改革
王子の運営する学校が開校した。学校には私達も係わり合いになる予定で、非常勤講師として参加する事になっていた。普通の教師とは違い受け持ちの生徒に教えるのではなく、バグが教えようと思った生徒だけ教育するといった方法を取るみたい。
学校が始まってからダンジョンでの経験集めとたまに教室で生徒の相手をするようになる。それと、もう私だけでも異形と十分に戦えるようになったと判断したのか、ブレンダと付き合いのある国へ異形退治に出かけたりもする。
学校の運営も最初にしては大きな問題もなくトーナメントみたいなイベントなどもやったりして、うまくいっているようだった。
そんな中バグが生徒に絡まれるようになった。ハウラスという生徒が冒険者になりたいからと、何とかしてくれってバグに迫って来ていた。冒険者になりたいのなら自分で努力したらいいのに・・・ 努力してできないのなら仕方がないかもしれないけれど、やる事をしないでバグに頼るなど甘えた生徒だと思う。
それでもバグは一応教師として何ができるのかを見付けようと、いろいろ指示を出してあげているところが優しいなって思う。生徒の勢いに流されているだけっていうのはないよね?
絵を描けとか歌を歌えとか、それが冒険の何に役に立つのかさっぱりわからなかったけれど・・・
生徒もそう言って文句を言っているようだったけれど、文句があるなら自分で何かしら見付けたらいいんじゃないかなって思ってしまった。
はっきり言って彼はバグ教室の生徒ではくて、ちゃんとした担任がいる。何で自分の担任教師に教えてもらわないのかな?
その後もたまに面倒を見てやりながら過ごしていると、ブレンダから私の家が復興したという話が突然出て来て、冒険者を辞めて帰って来るようにとお母様が言っているみたいだったけれど、バグが説得してくれて何とか今のまま過ごして行けるように話を付けてくれた。
お金にも余裕ができていたので今までお世話になっていた分も含めて、親戚に当たる貴族達には謝罪のお金を支払い、引き続きお母様の面倒を見てもらう事になる。貴族の生活なんか元々知らないし、バグの側を離れたくないしね。
リンデグルー王国は今、隣国と険悪な仲になっているので私を戦力として引き込もうと家の復興を考えていたらしい。その後しばらくし隣国に攻め込まれて、ブレンダも戦場へと駆り出されたと聞いた。
私を取り込む事に失敗したリンデグルー王国は、次はバグに目を付けたようでケイト先生が派遣されて来た。バグに爵位を与えてもいいと言って来たようだけれど、バグは当然のように断る。なんだかドンドン物騒な事になっていっているみたいだわ。
少し気が滅入る出来事が続いているなと思っていると気を利かしてくれたのか、久しぶりにのんびりとしたお遊びの冒険に行かないかと誘ってくれたので、嬉しくて即行きたいと答えていた。
冒険の目的は美味しい蜂蜜を集める為に、スイートビーというモンスターの巣を集める事らしいので、その蜂の巣から取れた蜂蜜を使ってハニートーストというデザートを作ってくれるそうだ。
ちょっと聞いただけでも美味しそうな気配がする。
トーストというのはパンだと言っていたので、蜂蜜をかけたパンらしいけれど、どんな感じのものなのか予想できない。多分バグが紹介してくれるものなので外れはないと思うから、今からわくわくしてしまった。
初心を思い出そうという感じでのんびり街道移動して行くと、辺りが暗くなって来る。
今までは転移で移動したり、暗くなれば拠点でゆっくり休んだりしていたけれど、今回の旅ではそういう事をしないで昔のように野宿の準備をしたりする。
私もせっかくバグが作ってくれた料理道具があるので早速取り出して、野生動物を使った料理などを作ってみた。昔に比べさまざまな知識も増えて今では食べられる草などもわかるようになっているので、山菜を作った炒め物とかも作れるようになっていた。
二人で食事を取って見張りも初心者のように交代でして、なるべく昔のような冒険を楽しむ。
こんなのんびりとして、穏やかな冒険なんかどれくらいぶりなんだろうか・・・ バグもたまにはこういう冒険もいいなって言いながら、楽しんでいるみたいだった。
途中ブレンダから連絡が来たりしていたようだけれど、冒険を中断するような連絡じゃなくてよかったと思う。
そして順調に進んで行きスイートビーを実際に目の前にすると、かなり大きな蜂でめったに蜂蜜を取る事ができないと言われているのがよくわかった。戦ってみるとそこまで強く無さそうで、厄介なのは数だけだというのはわかったけれど、それは私達だからで普通の冒険者ならまず間違いなく手を出そうと思わない相手だなって思える。
だからこそなのか、取れた蜂蜜は言葉を失う程美味しいものだった。
バグがふと拠点で育てたいなと言ったのにも納得ができ、花の栽培を試してみようと土と水を手に入れる為の新たな冒険を始める。その最中またブレンダから連絡が来て、どうやらハウラスが勇者様認定されたようだと聞かされた。
久しぶりに味わった穏やかな冒険の余韻に浸りつつ、拠点にブレンダも呼んでハウラスのその後の報告がてら、バグが作ってくれたハニートーストを味わっていると、ハウラスが異形を複数相手でも問題なく倒せる事がわかって、正真正銘の勇者として認められたという話をしていた。あの手を焼いていた生徒が勇者なんだ~
話はそのまま雑談に移って行ってバグが作ったカメラという魔道具の話へと変わっていったのだけれど、カメラを悪用する人が出て来たようだった。前もってバグが対策を取っていたから、たいした問題にはなっていなかったけれど、そのバグの用心深さをブレンダが褒めているとバグは半分くらい人間不信で、信用できる人間は殆どいないのだと言っていた。
私の事も信用できないと聞かされてちょっとショックだったけれど、それは何度も合成してしまった私がいけなかったらしい。
確かに申し訳ないとは思うけれど、それはバグとこうして一緒にいろいろしたからだったから・・・ いい訳だとわかっていても、わかって欲しいと勝手なことを考えてしまう。
のんびりとした冒険が楽しかったので、また冒険に行こうと誘われて次は経験稼ぎの冒険へと行く事になった。
そこはかつての魔王軍に所属していた魔族が住んでいる場所だったらしく、今のバグが全力を出さなければいけない程危険な所だった。バグがダメージを受けるところなんか、見た事もなかったので凄く驚いたよ。
かつての魔王の部下らしいのだけれど、バグはなんとなく誰にも負けないと思い込んでいた。最初の部屋で会った魔族を倒した後、同じくらい強い魔族が後二人もいると聞いて、倒して来るから待っているように言われた。
さっきも足を引っ張りかけたので大人しく指示に従うけれど、今回ばかりは本気で心配になり落ち着かなかった。帰って来たバグを見てホッとしたのもつかの間、気が付いたら全身黒い鎧を身に着けた人が横にいて、その人に魔王軍に誘われていてどうやらバグはそっちに行ってしまう事に決めてしまったようだった。
初めに魔王軍と聞いた時には正直嫌だとも思ったものの、イメージしていたような魔王軍では無さそうだったので、それならばとバグに付いていく事に決める。バグと一緒にずっと冒険をしていたからなのだろうか? それとも私が召喚術師としてモンスターを使い魔にしているからか、そこまでモンスター側に嫌悪感を抱かなくて済んだ事と、人間の汚い部分なども結構見て来たので、魔王軍と言う名の反乱軍として私も一緒に活動してもいい気がした。
予定外な事が一杯起こったけれど、話が付いて目的の経験集めをしながらバグにこれだけはと聞いてみる。
「結局バグは、何で魔王軍に入ったの? メリットがあった?」
「正直、メリットはないな。でも、魔王こそがこの世界でほんとの平和を作っているっていうのは、僕的にはポイントが高いかな。まあ、ひねくれた考え方なのだけれどね」
正直を言うと、何がそんなにバグの心に響いたのかわからなかったけれど、どことなくバグらしいなとは思った。
だけど私の事も考えて魔王軍に行くかどうか迷ったらしく、私の意思を聞いて一緒に同じ所へと連れて行ってくれた事が嬉しかった。少なくとも、バグの中に少しでも私という存在が受け入れられている事がわかってよかったよ。
私達の生活そのものは何一つ変わらないものの、所属は魔王軍に変わった事で職業に変化があったみたい。バグの職業が魔王軍特技四天将で、私は魔王軍特技副官に変わっていたと教えてくれた。ただバグのステータスは見せてもらった事がないのでわからないのだけれど、私の方はステータスカードに書き込まれそうになったみたいで、いくらなんでもこれが見られたらまずいと言う理由から職業は???になっていた。
早々ステータスを見せる事なんてないと思うけれど万が一という事もあるからだろうね。
それにしても魔王軍になったらもっと殺伐とした世界とかに変わるかなと考えていたけれど、現在の私達は学校の生徒達の卒業の話などをしていた。以前とまるで変わらない生活ね。
リンデグルー国家と違ってこちらの学校は一年で卒業にするみたい。一年だけしか学べないのはきつそうだなって思った事もあるけれど、バグの作った初心者ダンジョンを攻略できる実力があれば問題ないと判断したみたいで、それに実際卒業は難しいのではと思われる生徒はほんのわずか一握りだけで、その一握りの生徒達は本人達にあまりやる気がないからだったらしい。その結果は王子の指導が優れていたのか、バグが凄かったのかどっちなんだろうね?
卒業した生徒達がリンデグルー国家のギルドまで、冒険を求めて移動して行くのを見守る為、私達もギルドに行くと懐かしくなって私達も昔のように依頼を受けてみたくなる。
バグに聞いてみると問題ないって言われたので、依頼を受けて久しぶりのクエストへと行ってみるけれど、もうこのくらい弱いモンスターになって来ると、バグからの加護もあるからわざわざ魔法を使うまでもなくなっていて、以前にプレゼントされた剣を使って戦士のようにサクサクと倒していけるようになっていた。
クエストが終わって帰る時に、バグが黒騎士と呼んでいた魔王軍にスカウトして来た人が待ち構えていて、依頼を持ちかけてられる。羊皮紙を渡されてバグと一緒に見てみたのだけれど、知らない文字で書かれていたので内容がわからない。
内容を聞くと、悪事を働いている大臣がいるからその大臣をどうにかするのが依頼の内容だった。
これが魔王軍の活動なの? 魔王軍という言葉からすれば人間を襲って殺せみたいな内容ならありそうなんだけれど、これじゃあまるっきり正義の味方みたいだった。まあ解決方法はお任せという話なので、殺すのでも問題ないらしいけれど、バグは暗殺みたいな方法は取らないみたいだね。
どうするのかなって思っていると、証拠を揃えてちゃんとした法の下で裁くように国王に話していくと言っていた。
魔王軍っぽくはないけれど、バグっぽくはあるかもしれない。バグはなんだかんだ言いながら、結局いろんな人の為になることをしているからね。
今回の活動は魔王軍としての活動になるという話で、私達は拠点で裁縫仕事を担当している女性型パペットに魔王軍っぽい黒尽くめの衣装と、木工や細工仕事をしているドワーフ型のパペットに仮面を作ってもらって、身元をわからなくすることになった。
こういう衣装を着るとなんかそれっぽくて楽しくなるね。魔王軍らしい仕草とかそういうのも、身に付けた方がいいのかしら? 高笑いとか?
国王の前に行く衣装の準備ができ、大臣の悪事の証拠などもパペットが集めて来たので、早速大臣を捕まえて国王の前に転移すると、国王は証拠を確認したのにも拘らず大臣を裁かないと言う。
理由は大臣が権力以外にも、魔族を操る力を持っていた為手が出せなくなっていたからだったらしく、バグが襲って来た魔族をあっさり捕獲したら国王が公開裁判で、大臣を裁く約束をしてくれた。その後は一応魔族が復讐の為に暴れないか見届けてから帰って来る。
依頼が終わり満足そうなバグを見ていると、こういうことがやりたかったのかなって考えてみる。でも以前バグは正義という言葉が嫌いと言っていた気がするのに、何でだろう?
確かに日常的に正しいと思う行動はしていなくて、何かの拍子にたまに人助けをしている気はしていた。かと思えばとても冷徹な態度になったりもして、そういうところは怖いと思ったりもする。何か、バグにどんな判断基準があるのか、気まぐれなのかまだまだバグのことはわかっていない事が多そうだった。
生徒達がリンデグルー国家に迷惑をかけていないこともわかったので、私達は再びマグレイア王国でのんびりと過ごしていると、今度は王子から多国籍会議に出席するようにと声をかけられた。
ダンジョンが周辺国家に知れ渡って、それが軍事力の強化に使われていると問題視されているとか、何かそんな事を話し合うのだそうだ。ダンジョンがどこの国にあって、それを軍事利用したって別にいいんじゃないのかなって思うのだけれど、周りの国からしたらマグレイア王国に強くなって欲しくなくて文句を言いたいだけなんだろうね。
バグは王子からの話をふーんって感じで聞いていて、そんな事よりも学校の生徒達が読み書きできない事の方が重要な話だといった感じで、村などに行って村長に子供の生活についての話を聞いたりしていた。
バグにとっては国の話より、子供の方が大事なのかなってちょっと不思議に思う。別に大人になっても読み書きできない人は一杯いるので、そこまで問題にするような事ではない気がするのにな~
勉強に必要とされる本と教師役にサフィーリア教会の協力を取り付けて、子供や教えを乞うて来た大人に読み書きを教えて行く環境をバグは作っていった。
本に関しては紙という物を作る為に草の栽培から始めたみたいで、貧しい村に本を作る工場と草の栽培をする土地を確保していた。
バグが言うところ需要と供給を作れば、お金が流れるようになって少しずつでも貧しさから抜け出せるようになるって話みたい。子供の教育も今直ぐの話ではなく何年か、場合によっては何十年かしてからやっとその意味が出て来るという話だった。
一体バグは何を見てこんなことを始めたんだろうね・・・
サフィーリア教会に協力をお願いした関係で、城下町と各村や町にも教会が建てられて、本来ならば国がやるような大きな改革がバグによって始められた。
この件で私が関わった部分は読み書きを習う時に使う本の内容を決めるところで、ブレンダと相談しながらやってみた。ブレンダが貴族の教育で使われている本を持って来てくれたので、それに私達なりの解釈を加えたり余分だと思うものを省いたり、最終的にはサフィーリア教会の修正を入れて本として増刷された。驚いた事に原文を一つずつ模写しなくても、工場で草を機械とやらに入れるだけであっという間に紙が作られ、魔道具に紙を入れるとまったく同じ文字が書かれた状態で何枚も出て来て、それを村人が折ったり縫ったり切りそろえたりすると複数の本になってしまう。一冊の本が出来上がるのは普通なら何ヶ月もかかる作業なのに、ここでは一分もあれば一冊できてしまう。
ただただ驚くしかない衝撃な出来事だった。
バグによれば、いずれは普通に暮らしている一般人でもお手軽に本を読めるようにしたいという話で、そんな未来が来たら凄いなって感じたよ。バグが言うと、そんな未来も本当に来るかもしれないって思えるのが不思議だけれど、バグには実現できるだけの頭と力があると思えた。
本ができると早速各教会へと配られ、子供への教育が始まる。そして一段落付いた私達は、多国籍会議に出かける。
会議そのものは王様が対応してくれたので、こちらは何もしなくても良かった。ある意味こちらを完全に無視していたのでちょっと王家には良いイメージはなかったけれど、面倒事にならないならこれからも関わらないでいいかと考える。
ダンジョンの追求が終わったのはいいのだけれど、私達がここの会議に同席させられている事に文句が出て、なぜか実力を見せなければ容赦しないぞって感じになっていた。
バグがそれに対して取引を持ちかけ、ドラグマイアの第一皇女だけがその取引に応じたみたいだね。皇女殿下はバグの実力を理解してくれたのはいいけれど、またバグの周りに女性が増えた事がなんだか嫌な結果だった。
ブレンダに続き、皇女殿下もバグと水晶で話をしている・・・ いっそ他の人と話す暇がない程一日中バグとお話してしまおうかしら・・・
しばらくして、ブレンダのお店に造られた私達の部屋に来客が来ているようなので、顔を出してみると知らない男の人が待っていた。どうやら依頼があって来たみたいで依頼書を見てみると、知らない文字で書かれていた。
これって以前の魔王軍の依頼を持って来た時に似ているわね。ということは黒騎士の中身の人かな? でもって今度も何か魔王軍がらみの依頼になるってことね。いつの間にか話はまとまっていて、早速ヤーズエルトという近衛騎士隊長って人の事を助けに行くことになっていた。
現地に付くと、今まさに戦争が始まったって感じの状況みたい。
そしてその中心地ともいえそうな場所に、真っ赤な鎧の目立つ男の人が両軍を止めようと必死にお互いを押し戻そうとしているのがわかった。片方はヤーズエルトと色違いって感じの鎧を着た兵士達で、もう一方は武装がバラバラの民兵か傭兵みたいな感じの集団だった。
私達がそこに移動すると、周囲が警戒した隙にバグがシールドの魔法で囲い、ヤーズエルトと話をする為に周りの両軍をスリープの魔法でまとめて眠らせてしまう。さすがバグの魔法だけあって、抵抗できる人は一人もいなかったみたいで何千人という人が一斉に眠ってしまう。
その間に黒騎士が勧誘をしていたのだけれど、ヤーズエルトから条件を出され、それを私達が解決することになったみたいね。条件の内容は、サラ姫にかけられた疑いを晴らし、姫が再び王宮へと帰れるようにすることらしい。
事情を調査する為にバグに変身の魔法を使ってもらい、ハツカネズミといわれる白いネズミになったのは楽しかった。後バグが小鳥に変身していて、その背中に乗れたのも新鮮な体験だったよ。
そういえばドラゴンに進化したら乗りたいって思っていたんだけれど結局ドラゴンにはならなかったわね。代わりに今乗れて良かったと思う。
調べて見たところ、結末自体は偶然みたいな感じで、ダンジョンの封印が解かれそれをいろいろな思惑を持った人が利用した結果、最終的にサラ姫に罪を着せるという結末に繋がっていたらしい。国王すらサラ姫を利用していたとは酷い話だった・・・
サラ姫を王宮へ戻す為にバグがとった手段は国王の入れ替えで、ここでもまたサフィーリア教会の力を借りたりしていたけれど、なんとかうまくいったみたいでヤーズエルトの条件は無事に満たすことができた。
そしてヤーズエルトは魔王軍遊撃四天将となって私達魔王軍の一員になった。ちなみに、ヤーズエルトは私のことをただの一般人みたいな感じに思っていたみたいなので、ちょっと剣を抜いてあげたら実力差を理解して謝って来た。ある意味彼は私の後輩じゃないかな?
新しい仲間が入ったけれど、魔王軍はまだ活動していないのでとりあえず今はマグレイア王国に帰って来る。
今回の騒動の途中で、サフィーリア教会から頼まれごとをされたみたいなので、その対策をしなければいけないんだって。
内容は難民の受け入れなんだそうだけれど、人数がとても多く四百人近くいるんだそうな。必要な準備はそれだけの人間が生活していける場所と家、食べ物などが必要で直ぐどうこうできるものではないのだけれど、教会の方でも備蓄が無くなりそうなので猶予はないみたい。
だから余計にバグは急いで準備を始めていた。こんなの一冒険者に頼む事じゃないって断ってもいいのに、助けようとがんばるなんてバグはやっぱり基本良い人なんだなって思う。
そしてバグはマグレイア王国の紙工場を造った村を町に造り替えてそこに難民達が住めるよう環境を整える準備を始めた。
住む所はパペット達ががんばって造ってくれるので、まずはこの町に作る建物の配置とか道をどうするかとか、そういう話し合いに参加させてもらい、私達の考えた配置を多目的シートの上にドンドン描いていくと、想像上の町が出来上がっていくのを見て、私の町って感じられてとても誇らしく思えてきた。
でも住むところはどうにでもなったとしても、問題は食べ物だろうね・・・ この国はただでさえ貧しい国なのに、そこに四百人もの飢えた人々がやって来ることになる。ご飯がないと争いが起こっちゃうよ・・・
そう思っているとバグは畜産場という野生動物を捕獲して育てる場所を造り出した。森で狩をして来るのでは駄目なのかな? いまいち畜産というものがわかっていなかったけれど、バグは丁寧に説明してくれる。
安定した肉の確保ができて、ミルクや卵といった副産物も収集できるようになるのだそうだ。さらにその他にも肉だけでは駄目だと言って透明で大きな家を建てて、そこで野菜を育てると言っていた。
透明な家の中には基本立ち入り禁止なんだそうで、中ではパペットが働いていると教えてもらう。そのパペットのお仕事は、育った野菜を人間に渡すことらしい。
なんだかんだと四百人もの人間を余裕で受け入れてしまうような環境を創り出してしまったバグは、もう神様のようだったよ。実際は魔神という魔族の神様だけれどね。
透明な家でスイートビーから取れた蜂蜜の劣化版を作ると言っていたので、美味しい方の蜂蜜の事も思い出しブレンダにもお裾分けしようという話になる。一瓶預かって早速ブレンダのところへとお邪魔することにした。
「ブレンダ、今いいかしら?」
「いらっしゃい、レイシアさん。少し待っていただけるかしら」
「ええ」
少し待つと、仕事を終わらせたブレンダがお茶を用意してくれる。
「それで今日はどうしたの?」
「前に話していた蜂蜜を持って来たんだけれど」
お茶を飲みながら話し出したブレンダに、持って来た蜂蜜を渡す。
「難民が来て町になった所に透明な家ができたんだけれど、そこでその蜂蜜の劣化版を作るって話も聞いたよ」
「へー 特産品になりそうね。この蜂蜜の劣化版ってちょっと興味がありますわね」
「まだどんなものかわからないけれど、一般家庭で味わえるものにするって言ってたかな」
「そっちも欲しかったわね。それでこっちは今後、この形で取引してもらえるのよね?」
「多分。詳しくは聞いていないけれど、パペットがその瓶に詰めているみたい」
「これだけの量になると、かなり価値がありそうだわ。ありがとうね。せっかくだから何かにかけて味わってみましょうか?」
「ハニートースト?」
「あんなフワフワなパンなんて、バグのところにしかないわよ・・・ 思い出したら食べたくなっちゃうじゃないまったく・・・ 固めのパンでも、美味しくなるかしら?」
「試してみる?」
「そうしましょう」
執事に頼んで、パンをいくつか用意させた後、私達はパンに蜂蜜をかけて食べてみた。
「蜂蜜が美味しいのはわかっていましたが、あの時のハニートーストを知っているだけに、微妙ですわね」
「そうね。やっぱりバグに作ってもらわないと駄目かも」
「こんな美味しい料理やデザートが食べ放題って、貴方相当贅沢になったわよ」
「確かに、高級料理とか食べに行くよりバグの料理の方が、ずっと美味しいもの。外に食べに行く事って殆どなくなったわ」
「ねえ、私の家で料理長にでもなってよ。バグが駄目でもレイシアさんでも歓迎するわよ?」
「嫌です。私は冒険者がいいの」
「まあ、そうですわね」
「お邪魔するぞー」
そんな話をしているとバグがやって来た。何かあったのかな?
どうやら詳しい打ち合わせに来たみたい。畜産場を造ったとはいっても、造って直ぐに肉の供給が始まる訳ではないのだそうだ。ミルクもこれから徐々にという話らしいので、安定するまでの繋ぎとしての食糧供給をブレンダに頼みに来たみたい。四百人もいるんだものね、ちょっと軽く考え過ぎていたみたいだわ。でも最終的には何とかしてしまうのだという安心感があるのよね。
まだ王国の方からは許可が出ていないようだったけれど、バグは町の計画図が出来上がっていたので早速作るように指示を出していた。
まずは今まで住んでいた村人達の住む所ができて、そこから難民達が暮らしていく為の建物がどんどんできていく。ある程度建物が完成すると、早速移住を開始させる事になった。
村人やサフィーリア教会の人が難民の誘導などを手伝ってくれるので、私も誘導や怪我人などがいないか見回りなどをしていくことにする。
バグは途中で、ブレンダからの救援物資が干し肉やパンの類が多いことを気にして、野菜を確保する為に透明な家に向かったみたい。確かに、野菜を栽培する場所は直ぐにできても、収穫までは何か月もかかるものね。でも今からどうにかできるものなのかしら?
難民を大きな屋根付きの家に収容して、今後の仕事などを割り振っていると、バグが帰って来て野菜を運ぶように指示を出していた。あれ? さっき出て行ったばかりでもう野菜ができたの? 運ばれて来る野菜はそこそこ種類もあって新鮮そうなものばかりだったから、確かに今収穫して来たのだという事がわかったけれど、これだけの野菜をどうやって収穫してきたのか不思議だった。
とりあえず、難民のみんなは長い間ろくなものを食べていなかっただろうから、これらの野菜や肉を使って早速料理を作って行く事になった。
私も料理を手伝おうと思っていると、バグがせっかくだから料理の腕を見る為の試験にすることに決める。美味しい料理を一杯作れた人が、当面この町の食堂を切り盛りすることになるのだそうだ。確かに味と作る速度、後は一杯作らないとやっていけないだろうしね。
王国からの許可も無事に出て、村は町に変わって名前も付いた。
レイバーモルズ町。それが私達の造り上げた町の名前。
最初に多少の混乱はあったものの食事が出て来て住む家もあり、仕事も見付かるとだんだんと落ち付いていったみたい。
それを確認した私達は一度拠点へと戻り、多国籍会議の時に知り合ったラデラ皇女のところへ行く事になっている。実力を証明する為に異形を討伐したので、そのお金を受け取りに行くのが今回の訪問の目的だった。
ドラグマイア国での私達の立ち位置は国賓で、周りに人がいない時にはラデラ皇女の友達という関係になっている。今回表向きは異形が駆逐されたお祝いとされていて、そのパーティーは光と音に溢れたとてもキラキラしたものだったので、驚いて周りを見回してしまう。こういうキラキラしたものはバグの拠点くらいにしかないものだとばかり思っていたけれど、あるところにはあるんだなって思ってしまった。
バグは特に珍しくもないって感じだったからか、ラデラ皇女がなにやらむきになっていて、訳がわからないうちにバグとダンスと言う踊りを披露するという話になっていた。
でも私もダンスなんて聞いたこともないんだけれどどうすればいいの?
「まず初めは右足を一歩後ろに、続いて左足を後ろに、その次は僕に合わせて回転して。その次は右足を前に、左を前に、そして回る。これを繰り返していればいいから、姿勢は背筋を伸ばして目線は僕の背後を見ていて」
ほんとに軽く教えられ、後はバグの動きに合わせて必死に付いて行く。大勢の人が見ている前で、こんなにも近くバグと抱き合う程の距離でクルクルと動き回って、私はいつ音が終わったのかもわからずにいると拍手の音でやっと終わった事に気付かされた。
ダンス、何かとても素敵なものだっていうのは理解出来たよ。
なんていうのかバグと一体になって動いていた気がする。この場の雰囲気というものもあるだろうけれど、夢の中にいるようなフワフワした気分でその後どう過ごしていたのかよく覚えていない。




