宴会
フラムイスト国にいる異形は、無事に勇者とブレンダ達によって討伐されたようだった。この出来事によりマグレイア王国とフラムイスト国の間には同盟が結ばれたようだったけれど、そういえばフラムイスト国の王様ってあの第三王子なのかな? パペットからの情報を確認してみると、アーデリム王子であっているようだな。
あれが国王で大丈夫か? そう思ったけれどまあ国が落ち着いたら国王を変えればいいかと思って放っておく事にした。
その他の出来事としては、勇者を抱える国としてマグレイア王国が代表して人類をまとめようとして準備を始めたという報告が上がって来ていた。これはおそらくオーリキュース王子の作戦だろうな。
近く第二王子のサリラントがマグレイア王国の新国王に替わり、周辺の国々と協力して人類軍を編成するという話らしい。今はその為の準備として、あちこちの国へ直接出向いて協力してくれる国を少しでも増やそうとしているという話だった。ただ、出向くには遠過ぎる他の国には、大国に書状を送りマグレイア王国と歩調を合わせてそこからも人類軍を出して欲しいという協力要請をしているようだった。小さい国はその大国にまとめてもらうつもりらしい。
多目的シートにそれらの情報を映し出して状況を確認して見ると、サリラント王子の計画がそのまま上手くいったとしたら過去最大級の数の兵隊が、この魔王城へと押し寄せて来ると考えられる。兵力としては十万を軽く超えそうだな・・・・・・
うひゃー。これが負けてはいけない戦いだったら慌てているところだろう。幸いにして魔王軍は初めから負けるのが前提でこの戦いに挑む事になっているから、後はどれだけ抵抗できるかどうかって感じか。
さすがに勇者じゃない兵士に魔王が討たれるのだけは避けないと行けないからな~
こちらの兵力としては、生き残りのゴブリン達が九十体くらいヘカトンケイルという種族に進化している。まあ全員が同じって訳ではないのだけれど、巨人族とか力ある種族への進化を果たしている。ゴブリン達の知能で戦うにはもってこいの進化先だね。
他には狼達が予定通りドラゴン種に進化していて、総勢二百体の竜の群れになっている。これだけでも十万の兵力を蹴散らすのには十分かもしれないな~
そこに死者の軍団が七百といった感じか。こいつらはスケルトンのような雑魚がいないので、これだけでかなりの脅威になるはずだ。
そこにモンスター牧場で育てている知能の高いゴブリン達が入って来る予定になっている。うーん・・・・・・ひょっとして過剰戦力なのかな?
まあ用意してしまったのだからこれ以上の戦力を増やさない方向で行こうか・・・・・・。一応ホムンクルスとかモンスター牧場の方は進化させて行きたいのだよね。そっちだけ活動して、他は現状維持って感じにしておこう。
モンスター牧場は閉鎖して、今いるゴブリンを進化させる為に経験を積ませるように指示を出しておく。魔王軍が僕の国とかなら、今後を考えて続けて行くところだけれどそうじゃないから、戦力は今度の戦争だけを考えておけばいいだろう。
魔王軍の準備はほぼ整った。後は人類が団結して向って来る日を待つだけの状態になったな・・・・・・そう考えると、殆どやるべき事を終えた魔王軍はここら辺りで盛大に騒いで羽目を外してもいい気がする。
今までがんばって来た仲間達と騒いでみるのも楽しそうだなって、そう考え配下に宴会の準備をさせる事にした。会場は魔王城の裏手にある森の中の湖で、数々の日本の料理とお酒を用意してキャンプファイヤーでもやってみるのもいいかもしれない。花火も楽しそうだとも思ったけれど、さすがにそこまでやると目立ちそうなので止めよう。監視している者がいるかもしれないしね。
お酒を飲まない連中もいるかもしれないので、そういう連中の為にデザートとかおやつとか、いろいろ用意してみる事にして、盛り上げる為に内の連中には演奏するやつもいるので、音楽で会場を演出してもらう事も出来るし中々楽しく騒げるんじゃないかな?
思い付きで準備を始めたイベントであったが、話を聞いた魔王軍のメンバーはむしろノリノリで準備を手伝ってくれた。イベントは三日後に予定して、可能な限りモンスターも含めて集まって騒ぐ事になった。
「何かこういうの楽しいね」
「思えば、こういうイベントは初めてかもしれないな」
「酒場で騒いだ事ならあるけれど、それとはまた違うんだよね?」
「そうだな。基本的に料理や会場造りなど、全部自分達で用意するからな。手間暇かかる分何をやっても構わないのが面白いだろうな。今回はモンスターも来るから暴れられたら大変だろうが、まあそんな騒ぎも楽しめたらそれでいいかと思う。身分とか気にしないで自由に楽しんでくれればいいかな」
「いいねそういうの。私も何かやってみたいな~」
「せっかく教えたのだから、時間があったらダンスでも披露してみるか?」
「いいの?」
「あの時に創った演奏家もいるからな。彼らにも出番を作ってやらないとって考えていたところだ。まあ、みんなに受けるかどうかは、わからないがな」
「受け入れられたら嬉しいけれど、駄目でもいいよ。付き合ってね」
「ああ」
学園祭をする訳ではないので必要な準備といっても、出し物の準備ではない。イベントに参加するモンスターの数がかなり多い為、こいつらに料理を用意するとなると必要になる量も結構馬鹿にならない。お酒もだけれど、今回のイベントでは基本食べ放題、飲み放題を企画しているので料理が余るくらいの量を用意しておこうとしていた。
肉を食べ放題にすると、ドラゴン一体でここら一帯の動物がいなくなるくらい食べそうなので、魔法を駆使して何とか材料となる肉を確保してみたり、お酒もどれ程の量が消える事になるかわからないから、こっちにも魔法を使ってがんがん醸造したりしていた。
レイシアは空間に干渉する魔法とかは扱えない為、普通に狩をして手伝ってくれたかな。
まあそんな感じで生徒の指導の後、準備をしているとあっという間に三日が過ぎて行く。
湖の上に氷を張って臨時の会場とした場所へ向かうと、パペット達がまた無駄に豪華な机を並べている。この氷は僕が魔法で造ったものなのだが、ドラゴン種が多い為に湖の周りだと場所が狭過ぎると判断して、昨日のうちに凍らせておいた。
湖全体を会場として使えるのなら、ドラゴンが一杯いても十分な広さが確保出来て、氷上の会場という風情のあるイベントにもなった。まあ多少滑って危険かもしれないが、ここにいる連中は滑って頭をぶつけたくらいでダメージを受けるような柔な者はいないからいいよね。
そして一応時間があるかどうかはわからないけれど、湖の中央辺りにはダンスが踊れるように板を埋め込んである。ここは別にダンスだけじゃなくて、他に何かやりたい者がいれば使ってもいいし、まあバトルが始まったとしても、板を張り替えるのは簡単だからみんなの前で腕試しをしてもいいと考えている。
周りには既にモンスター達が集まっており、乾杯の合図もしていないのに既に食べてお酒も飲みまくっているようだった。僕としては今までお疲れ様~。みたいな感じで乾杯して騒ぎたかったのだけれど、モンスターにとっては大量に用意された料理とお酒の数々に我慢などできるはずもなかったようだね。
まあこれもある意味魔王軍らしいかな? そのまま僕らもなし崩し的に参加して騒ぐ事にした。
普段お世話になっている眷族をねぎらう事も含んでいるので、彼らにも無礼講で楽しんでもらう。ほんとはパペット達にも楽しんでもらおうと思っていたのだけれど、彼らの場合は休みを与える事の方が苦痛に感じるようで、どんな仕事であっても命令される事を喜ぶ彼らには、今回のイベントの裏方をお願いする事になった。まあ彼らは食事をしないしね。
確かにこの数相手に僕だけで切り盛りはできないので、仕事をしてもらえるのはありがたいのだけれど、仕事をさせるのがねぎらう事っていうのは何か微妙な気がする・・・・・・
まあ気にしないようにして料理を運んだり付き合いで飲んでみたりしながら過ごしていると、レイシアがそわそわしていたのでダンスに誘って踊ることにした。
音楽がダンス曲に変わった事もあってか結構大人しく見てくれる者も多かった。
踊ったのはワルツとそれに似たブルースという踊りで、大体一曲三分程だったから合計六分ぐらい踊っていると、お酒が入って陽気になっていたのか僕達が踊り終わる頃には周りのモンスター達もよくわからないなりに見よう見真似で踊りを踊っている者が一杯いる状態になっていた。
モンスターの国のようなものがあったのならば、彼らにもダンスを教えて面白おかしく暮らすっていうのもよかったのかもしれないな。見た目が怖いし凶暴で知能が低いから、こうやって種族を問わずに一緒に暮らすって事は殆ど不可能なのだろうが、彼等も個性や自分なりの意思を持った普通の生物なのだなって感じたよ。
その後僕らのダンスを見て自分も踊りたくなったのか、ダンスを教えて欲しいみたいな視線や実際に言って来た眷族もいたので、もう少しみんなが楽しめるタイプの踊りを教える事にした。せっかくキャンプファイヤーも用意しているので、やっぱりこれだろう! って感じでフォークダンスを教える。
まずはお手本をという事で、パペット達を集合させると、軽く踊ってもらう事にした。こっちは複雑な動きなどなく結構気楽に参加出来るタイプの踊りだから直ぐにみんなが覚えてくれ、種族毎に違う輪を作って躍らせる事にした。さすがにドラゴンと人間サイズとかになると、体格差で上手く踊れないだろうからね~
ドラゴンとヘカトンケイルがフォークダンスを踊っているとか、見ているとどんなギャグ漫画だって言いたい光景ではあるが、こういう日常とかもっと一杯経験したかったものだと思った。
そんな時間もあっという間に過ぎて行き段々酔い潰れて寝てしまう者が続出して、さすがに外のしかも氷の上で寝るのはまずいだろうと、寝てしまった者を転移させて寝床に飛ばして回ると、朝日が昇って来たのがわかった。
「結局夜中じゅう、楽しんじゃったね」
「そうだな。思っていたよりも楽しんでくれていたようだから、あっという間に時間が過ぎていたな・・・・・・今になってもう少しこういうイベントをもっとやっておくのだったって思ったよ」
「仕方ないよ。バグは一生懸命動いていたもの。それにこんな楽しい企画なんか、見た事ないから私達には思い付きもしなかったしね」
「今だから思うが、モンスターの国っていうのも有りだなって感じたな」
「そうね。今までモンスターはただ厄介なだけって思っていたけれど、こうして一緒に過ごして見ると人間と変わりなく楽しんだり、喜んだりするものなんだって思ったわ」
「まああいつらも生きているからな」
「そうだね」
「そろそろ僕らも帰って寝るか。さすがに徹夜はつらいだろう?」
「うん。ちょっと眠いかな。まだ夢みたいな感じで頭がボーってしているけれどね」
パペット達が後片付けを終えたタイミングで湖の氷を解除し、これで昨夜の出来事が元から無かったような静かな風景がそこにあった。僕らはしばし朝日が映る湖を眺めた後、しばし休む為にパペット達も連れて拠点へと転移した。
その後大体一ヶ月が過ぎると、ヤーズエルト達の役目は終わりを迎えた。
まだ根絶された訳ではないものの、異形の大半が討伐された事で、ヤーズエルト達は人類の希望とか英雄だともてはやされている。その中でヤーズエルトは元々フレスベルド国の近衛騎士だった事もあり、国では自国から英雄が誕生したと大騒ぎになっていて、国からも戻って来て欲しいと連絡が来ていたそうだ。
ヤーズエルトとしては追い出されたも同然の国に再び仕える気はないようで、既に仕える国を見付けていると言って断ったそうだ。
ウクルフェスの方も、その優れた魔法の力を魔術師ギルドの方が欲しているらしく接触があったようなのだが、こちらは自分より劣る者の下にいて魔法の研究が進むのか? そう言われたギルドの人達は、すごすごと帰って行ったようだ。
アルタクスは役目を終えると、誰にも気付かれる事なくレイシアの元へと戻って来た為に謎の英雄と言われていた。まあ見た目は小さな女の子だからね。それが、大人が束になってもかなわない異形相手に戦っていれば、いろいろな憶測やら尾ひれ背びれなどが付いて、訳のわからない謎の存在にもなるってものだろうな~
そして最後に魔王軍の医療担当だったベルスマイアは僕が予定していた通り、聖女として多くの人々の注目を集めた。彼女の場合は異形討伐だけではなく、立ち寄った村や町でも癒しの力で人々を救っていたのだから当然といえば当然の結果だろう。彼女が有名になれば当然、彼女の信仰対象とされたサフィーリア教も注目が集まっていた。
今では彼女の担当地域である世界の南側を中心に、サフィーリア教会が多くの支持を受けて信者も増えていっているのだそうだ。それにともない、サフィーリア教の最高司祭であるジェレントから一度直接会って感謝を伝えたいという申し入れがあったようだが、まあ当然の如くベルスマイアにその気はなく魔王軍へと戻って来ていた。代わりに僕の方から何か言っておくかとも考えたのだが、そこまでする必要性もないかと思いそっとしておく事にした。
ハウラスの方はこの一ヶ月、ブレンダ達と上手く行っている様で、ダンジョン攻略が結構進んでいるみたいだ。それでもまだ半分くらいしか攻略できていないけれどね。このペースだと攻略するのに後二ヶ月はかかるかもしれないな~
英雄候補の生徒達の方は、早い者は上級ダンジョンもクリア出来て、故郷へと帰った者も出始めた。中にはもっと修行したいといって、上のダンジョンに潜っている奴もいるのだけれど、まあこっちは好きにさせておこうと思う。
パーティーが崩壊してホムンクルスと組ませた生徒達は、無事に中級を卒業して上級でがんばっている。ここまで来れば彼らだけでも大丈夫かなって考え、そろそろペアでがんばってもらう事にした。さすがに少しの間でも、一緒にがんばって来たメンバーが離れて行くとなると寂しそうにしてはいたが、こっちとしてもいつまでも相手していてはこの子達の成長の為にならないのだよね。進化もさせたいし・・・・・・
経験を稼いで戻って来たホムンクルス達を次に進化させて見ると、なんとなく予想していた通り、次も種族はホムンクルスのままであった。姿は人間と変わりがなく、ステータスが見られなければ誰にも気が付かれないと思う。ホムンクルスに関しては、特殊進化って感じなのだろうか? 今回が普通に人間への進化であった為、次の進化が楽しみになって来たな。種族名が変わらないまま人間になったことから、次は何かに変わるかこれが最終形態なのかが、次で判明するだろう。新人類とかに変わったら、ちょっと人間の未来が覗けて楽しいかもしれない。
まだ人類軍が終結するまで時間が一杯あるだろうから、彼らには魔王軍にあるダンジョンに潜って経験稼ぎをしてもらう事にした。
後は知能の高いゴブリン達だが、こっちもそろそろ進化してもらい強くなってもらおう。ゴブリン達にはグループをまとめるリーダーや指揮官的な役割をしてもらいたいので、なるべく人型のモンスターへと進化してもらいたい。
データベースで何に進化させようか見ていると、丁度よさそうなランクのモンスターでラミアってモンスターが目に付いた。
男なのにヴァルキリーになった時の事を思わず想い出してしまったよ・・・・・・そう考えると、女のゴブリンはこっちのラミアに進化させて、男は別の種族に進化させるかなって考え、再び検索していく。そこでちょうどよさそうなランクで見付けたのはケンタウロスだったので、とりあえずこの二つに進化させる事にした。
まあこれが最終の進化先ではないので、今回はという事でさらに経験を稼いでいてもらおう。
司書パペットからの情報を見てみると、世界全体も余裕が出来て来たのか、半分くらいの国々が人類軍参加を決定して準備を始めたそうだ。残り半分のうちいくつかは普通に戦力が足りないとか弱い国だったり、国内の乱れが酷く周りにまで手を伸ばす余裕がなかったりといろいろなのだが、そんな中でもやはり自分の事しか考えていない国なんかもそこそこあるようだな。
まあ、そんな国は国民の苦労すら省みないって感じで、好き放題やっている貴族も多いらしく、粛清してもどこからも文句は言われない感じだった。ただ現段階で王侯貴族だけを攻めるという方法はもう取れなかったりする。魔王軍がそんな正義の味方みたいな事をやってしまうと、人類軍の結束の方があれ? ひょっとしてこいつらいい奴じゃない? みたいになりかねない。まあ実際はありえない可能性だけれど、そういうわずかな綻びみたいなものは、もうやっちゃ駄目な段階まで来ている。
僕達にできる事は魔王軍らしく国民諸共、国を蹂躙する方向だろう・・・・・・一応その他の方法としては、反乱軍を造って内乱を起して国を潰す方法もあるだろうが、こっちはどれくらい時間がかかるかわからないかな。まあでも、関係のない一般市民の被害は少なくできる方法である。国民も馬鹿ばかりなら、皆殺しが選択出来るのだがな~
どちらの方法を取るのがいいか、会議を開いたところやはり反乱軍を組織する意見の方が支持されているね。問題はその反乱を実行に移す事ができるものかどうかだけれど、まあそこは現地の人々次第だろうな~
結局反乱を成功させるだけの実力と仲間、そして反乱が成功した後の国の運営までしなくてはいけない。そこまで出来るリーダーが果たしてどれ程いるだろうか・・・・・・
「次代の国王にする為に、バグ殿が育てておった生徒がいるのだろう。彼らを送ればいいではないか」
オーリキュース王子がそう意見を出していたが、それは僕も真っ先に考えていた。だが、そもそもは自分の国を豊かにする為に勉強しているのだと考えると、他国に送り付けるのはどうかと思うのだ。それに他国からいきなりやって来て、反乱軍のリーダーになりたいって言っても果たして受け入れてもらえるものかどうか・・・・・・簡単にはいかない状況だらけで、生徒に余計な負担を強いるのはどうかなって考えて却下した案であった。
「あまり生徒に負担になるようなものを、押し付けたくはないな」
「提案するだけしてみてもいいんじゃないか? 自国を救いたいってだけじゃなく、もっと広い視野で考えているかもしれないぞ」
「そうじゃな。生徒の自主性を考慮して、無理強いしなければよいじゃろう」
ヤーズエルトとウクルフェスもどうやら生徒に行かせる事に賛成のようだった。
「わかった、生徒には強制ではなく、行ってもいいって言うのならやってもらう事にしよう。もし生徒が行く事になるなら、いろいろ協力してくれよ?」
「政治的な支援ならこちらでも出来る。安心したまえ」
「俺も元近衛騎士だったんだ。多少なら力になれると思うぞ」
「ふむ。それでいくならわしは宮廷魔術師関係で協力できるやもしれんな。まあ普通に知恵を貸そう」
「わかった。じゃあこの話は一度保留にするぞ」
後日生徒達にこの話をしたところ、僕の予想と違いみんなやる気になってくれた。曰く、元々自国で国王になるなどほぼ不可能だと考えていたし、身分でいっても重要な位置まで行けると考えていなかったので、この機会を逃したくないのだそうだ。
結構みんなしたたかなのだな。
まあ、みんながそれぞれにやる気になっていたので、問題となる国をピックアップしてその情報を生徒達に教えて行く。誰がどの国に行くのか、どんな知識や手段が必要になるのか、そういう事もみんなで話し合って決めていっていた。ここまで頼もしいとこちらから意見を出す事も無さそうだな。なので必要になりそうな情報の取得だけを僕が担当して、それぞれの国の方針などは全て生徒に任せておく事にした。
最終的な計画は、学校にオーリキュース王子を招いて問題がないかどうか話を詰めてもらって、それぞれの国へと転移で送り込んで行く。
後は支援物資を送ったり、必要な情報収集などもやって後方支援をしていく段取りになっている。
直ぐに結果は出ないだろうが、これからしばらくは気にかけていかないといけないな。
その後の魔王軍の活動は、生徒達を裏から支援する地道な作業になった。既にレジスタンスが活動している国なんかもあったのだが、そういうところへはブレインとして潜入していった。反乱が成功して新たな国を造って行く場合は、そのレジスタンスのリーダーが国王を名乗るらしいのだが、担当の生徒はそこで宰相などの地位が貰えるのならそれで構わないのだそうだ。
というかむしろ裏の支配者っぽいのがいいのだそうだ・・・・・・まあ本人がそれでいいのなら問題ないけれどね・・・・・・
そのような細々とした活動をして、最初に革命を成功させたのはやはり元々レジスタンスが活動していた国だった。それでもブレインの参加とそれに伴う物資の確保、必要な情報が一気に手に入ったという要素がなければ何年かかっていたのかわからないと見られている。
革命成功後の国は酷い有様で、王都と周辺の町や村だけでなく国内の殆どが争いの爪痕を残す有様だった。ある程度レジスタンスの方でも予想は出来ていたのだけれど、実際の国内の様子は予想していたよりも酷かったようで、直ぐに食料品や医療品が底を付いてしまった。
その様子は、これから反乱を起こして国を立て直そうとがんばっていた生徒達にも衝撃を与え、計画を躊躇させるには十分な出来事だったらしい。そんな生徒の元へ補給物資が届けられたのは、レジスタンスのリーダーが現実の厳しさに打ちのめされていた時だった。
まあ確かに革命を起す為に一杯準備をして来たのだろうが、元々ひもじい思いをして来たレジスタンスが国民に配り歩く程の食料などあるはずも無いのは当然の事であろう。問題点はそこだけでなく、本来であれば国力の弱った国があれば、周辺の国が攻め込んで来てもおかしくはない。
そこで王子が周辺国に対して、魔王がいるこの状況で人類同士争っていると、魔族に付け込まれるぞと脅しをかけると共に、内乱でボロボロになった国を抱えて魔王と戦いたいのかな? そう言って周辺の国々に手出しさせないよう協定を結ばせたのだそうだ。
そして食料は魔王軍の拠点内で大量生産させた。さすがに国を丸ごと維持する程の生産量は難しいだろうが、一時的に飢えるのを凌ぐくらいは魔王軍なら可能である。なのでここで生産されたイモ類など、生徒の元へと転移で運んで行った。
これによってレジスタンスは国民達に非難される事を免れる事が出来た。後は素早い復興が出来るかどうかで、国民に認められるかどうかが決まって来るだろう。もしここでしくじると新たな反乱軍が現れ、今度は彼らが追い落とされる事になるからな。まあそんな風になりそうなら、パペットを派遣してサクサクと復興させちゃうけれどね・・・・・・
最初の革命が何とか成功して、各地に散らばった生徒達も何とか気持ちを落ち着ける事ができ、その頃には英雄候補としてダンジョンで修行していた者達も、地元に戻ってモンスターの被害などから町や村を守る活動を始めたので、彼らにも革命に手を貸してもらう事にした。といっても革命自体は人間同士の争いである為、彼らにお願いする事は被害を食い止める活動の方だった。最初の革命の時は国内全部が争いに巻き込まれたから、被害が尋常ではなかったのだ。
そこで革命を起す時に周りに集まってもらい、国民に被害が出そうな時にはその元凶となる者を排除又は捕縛してもらい、その国が荒れる原因を減らそうという計画だった。それによって二番目に革命を起した国では、最初の革命は何だったのだと言いたい程スムーズに革命が成って、生徒の中で初めての国王が誕生する事になる。
まあ、革命の後に直ぐ人類軍の活動ができる程元気な国ではないけれどね。今までの疲弊振りがあるので、今回の人類軍には足を引っ張らないというところが重要だと思われる。
その革命以降、生徒達も勇気付けられたのか機会を見て革命があちこちで起こって世界全土が新たな時代を予感させられた。
その革命ラッシュと異形が各地で排除され、世界全体がまとまって来た事で、勇者の準備が整い次第人類は一丸となって魔王に対抗しようという風潮が各地で囁かれ出した。
その後勇者がダンジョンの最深部で宝玉を手に入れたのは二か月程後の事だった。
こちらから生徒を送り付けた国々も、その頃には代替わりをほぼ終えており、僕は魔王軍内部でのんびりする事も多くなっていた。
知能の高いゴブリンは、ヴァンパイアロードやデーモン、ドラゴニュートなどといったかなり上位種に進化を終えており、特殊進化っぽいので期待していたホムンクルスは、種族がバッカーライという聞いた事のないものに変わった。
外見は殆ど変わりがなく、耳の先が少し尖ったくらいかな? 後はエルフのように少し優れた外見になったかもしれなね。
彼らが何者なのかよくわからなかったけれど、まあそれでも彼らが手に入れた能力を見て、ある程度の予測は付けられる。彼らの手に入れた能力は超能力。おそらく以前予想していた通り、次世代の新人類なのだろう。
ここからさらに進化するのかどうかはおそらく見る機会はもう来ないと思うけれどね・・・・・・




