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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア  レイシアの心
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進化

 「レイシアと」

 「ブレンダです」

 「どうぞ、入りなさい」

 学校に到着すると、早速ケイト先生へと報告しに行った。先生は初めブレンダが活躍したので一番にダンジョンを攻略してこられたのだと思っていたようだけれど、バグがペチペチと叩いて違うと指摘して来たのでブレンダが詳細な報告をすると、予想できていたとおり信じられないと言われた。

 結局今回の実習は、教師達が話し合って再試験しようという話になったみたい。でもそれを聞いたバグがまた納得いかないとケイト先生に触手を伸ばすのを見て、慌てて触手を押さえる事になった。どうやら教師の決定に不満があるようで、それはケイト先生にも伝わったようだった。

 どうしたらいいかと悩んでいた私達を驚かせたのはまたしてもバグで、何に使うのか木を要求されてケイト先生がどこかから板切れを持って来ると、バグはそこに絵を描いたのである。

 モンスターが人間の使う文字を知らないのは当然だと理解できるが、人間のように絵を描くモンスターがいるなど聞いた事もない。

 これが人型のモンスターだったのなら、まだそんな事もあるかもしれないと思ったかもしれない。でもそれがスライムだった場合、夢でも見ているのではと自分の正気を疑いたくなるのではないかな? バグはなんだか、外見はスライムなのだけれど、中身がそっくりそのまま別の何かのように感じられた。

 結局バグが言いたい事はダンジョンには行かず、モンスターを連れて来たら戦うと言っているのだと説明すると、その要求が通ったみたいでお昼にモンスターを訓練場まで運び込み、午後の実習時間にその相手をすることとなった。

 私達はズルをしたわけでもなんでもなく、できることをしただけだったので何の気負いもなく受け入れ、連れて来られたモンスター達はあっさりとバグに倒された。

 関係者や教師以外に、この戦いを見ていた者は殆ど居ない。

 スライムを馬鹿にしに来た物好きが数人と優等生の生徒が二・三人、多分優等生の一人はスライムを題材とした研究をしている人だったと思うけれど、彼らはこの結果をどう受け取ったのだろうか・・・ それを知る機会は多分ないと思う。


 「レイシアさん、バグを進化させてみませんか?」

 バグが規格外の存在であると評価された後、ケイト先生は私にそう言って来た。

 ケイト先生は魔法の勉強だけでなく、私にとっては錬金術の先生でもある。うまく魔法が扱えない私の為に、魔法以外の道もあるのだと錬金術を教えてくれた人だ。錬金術を遣って戦っている冒険者の人とかもいるのだそうで、不得意な部分を錬金術で補えればと私も積極的に教えてもらったりした。

 その錬金術の合成に、モンスターを掛け合わせて進化させる術が存在する。ケイト先生に言われてその時チャンスだと考えた。バグがスライムから別のモンスターへと進化したのなら、お喋りする事ができたり、もっと強い子になってもっといろいろな冒険が出来るようになるかもしれないと考えたから。

 ただのスライムでこの強さなので、進化したらどれだけ凄い事になるのだろうかと夢想する。

 まさか進化を促がした結果、バグが居なくなってしまう可能性など思い付きもしなかった。ケイト先生に、もしドラゴンにでもなったら凄いと言われて、私の中では成功してドラゴンに乗って一緒に冒険している姿を夢想する。

 バグは進化するのが嫌なのか酷く暴れたのだけれど、実際に進化した姿を見ればバグもよかったと思ってもらえると考えていた。ダンジョンに行ってから普通に話をするようになったブレンダに、進化させようとしている事を知られて逆に面白そうだからと手伝ってもらい、進化に必要な合成素材を集めてもらえたので一緒に進化するのを見届けることになった。


 進化の結果、姿が見えなくなったバグを前にした時はこの世の終わりかと思う程愕然としたのを覚えている。

 しかしその直ぐ後に目には見えない何かが実験室から飛び出して行ったのが感じ取れた。それと共に私とバグを繋ぐ何かが確かにまだ繋がり続けている事もわかって、慌ててバグの後を追いかけた。

 バグがいなくなっていない事が理解できて凄くホッとしたけれど、バグの身にいったい何が起こったのかを知る必要を感じ、どこに向って何をしているのかわからなかったけれど、主従の繋がりを信じて探し回った。

 バグがいる場所は意外と直ぐに判明する。

 校舎の中で騒ぎが起きていたので、直感的にバグが何かをしているのだと理解すると、騒ぎの起こっている方へと走って行く。その途中、おそらくバグが通り過ぎたのだと思える場所を辿って行くと、その破壊後は凄まじいものがあり、校舎には生徒が暴れた時に設備が破壊されないようにする為の、保護魔法がかけられていると聞いた事があったけれど、バグが焼いたと思われる教室はそんな保護魔法を突き破り、校舎を見事に焼き払っていた。

 「うわー バグってばいったい何に進化したっていうのよ。この火の魔法、相当強力なやつよね。ドラゴンくらい強かったらこれくらいできるのかしら?」

 壊れた校舎を見ていると追いついて来たブレンダがそう言って来た。

 「そんなに凄いの?」

 「ええ、熱量が圧倒的ね。人間の魔導師で同じ火力が出せるかどうか、上級の魔導師を連れて来てもちょっと敵わないかもしれないわ」

 「じゃあ、もし誰かがバグの邪魔をしたら、危ないんじゃないの?」

 「そうね、この学校の教師でケイト先生でも抑えられないのなら、誰にも止められないかも」

 「急いで止めなきゃ!」

 「そうね。騒ぎは向こうの方みたい」

 私達はバグを追いかけ騒ぎの中心に向って走って行く。バグはモンスターなので、危険と判断されれば討伐される危険性があるので、早く止めなければ取り返しが付かない事になるかもしれなかった。そして壁に大穴が開いていたので、そこから中を覗き込んで見るとバグとケイト先生が戦っているのが見える。

 「ケイト先生! その子はバグです!」

 止めなくちゃって思うとそう叫んでいた。そして何も考える余裕もなく二人の間に飛び込み、バグの勘違いを説明して宥めようとする。おそらく肉体が無くなったバグは、錬金術に失敗して死んでしまったのだと勘違いをしてしまったのだろう。私も一瞬そう思ってしまったけれど、よくよく考えてみれば失敗しても失うものは、錬金する時に使われる私の精神力だけで、失敗によってバグが死ぬ事は絶対とはいえないものの、ほぼ無いと思う。

 バグはその事を知らないから、暴れてしまったのだろう。

 それにしても進化した種族が透明な事から、レイスみたいなゴースト系だとばかり思っていたのに、今のバグは上半身だけの人型で全身が炎に包まれた姿をしている。これは火の精霊辺りなのかな? 精霊さんは炎を消したら幽霊みたいに透明になるのね~ ひょっとしたら町中にも飛んでいて、ただ炎を消しているので見えていないだけなのかもしれないと思うと、結構世の中賑やかなのかもしれないと勝手に妄想してしまう。


 その後暴れ回ったバグは魔法封じが施された部屋に軟禁される事になったけれど、バグを見に来た精霊魔術専門の先生の見立てで、イフリートという上位精霊じゃないかと指摘された。

 スライムからいきなりの大出世だったので、ブレンダが用意してくれたフレイムリザードの卵が、大きな役割を発揮したのだと思うとブレンダにはとても大きな借りができたなと思えた。

 軟禁されている間、バグが暇を持て余していないか大人しくしていてくれるのか心配になって、ちょくちょく覗きに来てみると・・・ 結構やりたい放題、好きに楽しんでいる事がわかった。

 大精霊とまで言われるイフリートを、あんな部屋に閉じ込める事ができないのは最初からわかりきっていたけれど、外に出て空を飛んだと思ったら部屋に戻って来たり、かと思うと炎の鞭を出して好きに出入りできるはずなのに、わざわざ鉄格子の隙間から石を攻撃してみたり、見ていても何がしたいのかはわからなかったけれど子供が一人遊びしているみたいでちょっと微笑ましいなって思えた。

 部屋の意味が完全になくなっているけど、バグは知能が高いので、今回は暴れ過ぎたと反省してくれているのかもしれないね。


 バグがイフリートへと進化した事で、私の生活も大きく変化した。今まで陰口を言っていた生徒がいなくなり、逆に逃げるように私達に道を譲るようになっていた。

 そちらの方は今までどおり無視しておけばいいかと思うのだけれど、せっかく人型に近い形になったと言うのに言葉が違うのが不満だった。それに今までは一緒にご飯を食べれたのに、精霊になって食生活が変わってしまったので、一緒に食事をする事ができなくなってしまったのが凄く残念だわ。今までできていた事ができなくなるって辛いんだなって、初めて感じたよ。

 バグ自身が教えてくれて、調合で使うアルコールランプを持って来たら一応は一緒の食事気分を味わうことができると分かったものの、何かがおかしい違うって気分にさせられる。

 それともう一つ大きく変わった事は、以前バグが魔法を使う時に私から精神力を持っていって魔法を発動させていたけれど、今度はその逆で私がバグから力を借りて魔法を使う事ができるようになっていた。

 しかも長い詠唱を必要としない簡略魔法で、昔のロウソクの炎のようなものから、一気に魔導師級の威力へと変化していて、それを確認した周りの生徒達は、今まで見下していたせいなのか肩身が狭い感じで淵の方へと逃げて行く。

 私は別に仕返しとか考えてもいないのにね。

 その代わりというのか、ブレンダがよく話しかけてくれるようになった。ひょっとしたら人間で初めての友達って感じなのかな? なぜ昔はまるで接点がなかったのだろうと思える程、ブレンダは気さくに付き合えた。


 何日か過ぎある程度実力が付いたと判断されたのか、学校の授業は冒険者ギルドへと行き、依頼を達成する実戦形式のものへと変わっていった。それに合わせてパーティー選びもしなければいけないのだけれど、私はブレンダに誘われてパーティーを組める事になる。

 ダンジョンの時と同じく、ソロになるのだろうなって思っていただけに驚いたけれど、せっかくのお誘いを断る理由もなく参加させてもらう事にした。

 調子がいい事に他の生徒からもパーティーに誘われたのだが、そっちは今まで会った事もない生徒達で、あきらかにバグ狙いだとわかったのでその場でお断りさせてもらった。昔は誰一人としてパーティーに入れてくれなかったのに、まさかこちらが選ぶ立場になるとは思ってもいなかったわ。

 それよりも私達は二人とも魔法使いだったので、ブレンダが後二人メンバーを連れて来て合計で四人パーティーとなった。初めてのパーティーなので、とても楽しみだわ。

 いきなりクエストに出かけるのも不安なので、その前に連携訓練をする事になったのだけれど、訓練相手をバグがしてくれた。バグの動きは複数人を相手にしているのにとても手馴れていて、まるで私達同様かそれ以上の訓練でも受けていたかのように無駄の無い動きで私達を圧倒する。

 そもそも私は使える魔法がバグから貸してもらえる火属性の魔法なので、戦力にすらなっていないのが自分でもわかっているのだけれど、それでも何もしないで見ているだけなのは嫌だった。せめてダメージにはならなくても、視界を防げないものかと魔法を撃っていったのだけれど、やっぱりそんな攻撃は意味が無いみたいだったよ。

 結局バグは後ろに下がって、サラマンダーを呼び出して相手をさせられた。いきなりバグのような凄いモンスターを相手させられたらそうなるよね・・・

 サラマンダーとの訓練でも、正直上手く戦えている感じがしなかった。それでもできることをしてみようとがんばって戦っているとバグに呼ばれ、絵を描いて召喚で戦えと言われたのでバグに指示されたように、ウルフとファルコンを呼び出して戦うように命令を出す。

 でもこの子達、燃えている相手を見て怖がったりしないのかしら? それに近付き過ぎて火傷とかしたら可愛そうなんだけれど・・・ ついつい怪我をしてしまう事を心配してしまう。


 訓練は完璧とはいいがたいものの、ある程度練習はしたのでとにかくギルドで依頼を受けてみる事になる。せっかくなんだから、やっぱり冒険者として活動してみたいよね。

 私は小さな依頼をコツコツやって行くのでもよかったのだけれど、ブレンダとバグはもっと大物をやりたいようで、ミノタウロスの討伐部位を提示して学校向けの依頼から、大物のリストに変更して依頼を選んでいるみたいだった。まだまともに連携も出来ていないのだから、欲張らない方がいいのにな~

 ブレンダがジャイアントの討伐依頼を選び出し、みんなにこれを受けようと見せて来るけれど、この強さになって来ると、おそらく私達では何もできないと思うよ。全部バグにお願いするのかな? まあバグが居れば多分大丈夫だろうって判断だろうね。最終的にバグがそれに決めたようで、結局私達はジャイアントの討伐依頼を受ける事になってしまった。

 冒険に出発したのはいいけれど行きで山賊に襲われたり、休憩している川ではワニが出て来たりと、現実は思っていたみたいにはうまく行かないようで、冒険は楽しいだけではないのだなって思い知らされる。

 パーティー自体も新米以前に仲間が頼りなかったし、ジャイアントとの戦いでも、まさかのバグの魔法が通じないとかビックリ展開ばかりが起こる依頼になった。

 スライムの時と違って、相手の顔にへばり付けないからかなりきつい戦いだったのだけれど、バグが気転を効かして穴に落とし結局は呼吸を止める方法で倒すことには成功する。

 さまざまなアクシデントが起こったものの、私にとっては初めてやるギルドの依頼だったので、満足する事はできた。そしてやっぱり最後はバグがとても頼りになる事がわかったし、例え自分の力が及ばなくても別の手を考えて、結局は目的を果たしてしまう姿を見ると、やっぱり凄いなって思えた。

 おそらくバグみたいな人? が本物の冒険者と言われる人なのだと思う。私も足りなければ別の手を考えたりして、乗り越えて行きたいと思えた。


 みんなそれぞれ自分の未熟な部分を見付けたので、しばらくは各自で勉強の仕直しをする事となる。私ももちろん未熟なところばかりなので、もっとがんばろうといろいろと勉強をすることにした。

 やっとパーティーも組めて、ちょっとだけだけれど冒険者らしいこともできるようになって、そこそこに充実した生活をしていると、お風呂でブレンダと一緒になった。でもそれは予定通りだったらしく、私に話があるのだと言って来た。

 「レイシアさん、ちょっといいかしら?」

 「ブレンダ、どうしたの?」

 「最近ワイバーンの卵を手に入れたのよ。使わない?」

 正直、私の心の中にあった天秤は、これでもかってくらい大きく傾いた。バグとちゃんと話をしてみたいし肉体があるならば、手を繋いで歩いたりもしてみたい。結局私の背中を押したのは、バグと仲良くなりたいという想いだった。会話ができなければ、バグの事を知る事もできないと思ったから・・・

 それにスライムから大分人の形に近付いた気がするので、次辺り進化させたら人型になりそうな気がしないでもない。これは多分願望でしかないと思うものの、やっぱり諦めきれない想いがある。

 ただ素直に進化させてと頼むのは、前回あれだけ嫌がっていたので逃げられちゃいそうな気がしたから、こっそりやる事になった。

 そこで錬金術の方も力を付け、合成素材の数も三つまでいけるようになったので、もう一つ素材を用意して欲しいと頼み、ウルフを素体に合成するよって感じで進化させれば、バグに気が付かれずに立ち合わせることができるんじゃないかと話し合い、もう一つの素材は町で売っている卵を見付けて来てもらう事になり、素材が揃ったところで進化を試すって計画を練ってみた。


 祈る思いで進化に望んだものの、バグはまたスライムへと逆戻りしてしまう。

 本来錬金の合成は進化であって、退化するものではないはずなのに、スライムになってしまった事に思わず危なかったと思った。何らかのアクシデントでもあったとしたら、バグが消滅してしまうのではと不安になったものの、とりあえず消えなかった事に安心する。

 でも、スライムではお話はできそうにも無い・・・ そう思っていると・・・

 「のーーーー」

 バグが突然叫び声を上げていた。ビックリしている内に、今までのうっぷんをぶちまけるかのように一気に喋り出し、しまいには窓から飛び出して逃げてしまった。そこでやっと私とブレンダはバグが逃走した事実に気が付き、急いで探す為に校舎を飛び出したのだけれど、結局見付けることはできなかった。

 落ち込んだ反面、少しでもバグの声が聞けた事や、思っていた事を聞けたことに嬉しさを覚えるけれどこんな風じゃなくて、もっと普通にお喋りがしたい。私はそう考え、絶対もう一度バグを見付けようと考えていたんだけれど、そんな私をあざ笑うかのように、バグとの繋がりが突然ほどけて行く感覚に襲われる。

 「駄目!」

 私は必死に抵抗を試みたけれど、やっぱりバグは凄い。私の抵抗などあっさりと振り払って召喚魔法の呪縛から逃れてしまった。


 最初はただ悲しくてどうしたらいいかわからずに落ち込んだり鬱いでいたけれど、元々私にバグは相応しくなかったと思い直す。それとともにバグの力を頼りにするのではなく、同じ場所に立って一緒に居るのに相応しい対等の存在になりたいと思った。

 今の私のままではバグの力を利用しようと群がっている人達と同じ醜い存在になってしまう。そんなのは嫌だから私は今できる自身の力で冒険できるようにパーティーメンバー達と連携訓練をして、バグを利用するのではなく仲間として一緒に冒険できるように、自分なりの闘い方を覚えることにした。

 ブレンダとも話し合って、私達はバグに頼る事無く自分達の力だけでミノタウロスぐらい倒せるようになろうと相談し合い、それくらいでなければバグと一緒に居る資格もないと考えた。なので当面の目標を、自分達の力だけでミノタウロスを討伐できるくらい強くなることとする。

 その一方でバグの足取りを調べる為に、ウルフ達を召喚して居所を探すようにした。

 もう少し成長したら今度は主従関係ではなく、友達としてバグを迎えに行こうと考える。受け入れてもらえるかどうかは、分からないけれど・・・


 それから二週間という長い時間が過ぎて、ウルフがバグを発見したのを感じ取る。今までバグが私を成長させてくれたおかげか召喚魔法の熟練度も上がっていて、おかげでウルフの感情なども把握する事ができるようになっていた。前はぼんやりとした想いがなんとなくわかる程度だったけれど、今ははっきりとした感情などが理解できる。

 バグの居場所がわかった時、まだ連携訓練の途中だったけれどバグの所へと駆け出していた。

 とはいえ、ウルフの発見した洞窟がどこにあるのかわからなかったので、別方向へバグを探しに行っていたもう一体のウルフを呼び戻し、その子に片割れのウルフがいる洞窟まで案内してもらう。

 私にとってはかなり長い時間、自分の半身を失ったかのような消失感を味わったので、いてもたってもいられない想いで洞窟に入って行くと、紫色のスライムがウルフと並んで待っている事がわかった。

 それを見た時、おそらく頭のいいバグには、このウルフが私の召喚した使い魔である事は理解していたんだと思う。それでも逃げる事無く一緒に私が来るのを待っていてくれた事が、無性に嬉しかった。まだ私達の縁は切れていないんだね。

 今までの関係ではなく、友達として一緒に居て欲しいと頼み込むと、バグはそれを了承してくれてやっとホッとできた。


 翌日、私達はバグに成長している所を見せようとギルドの依頼を受けて、バグに頼らなくてもがんばれる事を証明する事にした。おそらくバグには私達がようやく歩き始めたばかりの、ひな鳥のような存在に見えていただろうと思いつつも、ちゃんとしたパーティーだと認めてもらえた事が、とても嬉しかった。

 実力を評価してもらえるってこんなに嬉しい事だったのね。これからもっともっとがんばろうって思えたのが、不思議だったけれど心地よかった。

 更に成長する為に、魔法の勉強や連携訓練をおこなう一方、せっかく進化してお話できるようになったのだから、暇を見付けてはバグの事をいろいろ聞いていくことにした。

 「ねえ、バグはいろいろな事を知っているみたいだけれど、どこでそんな事を覚えたの? スライムは魔法とか使えなかったのに、私達も習ったことがないような魔法も使っていたよね」

 「うーん、なんとなく?」

 「じゃあ、バグ以外にも頭のいいスライムって、いるの?」

 「さあ、いないんじゃないのかな?」

 「昔はどんな生活をしていたの?」

 「うーん。流されるようにただ生きていただけだな~」

 嘘や誤魔化そうとしている雰囲気はないのだけれど、バグに関しての情報がまるで増えなかった。

 やっぱり召喚される前は、どこにでもいるスライムだったのかな? それにしては魔法の知識や集団戦闘の知識など、何かしら勉強をしなければわかるはずもないような知識なども持っていた。過去を聞かれたくないってことなのかな? もしくは過去の記憶を失ったとか?

 昔の事が聞けないのなら今の事を聞くことにしようと考え、まずは再びスライムになったので一緒にご飯を食べながら好みを聞いてみることにした。

 「バグはどんな料理が好きかな?」

 「うーん、どれもいまいちだな」

 「え、これなんて、結構美味しいよ?」

 肉料理なのだけれど、バグのお好みではなかったみたい。かといって野菜が好きって感じでもないみたいね。スライムだから味覚が無いってことなのかしら?

 「じゃあ、好きな色とかは?」

 「色か、しいていえば黒かな」

 スライムにも色はわかるみたいね。そしてやっぱり個性というか、好みもちゃんと存在しているようでやっと少しバグの事を知ることができた。私はバグの好みとして、黒色が好きと心にメモをする。

 その他にもいろいろとお喋りをしたのだけれど、人間とモンスターでは生活自体が違っている為か、中々バグを理解する為の情報を手に入れられなかった。

 色以外の好みでわかったのは嫌いな言葉で、正義という言葉が嫌いなんだそうだ。やっぱりモンスターだからなのかな? 正義っていうのは良い事だと思うのだけれど・・・

 「なんで正義が嫌いなの?」

 「ああ、大体正義を語るやつは悪党が多いからな。本当に正義の行いをする者は、いちいち人に自分の行いは正義に基づいているとか言ったりしない。逆にそう言うって事は、何かしら正義に反しているから、周りのやつにそうじゃないって言い聞かせようとしているのだ。正義を語るやつに、ろくな奴なんかいないだろう」

 なるほどって思うと同時に、スライムに言われているのがなんとなく情けなく感じた。

 確かにバグの言うような傾向はあるかもしれない。そして正義そのものを嫌っているのではなく、正義を語って悪事を働く人間を嫌っていたのだなって思えた。昔に人間にいじめられたりしたのかもしれないね。

 モンスターとは、正義の基に討伐されるべき存在だって考え方は、この世界では常識とも言える。いろいろ話をして、バグは人間に詳しく人間臭さはあるものの、人間そのものの感性は持ち合わせていないことがわかった。

 ひょっとしたら興味を持って、人間を観察しているうちに知能が芽生えた存在なのかもしれないね。スライムがどれくらいの寿命を持っているのかわかっていないので、ひょっとしたら千年とか生き続けたスライムとかそういう存在なのかもしれないな・・・


 バグとお喋りしていると、あっという間に時間が流れて行く。それは夢にまで見たとても楽しい時間だったが、それと同時に何か足りないようにも感じていた。人間ではないとはいえ、こうして友達として会話することができるようになったけれど、やっぱり一緒に遊んだりできないのが引っかかっているのかな?

 確かに一緒に手を繋いで歩く事も、町にお出かけして買い物したりする事もできないから、そういうのに憧れはあると思う。バグが街中でこれくださいとか、喋ったら大騒ぎになるだろうな~ それはそれで楽しそうだけれど、後で襲われたら嫌だな。

 充実した日々を過ごしているとそろそろ大物に挑んでもいいのではという話が出て来て、私達パーティーは目標としていたミノタウロスと戦う事になった。

 少し不安な所があるらしいので依頼の前にそれぞれ未熟な所を鍛え直してから挑むってことになり、その間バグは水晶を欲しがり採りに行ってしまう。

 その時にバグが使った魔法は魔導師の中でも上級の者しか使えない程の魔法だとブレンダが言っていたのを聞いて、そんな魔法も使えるだなんて、やはり何千年と生きて来た可能性があると考える。スライムの人間研究家、ある意味ちょっと夢のあるお話に思えた。

 バグが戻って来たのは明くる日のお昼頃、丸一日帰って来なかったのでひょっとしてもう戻って来てくれないかと思って心配になったりもしたけれど、バグはちゃんと帰って来てくれた。離れてしまうと不安になるけれど、私のいる所を帰る場所と思ってくれるのなら嬉しいと思える。これから先もそう思ってもらえたらいいな。

 でもって採って来た水晶を何に使うのかと思っていると、大事そうに体内に入れて木陰でなにやらステータスとか言う新魔法を編み出そうとしていると聞いて、やっぱり知能は私より上だなって思う。

 ますますバグの過去に興味が出て来るけれど、今は話してくれそうにもないから、いつか聞かせてくれる日を楽しみにすることにした。ひょっとしたら過去の勇者の話とかも聞けるかもしれない。もしかしたら勇者と戦った事もあるかもしれないと思うと、早くバグの過去が聞ける日が来ないか待ち遠しくなる。


 それぞれミノタウロスと戦う準備を終わらせクエストに向うと、そこにいたミノタウロスは一体ではなく、複数存在するという予想外な展開に見舞われたものの、私達はそれぞれの役目を果たしてミノタウロスを相手に戦える事を証明することができた。まあ結局はバグに手伝ってもらって、大半を倒してもらったりしたのだけれど、それでも何体もいるミノタウロスを安定して倒しながら進むことができたのは、みんなが成長している証だと思える。

 私も未熟な魔法ではなく召喚魔法で戦闘に参加するという方法で、パーティーに貢献する事ができたと思う。前のような、バグに任せて後ろで見ているだけというような結果にはならなかった。

 結構大変なクエストになったので、その後しばらくはゆったりと過ごす事に決まり、こんな時はバグが人間か人間に変身できるモンスターだったら、町をのんびりと見て回ったりできるのにな~ とかそういう風に考えると、それはとても魅力的なアイデアに思えた。

 ブレンダももう友達と呼んでいいとは思うのだが、実際はいいところのお嬢様であるので、なんとなく気軽な友達付き合いをしていいのかどうか迷う所がある。

 私の家が没落していなければもっと親しい付き合いも出来たと思うけれど、ブレンダとはいずれ別れることがわかっている。

 だから余計仲間以上の付き合いはしない方がいいと思えた。そう考えるとやはり私にはバグしかいないのかなって気がしてくる。


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