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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第十四章 動き出す世界
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チート勇者

 「バグ!」

 抱きついて来たレイシアを支えて起き上がる。無事に目が覚めたという事は、魔道具の支配が解けたと考えていいのだろう。

 「ホーラックス、状況を教えてくれるか」

 「ああ。主が倒れられてから約一年の時間が経過した。長き時覚醒叶わず悔やむばかり」

 「一年も経っていたのか・・・・・・まあいい、それで影武者が上手くやってくれたか?」

 「良く働いたかと。状況が著しく変わり、主の判断を仰ぎたい」

 「厄介事か、教えてくれ」

 「まずは今現在、魔王軍は人類軍率いる勇者の襲撃を受けている。三度撃退したが、今回の襲撃は防ぎきれぬと判断した」

 「ハウラスか、ずいぶんと強くなったものだな」

 「いや、東の方にある国で軍事国家オクロウス国に召喚された勇者だとか。おそらくは異世界人だと思われる」

 「異世界の勇者様か・・・・・・ってことはチート能力者の可能性があるな、厄介な・・・・・・」

 それにしても撃退しているって事は、魔王様が滅ぼされる相手じゃないのか? いろいろと状況を確認しておく必要がありそうだな。

 「レイシア、心配かけてすまないが、まずは状況を確認しておきたい。魔王城へ向うぞ」

 「わかった。でも無理はしないでね」

 「ああ」

 魔王城へと転移すると、モンスター達が忙しそうに走り回っていた。そして僕に気が付いた黒騎士がこちらへとやって来る。丁度聞きたい事もあったしタイミングがよかったかもしれないな。

 「おはよう。今攻めて来ている勇者は倒して構わないよ」

 その発言で、黒騎士がここにいるのは僕に勇者についての説明をする為だと理解した。

 「って事は、偽勇者様か?」

 「本物の勇者様ではあるのだけれどね。魔王様の運命の相手ではないという事だよ。おそらく会って見ればわかるんじゃないかな? あれはあまり勇者って呼びたくないだろうね」

 「資質がないか・・・・・・わかった、一度会って見よう」

 まあその前に、相手について情報を仕入れないとだな~


 「バグ殿、目が覚めたようだね。早速だが少々厄介な事になっていてね、早速勇者の相手をしてもらってもいいかな?」

 黒騎士の話を聞いた後、現場指揮をしているオーリキュース王子の元を訪れるとそう言われた。手元にある地図に目を向けると、魔王城を取り囲むように人類軍が進軍して来ている様子が窺える。

 地図の上には小さな黒い駒が一杯置かれていて、その中の一つだけ少し大きめで形も違う駒が置かれていた。あれがおそらく勇者のいる位置か。

 「この配置は、どれくらい前の情報だ?」

 「君のところの部下が、動きがあるたびに情報をくれるので、今現在と言っていいかな。つくづく敵に回したくない男だよ、君は・・・・・・」

 「早速様子を窺いに行こうと思うが、何か注意点はあるかな?」

 「そうだな。勇者はまだまだ本気を出してはいないようだ。それでも襲撃のたびに手の内を少しずつさらしているようで、なるべくなら早期排除した方がいいと思う。余裕を見せて後で痛い目見るよりはいいだろうね」

 「なるほど、最初っから全力でぶつかればいいってことだな」

 「そうなるね」

 「行って来る」

 「がんばってくれたまえ」

 王子の緊張感もない人事のような声援を受けて早速転移する事にした。ちなみにレイシアはそのまま置いて来る事にした。相手がチート能力者なら、庇いながら動いていては後れを取って二人共危険になるかもしれない。


 「おやおや、君はまだ見た事がない相手だな。魔王軍も中々人材豊富じゃないか。さていきなりでは地獄で頭を抱える事になってしまうから、俺の事を教えておいてあげよう。俺の名前はタダヨシ、人類最強の勇者と言われる男だ。これで誰に殺されたのか悩まないですむだろう? ではさよならだ!」

 転移した瞬間べらべらと話しかけて来た勇者は、人間にしてはかなり高い身体能力を発揮して空中にいた僕に斬りかかって来た。でも、その肉体能力はレイシアより少し上といった感じで、そこまでの脅威では無さそうだというのが勇者を見た感想だった。

 オーリキュース王子も言っていたが、もったいぶってやられるのも馬鹿らしいので、さっさと倒してしまおうと居合い斬りでけりを付けようとしたのだが、ギリギリで盾の防御を間に合わせたみたいだな。

 確かに強いな。

 「おー、雑魚と思っていたらかなり強いじゃないか。危うくやられるところだったよ。ひょっとして魔王自らやって来たのかな? だとしたらその実力測らせてもらおう」

 確かに余裕がありそうな口ぶりだな。厄介な相手が来たものだ・・・・・・

 (ファイアランス。アースボム)

 魔法と居合いの連続攻撃で一気にたたみかけるべく攻撃を仕掛けて行く事にする。

 「甘い! リフレクトマジック!」

 勇者が叫ぶと身にまとっていた鎧が淡く光って魔法を反射し出した。おかげで居合い斬りがまたもギリギリで防がれてしまう。魔道具で守られているか、厄介だな。そうやって見てみると、剣も盾も鎧も、全部魔道具っぽいな。それでもってこの身体能力、よく今まで魔王軍は持ちこたえられたな。勇者が遊んでいたって事か?

 思考しながらも斬撃などを叩き込んで行くのだけれど、そのたびに盾に防がれて決定打を与えられそうにない。ひょっとしたらこちらの攻撃を追尾する盾なのかもしれないな。

 それならばと日本刀をもう一振り創り出して二刀流でお相手しよう。一瞬で鞘に日本刀を収めて居合いを放つと盾で防がれるが、相手が盾で視界を制限されている間に日本刀を創り出して刺突を繰り出す。


 グゥ! カハッ


 よし、上手い事鎧の隙間に日本刀を突き刺す事に成功した。致命傷にはなっていないだろうがこのまま一気に押し切る!

 数回の攻撃で、バランスを崩して複数の傷を負った勇者が叫んだ。

 「テレポート!」

 「何!」

 思わず呟いた時にはもう、勇者はそこにはいなくなっていた・・・・・・


 あっさり逃げて行ったのと、実力を隠している風だった勇者の行動は腑に落ちないものを感じたものの、既に勇者はいなくなっていたので、こちらも拠点へと帰還する事にした。

 次に勇者が逃げた時の事も考えて、追跡手段も用意しないといけないな。勇者が異世界人であるからなのか、魔力による追跡ができないようだったのだ・・・・・・何か追跡する為の手段を探しておかないと、いつまでも止めが刺せなくなりそうだった。まあ最悪、やつの持っていた魔道具の反応を追えばいいのだけれど、どこかにしまわれたら追跡できないしね。

 「バグ、お帰り!」

 「ただいま。置いて行って悪かったな」

 「心配した。でも無事に戻って来てくれたからいいよ」

 「ごめんな」

 心配そうなレイシアに謝って、もう少し詳しく話を聞く為に、勇者と実際戦った者の話を聞く事にする。それによると、以前の三回は無傷にもかかわらず、ある程度戦った後はさっさと引き上げて行ったそうだ・・・・・・

 威力偵察? お遊び? それとも同盟国に魔王軍相手でも十分戦えるとアピールする目的でもあったのかな?

 司書パペットに集まった情報を見せてもらい、さらに考えてみる。情報によると、同盟国に対する勇者の有用性のアピールという案が一番しっくり来そうだね。

 オクロウス国は何かに付けて勇者強さを周りにアピールして資金援助を求めている。それによれば剣や鎧、盾もそうして集められた物との事だった。そしておそらくあの勇者は日本人だと思われる為魔力を持っておらず、魔法が使えないはずなのだが実際にはいくつかの魔法を使っている。それも魔道具による補助だと思われた。

 チート能力は肉体強化だと思ったらいいかな? で、欠点の魔法関係を魔道具で補っていると考えればいいかもしれない。とりあえず逃げられないようにすれば何とかできる相手と判断した。

 今回の戦闘で、相手の肉体を傷付ける事に成功したので、勇者の血から遺伝子を読み取り人物を特定して追跡する探査魔法を創り出し、指輪に魔法効果を持たせる事にした。これで次に襲撃して来た時には仕留められるだろう。


 「お疲れ、バグ殿。これで最低でも一週間は人類軍の次の進行はなくなった。今のうちにモンスター軍の再編をしてくれないかな? 君には申し訳ないのだが、今までの進行でかなりの数がやられてしまってね、補充しようにも君の部下は、君の許可無しには動いてくれなくてね、よろしく頼むよ」

 「いろいろと確認したい事もあるのだが、こっちの方が優先順位は高そうだな。わかった。レイシア、今生き残っているモンスターを全員集めてくれないか?」

 「うん。集めて来るね」

 「ホーラックス、今までご苦労。この一年余りで起きた事を司書パペットと協力してまとめてくれるか?」

 「主よ、了解した」

 さて、モンスターがどれだけ減ったのかわからないけれど、一週間で使い物になるようにしなければいけないしね。さくっと戦力増強する為に、ドラゴンでも捕まえて来るかな・・・・・・無理やりの支配ではまともに動いてくれない可能性もあるし、ここは傭兵として雇い入れる方針で行ってみることにする。

 モンスターの生息地をデータから調べてみるとブラックドラゴンの集落があったのでそこへ転移して、言霊のスキルを使って話しかけていく。レイシアなら意思疎通のスキルがあるのだが、僕には無いのでその代わりとする。

 《お邪魔するよ。取引をしに来たので攻撃しないでもらえるかな?》

 突然やって来た僕に警戒して唸っていたドラゴン達が、言霊の影響を受けて一応唸るのを止めたのを確認して、まずは取引材料を見せる事にする。ドラゴンといったら、巣に光物を一杯溜め込んだりしているので、光り輝くオーブに魔力増加効果を付けた物を創って提示してみる。オーブの大きさは、人間には大きいサイズだけれど、ドラゴンには丁度いいと思われるくらいの物を用意してみる。両手で抱える程かな?

 何体かのドラゴンが興味を惹かれたようで、それ以外のドラゴンは離れて行った。残ったドラゴンに再び話しかける事にする。

 《では一週間後の戦いに参加してもらえるのならこれをそれぞれに一個渡す事にしようと思う、いいかな? 戦って勝つ事ではなく、参加してその場になるべくいてくれればいい。負けそうになった時は離脱してもらってもいいが、それ以外はその場にいて欲しい。納得できたのならば、一週間後ここに来てもらえれば戦場へと運ぶので参加してくれる者だけ残ってくれ》

 その後結局残ってくれたドラゴンは三体だったが、人間相手の戦争ならドラゴンが一体でもいれば楽勝だろう。残ってくれたドラゴンには、オーブを先に渡す事にして、魔王軍の拠点へと帰る事にした。

 ドラゴンは誇り高い種族だから約束を反故にはしないだろう。まあ破った場合は無理やりに連れて行けばいいしね。


 拠点に戻るとレイシアが集めたモンスター軍団は、半数以上がいなくなっていた。三分の二近い戦力が亡くなったって事だね・・・・・・これは勇者による被害なのか、人類軍による被害なのか・・・・・・どちらだろう?

 「モンスター達は、勇者にやられたのか?」

 「うん、殆どはそうかな」

 「人類軍に対してなら、損傷は殆ど無かったのだよな?」

 「うん」

 「じゃあ悪いけれど、今のこいつらで進化できる最高の種族に合成してやってくれ」

 「わかった」

 レイシアは早速錬金する為の作業に入った。こっちはこっちで失った戦力の補充をしよう。

 「創造」

 作り出した眷族は、魔人のネクロマンサー。今回の戦いで死んでいったモンスターと人間達の死体を使い、死者の軍団を作ってもらう。ちゃんとした戦力は後々育てる予定だけれど、一週間で育てるのは難しいと判断して、一時的な戦力を用意する事にした。

 「トールティ、戦力の確保を頼むぞ」

 「ああ、任せておけ」

 早速行動に移す眷族を見ながら、それにしても眷族達の名前って、一体誰が付けているのだろうか? っと思う・・・・・・。創った瞬間から名前が付いているって、ある意味手間は省けて助かるけれど疑問が残るスキルだな。

 さて、後は一週間よりもっと先の戦力として、ゴブリン達でも集めておこう。いや、ここらで少しは知能の高い者を素体として集めておきたいな。ただそうなると賢過ぎるやつは言う事を聞かなかったりとかもあるから、ゴブリン達よりは頭がいい程度の方がいいかもしれないな。

 ふと昔に合成素材として消えた狼を思い出して、集めるのは狼にしようと考えた。犬は結構頭がいいし主人に忠実で、群れとして行動したりもするからひょっとしたら結構いいかもしれない。

 そんな訳で狼の群れをいくつか巡って二百匹程捕獲して来た。多分、根こそぎではないよね? 別の地域にでも行けばまだまだ一杯いると思っておこう・・・・・・絶滅させちゃうのは嫌だからな~


 さて狼達は最初こそ威嚇して来たものの、殺気を向けると意外とあっさり降伏して大人しくなってくれた。レイシアも言う事を聞かないやつには睨み付けると、あっさりと言う事を聞いてくれているようだった。

 狼達はとりあえず集団でダンジョンに入ってもらいLVを上げてもらって、僕は新たに進化したゴブリン達に種族特性の講義をしていく事にする。

 進化してそのままだと、彼らは普通に棍棒を振り回すだけの集団になるので、教え込まないと役立たずの奴もいるからね。ちゃんと自分がどんな事ができる種族なのかを理解させるところから始めて、チームを組ませた時の戦い方まで指導していかなくてはいけない。

 苦労したところは、まずは種族の特徴を自分が把握しなければいけないところと、元々魔法が使えないような連中に魔法を使えるというイメージを教えなければいけないところだった。

 憑依のスキルを持っていた事が、こんなところで役に立つとは思ってもいなかったよ・・・・・・

 スキルで憑依した時に戸惑って混乱したゴブリンなどはいたものの、直接体を動かして魔法を使って見せたり魔法というものがどういったものなのかを実演して見せた事で、お馬鹿さんなゴブリン達にもそういう力が有るという事が理解できるようになったようだ。

 基礎的な魔法が使えるようになったやつは、その他の魔法を覚えてもらう為にウクルフェスのところへと勉強に行かせたけれどね。ゴブリンなどから別の種族へと進化したから少しは知能も上がったのか、根気よく教えてやれば何とか少しは魔法を操れるようになったみたいだな。使える魔法の数は多くないようだけれど。

 リッチになってゴブゴブ言っているやつが、初級の闇魔法しか使えないとか見ていて悲しかったよ。リッチから魔法を取り上げたら何も残らないだろうが・・・・・・

 心配でもあるので、たまにウクルフェスのところへ様子を伺いにいって、ご褒美に合成魔法を見せてやればウクルフェスも喜んで指導役をしてくれた。

 訓練の進行状況を見るにやはり一週間後の戦いには、狼の調整は間に合いそうに無いな。だから今度の魔王軍のモンスター兵力は、生き残っているゴブリン達が約九十体とネクロマンサーのトールティが呼び出した死者の軍団が五百体程、そしてブラックドラゴンが三体といった感じかな。

 勇者の相手は僕がするとして、人類軍を相手にするのにはそこそこの兵力になったんじゃないかなって思う。これにレイシアと王子以外の四天将が加わるので、おそらく負けは無いよね。眷族達は戦力不足でなければ戦いに投入しない方針だ。


 大体一週間くらいの間、ひたすら訓練に明け暮れていた僕達は、司書パペットからの情報で人類軍が再び攻めて来たことを知った。

 早速ブラックドラゴンを三匹、迎えに行き王子の考えた防衛位置へとドラゴンを配置する。その他のモンスター達はレイシアに指示されて防衛位置へとぞろぞろと移動して行った。

 僕の方はドラゴンの配置が終わった後、勇者の居所を把握する為に予想進路上の空で待機する。勇者以外の相手は全て王子に丸投げの状態になるが、知謀四天将を名乗っているのだからそれくらいはやってもらわないとね~

 上空から自軍の様子を眺めながらそんな事を考えていると、勇者がこちらへとやって来るのがわかった。

 「やあまた会ったね、次はもう無いと思うが多少痛い思いをさせられた分は、きっちりと返させてもらうぞ。魔族め」

 勇者はそう言ってこちらに剣を突付けて来た。勇者の後ろのいた人類軍達は、僕を大きく避けるように移動して行く。でも、わざわざ見逃す必要も無いかな? アニメとかだと、ここは任せて先に行けって感じの場面ではあるが、これはお遊びや物語ではないリアルな戦争だしね。

 (サンダーレイン)

 「くっ、リフレクトマジック」

 勇者を巻き込んだ広範囲に、雷の雨を降らせたのだけれど、さすがに勇者は即対応して見せる。まあ目的の勇者の連れである人類軍が雷にやられて次々と倒れていっているので、予想の範囲かな。

 「いきなりとはやってくれるものだな。セオリーではこういう場合は一対一で戦闘して、こいつらは通してもらえるものだがな」

 本来は仲間のはずの人類軍が魔法によってやられていくのを見ても、勇者は特に取り乱したりはしなかった。異世界人だからそこまで仲間意識も無いのかもしれないな。確かにこいつは勇者の力は持っているかもしれないけれど、勇者の資質は無いと言う黒騎士の考えはあっている気がする。

 「さて、今度こそ死ね。フライ!」

 魔道具で空も自由自在に飛べるらしい・・・・・・本当に厄介な相手だと思いながら、勇者との戦いに突入して行った。


 前回の戦いで二刀流での不意打ちで傷を与えたし、同じ騙まし討ちはできないだろうと判断して、今回は最初から二刀流で相手をする事にした。そして最初の打ち合いであらゆる面で、ミスを自覚してしまった・・・・・・

 力もスピードも何もかもが僕とほぼ互角になっている。この勇者は力を隠していたのではなくて、急成長する事ができるスキルか何かを持っていたのだと理解した・・・・・・

 だからこそ余裕があったとしても途中で引き返してスキルを使ってLVを上げ、また攻めて来るという事を繰り返していたって事だ。つまりは勇者のLVアップに加担させられていたのだな。

 そうなると今回で仕留める事ができなければ、この勇者を倒す事は不可能になってしまうという事だった・・・・・・

 上等だ、やってやろうじゃないか!

 スピードが同じだろうがなんだろうが、転移で背後に回られれば対応できまい。そう思い連続で転移しながら居合い斬りを放ってみたものの、前回以上の早さで盾を操り防いで来る。

 それならば先に盾を破壊してやろうと次からの攻撃はビームの剣による居合い斬りに切り替え、ひたすら攻撃をしていく。一体何回攻撃を繰り返したか・・・・・・勇者の顔にも焦りが浮かぶくらい長い間、転移してはビームによる居合い斬りを繰り返した結果、とうとう盾にひびが入った。

 「くっ、おのれ魔族め!」

 勇者が焦った顔をしてなるべく盾に負担がかからないように、剣による受け流しを始めた。それでも二刀流による居合いは剣だけで受け流せるものではなくて、どうしても盾に頼らざるを得ない。なのでその結果は当たり前のように盾の破壊へと繋がった。

 盾を失った勇者は、剣の受け流しと鎧による受け流しをおこなって来る。さすがにしぶといな・・・・・・しかも鎧は魔法を反射する為にビームが効かないときているので、再び創造した日本刀による攻撃へと切り替える。

 最初、ビームが鎧によって曲がるのを見て勇者の顔には余裕が戻っていたけれど、創造された日本刀を見て再び顔が歪んでいた。おそらくこのまま繰り返していけば、剣も鎧も盾と同じ運命を辿る事になるだろう。それは勇者にもわかっていたようで、ついに勇者がその言葉を使って来た。

 「テレポート!」

 つまり、一旦引いて仕切り直す事で一気にLVを上げようという事だろう。だがしかし、勇者の現在位置はしっかりと指輪によって把握できているので、転移によって勇者に追い討ちをかけて行った・・・・・・


 「どうしてお前がここに!」

 転移により斬り付けられた勇者が、再び剣と鎧による受け流しをおこなったものの、その顔に焦りと恐怖が浮かんでいた。

 まあ勇者からしたら、LVを上げて圧倒的身体能力で次は楽勝って感じだったのだろうから、この結果は不本意なのだろうね。だけれどこちらからしたら、その結果こそが不本意なのだ。

 この勇者は危険過ぎるのでここできっちりと倒しておく必要性がある。

 元同郷の仲間ともいえる者なので、命だけは勘弁しようという気持ちも少しはあったものの、それでは今度は自分が殺される危険性があるので、さすがに見逃す事はできそうに無かった。

 「おのれ魔族が!」

 そう叫びながら左手で抜き出したそれは、僕にとっては見慣れた銃器であった。

 撃ち出された弾丸代わりの光のエネルギー弾は、回避した背後の建物を丸く削り取り消滅させる。さすがにこれを受けるとやばそうな気がするな~

 「貴様、ひょっとすると異世界人か! 日本刀に居合い斬り、銃も知っている。貴様もチート能力者だな。ならば協力しようじゃないか」

 油断なく銃を構えながらそんな事を言って来た。

 「残念ながら、僕はチート能力者ではない。これらは全てこの世界で暮らして身に着けたスキルだ」

 まあ合成魔法とか、固有の能力はあるし日本の知識なんかも持ち合わせてはいるが、こいつのようなたった数日で一気にLVが上がって誰にも追い付けなくなるようなチートスキルは持っていない。

 「ふん。まあそれならそれでいい。仲間になるのなら俺のパーティーメンバーとしてとりなしてやるぞ。こっちに来れば勇者としてこの世界で好きなように生きられる、悪くない話だろう?」

 「あいにくだが、僕は勇者なぞに興味はない。好き勝手という話なら、既に好きなように自由に生きているからな」

 「ちっ、ならもう死ねよ」

 その言葉と同時に銃を乱射して来た。転移できなかったのなら、確実に蜂の巣になっていたな・・・・・・


 再び始まった第二回戦の戦いでは一方的な戦いではなくて、勇者からも攻撃される事になった。勇者がテレポートでやって来た場所は、どこかの国の宿屋だったようで銃撃の影響でドンドン破壊されていった。まあこっちも障害物が無い方が動きやすくていいのだけれど、さすがにこの宿屋の主人には同情するな。

 調査のスキルで宿屋にいた人々が逃げ出せた事を確認すると、転移するのに邪魔な周りの障害を取り除く為に魔法を発動させた。

 (ファイアストーム)

 ついでに燃え盛る炎を目くらましにして斬撃を叩き込みながら攻撃を続けて行く。勇者にはこちらの位置を把握する術がないのか、銃を乱射して町中に被害を広げていっていた。

 こちらは調査のスキルで相手の位置を把握できているので、この機会に少しでもダメージを入れる為に剣と鎧を攻撃して行く。焦る勇者はさらに銃を乱射するものの、僕が見えていない為にかすりもしないようだな。それならばとファイアストームを維持しつつドンドン攻撃して行くとやがて剣と鎧にダメージが蓄積したのか、ひびが入り出した。

 「畜生! テレポート!」

 再び逃げた勇者に追撃するべくこちらも転移し、再びファイアストームを仕掛ける。おそらくテレポート先は勇者にとって印象深い場所なのだろうね。次に現れた場所は王城の王座の間であった。

 石造りの頑強な城は即座に炎で燃えたり崩れたりはしないが、さすがに全てが石でできている訳ではない。石と石を繋いだり支えている部分には木材が使われているので、徐々に炎が燃え移っていく。

 調査のスキルで確認してみたところ、この国の王が玉座に座っている事を確認できた。確か司書パペットの情報では周辺国に勇者と人類全体への支援と称して、いろいろと無茶な要求をしていたとあったな。狭い場所で戦うのは少しばかりきついので、勇者を吹き飛ばすついでにこの国の王様にも消えてもらおう。

 城を吹き飛ばすという方法もあるにはあるが、兵士はともかく侍女とかはさすがに殺す程の理由が思い付かない。まあそんな訳で、勇者共々国王も吹き飛べ!

 (ショックウィンド)

 勇者達を吹き飛ばす瞬間、ファイアストームが途切れた隙に勇者が剣をしまって二丁拳銃になっていた。その二丁の銃による攻撃を避け損ねてかすった左上腕部が抉られたのが痛みによってわかる。僕は魔法系のスキルを持ってはいるもののブレンダのように二重詠唱とか無い為に、ファイアストームを維持しながら別の魔法が使えなかった隙を衝かれてしまったようだ。

 (ファイアストーム、ヒール)

 今までの戦闘では、圧倒的魔力によって二撃目が必要なかった事がこんなところで裏目に出るなんてな。傷を即座に癒して転移で再び勇者を攻撃しつつ、そんな事を考えていた。左腕が若干しびれて動きが鈍くなっているが、回復魔法は使ったし自動回復もあるので、時期に元通り動くようになるだろう。

 勇者は二丁拳銃で乱射しながらこちらの攻撃を銃で何とか防いで来るが、それでも徐々にダメージを蓄積させていく。身体能力は互角であっても、魔法が使えるかどうかという差が、攻撃の手数に出ていて勇者を追い込んだのだろう。それと戦闘経験の差もあるかもしれないな。

 こっちはこの世界に来てから四年くらいの戦闘経験があるからな。そろそろ五年くらいになるのか? ずっとレイシアの側にいて時には自分も戦いながら過ごして来た経験がある。召喚されて直ぐにチート能力で一気に同格ぐらいに底上げしたとしても、経験の差は埋められなかったという事だろう。

 そんな事を考えていると、ついに勇者の鎧が砕け散ったのを確認できた。


 あああああっ!


 勇者が炎に包まれ無茶苦茶に暴れ出した。身体能力が高い為に半端に炎耐性があるのだろう。じりじりと焼かれる勇者に哀れみすら抱いてしまう。

 まあ心まで魔族になった訳ではないので転移して背後から最後の一撃を与え、勇者に止めを刺す事にした。

 これが僕にできる同郷の者に対するせめてもの慈悲って所だろう。

 勇者タダヨシは異世界の地で息を引き取った・・・・・・

 彼の死を国に知らせる為に、勇者のいた宿屋近くへと遺体を転移して、置いて行く事で後の葬儀を国の者に任せる事にして、こっちはこっちで無事を知らせる為にレイシアの元へと転移する。


 「バグお帰り!」

 早速飛び付いて来たレイシアを受け止めると、さっと戦場を見渡して状況を把握する。どうやらドラゴンがいる場所はさすがに前に出る気がおきないようで、睨み合いになっているようだな。その他の隙間にレイシアとヤーズエルトとウクルフェスがいて、敵の進行を阻んでいるようだった。

 勇者が負けた事がわかれば撤退するだろうが、おそらく信じないだろうからな~。可愛そうだけれど、ここは逃げ出すまで攻撃させてもらうしかないかな?

 「レイシア、とりあえず目の前の人類軍を蹴散らすぞ。いいか?」

 「うん。わかった」

 「フリーズブリッド」

 「召喚、フェニックス」

 氷の弾丸を目の前にいる人類軍の兵士に叩き込んでいく。

 レイシアは火の鳥を呼び出して空から炎を撒き散らして人類軍にダメージを与えていった。どれくらいの兵士が倒れていったか、やがて敗走して行く彼らを見送り、僕らは魔王城へと引き上げる。

 指揮を取っていた王子に勇者を倒した事を告げると、今まで睨み合いをしていた各所でモンスターを押し上げ人類軍を蹴散らして今回の襲撃は魔王軍の勝利で終わりを迎えた。

 戦後処理としては、ブラックドラゴン達を住処へと送り届け、今回の戦いで出た死者はネクロマンサーのトールティに処理させる事で死者の軍勢を増やして終わりとする。

 次の勇者が現れるまで、魔王軍もしばしの休息ができそうだなって思ったよ。


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