勇者ハウラス現る
モンスター牧場計画の第一段階として、まずは知能の高そうな子供を増やす事から始まった。子供達は生まれて直ぐ別施設へと移され、そこでリースとイオルドの管理の元人間の言葉を学習する事になった。言葉を学習するだけの知能はあるので、後は発音ができれば問題ないと判断されたのだ。
それと共にゴブリン語を扱わない事で、他のゴブリンに影響されずに育つ可能性も考えられている。まあ、後々覚える固体も出て来るかもしれないけれど、子供のうちにこちらに従うよう教育されていれば、多少は大丈夫だと考えられている。
まあ暴動起される心配より、まともに考えられる頭を持ってもらう事の方が大切だろう。その後で反乱など起されないように、ちゃんと面倒を見ていけばいいし、それでも何かしら暴れるのであれば、その時に対処するようにしたらいいだろう。
モンスター牧場はしばらくリースに任せておいて、僕は育って来た狼の訓練に付き合う。
リザードマンに進化した狼を目標に、今日は訓練をしていく事にした。放っておくと直ぐに四足歩行で走ろうとする彼らに憑依して手足の使い方、武器を持って戦う方法などを教え込んでいくのだけれど、中々上手くいかないな。忠誠というか統率の面では他のモンスターなどお呼びでない程ダントツで優れているのだけれど、やっぱり動物だからなのか手足を使った行動が上手く出来ない。
おそらくは教えた事を忘れているのではないと思うのだけれど、複雑な動作を好まないのかな?
そんな感じで行き詰っていると、司書パペットから何か用事があるような気配が伝わって来た。多目的シートを広げて確認してみると、勇者となったハウラスが複数チームの上級冒険者と組んで、魔王討伐を企画しているらしいという情報であった。
おそらく増え続ける異形に焦って、元凶の魔王を倒す事でこれ以上の悪化を食い止めようという算段なのだろうな。戦術としては合っているのだが、それだと人類同士の争いは持続したままだなと考えていると、黒騎士がこちにやって来て話しかけて来た。
「勇者が来るかもしれないんだってね。まだ時期じゃないから追い返してくれるかな?」
「相変わらず情報が早いな。独自の情報を持っているのか?」
「そうだね~。僕はどちらかといえば眷族のような立ち位置なんだ。つまりは上からの指示で動いている。そっちから情報が降りて来ただけだよ」
今でも勝てそうにない黒騎士の上に、さらに主になるやつがいるっていうのか・・・・・・ここまで来ると、敵対しないっていうのが正解だろうな。下手に喧嘩を売ろうものなら、黒騎士ランクの敵が百とか千とか襲って来る可能性もあるかもしれない・・・・・・
敵対して来ないのなら無視でいいだろう・・・・・・
「了解した。まああいつは元生徒だからな、どうにかするよ」
「任せるよ」
さてさて、まずはこちらに攻めて来る日時を探っていこう。おそらく今回は魔王軍の戦力で使えそうなのは死者の軍団と、生き残りのゴブリン達くらいだろう。新たに育て始めたやつらは、まだまだ実践投入できるLVになっていない。
そして相手が勇者と上級冒険者になって来ると、死者の軍団は雑魚だろうな・・・・・・数いても役に立たないと思われる。
ゴブリン達はそこそこ戦ってくれると思うけれど、ここで消耗させるのは控えたい。いずれ来る全面対決の時の戦力が、減ってしまうからね。そう考えると、四天将でお相手するのがいいかもしれないな。そう考えてみんなに話を通しておく事にした。
「ヤーズエルト、調子はどうだ?」
「バグか、いい調子だぞ」
「もう直ぐ勇者一行がやって来るのだが、今のモンスターは消耗されるだけになりそうだから、今度は僕達が前に出ようと思う。一緒に来てくれるか?」
「ああ、構わないぞ」
「それと、勇者のハウラスパーティーはこちらで相手するが、その他のやつらはお前達に任せたい。ギリギリの戦いとかになってもらっても後々舐められたりして厳しくなるから、俺の支配下に入らないか?」
「うん? どういう意味だ?」
「副官のレイシアだが、実際に僕の加護を受けて戦闘能力が上がっているみたいなのだ。だが、引き換えに魔人って種族になってしまうみたいだな。これからも前衛として戦うのなら敵を圧倒できる程強くなって欲しいと思っていてな。一応どうするか聞いてみたかった」
「なるほど、強くなれるが人間を止める事になるということだな。実際に見たところ、レイシアの嬢ちゃんは人間と変わらないし、そこまで気にはしなくてもよさそうだな。今更人間じゃなくなったところで、もう既に魔王軍に入っちまっているしな。その加護っていうのは直ぐに貰えるものか?」
「う~ん。はっきり言ってしまえば、レイシアは気が付いたら守護していたって感じだから、意識して守護するって事がなかった。試してみないとわからないって感じかな」
「なるほどね。じゃあとりあえずやって見てくれていいぞ。駄目なら駄目で今までと変わりないだろうからな」
「わかった。試させてもらうよ」
了解も取れた事だし、とりあえず守護のスキルを使って見る事にする。ステータスで確認してみると、まあ普通に種族が魔人に代わっていて、加護自体も受けた状態になっていた。こっちは直ぐに結果がステータスに出るのだな。
「無事に加護が付いたみたいだな。どれくらい強くなるのかはよくわからないのだが、魔法使いのレイシアが素手で敵を倒して行っているのだから、お前ならドラゴンとかも余裕になっているかもしれないな~」
「お、それは試してみたいな! 早速ダンジョンに行って来てもいいか?」
「ああ、戦い方も変えないといけないかもしれないからな。存分に試して来てくれ」
「了解、じゃあ失礼する」
挨拶もそこそこ、もう能力が向上しているのか、恐ろしい速度でダンジョンへと突入して行った。見たところLVも七十九にもなっていたし、こんな機会が来ていなくてもいずれはって考えていたから丁度いいきっかけになったよ。
ウクルフェスにも話をして加護を与えると、その後で新しく開発した魔法を見せられたり、逆に新しい魔法を見せて欲しいと言われて、その日は魔法の研究を手伝う羽目になった。
翌日、レイシアに狼の進化先についての打ち合わせをする事にした。
「あいつら、こちらの命令には素直に従うのだが、やっぱり複雑な行動は難しそうだった。だから今後の進化は四足歩行の動物系で、肉体能力を生かして戦うような種族に進化させる方向で試してくれるか? 例えば地竜とかそういうのがいいかもしれないな」
「地竜ってアースドラゴンかな? そうね、アースドラゴンがこちらに従って行動してくれれば十分な戦力になるわね。わかった、やってみるよ!」
「頼む」
結局狼も思っていた程の戦力にはなりそうにないな。ゴブリンよりは言う事を聞いてくれるので、育てる意味はあるのかもしれないけれど、相手が正面から戦ってくれず罠や戦略を使って来た場合は、役に立たないかもしれない。
使いどころって事だろうね。
後はモンスター牧場の方に期待しよう。あっちも駄目な時は錬金術をマスターさせたパペットに、ホムンクルスの作製をさせるとかかな? もうそれくらいしか、思い付かない・・・・・・
そういえばアンデットって、進化するのかな?
「レイシア、アンデットも進化ってするのかな? ゴーレムのような魔法生物とか・・・・・・」
「どうなんだろう? 試した事がないと思うよ」
「じゃあ、ちょっとやってみてくれるかな?」
「うん。私もちょっと興味があるわ」
トールティに要請して、ゾンビを一体連れて来てもらった・・・・・・こいつはリザードマンゾンビだな。という事は、元はゴブリンとかコボルとかだろうけれど、進化が成功して知能を持った場合は、またお馬鹿さんになるのかな? そこも調査が必要だろうなー
合成を試した結果は、リザードマンゾンビが暗黒騎士になった。アンデットも進化可能という事がわかったので、レイシアには早速アンデットの進化をお願いすると共に、知能を持つアンデットになった時の知能レベルがどうなっているのか、教えて欲しいとお願いしておいた。
まあ普通に頭がよくなる事はないだろうね。復活しているのではないだろうから元の人格などは無いと考えられるし、そう考えると魔法生物って感じの人造の魂を持って生まれた新たな種族と考えた方が良いかもしれない。
そうするとアンデットになって一度死んだ事で、進化の過程を経て高い知能を持った新たな人格みたいなものを得たアンデットが誕生する可能性はあるかもしれない。そうしたら言う事を聞いてくれる知能の高いアンデットシリーズを集めた軍団が作れるかもしれないな。
駄目なら、普通に頑丈なアンデットにでも進化させよう。
それはともかく、何か魔王軍運営はレイシアの負担が大き過ぎる気がするな・・・・・・やっぱりここいらで錬金術持ちを加えておいた方が運営も安定していいかもしれない。レイシアも余裕ができて、好きな事が出来るだろうしね。
「魔生物作製」
そういう訳で、錬金パペットを追加してみた。早速レイシアにも紹介して、分担作業してもらう事にする。まあ紹介すると微妙な顔をされたけれど、負担の軽減になるのもわかったようで作業を分けて仕事をしてくれるようだった。
それからハウラスがそろそろやって来るかな? と思いつつ待つ事約一ヶ月・・・・・・もうあいつは忘れているんじゃないのかと思い始める頃にやっと、こちらに向けて出発したという報告が入った。
ちなみに一ヶ月も何をしていたのか調べて報告をしてもらうと・・・・・・それぞれの冒険者チームのスケジュール調整に手間取っていたようだ・・・・・・
あいつは性格が直っていなかったのだろうな。それとも普通に人望がなかったのか・・・・・・可哀想なのでこれ以上は聞くのをやめてあげる事にした。
さて、勇者が動いたのならこちらも準備をしないといけないな。とはいっても王子以外の四天将とレイシア、後はトールティと死者の軍団を連れて行くだけである。
アンデットの知能については別人格だったけれど、頭はそこまでよくなかった・・・・・・イメージとしてはゴブリンよりはましかなって程度かな? リッチなどの魔法使い系は、普通に魔法を使ってくれたけれど、こっちで指示を出してやらないと動いてくれなかった。なので、死者の軍団は基本トールティが全権を握り、指示を出して動かしていってもらう事になっている。
今回の死者の軍団の役割は、抜けて来た冒険者の排除と、別働隊がいた時の為の偵察とその排除をお願いしてある。ちなみに死者の軍団の数は七百くらいに膨れ上がっている。それと準備期間が一ヶ月もあったから作業のようにLV上げをさせてパペットに進化させた為に、初期の頃のような雑魚集団ではなくなっている。
後ハウラスは元生徒だったので、僕達は身元を隠す為に仮面を付けて、ヤーズエルト達はそれに付き合って黒尽くめの姿で参加していた。
「かかれ!」
数日かけてやって来た勇者と冒険者達は、ある程度魔王城近くまでやって来ると、待ち構えている僕達を前に一度立ち止まった。少し迷うような間があった後、あちら側からハウラスの威厳を持った声で、戦闘開始の合図を出したのがここまで聞こえて来た。
それを受けてこちらもレイシアとヤーズエルトが恐ろしい速度で走り出して、ウクルフェスは後方で魔法の詠唱を始める。それを確認した僕はハウラスの背後、勇者パーティーのど真ん中へと転移して乗り込むと、ハウラスの背中へとパンチを叩き込んだ。
カハッ
ハウラスにその攻撃を避ける事は出来なかったようで、クリーンヒットしてしまったようだね。その為一時的に呼吸が出来ずにうずくまったまま立ち上がる事も出来ない様子だった。その間に、パーティーメンバーを殴って沈黙させて行く。彼らはいずれ大事な戦力になるはずなので、なるべく死なないように手加減してはいるものの、それでもダメージがデカ過ぎて危険な状態になってしまっていた。
手加減の練習なんかして来なかったからな~。本来の戦略からしたら、回復職を一番最初に沈めるのが賢い戦い方なのだが、今回の場合はなるべく死んでもらいたくないので最後に残しておいたら、予定通りに倒れた仲間を回復してくれて、おそらくは死者はまだ出ていないと思われる。
「くそっ!」
やっと回復したのかハウラスが攻撃を仕掛けて来るのを、日本人なら誰もが一度はやってみたい真剣白刃取りで攻撃を受け止める。受け止めた後で気が付いたのだが、そういえばこの武器って僕があげた日本刀ではなく、聖剣が形を変えたものだったよ・・・・・・
僕の種族は魔神であって、聖なる属性とは対極の存在なのだ。おかげで受け止めた掌にダメージを受けてしまう・・・・・・。思わず余裕だと思って油断したら、自分からダメージ負いに行っちゃったな。慌てて手を離すのもかっこ悪いので、手を捻って武器を奪い取った後で投げ捨てる。掌は回復の魔法を使うまでもなく自動で回復していた。LV差なのか、火傷のようだダメージではあったが、それ程酷いダメージではなかったので助かった。
それとよくこういう特殊攻撃などは、傷が治らないとかそういう設定なのを見る事があったのだけれど、普通に再生出来るのだな~。そんな事を考えているうちにハウラスが武器を拾いに行くのを見て、それならばと一人だけ攻撃をしていなかった回復職を叩いて沈める事にした。
聖剣を拾ったハウラスがしまったって顔でこちらを向いた時にはもう、彼のパーティーメンバーは誰も起きている者がいなくなっていた。さて、彼はこれからどうするのだろうね?
「こんなの勝てる訳がないだろう! みんな撤退だ!」
遠巻きにハウラスを支援しようとしていたパーティーメンバーのうちの一人がそう叫ぶと、周りで今戦闘を開始したばかりの冒険者達も、これ以上戦うって雰囲気ではなくなっていた。
魔王軍の陣地からはウクルフェスの魔法攻撃も飛んで来て、いよいよもってまともに戦える状況ではなくなっているものの、おそらくはここで背中を向ければ命がないと考えたのだろう、戦闘を継続しつつも逃げるに逃げられないといった様子で動けなくなっていた。
「時間を稼ぐ、僕の仲間も連れて行ってくれ!」
「わかった、死ぬなよ!」
不利を悟ったハウラスが悔しそうに、撤退の命令を伝えると、冒険者達は協力して撤退行動に移った。ウクルフェスからの魔法ダメージや、突っ込んで来たレイシアとヤーズエルトの攻撃で、傷だらけになった冒険者達も、必死になって逃げて行く。
こちらとしても追撃などはしないで、僕以外の者が魔王城へと帰還して行くと、戦場には僕とハウラスだけが残された。
かなわないまでも、必死に時間を稼ごうと攻撃を仕掛けて来るのだけれど、焦っているのか攻撃は単調で楽に回避する事が出来る。しばしその状態が続くとさすがのハウラスもこのままでは駄目だと思ったのか、一度呼吸を整えたのでそれに合わせてこちらも待ってあげる事にした。
そして呼吸を整えると、こちらの隙を窺うようにじりじりと間合いを詰めて来るので、大きく一歩踏み出してやる。焦った訳ではないのだろうが、いきなり前に出て来るとは思っていなかったのか、慌てて斬りかかって来たところを下がって回避し、聖剣を振り抜いて隙だらけになっているハウラスの懐へと踏み込んで殴り付けて行った。
さすがに回避も間に合わないと判断してとっさに取った行動は、聖剣の柄の部分を間に滑り込ませて少しでもダメージを軽減しようという苦し紛れの作戦だった。その結果は、柄の部分の破壊という形で現れた・・・・・・聖剣の刃の部分は無事だろうけれど、こうなってはもう聖剣を振り回す事は出来ないだろうな~
以前と比べ少しは成長しているかなと考えつつ、ハウラスの腕を掴んだ僕は面倒になったので転移魔法を使って、適当な湖にでも飛ばして勇者を捨てる事にした。まだ経験不足なのだと思うけれど、もう少し周りを見る事を覚えないとだな。そう思いながら、僕も引き上げることにした。
後々今回の戦いについての情報を司書パペットに聞いてみたところ、重軽傷者はかなりの数出たものの、一人の死者も出なかったという結果だったらしい。しかしまるで相手にされなかった事が上級者冒険者の間で話題になり、人々の間では絶望感が広がっているのだそうだ。
こちらとしては、そっちの方が深刻な問題かもしれないな。希望が無くなると人心が乱れて余計に異形化する者が出て来るかもしれない。ここら辺りで、何かしら希望に繋がるようなものでも、用意してあげないとハウラスも潰れるかもしれないかな? 何かちょっと考えてみよう・・・・・・
今回の騒動と人類全体の未来を考えて四天将で会議を開く事にした。お互いに意見を出し合い、それぞれの意見などを言い合った結果、ハウラスは勇者になるべくして育った訳ではなく、後付で勇者になった為に勇者の資質が足りないのではという結論に達した。そして今現在各国の王は、人類全体を考えられる国王が非常に少なく、よくて自国の事しか考えられないのも問題なのだろうという結論だった。
全体的な意識改革が必要という結論だろうね。今後の魔王軍の行動としては、まずは勇者であるハウラスの成長を促がす為の試練を用意する。国王の視野を広げるような教育をおこなうか、そういう人物と入れ替える。世界各地で人類全体を考える事ができそうな人材を育てる。後は希望に繋がるような出来事を用意する。出て来た意見はこんなところだった。
まずハウラスの対策については、適度にハウラスの周りで事件でも起して人々を救う大切さを教え込むって方向と、教育用ダンジョンでも造って、経験を積ませながら連携や協力する事でも覚えさせて行く事にする。ダンジョンの最奥には、魔族の力を抑える力を持った宝玉があるという情報を流せば、がんばって攻略しようとすると考えた。
攻略レベルをそれなりに上げておけば、勇者じゃなければ攻略不可能とか判断されて、その他の上級冒険者が攻略する事はないだろう。
まあハウラスの方は性格とかもわかっているのでなんとでもなると思う。問題は国王だろうな~
自国内部だけでも、まともな統治が出来ればいい王様になるだろうが、世界全体まで考えられる王様は果たしてどれくらいいるのだろうか?
まずは数少ないそういう王様を見付けて、人類をまとめていってもらうのがいいかもしれないけれど、直ぐにどうにかなるとは考えない方がいいだろう。様子を見て邪魔になりそうな国王は潰しておきたいところだけれど、別の指導者を見付けて交代してもらうのがいいと思うが、都合よくそういう人材がいなければ逆に荒れそうだよな。
後は各自で役に立ちそうな勇者候補みたいな者か、荒れた国内をまとめて行けそうな頭のいい者などを発掘して育てていくとかだな~。結局はダンジョン運営と、学校運営になるのか・・・・・・
希望を持たせる方は、もう少し心に余裕が出来ればドラグマイア国のラデラ女王を頼って、娯楽系のイベントをあちこちの国でおこなってもらえばいいかもしれないな。それと初代勇者から、聖剣を受け継いだ本物の勇者がいるっていう噂を、主に東の方の国々に流しておくといいかもしれない。偽勇者に協力した後で、また協力しろっていうのは無理がありそうだから、今はまだ希望が無くなった訳ではないという事を知ってもらって、耐える感じだろうか?
まあとりあえずこれ以上の悪化を止める為に、ある程度の異形を減らすべく世界各地へ散って討伐して来るのが、一番確実性が高い感じかな。
ヤーズエルトとウクルフェスには、それぞれに転移できる眷族を付けて世界中で異形退治をしつつ人類の希望になるよう行動してもらう事になった。ヤーズエルトは元々熱血なところがあるのでおそらく適役だろうね。ウクルフェスは・・・・・・まあ魔法の実験がてら、それなりに目立つように活躍してくれるだろう・・・・・・
二人だけでは時間と手数が足りないだろうから、魔王軍で医療関係の為に創った眷族のベルスマイアと、アルタクスにも参加してもらえば十分だろう。ベルスマイアには特にサフィーリア教の衣装でも着せて、聖女とでも言われるくらいに活躍してもらえれば人類の希望になるだろうと期待する。まあ回復の奇跡が使えるとはいっても、サフィーリア教とは実際何も関係がないのだけれどね。あそこは慈愛の神だからこういう時には有効だろう。
この四人ががんばっている間に、オーリキュース王子には、王族関係者の説得というか指導をお願いする。はっきり言ってしまえば、王族の事はよくわからないのでそっちを丸投げした感じだろうね。それに王子は戦力にならないのでこういうところでがんばって欲しかったしね・・・・・・
僕とレイシアはマグレイア王国に再び戻る事にして、学校で有望そうな人材の教育をする事にした。司書パペットに役に立ちそうな人材をピックアップしてもらい、世界に散らばっている役立ちそうな人材を説得して学校に連れて来るところから始める必要があったけれど、学生寮を造ってスパルタで鍛えて行く方針にした。長くても一年くらいで帰ってもらえればいいかなって考えている。
さてそうして集めた第一次英雄候補の中に、なぜかブレンダ達がいたよ・・・・・・というか、押しかけて来たというのかな?
「久しぶりね、バグにレイシアさん」
「ブレンダ、元気そうでよかったわ」
「よう。まあお前らの実力なら問題ないだろうが・・・・・・わざわざ参加するまでもないんじゃないのか? ブレンダ達ならそろそろ異形くらいは退治できるだろう?」
「そうも言っていられないわ。元リンデグルー連合王国の貴族としては何とか勇者と協力して、マイナスイメージを払拭しないといけないのよね・・・・・・誰かさんがこんな本を出したりしたから・・・・・・」
そう言ってブレンダが取り出して見せたのは、リンデグルー連合王国が昔におこなった初代勇者に対する裏切りについての暴露本だった。まあいずれはバレるとは思っていたが、影響が出たか~
「それで、どれくらい強くなりたいのだ?」
「私としては、ハウラスとパーティーを組めるくらいかしら。ちまちまやるのは性に合わないし、その他大勢の中に埋もれてしまっては、イメージを払拭できないのよ」
「相当大変だと思うぞ?」
僕は心の中で、全てが終わった後で人生が変わるぞって意味合いでそう言っていた。
「やるだけやってみるわよ」
まあ決めるのは本人だし、どれだけがんばるかだろうな~。今はハウラスを教育する為のダンジョンを創らせている状態なので、そっちが完成したらブレンダ達を鍛える専用のダンジョンを造ってもらうかな・・・・・・
「まあ、がんばれ~」
「何か他人事よね」
「まあ実際他人事だからな~」
「私としては、貴方にも一緒に戦って欲しいのだけれどね。レイシアさんも・・・・・・」
「残念だがそれはできないな。こっちはこっちでいろいろと予定が詰まっているしな」
「私も、バグを手伝わないといけないから」
「まあそうだろうと思っていたわよ。まあしばらくよろしくね」
「ああ」
閉鎖していたダンジョンをもう一度動かして、早速ブレンダ達にはダンジョンに潜ってもらう事になった。集めた候補者達はまだ初心者だしね。
それぞれが別れて活動している中、学校担当の僕らはまず基礎の授業から始めた。まるっきり戦闘をした事がない初心者と、少しは戦える者がいた為に同じ授業をするよりはそれぞれで活動させようと思ったので、経験者はまた違う授業をおこなう。これには今期の学生がこっちに混ざって来た事も原因の一つである。
ブレンダもそうなのだが、いつどこから聞き付けて来たのかどうやら第一期生での指導の事を知っている生徒がいたらしく、そこから噂のように情報が伝わり合流して来たみたいだ。
まあこっちとしては勝手に混ざって来る分には気にしないでいいかと、そのまままとめて教えて行く事にする。のんびりとするつもりはないので、付いて来られない生徒には元の授業の方へ行ってもらえばいいからね。
まず初日に僕が接近戦闘を、レイシアが魔法戦闘を指導していく。
授業自体は教室でちまちまやる気は毛頭なく、訓練場に生徒を座らせて、昔に生徒達と戦わせる為に創ったスライム達と模擬戦をさせながら教えていった。配分は、こっちがアタッカーに当たる攻撃型のスライムとタンク役の盾スライム、それに盗賊と狩人に当たるスライムが僕の方で生徒を四列に並ばせて戦闘させて、残りの神官タイプと魔法使いタイプのスライムが、レイシアの方で模擬戦をしている。
盗賊と狩人は、さすがにこれから英雄になりたいとか言っている人達には人気がないのだけれど、戦闘の幅を広げるのには相手がどんな攻撃を仕掛けて来るのか、知っていた方が戦略の幅も広がるから、二体のスライムには敵が盗賊や狩人だった場合にどう動けばいいのかという事を学ばせる為に並ばせている。
まあ中には戦ってみて、自分はこっちの方が向いているのかなって思う人もいるみたいだけれどね。そういう人には普通に盗賊の戦い方、狩人の戦い方を教えていった。
結局戦い方は自分に合っているかどうかだけで、英雄になれるかどうかはどう行動してどんな結果を出したかによるのだから、そこまで気にしなくていいと思う。
貴族なら見栄えを気にするかもしれないけれどね。
多少でも戦える者はチームを組ませた後、個別の課題を言い渡して初心者ダンジョンへと向わせてある。例えば盾役の生徒ならば味方に怪我人を出さないようにするとか、アタッカーの生徒には同じ敵には二回までしか攻撃してはいけないとか、回復役の生徒の場合なら一回の戦闘で回復を使うのは二回のみとか、そんな感じで制限を付けた。
その条件で進めない様なら一度引き返してチーム内で話し合い、極力条件を満たした状態でクリアを目指すのが彼らの自主錬になる。おそらく無駄を削って効率よく戦うなど考えていけば、そこまで難しくない条件だと思う。
まあ仲間と協力したり、頭を使って戦って行けば上手くいくだろう。どこまで理解して行動出来たかは後々結果として出て来るだろうな~




