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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア  レイシアの心
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旅立ち

 のんびりとしているとブレンダが、パーティーバランスが悪いからと言ってもう一人戦士の人を連れて来た。こんな時教室とかで紹介されたのならみんな興味を示して騒いだり、やって来たのが男子なら女子は相手を観察して好みかどうか話し合ったりするのだろうけれど、その時の私にはただ新たなメンバーが入ったくらいの感覚しかなかった。

 その戦士の人はちょっと気障っぽいところがあるものの気品みたいなものがあり、顔もカッコいい系の男の子だったのだけれど、何でかな? まるで興味が湧いて来なかった。

 普通こういう異性が現れたりすると、思わずドキッとしたりしてもおかしくはないんだけれど、私は冷静にこの人の戦士としての腕前はどれくらいなんだろうってことだった。

 ランドルやフェザリオは、初めの印象の悪さなどがあって頼りない男子といったイメージが定着していて、異性としては見られないと理解できるけれど、新しく来た戦士のシリウスはブレンダの紹介が正しければそこそこ腕が良いそうなので、異性として反応してもよさそうだけれど、別にそういう興味は湧かなかった。

 私はそれについて冒険者になる事を優先しているから、恋愛事にかまけている暇がないんだなと自己分析した。

 シリウスという新しいメンバーが増えた事で、明日は連携を確かめる為のクエストを受けるという話になり、今日はそのまま休む事になったので部屋に帰って来ると、バグが新たな魔法を完成させたようでそれを見せてもらう。

 水晶を渡されて一体どんな魔法なのかわくわくして、新メンバーの事などどうでもよくなってしまった。それよりも水晶の表面になにやらいろいろな文字が浮かび上がって来たのが何なのかが気になるわ。これがステータスの魔法?


 職業 召喚術師  LV 26  HP 135  MP 268

 力 18  耐久力 16  敏捷 34  器用度 48  知力 51  精神 56

 属性 火 水 光 生命

 スキル 錬金術 簡略詠唱


 魔法を作り出す事自体とても凄いという事は理解できるのだけれど、この数字とかがどんな役目を持っているのかどうかわからずいまいち褒めていいのかどう反応したらいいのか反応に困っていると、バグが説明をしてくれた。

 「職業はわかるな? LVって言うのはそうだな、今の自分の強さを示す感じかな。一つ二つ違うだけでそこまで変わりはないけれどな。

 HPって言うのは体力、MPは精神力。レイシアならこのMP次第でどれだけ魔法が使えるのかっていうのに関わって来るから、これが一杯あると便利って事だ。

 力とかは大体予想できると思うから省くぞ。属性っていうのはまあ相性みたいなもので、レイシアの場合は火の属性があるから火の系統の魔法はそれなりにうまく使えるはずだが、土は無いから扱い辛いはずだ。

 で最後にスキルだが、レイシアが今持っている技術が錬金術と簡略詠唱だな。簡略詠唱ってスキルがあるから、ある程度呪文を短くしても発動できるって事だろう」

 長々と説明をするバグを見て、この子は新魔法の開発とかしていたし学者タイプの性格なんだなっと思った。それにしても、ステータスがわかるという事は、相手の事をいろいろと知る事ができる魔法ってことなのね。新しい探査系統の魔法と考えておけばいいかもしれないな~


 まだなにやら楽しそうに作業しているバグを見て、もしバグが人間だったらニコニコしながら動き回っているのかなと考えると、そんな顔も見てみたいって思える。それなりに長い時間を一緒に過ごしたおかげか、バグが今楽しそうにしているのかどうかっていう感情みたいなものは、見たらわかるようになって来てそれはそれで嬉しい事なんだけれど、やっぱり直に嬉しそうな顔が見られたらどんなに幸せな気分になれるかなって考えてしまう。

 翌日になると、バグは二つの水晶を使う事で、ステータスと言われる文字を羊皮紙に書き留める技術を開発していた。

 これって新魔法の開発だけじゃなくて、水晶に魔法を込める魔道具を作製する技術も持っているという事じゃないのかな?

 私が知る限りこの世界で魔道具を作ることができる人は、存在していないはず・・・ 大昔にはいたそうなんだけれど、今現在誰も魔道具を作ることはできなかったと思う。

 ひょっとしたら今まで発掘されて来た魔道具は、バグが作っていたのかな? でも、記録によれば魔道具は人の手で作られていたとあったはずだから、バグは過去でそれを目撃することができたのかもしれないね。

 一通りステータスで盛り上がった私達は、近場のクエストを受けたので馬で移動する事になった。その時バグのことを警戒して馬が落ち着かなくなっていたけれど、大丈夫大丈夫って感じに撫でていると落ち着いてくれたのか暴れたりしないで私達を乗せてくれた。クエストに関しては普通に問題らしいものも無く、普通に終えることが出来たよ。

 シリウスの腕前は、ブレンダが言っていたようにそこそこ頼りにできる感じだったので、これからの冒険で活躍してくれる事を期待しておく。たまにこちらに向かってなにやらアピールして来るのはちょっと微妙に思った・・・


 しばらく一緒にクエストなどをこなしていると、シリウスも私達のパーティーに大分馴染んで来たようで、初めは喋るスライムに驚いて距離を取っていたけれど、自分もステータスの魔法を使って欲しいと言い出すくらいには馴染んだみたい。まだちょっと距離を感じるものの、そこまで仲良くなりたいと思っているわけでもないので、まあいいかと思う。

 彼の事はそんな感じだったけれど、バグはまだステータスの魔法に満足できないところがあるようで、ブレンダ達に話しかけて素材を採りに行ってしまった。頭がいい人って完璧主義なのかな? それともステータスというものが何かイメージと違ったのかな?

 今回は朝までには帰って来ていて、起きたら隣にバグがいたので安心できた。でもって、採って来た素材の革だけではまだ完成には至っていないという話だったので、ブレンダに相談したところ何とかなるという返事が帰って来たから、お願いする事になった。

 バグの頼んだ加工が完成するまでの間普通に生活していたけれど、座学を受ける時に受け持ちの講師を担当するケイト先生がバグを見て微妙に固まった姿を目撃してしまった。以前のバグの暴走の時、直接は見ていないのだけれどケイト先生はバグにまったく手も足もでなかったという話を聞いている。多分その時の事でも思い出して気まずく感じたんだろうな~

 後でパートナーが暴れてごめんなさいって謝っておこう。

 実技の授業では、私は冒険に出て成長できたのかもう落ちこぼれではなくなっていて、バグが言っていたように土とかの系統は苦手な感じだけれど、ステータスで表示されていた火属性の魔法とかだと、他の生徒に負けないくらいうまく魔法が扱えるようになっていて、自分が成長した事を直接実感することができた。

 こんな風に満足のいく生活をしていると、余計にバグの事を考えることがある。バグの笑顔を見てみたいし一緒にお出かけとかもしたいし、一緒に冒険者として冒険したりもしてみたい。

 今が満たされているからこそ、もっと先が欲しくなるのかもしれないね・・・


 「ブレンダ、素材を集めてくれないかな?」

 バグがいないお風呂で、ブレンダに相談する事にした。いつも一緒にいるから、内緒話ができるのはお風呂くらいのものだったから私達の相談事などは大体ここだった。

 「素材ってひょっとして、バグを進化させるの?」

 「うん」

 「やめた方がいいと思いますけれど、どうして突然そんな事を?」

 「最近ずっと思っているんだけれど、人間の姿になったバグと一緒に町とかに行ってみたり、バグが笑ってところとかも見てみたいなって思ったり、一緒に冒険者としてどこかにも行ってみたいなって思ったり、とにかく一緒にいろいろやりたいの」

 「へ~ ちなみに参考までに聞きたいんだけれど、ランドルとかフェザリオとか、シリウスなんかもパーティーにはいるから、そっちと一緒じゃ駄目なの?」

 「何でランドル達?」

 「なんなら私とでもいいけれど?」

 「別に買い物の相談がしたいとかじゃないから、でも何かあるなら一緒に行ってもいいよ?」

 「ああ、そういう意味じゃないからいいわよ。私も何か欲しい物があるのなら買い物くらい付き合ってあげるから、遠慮しないで言いなさいよ」

 「うん、ありがとうね」

 「まあ、とにかくバグと行きたいって事ね」

 「うん」

 「そっかそっか。そういう事なら協力するしかないかな~ でも、今度こそ嫌われて愛想を付かされて、逃げられちゃうかもしれないわよ。それでもいいの?」

 「バグにはもう何も縛るものはないけれど、今でも一緒にいてくれるし、きっと大丈夫。例え人間になれる種族にならなかったとしても、これで最後にする。バグには後でちゃんと謝るわ」

 「まあ私はどっちでもいいけれど、後悔しないようにね。素材の方だけれど今は四つ?」

 「まだ三つ」

 「了解、少し待っていて」


 しばらくして、ブレンダが素材となるモンスターの卵を三つ、用意してくれた。私は夜バグが寝ているうちにベッドを抜け出し、早速錬金実験室で合成の為の魔法陣を描いて行く。素材によって魔法陣が変わるので、ブレンダが何のモンスターを用意できたかで、魔法陣が変わる為に前もって用意する事はできない。バグの方の魔法陣は、ベッドの下に仕込んであるので、どこかに行かなければ問題ないと思う。

 失敗は許されない為に慎重に魔法陣を描いて行ったので、魔法陣の完成に結構な時間がかかってしまい、もうそろそろ朝が来るかなって時間にやっと準備が整った。バグってば夜行性なのか、中々寝てくれなかったしね。

 後はバグが起きたり場所がずれたりしていなければいいのだけれど、それを確かめる為にブレンダが見に行ってくれて、大丈夫だったという報告で合成を開始した。

 少し期待しながら部屋に戻った私は、誰もいなくなったベッドを前にしてしばらく何もできずにいた。

 ブレンダに揺さぶられてやっとバグを探し回ってみたものの、見付ける事ができない。

 そもそも私達はバグが何に進化したのかを知らないので、探しようが無かった。途中で出会ったランドルにも、もうバグが私達と一緒にいる理由なんかないと言われ、信頼関係があるから大丈夫だと思っていた私は、傲慢だったのだと思い知らされた。

 それを裏付けるかのように、ベッドに置いてあったバグが集めたバジリスクの革が消えていて、私は焦りを覚える。手元にはまだバグが持って来た水晶があるけれど、これが無くなればもう二度とバグに会えなくなるんじゃないかと考えたら、ひと時も手放せなくなってどこに行くにも持ち歩くようになった。

 しかし、そんな私をあざ笑うかのように、夜の間に水晶は消えてしまった。きつく抱きしめて、水晶に触れようとしたら直ぐ起きられる様にと思っていたのに、そんな行為にすら意味がないということがわかる。


 もう二度とバグには会えないのかもという考えとは裏腹に、まだバグが近くにいる気がしてならない。そこには何の根拠もないのだけれど、今まで一緒に暮らして来てバグの気配というか、温かく見守ってくれている視線というのか、そんなようなものをしばしば感じられた。

 だから悲しかったとしても、日常を送る事ができたんだと思う。

 ブレンダ達は、私程何か思うところはないようで、ただしばらくは様子を見ようって感じで直ぐにいつもの生活に戻っていった。

 バグの事を特別に考えているのはやっぱり私だけで、他の人からしたらやっぱりバグはただのモンスターなんだなと理解出来た。

 そんな出来事があったけれど、学校から指定された授業はこなしていかなければいけない。バグの事は私個人の事なので、パーティーメンバーとしてはいつも通り依頼などに付いて行かないと私としても困る事になる。みんなそれぞれに目的を持って学校に来ているのだから・・・

 だから私もオーガ討伐の依頼を受けることになり、依頼自体は順調そのものにこなせていたけれど、途中で足元が崩れて私達はその中へと落ちてしまう。

 そして気が付くと姿を見せてはくれないものの、バグが落下の衝撃で危なかった私達を助けてくれて、今なおレイスから守っていてくれるという説明を、ブレンダから聞かされてやっぱり見守ってくれていたのだと感謝した。

 しばらく状況把握の為の休憩をしている間に、私はバグに謝ったり話しかけたりしたものの、まだ怒っているのか姿を見せてはくれないものの、それでも近くにいてくれて会話に応じてくれた事は嬉しかった。

 狭い通路でオーガの大群と戦っている時も、バグが戦い方を教えてくれたので、被害も少なく無事に依頼を終わらせる事ができる。まさか落っこちた洞窟が、その後に関係して来るとは思ってもいなかったけれどね。

 無事に学校へと戻って来て、みんなステータスカードを書き換えてもらい、手に入ったスキルをみんなで調べたりしたのだけれど、そこで始めてこの新魔法の凄さを理解した。自分自身を知ることができる魔法。やはりバグは凄い存在だと思ったよ。

 その後、落ちた洞窟を調べる事が卒業試験とされ、私達は再び洞窟を調査して、無事にその依頼を達成して卒業する事となる。まさか、勇者様が隠れて暮らしていた村があったとは、思いもしなかったけれどね。


 卒業と共にパーティーが解散する事は、わかっていた事だけれどいつまでも寂しがっていちゃ前には進めないと気合を入れ、私にはバグが付いて来てくれると前向きに考えることにする。そして、そう思うとそこまで感傷的にはならないで済んだ。

 ブレンダは卒業して実家の方へと帰って行き、ランドルやフェザリオも、ブレンダの家に関係していたのでおそらくは一緒に帰るのだと思う。シリウスはどうするのかちょっとわからないけれど、多分なんとでもなるのだろうね。ブレンダ達も、特に思うところもなく卒業して行ったみたい。

 それよりも無事に冒険者になる資格を得た私は、予定よりも早いのだけれど冒険者ギルドで新たなパーティーの募集を手配してみた。卒業当日から早速ギルドへと向い、パーティーに誘われるのを待つ事にする。そこには当然バグも一緒に付いて来てくれているはずで、姿は見えないものの見守ってくれているのを感じていた。

 だから余計に勇気付けられて、前を向いていられる。

 新しいパーティーメンバーは直ぐに見付かったんだけれど、さすがの私も卒業当日に声をかけられるとは思ってもいなかったわ。ちょっと癖がありそうなメンバーがいるものの、わりとよさそうなパーティーだと思えた。

 私の実力を測る為か、簡単なクエストに何度か参加して十分に役に立てていると思われたようで直ぐに受け入れられ、私としても男ばかりのパーティーになってしまうのだけれど、問題は無さそうかなって判断できるパーティーに巡り合えたのは、運がよかったと思えた。

 バグに言わせたら微妙なパーティーなのだと言っていたけれど、私自身もまだまだ未熟なところがあるので人のことは言えない。とにかくしばらくはこのパーティーでがんばって行くことに決めた。まずは経験を積む事の方が大事だからね。何かあった時はバグがいてくれるというのも、心強いと思う。私は思いっきりやりたいことができるのだから・・・


 学校を無事に卒業し目標としていた憧れの冒険者になれたので、次の目標はお金を貯める事にする。なぜかといえば卒業後、一か月の間は学校の女子寮をそのまま使っても構わないそうなのだが、その後は町で宿を借りて生活していかなければいけない。

 今現在たいしたお金がないうえに実家に頼るわけに行かない私は、安い宿にも泊まれないから、しばらくの間女子寮を借りられるのは嬉しいのだけれど、その後が困りものだった。だからまずはこの一か月の間にできるだけお金を稼ぐ事に決める。

 卒業して直ぐにパーティーが決まった事は、その点から行けば幸先のいいスタートといえるだろうね。ある程度パーティーの実力に似合った依頼を受けるようになって、それなりのお金を手に入れるようになって来ると、自分の力で生きて行けているんだなって気持ちになれる。

 そこまで華々しい活躍などはできないから、まだまだ貧しい生活ではあるけれど、毎日が十分楽しいと言えるんだけれど、やっぱりバグと一緒に行動したりしたかったのに、やっぱりバグは姿を見せてくれないみたいで現状維持って感じだった。

 ちなみにバグの事は、新しいパーティーのみんなには内緒にしてある。まだ完全には信用できないという事もあるのだけれど、なんとなくバグの事は教えない方がいいのかなって想いも何故だかあって、何でなのかはわからないけれど、バグもそれには賛成しているようで、今のところ二人だけの秘密になっていた。

 そんな生活が続き、一か月を過ぎる頃女子寮から町の宿屋へと住まいを移す時期が来た。そこで非情に残念だった事は、新米冒険者の稼ぎでは女子寮みたいなしっかりした宿に泊まれる程稼ぐのはまだ早そうだということだった。そこで次の目標を、ワンランク上の宿屋に泊まれる程強くなることに設定する。

 仮の宿は、ちょっと不安がある安宿に泊まる事になるけれど、そこはバグがいてくれるので何とかなるかなって思うことにした。ただまかせっきりだとバグが疲れちゃうかもしれないので、私としてもあまり熟睡しないようには、気を付けておく。


 それから二ヶ月程が経ち、学校の本来の卒業の時期が来る頃、大分大物の依頼などもこなせるようになってそれなりに稼げるようになった事で目標としていたワンランク上の宿屋に移れるようになった。ギリギリの稼ぎだと、生活が厳しくなるので少し余裕をみて移って来たから、食費を削ったりとかそういう事も考えなくて大丈夫。

 そういえば、バグと一緒にご飯を食べない生活も、かなり長くなってしまったな・・・ いつかまた一緒に生活できるといいなと思いつつ、これからもがんばっていこうと気合を入れて行く。

 でも順調な生活も、卒業してから大体一年くらいで突然終わりを迎えた。

 盗賊のアジトを殲滅する依頼を受けてその依頼そのものは何とか終わらせる事ができたのに、盗賊の親玉がバグの言うところの異形に変貌してパーティーが全滅しそうな程の危機を迎え、その異形自体はバグが倒してくれたので大怪我などしたものの、幸い死者が出る事なく討伐に成功はした。

 しかし急遽そこで一夜を明かすという状況になってしまった為なのか、彼らは私に襲い掛かって来た。

 その時の事を思い出すと正直、男というものがとても恐ろしく思える。少し前まで癖はあるものの良い人だと思っていた相手が突然豹変して、襲って来るのだから・・・ それだけではなく、襲っておいてその状況を楽しめとまで言って来たし、神に仕える神官もいるのに助けようとしない男達。それでも抵抗しようとすると殴り付けて来て、その衝撃で頭がボーっとなって抵抗できなくなってしまった。

 「約一年。それなりに長く持った方なのか・・・」

 朦朧とした意識の中、黒い人型の靄のようなものが視界に見えた。まるで私を守るかのように男を引き剥がして立っている影と、そして聞こえて来た耳に心地いい声。その声に怒りが混ざっているのが感じられる程、逆に私の心は安心を覚えていた。バグがいてくれるなら私は大丈夫。バグが唱えた眠りの魔法を受け入れて、私は眠りに落ちていった。


 目が覚めると、私が拠点にしている宿屋のベッドに寝かされていた。殴られたはずの頬に触れてみても、そこに痛みや腫れは無くなっていて、まるで豹変してしまった仲間達が夢の中の出来事のように思えた。

 「夢じゃないよね?」

 「ああ、現実だ。これからどうする?」

 姿を見せてくれたバグが目の前にお金を置いた。金額を見るに、今回の討伐の依頼料で間違いないと思い、やはり夢じゃなかったと思い知らされる。

 「わからない」

 「そうか、しばらくゆっくりするといい」

 「うん」

 バグがそう言って頭を撫でてくれると、心から安心することができた。

 おそらく分類するのならばバグは男性だと思う。今回の事で男が怖いという想いがあるものの、相手がバグなら少しも怖いとは思わなかった事が、なんだか嬉しく感じる。

 二・三日、私は外に出ずにこの宿屋だけで過ごし、その間部屋でバグと雑談ばかりして過ごした。バグはそれに何も言わずに付き合ってくれて、夜寝る時は手を握ってくれたので安心して眠る事ができた。まあ、朝までずっと握っていてはくれなかったようだけれどね・・・

 「さてそろそろ今後の事を考えよう。これからどうしたい?」

 「冒険者は、続けて行きたいかな・・・」

 私が落ち着くのを待っていてくれたのだと思う。ゆっくりと今後の事を聞かれた私は、今の素直な気持ちを答えることにした。酷い目に合いはしたけれど、冒険者では居続けたいと思う。

 「今のレイシアなら、別にパーティーを組まなくてもソロでやって行けると思う。きつい依頼もあるだろうが、危なければ手を貸してもいい」

 「一緒にいてくれる?」

 「ああ、どうせ僕には目的なんかないからな」

 一瞬、こんな状況なのに嬉しくて飛び付きそうになった。でもバグの体は霧のような状態のままで、今飛びついても通り抜けてしまうと思う。頭を撫でてくれたり手を握ってくれた時は、霧を濃くするのか触れられるようにしてくれていたので、こちらからは触れないのだけれど、バグの方からは触れるみたいだった。

 「じゃあ、私ソロでやって行きたい!」

 「ああ、それで活動する場所だけれど、このままここで活動して行くのか?」

 「それは・・・」

 またあの人達に出会うかもしれないと思うと、即答する事ができなかった。

 「なら、旅をしながら気に入った町を拠点に活動して行くのもいいかもしれないな」

 ああ、それはいいかもしれない。夢の一つだった、バグと一緒に冒険に出るっていう目標が達成できそうだった。二人でいろいろなところへ冒険しに行こう。


 その後私達は二人ペアの冒険者として活動して行く事にした。といっても私達の間ではって感じだったけれどね。

 立ち寄った町のギルドに向って依頼を受けようとすると、予想していた通りパーティーで参加して欲しいと受け付けるのを渋られたりしたけれど、依頼をこなして行けば普通に受け入れられたので、前のようにパーティーを組んでいた時よりも稼ぎは良くなったくらいだった。

 私達が受ける依頼は、本来なら複数人のパーティーで受けるような依頼だったけれど二人でこなせたので、報酬を独り占めしているような状態だったから、宿代や食事代など気にしないでいいくらい効率が良かったりする。

 まあそれもこれもバグが一緒にいてくれるおかげなんだけれど、一緒に依頼を受けて冒険するのはとても楽しかったし、お互いの息がぴったりと合って上手くタイミングよく連携できた時などは、幸せな気分になれたりした。そんな感じで活動していると、私達だけでドラゴンを倒す事までできるようになっていて、自分でもビックリする。

 ドラゴンは全身素材だらけで捨てるところはないと言われているものの、実際はこんな巨体だと持ち運べるものではなくて、牙や鱗を持ち帰るのがせいぜいなのだけれど、バグが屍骸を保管する魔法を使ってくれたおかげで、全身持ち帰る事ができた。それによってますますお金を気にしないで生活ができるようになる。

 せっかくなので、私は町でデザートの食べ歩きなどをしてみることにした。欲を言えばバグも一緒に来て欲しかったのだけれど、さすがにモンスターであるバグを町中で連れ歩くことはできないので、仕方無しに一人で楽しむことにする。いつかバグと楽しめる時が来たらいいな~

 そんな事を考えていると、この町でソロ活動している事が知れ渡ったのか、強引なパーティー勧誘に合ってしまった。

 その時は近くの酔っ払っていた冒険者の人に助けてもらえたのだけれど、そろそろここから移動した方がいいかもしれないと感じたよ・・・ せっかく町に馴染んできたかなって思っていたのに少しだけ残念だな。


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