だった。


 そしてとうとう人類軍が最初の攻撃を仕掛けて来た。

 といっても相手もいきなり総力戦を挑む事はなく、こちらの戦力を探ろうという軽い戦闘のようで、向かって来た兵力は大体千人位と勇者が来ただけで、残りは包囲を続けているみたいね。

 こちらからはヤーズエルトと、正面に配置されたモンスター達が迎撃に出て行った。その戦闘は、大体時間にして二時間程であっさりと終わる。勇者が突然引き上げ、それにともない生き残りの人類軍も撤退したからだった。

 「さすが勇者を名乗るだけあって、そこそこには強かったぞ」

 「ほう。そこそこってことは、そこまで危惧することはないということだな?」

 「ああ、せいぜいデミヒュルスを倒す事ができる上級冒険者って感じか」

 「何とかなりそうだな。それでこちらの被害は?」

 「やられたのは二・三体といったところか。重傷者は治療を受けさせている」

 「損害は軽微だな。これならバグ殿が目覚めなくともなんとでもできるか」

 「だな」

 オーリキュースとヤーズエルトがそうまとめた。

 人類軍の初戦での被害は、半数の五百人近くが倒れる結果になったみたいだけれど、その状況がわかっても人類軍に引く様子は見受けられず、まだまだ戦いは続くようだった。魔王軍に与えたダメージは殆どないといっていい状況で、撤退しないという事が、何か奥の手でもあるんじゃないかと私に思わせた。

 オーリキュースが言っているように、バグの力を借りなくても済めばいいんだけれど、勇者がやって来てから嫌な予感が止まらないので、早く研究を進めなければと時間を見付けては合成を進めている。


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