専用ダンジョン
パペット達を使ってなにやら調べ物をしていたバグが、様子を見て来ると言ってどこかへ行ってしまう。一緒に行きたかったけれどしばらく待っていると直ぐ帰って来てくれて、こじんまりとした自然しかないような国が存在していて、そこはギルドすらない国なので、のんびり暮らしていけそうだという話をして来た。どうやらギルドと揉め事が多くなってきたので、暮らしやすい場所を探してくれていたみたいね。
「冒険者として活動できないかもしれないが、のんびりと暮らしていくにはよさそうな所だった。どうする? 拠点を移してみるか?」
「そうね、いろいろあったし移っちゃってもいいかもしれないけれど、私も一度その国を見てみたいかも」
「じゃあそうするか。町を見て回って、気に入らなければまた探してもいいしね」
「うん!」
バグが探して来た国はマグレイア王国という国で、目立った特長がなくそこそこ大きな国五つに囲まれているのにどこからも侵略されない程、寂れた感じの国だった。全体的に貧しい国っぽいものの、暮らしている町の人達は笑顔の人が多くここが貧しくてもいい国なんだと感じられた。
美味しそうな匂いに誘われて、露店で串を買っていると後ろから兵隊を連れた人に声をかけられ、その人が王子だと聞いてビックリしたものの、襲って来たり捕まえに来た訳では無さそうなのでそのまま町の中を見て回る。
途中バグが王子に話しかけるとギルドは存在していないけれど、討伐依頼みたいなものを紹介している役場はあると教えてくれたので、早速そこに向かうことになった。
ギルドと同じ感覚でお金を稼ごうと思うと役場の依頼料では割に合わない金額だったけれど、経験集めができる相手は少しいるみたいね。他の冒険者はいないようなので、依頼が重なる事はないからとリストをそのままもらって、討伐して回ることにした。
今日は初日なので街の近くのモンスターを何体か倒すだけにしようと考え、ユニコーンを召喚して移動する。王子達は兵舎で馬を借りてまで、私達に付いて来る。何がしたいんだろう?
バグは羽がある種族になったので、翼を広げて飛んでいたのだけれど、なんだか自由に空が飛べるっていいなって思えた。それに真っ白な翼がとても綺麗で、鎧の青とあいまってとても綺麗に見える。またバグに抱えられて空を飛びたいなって考えてしまった。
そんな私達の後ろに何故だか王子達が付いて来るのが、なんとなく楽しいバグとの冒険に水を差されているようで邪魔だなって思える。しかも、本来なら兵士の仕事だろうにモンスターを討伐もせずにただ付いて来るだけってところが、よくそれで王子を名乗れるわねって言いたくなる。
四つ程依頼をこなすと段々と暗くなって来たので、今日はここで終わりにして役場へ報告に行くと、命がけの仕事のわりに報酬がわずかであった為、誰も討伐していなかっただけに役場の人達は凄く喜んでくれた。こうして純粋に喜んでもらえるのはとても嬉しい事だね。
わずかだけれど報酬も受け取ったので王子とはここで別れて拠点へと戻ることにした。王子は宿に行かないのかとか言っていたようだけれど、拠点より快適な所はこの世にはないと思える。安全安心でバグの家なのでお金もかからないしね。
翌日からは危険度の高いものから依頼をこなすことにして、ついでに近くの村に寄って情報収集用の水晶の設置をしていた。何でそんな事をするのかな? そういうのは国のお仕事だと思うんだけれどと不思議に思っていると、少しずつだけれど私達のやっている行動で次第に村人や町人から声をかけられたり、お土産をもらえたりし出して、受け入れてもらえたと実感できた事でやっとバグのやっていた事の意味が理解出来た。
確かに兵隊がモンスターを倒してくれないところを私達が倒して回り、医者のいない村などから急病人が出たと聞いたら治療に向ったりその他にも困っている人を手助けしていたら、邪険にはされないだろうね。それどころか感謝して受け入れてくれるのは当たり前だと言える。
バグは私達が暮らしやすいように、受け入れてもらう為の努力をしていたんだと思う。
次にバグが始めた事は、マグレイア王国の首都というか他の所だと小さな町なんだけれど、そこにブレンダの経営しているお店を建てる事だった。わざわざ転移の魔法が込められた魔道具まで設置してお店を作る理由がよくわからなかったけれど、また何か考えがあるのかな?
ブレンダのお店が驚く程の速さで開店したので覗きに行って見ると、日用雑貨がメインで売られているお店になっている。私もせっかく錬金術を勉強していたので、薬とかを納品してみたのだけれど、ちゃんと置かれていてなんだが自分の作った物がこうして売られているのを見るのが楽しく思えた。
他にはバグが開発したタオルとか石鹸、食料品とか果物や野菜の種なども置かれていたわ。衣服などもあってここのお店だけで何でも揃いそうな感じがするので、大繁盛するんじゃないかな? ただ今まであったお店とかには申し訳ない気がして来たけれどね・・・
マグレイア王国へ来てから一か月くらい経つ頃、私達は何でも屋みたいな扱いで受け入れられていた。実際バグは殆どの問題を処理してしまえるくらい優秀だったので、役場の人までも困った事があれば相談に来る程頼りにされているみたい。たまに王子がやって来たりもしたけれど、それは監視とか何かしらの嫌がらせの類ではなく、どうやらバグのことが気になっているからのように思えて、私的にはいい加減にして欲しいと思っていたけれど、好意を寄せられている本人のバグはそれにまったく気が付いていない様子で、適当に相手をしてあげているようだった。
傍から見ると私とバグの関係も、こんな感じなのかな?
そんな感じでヤキモキしていると、町人達からキノコ狩りに誘われる。気分転換にも丁度良いし、たまには面倒事のなさそうなこういう楽しめるのんびりとした依頼というのも、いいかもしれないと思って参加することになった。
「結構キノコって、見付からないものなのね。あ、キノコ発見!」
「レイシア、それは毒キノコだ。そうだな、もっと森の中なら一杯見付かるものだと思い込んでいたけれど、中々見付けられないな。見付けるコツとか、聞いて来たらよかったかな?」
「う~ん。最初っから聞いていたら、楽しめないからこれはこれでいいかも? まだまだ時間はあると思うし、のんびり行こうよ」
「まあそうだな。難しいのは初めの一つを見付けるまでだ。一つ見付かったらドンドン見付かるだろう」
「そういうものなの?」
「そうだ。初めは何の手がかりもないから手当たり次第だが、一つ見付かれば情報が手に入る。少なくとも少しは探しやすくなるはずだよ」
「へ~ がんばろう!」
バグに言われた通り、まずは最初の一つを見付けることにする。しばらく何の成果もなかったけれど、ちょっと休憩しようと目線が上がった時に、偶然キノコを発見する事ができた。
「あ、あった!」
キノコって木の根元にあるものじゃないのね。木の幹にあるキノコを一つ採ってバグに食べられるキノコか聞いてみる。
「バグこれはどう? 食べられるキノコ?」
「お、あったか! 大丈夫、食べられるやつだ」
二人でやったって感じで喜んだ後、バグは早速キノコの情報を仕入れたようだった。
「考えてみたら当たり前の事だったな~ キノコは周りの植物から養分を吸い取っているから、ちょっと元気の無い木などを探したらキノコがある可能性があったな。後は根元ばかり見ていたけれど、別に普通に幹とかにも生えているし、土の中にだって隠れているかもしれない。探すところを狭めていたんじゃ、見付からないはずだな」
「なるほど」
二人して、固定観念に縛られていたみたいだわ。でも一緒の事をしていたっていうのはちょっぴり嬉しかったりする。おそろいでお似合いって感じがするからね。
その後は木の根元だけじゃなくて、土が盛り上がっていそうな所や、草に隠れているような所も見て回っていると、洞窟を発見した。今は一応キノコ狩りの安全確保という依頼の途中なので、洞窟の中に何かがいた場合に備えて入り口を結界で塞いだだけで調査は後回しにしようとバグに言われて、そのままキノコ狩りを続ける。
終わってみると結構キノコが採れていて、農家の人や狩人が取って来た肉なども使ったキノコ鍋を作って、みんなで食べることになった。
さすがに香辛料はそんなに効いていなくてバグには薄味なんじゃないかなって思ったけれど、バグは美味しそうに食べているのがわかる。ひょっとしたら素材そのものの味を生かしたような料理なら、味が薄くても美味しいって感じるのかもしれないかな? バグの好みはまだまだ把握できていないみたいなので、今後もいろいろと調べなくっちゃだわ。
キノコ狩りが終了して私達は再び森へと来ていた。見付けた洞窟の先に進んで行くと牢屋みたいな部屋に出て、バグが私の冒険のパートナーにと眷族を創ってくれた。
今の私達に足りない盗賊の技能持ちのスライムが創られ、早速目の前の扉を開けてくれる。後移動すると自動で地図を作成してくれるマッピングシートという物もバグから貰えた。これで準備万端ってスライムを肩に乗せると、バグと出合った時の事が思い出される。
随分と長い付き合いだけれど、今もこうして一緒にいてくれるのが嬉しいよね。
洞窟自体は初代勇者様がいた時代の研究施設だったみたいで、当時の犠牲者なんじゃないかなっていうキメラが一体いただけで、めぼしい物は発見できなかったけれど、一応報告書を役場の方には提出しておくことになった。卒業試験の時にこういう報告書を書いていた経験が、こんなところで生かされるとは思ってもいなかったな~
洞窟というか研究所探検? とにかくそれから戻るとバグも未知のダンジョンとか結構楽しかったのか、三つのダンジョンを創る計画を立てていた。子供用の遊びに使うダンジョンと初心者が訓練するダンジョン、そして私専用のダンジョンを創るみたい。マグレイア王国の国土は狭く、危険なモンスターなどは全て討伐してしまったので、最近ちょっと冒険らしいものに飢えていたところだったので、バグが創ってくれるダンジョンにはとても興味がある。
まだかなまだかなと待ち続け、一週間ちょっと過ぎた頃に子供用のダンジョンが完成したようで、早速バグと一緒に見に行く事になった。
確かに子供用のダンジョンって感じで、怖いというより幻想的な素敵なダンジョンだったけれど、これって全然危険が無くてこういうのもダンジョンと呼んでいいのかなって考えてみたりする。おまけにダンジョンの半分辺りまで来ると、モンスターがお菓子とジュースを出してくれる休憩所まであったくらいだった。もうここまで来ると、拠点にあった遊戯室のような気がしてきたよ。でも、ちょっとワクワクドキドキできて、素敵なダンジョンだったのは変わらないかも・・・
その後初心者用と私用のダンジョンも完成して、しばらくダンジョンに夢中になった。
一度目の専用ダンジョンは準備不足を思い知らされて直ぐに戻って来たけれど、考えられる準備をしっかりとしてから再び挑むことにした。
さすがに成長する為に作ってくれたダンジョンだけあって、全力で挑まないと危険だったみたいで、スキルカードも更新してもらい使えるスキルはしっかりと使って準備万端な状態で挑戦し直す。
ダンジョンに入って初めの方は、石化対策や麻痺対策などを事前にしておけばそこまで苦労するような敵ではなかった。それでも姿が見えないとかいろいろと厄介だったけれど、これくらいなら何とかなるかなって感じだった。しかしおそらく中盤辺りから大物ばかり出て来るようになって、しまいには手足がない龍が出て来たので、部隊召喚を使いゴーレムが総掛かりで押さえ込まないとどうにもできないようなものが出て来た。
かなりきつかったのだけれど、ダンジョン内のせいで龍の行動範囲が限定されて、思うように動き回れないから何とか攻撃が届いたって感じかな? 開放的な所でなくてよかったと思えた。
そして問題の最奥、一見すると角が生えた鱗のある馬が待ち構えていた。こんなモンスターは見た事がない・・・ 予備知識がなく、初動の対処方法を思い付かなかったのは龍の時と同じだけれど、このモンスターの場合はそんな生ぬるいものではなかった。
龍との対決で、この先は力の温存などしていたら危険だと考えていたので、複数の使い魔を従えて臨んでいたのだけれど、最初の角の一撃だけでゴーレムが砕け散ったのを見て、私は慌てる事になる。
そしてその驚きから立ち直る暇もそのモンスターは与えてはくれずに、さらに二体のゴーレムが何もできずにやられてしまった・・・
「アラクネ達、足止めをお願い」
即座に状況判断することができずに犠牲を出してしまった事が悔しかったけれど、相手がまだ目の前にいるので歯を食いしばって何とかこれ以上の犠牲は出さないようにしようと命令を出していく。
馬のモンスターはアラクネの吐き出した糸を炎を吐いて蹴散らすと、逆にアラクネの一体に電撃の攻撃を浴びせて麻痺させた。電撃を浴びたアラクネはそれだけでもう瀕死の状態で麻痺してなくても既に動く事ができない様子だったのに、止めを刺そうというように角を突き出して走り込もうとしているのがわかって、私は慌てた。
「クインリーお願い、攻撃を押さえ込んで! ヒール」
何とかアラクネの間に割り込んだクインリーだったけれど、チャージ攻撃を受けたように弾き飛ばされる。クインリーが少しでも時間を稼いでくれている間に、アラクネを癒して次の手を必死に考える。
「流水よ渦巻け、アクアストリーム」
この馬は、攻撃に火と雷を使ったのでとりあえず火の対極の攻撃をしつつ、バグがこれまで強敵を倒して来たように窒息を狙って攻撃してみることにした。
攻撃魔法の威力自体は劣っていても、水の攻撃をダメージではなく空気を遮断する目的に使えば、私でも勝てるのではと考えてみたけれど、馬は口から吐き出した炎のブレスによって私の魔法を迎撃してしまう。
今まで戦って来た相手の中で一番の強敵だと思う。単純な力押しでは直ぐに負けると判断した私は、召喚術師ならではの戦いをすることにした。つまり物量。
相手は一体なのに対して、こちらは召喚で呼び出した使い魔を複数当たらせることができる。今までソロでは無理だと思われる依頼も、複数の使い魔を呼べるからこそ乗り越えることができたから、召喚術師の有利な部分はそこにあると考えた。
アラクネやクインリー、ケルベロスやケンタウロス。呼び出したさまざまな使い魔に波状攻撃を命じた私は、自身も攻撃に加わるべく銃器で攻撃を仕掛けていく。それ以外にも錬金術で作った毒や、麻痺薬もどんどん使ってみた。
強敵を相手に取れる有効な手段がないというのは、それは酷い戦いだった。バグの作ってくれた銃器ですら、決定的なダメージにならなくて結局消耗戦となってしまった。
これが召喚術師の限界なんだと思う。相手を上回るだけの使い魔を呼べない場合、捨て駒を使った物量作戦をするしか方法がなくなるのかもしれない。
おかげでこの戦いで、多くの使い魔を失ってしまった。それとも今までの戦いはたまたま運がよかっただけなのかな? 今まで私の召喚に応えてくれた仲間達を失って、無力感に打ちのめされる様に泣いた。
いくら結果として、馬のモンスターに勝てたといっても、私にとっては仲間を失ってしまったのなら勝利したと喜べるものではなかった。落ち込み泣いている私の側にいたバグは、倒れて行った仲間達に向って魔法を唱える。
「リザレクション!」
初めは死者を弔う為に遺骸を燃やすのだと思っていたけれど、バグが使った魔法は最高司祭ランクの者にしか使えない奇跡の力で、死者を蘇生させるという神の祝福だった。
世界中でもこの魔法が使える者はわずかしかおらず、その発動条件は死んで日が経っていない事と、遺体の損傷が軽微である事。今回傷付き死んでいった仲間達はどの子も深い傷を負っていて、例え死んで直ぐだったとしても条件には当てはまってはいなかった。それなのに・・・
「嘘・・・」
そんな彼らの肉体は、バグの魔法を浴びてゆっくりとではあるが確実に癒されていき、やがて眠っていただけだと言わんばかりに起き上がった。ゴーレム達はさすがに蘇生される事がなかったけれど、それでも嬉しくてそしてどれだけ感謝してもしきれない思いでまた涙が溢れて来る。
これだけでもどれ程の奇跡だといえばいいのかわからないはずなのに、バグは崩れたゴーレム達の体をパペット達に直させていて、その姿にまさかという思いが込み上げて来た。そして目の前で一体、また一体とゴーレム達が動き出すのを呆然と見守っている中、バグが話しかけて来た。
「ゴーレム達は、同じ魂なのかどうか、保障はできないけれどな。もし別の固体として命を得ていたのだとしたらそこは許してくれ」
バグの説明によると、一度破壊されたゴーレムは魔法生物だったせいでその役目もそこで終わったはずなのだそうで、まったく同じ素材を使って体を作り直し、もう一度ゴーレムとして創り直したとしてもそれが同じ固体であるとはいえないのだそうだ。
それでも構わないと思った。同じ物で作られているのだとしたら、前のゴーレムそのものだと思いたかった。
今回の戦いで力不足を感じ、それといろいろあって疲れているので、今回の攻略はここで諦めて拠点へと帰る事にする。ひょっとしたらこの奥にはもう宝箱だけがあり、ダンジョンは終わりなのかもしれないけれど、もしかしたらこの先にはボスとしてホーラックスが待ち構えているかもしれない。先がわからないのなら無理はしないで、ケイト先生に言われたように引き際を考える事にした。
そう考えるとこれ以上進むのは危険過ぎると感じた。今のままではまた召喚したこの子達を死なせてしまうかもしれないから、そうならないようにもっと私自身が強くなろうと思う。バグも帰還する事に賛成していたので、今回はここまでにしておくことになった。バグが専用のダンジョンだからいつでも来られるという言葉に納得できたしね。
ダンジョンで激しい戦闘をして来たし、大泣きしてしまったので自分でも随分と精神的にまいっているなと思ったから、拠点の温泉にのんびりと浸かって癒されることにする。温泉以外にも気分を変えようと町にも繰り出してみたりした。
バグと一緒にブラブラしていると、来たばかりの時は警戒していた町の人達も随分慣れたようで、気さくに話しかけてくれるようになった。そして今日も王子がやって来て、馴れ馴れしいんじゃないかなって感じで声をかけて来る。
そういえば王子も初めは随分と警戒とかしていたわね。それが今では本人はコッソリだと思っているのだろうけれど、チラチラとバグの様子を窺っている今は、話しかけるきっかけを探しているのかどこかに誘いたいのか・・・ なんとなく面白くないと思っていると兵士の一人が絡んで来た。
そして話の流れから模擬戦をする事になったみたいだけれど、アルタクスが相手したらあっさりと倒してしまった。
スライムに負ける兵士を見たからか、王子は冒険者学校のような戦う力を身に付ける施設などが必要かと検討していた。
まあ私達にちょっかいかけて来なければ好きにしたらいいよね。そう思いながらも二・三日のんびりとした後、強くなる為にダンジョンに潜って経験稼ぎをすることにする。
私がダンジョンに潜っている間に、ブレンダはブレンダでマグレイア王国に宿屋を建てて、こちらにダンジョン観光のお客さんを呼び込もうとか考えていたみたいだね。貴族のはずなのに案外お金になりそうなことには目ざといな~
王子の学校運営が本格的に決定して、段々とバグの周りが忙しくなり出した気がする。ブレンダの宿屋とかもそうだけれど、ダンジョンも中級用のものを準備しているみたい。
忙しくあちこち動いていたみたいだけれど、私はその間経験値を集める為にダンジョンにばかり潜っていると、次の進化をして欲しいと頼まれた。
きっかけはマグレイア王国に黒竜が飛んで来たからで、捕まえに行ってそのまま他の素材も集め出したという事だったみたいね。でも・・・ 今の実力ならもう一つ増やして素材を六つまでいけるかもと言ったら、集めて来ると言ってエンシェントドラゴンを捕まえて来たみたい・・・ このまま進化し続けたらバグは神様になっちゃうかもしれないね・・・
そして進化した種族は、ほんとに神になってしまった・・・
神と言っても、私達が信仰しているような神様とは違うと思うけれど、魔神って魔族とかの神様って事だよね? そして今度は一応人型ではあるけれど、青い肌に翼と角が生えて人間からは遠ざかってしまった感じがした。
本来の姿を私に見せたということで、バグは直ぐ人間そのものに姿を変えていたみたいだけれど、人間じゃない部分を隠したって感じで、ほぼ魔神の姿そのままだと言っていた。
ぱっと見は少し小柄といっても男性としてはって感じで、私よりは少し背が高いかな? 頼り無さそうな男性で黒髪黒目の珍しい人種なんだけれど、なんとなくバグっぽいかなって気がした。馴染んでいるように見えるのは本来あるべき姿って感じがするからなのかな? でもどうせならもっと魔神らしくという言い方は変かもしれないけれど、もう少し頼りがいのある姿をしていて欲しかったなって思った・・・
バグが自分のステータスでも確認していたのか、ついでに私のステータスも更新しようと言い出したので、お願いすると・・・ 申し訳ないって感じで話しかけて来た。
「あー レイシア。申し訳ないのだけれど、こっちの方に守護ってスキルがあって、どうやらレイシアを加護の対象にしてしまったみたいなのだが、多分そのせいで種族が人の方の魔人になってしまっている。申し訳ない」
「え? はあ、そうなの」
なんと言うか人間じゃなくなっていたようね。いつの間にか人間じゃなくなっていたって言われても、何か変化があった訳でもないので曖昧な返事になってしまった。それを受けてバグが微妙な表情をしているけれど、私としてもそれ以上何て言っていいのかわからなかったりする。
それにバグが魔神で、私が魔人・・・ 何かちょっと嬉しいなって思えちゃったんだよね。それよりもバグはやっぱり男性の方が似合っている気がする。
前は女性でもとても綺麗だったからあのままだったとしても、私としては幸せだなって感じたけれど、やっぱりバグには男性でいて欲しいと思えた。自分の種族なんて今はどうでもいいって思えちゃう。バグは私のことをどう思っているのか、これからはそれを調べていかなくっちゃね!
一見すると頼りない村人と思えるような普通の人間の姿になったバグは、冒険者ギルドに行って冒険者の登録をして来ると言って出かけて行った。それを歓迎して待っている間に今までいろいろ経験を積んで来た技術を使い、お祝いの御馳走を用意しようと拠点で料理を作っていると、帰って来た時にブレンダも連れていた。
できれば二人だけでお祝いしたかったとちょっと残念な気持ちはあるけれど、もう拠点に来ちゃっているしブレンダの分の食器も用意していく。二人で冒険者になったバグをお祝いした後雑談しながら料理を食べて行ったけれど、ブレンダがいたので話の話題はバグが建てたホテルという名前の宿屋の話が中心になっていた。私としてはもっと冒険者になった気持ちとか、初クエストを受けたと聞いたのでその様子も聞いてみたかったけれど、ブレンダが帰った後でもいいかなって考えて、ホテルの話に参加して行くことにした。
ホテルが完成したら私もブレンダのお手伝いをすることになったので、その打ち合わせなんかもして行く。私の担当は、子供用ダンジョンの見回りをして欲しいというもので、ホテル内部は全然関わっていなかったことだし、それに対してダンジョンは最近しょっちゅう潜っていたので適材適所かもしれない。
打ち合わせの結果、王子の相手をバグとブレンダが担当して、私が午前は自由で午後から子供用のダンジョンへ見回りに向かうことになった。ブレンダと交代して欲しいかもと思ったけれど、王子の相手だから仕方ないかなって考え今回は諦める。それに午前中に終わればみんなで子供ダンジョンに行くことになっているので、王子が足を引っ張らない事を祈っておくことにした。
結局二人は午前で王子の相手を終えることができなかったようで、待ち合わせ場所に来られなかったみたい。半分くらいは無理だろうなって考えていた予想の通り、王子が足を引っ張ったみたいね。こうなったらしっかり仕事をして褒めてもらうか、甘えさせてもらった方がいいかもしれないな。
今回子供用ダンジョンの見回りで注意しなければいけない事は、ダンジョンの悪評に繋がる原因があればそれを調べ上げて排除する事と、子供が迷子になったり何かしらの喧嘩やトラブルが起きていないかどうかチェックしたらいいみたい。
一応ダンジョン全体はホーラックスが見ていてくれるとは思うけれど、ホーラックスは魔王みたいな格好なので、子供の前には出て来られないんじゃないかと思う。たぶんそこを対処できればいいのかな? そう考えて一通り巡回してみることにした。
ダンジョンは複雑なのでマッピングシートを活用しながらグルグルと見て回っていると、早速迷子らしき子供を発見したから一緒にダンジョン内を回ってあげる。ここで直接に手を貸してしまうと、自分の力でダンジョンを攻略したという達成感が味わえなくて、ダンジョンの面白さが半減してしまうと言っていたバグの説明で、安易に手を差し伸べる事は控えるけれど、それだとずっと迷い続けてしまうのでそれとなくヒントを出して行く。今回は道に迷っているので、同じ道へ進もうとした時に、逆の方に宝箱が見えたと教えてあげれば、そっちに釣られて移動したりする。
子供は単純で素直なところが可愛いなって思いながら誘導して行くのだった。
また別のところでは、親子で参加しているみたいだけれど、子供じゃなくて父親が夢中になって敵を倒していた。子供は父がモンスターを倒して進むのをただ見て、父のどうだ凄いだろうって自慢している姿を後ろから眺めるだけになっている。これは父親に原因があり、子供が全然楽しめてなくて良い思い出を残してもらえないと思えた。
父親を止めようと話しかけると、お客である自分の邪魔をするなとか、子供を守って何が悪いとか言って、こちらの話を聞く様子は無い。下手に強制しようものなら悪評を立てられる可能性もあって、判断に困る問題だった。どうしようっと思っていると、隣に転移して来る人物を見付け、一瞬バグが来てくれたのかと思ったらホーラックスだった。
「ホーラックスが出て来るなんて、珍しいね。どうしたの?」
「面倒な親子だ。対処するがお前の意見を聞きこう。我が主の対策は、大人では倒せなくするもの。大人の行動をこちらが操作し記憶を変更するもの。大人をダンジョンから排除するもの。罠にはめ分断するもの。我としては、あのような人間など消し飛ばしてしまえばいいと思うがな」
「それは止めて。そうね、大人に対して無敵化するようにしてもらえるかしら? 後はダンジョンから出て行く時には今までみたいにしてダンジョンから出て行ったって、記憶を変えておいてもらえる?」
「容易い事だ」
ホーラックスがそう言って消えて行った後、父親がどれだけモンスターを殴り付けても倒すことはできなくなった。これだけでは意味がないので、子供に話しかける。
「お父さんは呪いにかかっちゃったみたいね。さあ勇気を出して、お父さんの代わりにモンスターを倒そう。この先ダンジョンを進むには君の勇気が必要だよ」
「僕にできるかな」
「大丈夫。もし力が足りないのならお姉さんが力を貸してあげるわ。だからまずは自分を信じて、最初の一歩を歩き出そうよ」
少し迷っていた少年は、木刀を構えてモンスターへと突撃して行った。少年の一撃を受けて父親と戦っていたキノコのぬいぐるみモンスターが、消滅して行くのがわかる。少年はこちらを振り返ると、やったよ! って感じで嬉しそうにしていたが、それを面白く無さそうに父親が見ていたのがわかった。これは最後まで付いていかないと何か危ないかな?
幸いというか、父親はその後思い通りに行かなくなったものの、子供に当り散らしたりはしないで、不満そうにダンジョンから出て行ってくれて、ダンジョンから外に出た瞬間人が代わったように子供へとどうだ強かっただろうと、威張り散らしていた。
「お父さんの呪いが解けたみたい。また遊びにおいで」
「うん! お姉ちゃんありがとう!」
少年はそのまま父親と一緒に帰って行った。たぶんもう少し大きくなったら、冒険者になるんじゃないかな? 夕方までダンジョンの仕事をがんばって、私はすっかり子供が欲しいなって気分になっていた。魔神と魔人。決して子供ができない間柄じゃないよね・・・?




