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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第十三章  英雄の足跡
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後日談

 「ブレンダの様子はどうだ?」

 レイシアのいる場所へと転移して、そう問いかける。ブレンダはベッドに寝かされているようで、まだ起きてはいないようだな。忘れないうちに取り返して来た水晶を、枕元へと置いておく。

 「まだ眠ったままで、起きないよ」

 確か麻酔っていうのは、加減を間違えるとそのまま目を覚まさないっていう危険性があったような気がするな・・・・・・ちょっと心配になったので、調査スキルを発動してブレンダの状態を調べることにした。

 それによると薬が効き過ぎていて、結構ギリギリの状態って感じだね。ステータスの技術を手に入れようとしていたわりに、彼女が死なないようにという配慮が足りていないな。

 「ヒール」

 僕が回復の魔法をブレンダにかけた事で、レイシアが驚いてこちらを窺う。

 「この手の薬には、摂取量というものが存在していて、多過ぎるとそのまま目覚めなくなったり、さらに行き過ぎるとそのまま死ぬこともあるのだ。ブレンダは結構ギリギリの状態だったよ」

 「そうだったんだ・・・・・・。バグ、ありがとうね」

 「いや構わない」

 もう一度状態を確認してみると、今は覚醒に向かって体が活動を始めていた。これなら時期に目を覚ますだろう。

 「やっぱりブレンダも修行が必要だな。せめて自分の身を守れるくらいにはLVを上げておいた方がいい気がする」

 「そうだね。後もう少し護衛の質を上げてもらわないとだね」

 「あー、そういえば今回護衛していた人達って、LVが低かったのかな?」

 「腕前としては、それなりだったって聞いた事があったけれど・・・・・・意識の問題なんじゃないかな? 襲われると思っていなかったとか・・・・・・」

 「襲われる危険がなかったら、護衛など雇うはずもないのだがな~」

 「そうだね・・・・・・。もっと真剣に考えてくれる護衛じゃないと駄目だね」

 もっとも、今回は身内が賊と共謀していたので、護衛のせいばかりが悪いとも言えないけれどね~


 さて、いつまでも女性の部屋の中にいるのは、マナー違反かなって考え別のところに行くことにする。とはいってもやる事は特になかった気がするな~。たまには学校にでも顔を出しておくかな。ここのところあちこちからお誘いがあって、全然顔も出していなかったしね・・・・・・

 そんな感じでふらりと立ち寄ってみると、昔に僕の授業を受けていた生徒が来ていた。何かあったのかな?

 「よう久しぶりだな~。何かあったのか?」

 「あ、バグ先生! ちょうどいいところに!」

 「うん? 僕に用事か?」

 「あ、いえそういう事ではないのですが、今度卒業生で集まってわいわいやらないかって話が出ていましてね、バグ先生にも是非に参加してもらいたいのですが、いかがですか?」

 「予定さえ重ならなければいいが・・・・・・最近はあちこちから呼び出される事が多いからな~。ちょっとどうなるかわからないぞ」

 「じゃあ都合のいい日を教えてください」

 「あえて言うのなら運次第だな。例え王族だろうが、予定が入ればそっちを優先する時もあるからな。そんなのでもいいのなら、まあ気が向いたら寄ってみてもいいが?」

 「むー。じゃあまあそれでいいですよ。その代わり時間が合えば絶対に来てください! それと五平餅っていうやつも作ってください!」

 「お前! 初めからそれが目的だったんじゃないか?」

 「いえ、バグ先生を見て想い出しただけですよ。結局一部の生徒しか食べる事ができなかったそうじゃないですか。可愛い教え子にサービスしてくださいよ!」

 「自分で可愛いって言うなよ。しかも男が・・・・・・。確かあれは、同じくらい美味いものを持って来たら作ってやるって約束していたっけな。結局誰も持って来られなかった気がしたが・・・・・・はあ、まあ仕方ないな。焼くのを手伝ってくれるスタッフと、材料費って事で五平餅一本を銀貨一枚で手を打とう」

 「銀貨一枚か・・・・・・相当美味いって話だから、それでも食べたいって人は多いかな? わかりました、その代わり商売って事なら、一人一本って限定じゃないですよね? 二・三本食べてもいいですか?」

 「そういえば、何人ぐらい集まる予定なのだ? それによっては材料が足りなくなるから、数はある程度限定しないと駄目だと思うぞ」

 「確かにそうですね。今予定しているのは三十人程だったんですが、先生の五平餅が食べられるのなら、もっと増えるかと思います」

 「なんだか、それだけの数を作れって言われるのは嫌になって来るな・・・・・・ほんとに期待しないでくれよ・・・・・・」

 「予定は二週間後です。正確な日時が決まったら、連絡入れますね。よろしくお願いします!」

 「ああ、はいはい。寄るんじゃなかったかな~」


 その後、特に気になる生徒や教えたい生徒もいないようだったので、全然行っていなかった僕専用のダンジョンへと向うことにした。なんとなく人と会うのも億劫になったし、もやもやした気持ちを吹き飛ばそうと考えたのだ。

 ダンジョン内はさすがに僕用に造られているだけに、余計な事を考えている余裕もなく集中しないと痛い思いをする罠が用意されていたりした。

 というか、モンスターの攻撃を避けようと移動した場所に爆発の罠があったり、何とか防御して転がった先がイミテーターというトラップモンスターが壁に化けていたりという、何重にも張り巡らされたコンボトラップが用意されていた。

 おそらく最初に襲って来たモンスターも、この罠に誘い込む為のトラップの一部だったのだと思われる。

 今回の僕は経験値集めの為に、調査スキルも罠発見の魔道具も使わないで潜っていた為、面白いようにこんなところに罠が! って感じで、罠に引っかかる事が多かった。

 まあそれでも怪我一つ付かないところが魔神という種族なのだろうと思えるのだが、逆に一部のスキルを使わないって感じの縛りがなければ、まともに経験稼ぎもできないって状況なのだろうね~

 まあおかげで経験稼ぎとはいえ、熱中してダンジョンを楽しむ事はできた。

 他にも地形効果を使った奇襲や、本来は一緒にいる事がないようなモンスターが共同戦線を張って来たりと、意表を突かれる事が多い。

 一例で言えば、沼地の側に来た時にスキュラがこちらの目を引き付けて、まあこのダンジョンで女の子が溺れているはずもないので、直ぐにスキュラだと検討がついていたものの視線は警戒の為にしっかりと引き付けられて、足元が濡れているのは沼地の地形だからだと思い込んでいたら、足元には沼地に擬態していたスライムだったとかあって、スライムに襲われていたらスキュラとリザードキングが一緒になって襲いかかって来たりなどしていた。


 そんな感じで楽しんでいると、レイシアが話しかけて来た。

 『えっと、バグ。聞こえているかな? ブレンダの目が覚めたんだけれど・・・・・・』

 「気が付いたのか。そっちに向うよ」

 レイシアはまだ、僕との交信に慣れていない感じだな。僕の方は水晶の通信と似た感じで扱っているので、それ程違和感もなく話しかけたりできる。召喚の主従契約にも似ているので、レイシアの方が慣れていそうなのだけれどな~

 まあとにかく様子を伺いに向かうかな。レイシアがいる位置は書斎らしいので、そっちに転移する。

 「お邪魔するぞー」

 「いらっしゃい、バグ」

 「調子は悪くなさそうだな」

 「ええ、おかげさまでね。いろいろとお世話になったみたいで申し訳ないわ。まさか本当に誘拐される日が来るなんて、思ってもみなかったわ」

 「そんなだから、誘拐されるのだよ。ここらで経験を稼いで、誰が来ても大丈夫なように強くなっておけよ」

 「はあ、そうね。その方がいいのかもしれないわ」

 「ブレンダ。ランドル達を護衛にしてみたら? 彼らならいい加減な仕事はしないんじゃないの?」

 「なるほど、確かにそれもいいかもしれないわね。ちょっと連絡付けてみるわ」

 「じゃあ、いっそみんなでダンジョンにでも潜りに来いよ。最初は初心者ダンジョンで勘を取り戻して、行けそうなら中級に行って、最終的には上級って感じかな。そこまで行けばそうそう遅れは取らないだろう?」

 「そうね。いろいろと予定を調整してみる事にするわ」

 「じゃあそっちの話は終わりで、仕事の話をしてもいいかな?」

 「バグ、まだ病み上がりなんだから・・・・・・」

 レイシアが気を使ったように僕を押し留めようとして来た。確かに起きて直ぐする話ではなかったかもしれないな。

 「レイシアさん、大丈夫よ。それでバグ、仕事の話って?」

 「ああ、わるいな。紙のコストを下げた物を作ったので、見せようって思って来てみたら今回の騒動だったからな。忘れないうちにってちょっと焦ったようだ」

 「いえ私はただ寝ていただけだから大丈夫よ。そういう話なら見せてくれるかしら?」

 「ああ、わかった」

 レイシアにも言われたので、また日を変えてとも思ったのだけれど、見せて欲しいというので一般用の紙で作ってみた本を呼び出して、テーブルの上に置いた。

 「へー、本だけれど、前のとはかなり違うわね。確かにこれなら金額を抑えられそうだわ」

 「中は百ページで、銀貨九枚くらいだ。三百ページにすると、銀貨二十五枚くらいかな」

 「かなり安くできたわね。いいじゃない、少しこれで売ってみて様子を見てみましょう」

 「わかった。じゃあこれで生産を始めるよ」

 「ええ、お願いするわ」

 ブレンダの確認も取れた事なので、早速レイバーモルズ町へと転移して、本の量産を始める事にした。


 ついでに皇女殿下の方にも連絡を入れておくかな。貴族向けと、一般向けの紙ができた訳だから、それで企画とか考える必要もあるだろうからね。

 「皇女殿下、今時間あるか?」

 『む。お主か、大丈夫だが何かあったのか?』

 「一般向けに品質を落として安くした紙ができたので、その報告をと思ってな。見せに行った方がいいか?」

 『そうだのー。見せてもらった方がわかりやすかろう。直ぐに来られるのかな?』

 「ああ、こっちはいつでもいいぞ。その水晶を目印に飛ぶので、都合がいい時に連絡してくれるか?」

 『あいわかった! では準備できたら声をかけるとしよう』

 「では後ほど」

 通信を切った後で準備って何をする気だとも思ったが、まあ行けばわかるかって思う。普通に寝ていて着替えていなかったとかもありそうだしね。

 連絡がいつ来るのかはわからないのだが、少し時間ができたのは確かかな? なので、工場内の作業分担を見直し、貴族用の契約書を作るチームと本を作るチーム、後は無地の上質紙のチーム。一般市民用の本のチームと雑用の紙を作るチームに分けて作業をするように指示を出す。

 といっても、一般用は工程のほとんどが自動で行なわれる為、一人か二人でできてしまうかな。

 それと重要なのは彼らが日本人ではないので、あまり働かせ過ぎないように勤務時間を緩く考える。そんな感じでシフトを考えていると・・・・・・

 『私だ、準備ができたのでこちらに来てくれるかな?』

 「わかった」

 連絡が入ったので水晶の周りの状況を確かめてから転移した。


 「時間を作ってくれて、感謝する」

 「何、問題ない。して一般向けの本とはどんな出来になったかのう?」

 そう聞いて来るので早速同人誌のような本を渡した。

 「ほー、随分と違うな。それにかなり薄いようだな」

 「コストを下げる工程で、どうしても丈夫さを削って安くしなければいけなかったのでそうなった。ページ数は、そのサンプルで百ページの本になっている。値段は大体銀貨九枚だな」

 「ふむ、まだちと高めの値段ではあるが、確かにその値段なら手が届くな。庶民用は大体百ページなのか?」

 「例えば、貴族達が買うように金貨一枚の本を作ったやつは三百ページあったが、ページが増える程値段も当然高くなるので、一般向けに売る時には三百ページの内容なら百ページを三冊分にして販売する感じになるかな。本は一巻目、二巻目、三巻目って感じで、続き物の本になる感じだな」

 「なるほど。そこでも量を減らして一巻分の値段を下げているって事なのだな」

 「そうだ」

 「大体わかったぞ。他に聞いておく事はあるかのう?」

 「うーんそうだな。後は本の文字の見やすさを考える必要があるかもしれないな。文字が小さ過ぎれば目が悪い人には読み辛くなる。逆に大き過ぎれば一ページに載せられる文字数が少なくなる。そこら辺りのバランスなんかも考えて、同じ規格で募集して、何ページの作品を作ってくれって感じの方がいいかもな」

 「ふむ、一度検討してみるとしよう」

 「じゃあ、もう募集とかやっちゃっていいから、いいものができたら教えてくれ」

 「わかった。ではまた会おうぞ」

 簡単だったけれど、そんな感じで皇女殿下との話し合いを終わらせた。


 一度拠点へと帰り各地の様子をチェックしてみる。サフィーリア教会にはいろいろとお世話になったりしているので、何かしら問題が出ていたら手助けしないといけないからね。

 今のところは特に問題は出ていない様子かな。フレスベルド国で、アルファント教から嫌みのようなものを言われているみたいってのはあるが、妨害になるようなものではないかな。まあでも快適に暮らしてもらいたいので一度釘はさしておいた方がいいかもしれないな。

 後段々と監視したり調査したりする手駒が必要になって来ているので、調査用のパペットを増やしておいた方がよさそうだと考える。

 「魔生物作製」

 という訳で、ねずみに続き小鳥型のパペット二十羽と、蝙蝠型のパペット二十羽を追加してみた。別に小鳥型にしたから夜目が効かないとかそういう事はないのだけれど、まあ状況に合わせて潜入するタイプを変えるといいかなって思って種類を変えてみた。

 さっそく新規のパペット達を連れて司書パペットの元へと向い、この子達を有効利用してもらう事にする。後、他に何か必要なパペットや眷属があるのなら、報告するように言って早速アルファント教に向う事にした。その前に、あっちは魔王軍として活動していたので黒尽くめに着替えて行かないとだったな。


 「お邪魔させてもらう」

 突然現れた僕の姿に周りの信者や神官達が警戒するのがわかった。確かゲムセアというここの最高司祭は、今回の事件で正妃と繋がっていた為、責任を追及されて解任されたって話だったかな?

 「ゲムセアの後に最高司祭になった者に会いたいのだが取り次いでもらえるかな?」

 「用件はなんですか」

 近くにいた神官が険悪な態度でそう言って来る。

 「聞いた話によれば、アルファント神にあるまじき行動ばかりをする神官達の噂を聞いてね。忠告をしに来た。これ以上見苦しい真似をするのなら、この町にお前達の居場所はないとね」

 そう言って教会内にいる神官達に殺気をぶつけてみれば、青い顔をしてぶるぶると震えて逃げる者もいた。ここは戦いの神に仕える教会だったはずなのだけれど・・・・・・随分と質が悪いようだな。

 「こちらへ」

 そんな中、微かに震えながらもそう言って来た者がいて、僕を最高司祭の下へと案内してくれる。一部はまともな者もいるみたいでよかったけれど、調査のスキルで見た限り殆どは役に立たない感じだな~。こういう弱い者の方が権力など持つといばったり、他者を見下したりして厄介な事が多いので上手く手綱を握って欲しいものだ。

 「クラド様、お客様を連れてまいりました」

 どうやら新たな最高司祭のいる部屋に着いたみたいだな。促がされて部屋の中へと入る。

 「突然だがお邪魔する」

 「どのような用件で?」

 クラドとやらは、睨むようにそう言って来た。この最高司祭も、僕の殺気に反応はしたが気丈に立ち上がる事ができる数少ないまともな者の一人だった。そういう意味ではしっかりと後任を決める事はできたって事だろうね。

 「ここ最近、サフィーリア教に対して嫌みなどを言っている神官が多いようだが、把握しているかな?」

 「いや、我々もそこまで暇ではない。信者が問題行動を取ったというのならまだしも、軽口を叩く位は人間なので仕方ないと思っている」

 「それは加害者の理屈であって、やられる側の気持ちを無視した意見だな。しかも元々は自分達の起した行動がそもそもの原因であって、それを他者に押し付けるなど、自分のおこないから逃げているだけじゃないのか? とてもアルファントの信者とは思えない行動だと思うが?」

 「なるほど、ならば注意を促がしておこう。それで問題はないか?」

 「お前の信仰心が試されているという事を忘れないようにした方がいいぞ。戦いを司る神の信者でありながら、戦いから目を逸らしている者達を見てみぬ振りをしているのだ。本来なら人に言われる前に自分で動かなければ、最高司祭の名が泣くと思うのだがな~」

 「わかった。確かに私としても少し周りが見えていなかったようだ。最高司祭の地位に相応しい態度で行動させてもらおう」

 「よろしく頼む」

 堅物って感じではあっても、一応最高責任者としての自覚はあったみたいだね。変に衝突もなく話が付いてよかったよ。

 「では失礼させてもらう」

 クラドからの言葉は無かったが、そのまま拠点へと帰還した。


 その後の数日は特に問題もなく過ぎて行き、一般向けの本も少しずつであるが売れていっているようだった。やはりと言った方がいいのか識字率の問題なのか、リンデグルー連合王国よりもマグレイア王国での売り上げの方がいい感じであった。

 マグレイア王国内の各教会に派遣された神官達もそれぞれに町人や村人と交流していて、そこで大人達にも読み書きを教える機会があるとの事で、そんな大人の中のインテリを気取っている人などが本を買ったりしているそうだ。そしてその本を教科書代わりに、大人が集まって朗読会みたいな事をしているみたいだな。

 仲良く過ごせているのに安心するのと、一般向けの本が意外な使われ方をしていたのに驚きを感じたりもしている。みんなでお金を出し合って買えば、確かに一人一人の負担も少なくなっていいだろうね~

 声優みたいな人を育てて、朗読専門の職業を作るっていうのもありだな!

 こういう話は、芸術系に特化した皇女殿下の国が向いているかな? そう思ってちょっと話をしてみる事にした。

 「皇女殿下、今時間はあるかな?」

 『む、バグ殿か。今は公務中なので夕方までは忙しいぞ。急ぎの用事かのう』

 「いや、急ぎではないな。少し新しい職業みたいなものを思い付いたのでその話をしようと思っただけだから、後ほど連絡をしてもらってもいいかな?」

 『ふむ、興味深いな。では後ほど連絡するとしよう』

 「わかった、じゃあまた後で」

 連絡が来るまで、ダンジョンにでも潜っていよう。レイシアの方は、今頃ブレンダ達に付いて中級ダンジョンに潜っているはずだ。

 久しぶりに学校でのパーティーメンバーが揃って、初級ダンジョンをクリアした後早速中級ダンジョンに挑んでいると聞いていた。レイシアは、そのサポートをしている。

 比較的安全とは言うもののまったく危険がない訳ではなく、無茶をすれば怪我もするし死亡する事だって普通にありえるので、昔の僕の様にパーティーを見守っているのだろう。

 さて、ダンジョンに潜って戦闘を続けていたのだが、ふとこのダンジョンのボスはどんな相手なのかが気になった。順当に行けば、ホーラックスが待ち構えているのだろうがボスといえる程の実力かといわれればそうではないと思える。

 レイシアにとってなら、ボス級であっているのだろうが僕の相手としては少しばかり不足だと思えた。そう考えると断然見てみたいと思えて来たよ。


 皇女殿下からの連絡が来る前に辿り着けるかどうかっていう、時間制限もあってダンジョン攻略スピードもそれなりの速さで進行していた。早くボスの間に行きたいのは山々なのだけれど、調査スキルで道を調べるようなずるはやめて、ただひたすらに油断なくモンスターを排除して前へ前へと進み続ける。

 そんな熱中していた僕の元に、皇女殿下からの通信が入った・・・・・・

 『やっと公務が終わったぞ! さあ話を聞こうじゃないか!』

 「わかった、そっちへ向うよ」

 ボスの間に辿り着けないまま、タイムアップが来てしまったようだ・・・・・・ボスを拝むのはまたの機会にして、皇女殿下の元に転移する事にした。結構順調だっただけに、少しだけ残念だったな~


 「では早速新しい職業とやらを教えてもらおうかの~」

 「マグレイア王国では今、子供達全員に読み書きを教えているのだが、そこの神官が大人達との交流会で本の朗読をしていてな、その朗読の作業を専門の人にやらせてみてはどうかと考えたのだ」

 「なんだ、そんな事なのか・・・・・・。別にわざわざ職業にする程ではないではないか。それこそそこら辺りの大人でも問題はなかろう?」

 「うーん、実際にやって見せた方がいいかもしれないな。この国には芝居とかってあるか?」

 「あるぞ」

 「ならその人達に少しやって見せてもらおう」

 「ふむ、よくわからんが、わかった。芝居小屋があるのでそこへ行こう」

 そういうので、多目的シートを広げて調査スキルで把握したこの町の地図を映し出してみる。貴族達が見る芝居はでかいホールみたいなところがあるのだけれど、そこには人がまるっきりいないようだな。一般向けの芝居はほんとに小屋とでもいえる小さなところで、人が三十人くらいは入れればいいかなって感じの場所が何箇所かあった。

 「ちなみに芝居小屋の場所はわかるか?」

 「いや、いつもは月に一度おこなわれる芝居を見に行くくらいだからな。一般のところへは行った事がないぞ」

 まあ王族だし、そうだよな~。そんな訳で適当な芝居小屋まで転移して、中へと入って行った。

 「突然で申し訳ないのだが、お邪魔する」

 「ラデラ皇女殿下。このようなところへ一体どのようなご用件で?」

 僕の声になんだって感じで振り向いた先で、皇女殿下を見付けて慌ててその場にひれ伏す団員達がいた。

 「お主達に少しばかりやってもらいたい事があるのだが、よいかのう?」

 「はい! 何なりとお命じください」

 「ではバグ殿、指示を出せ」

 「わかった。少し打ち合わせをするから皇女殿下はそこに座っていてくれ」

 王族が座るにしては薄汚れた席だったので、シーツを創り出して椅子にかぶせてそこに座っているように言っておく。皇女が座ったのを確認して団員にこれからやってもらいたい事を指示していった。

 とはいっても団員に役割をふって、後は体で表現するのではなく、声だけで演じてもらうだけなのだけれどね~


 実際にナレーションの部分と台詞を読んでもらうと、ただそのまま読めばいいってものではない事がよくわかるのと、声だけの演技では上手く表現しきれない。中々上手く感情を声に乗せる事ができない感じだった。

 これは、実際に一人で読む時にはそのままでもいいのだけれど、複数人で読むには内容を少し見直す必要があるね。でなければ、台詞を言った後に男役の人が誰かわかっているのに、ナレーションがそれをいちいち誰々さんがこう言いましたよーって感じの説明をするので、煩わしく感じてしまうのだ。

 僕自身もいろいろとやってみる事でいくつかの修正点を発見できたよ。

 「ふむ、なんとなくだが専門の職業にっと言った意味がよくわかったぞ」

 「こっちも今ので、いろいろと考えないといけない事がわかったよ」

 「これは確かに専門の技術が必要な職種だし、この本という物をより広める為に中々いいものであるな。検討させてもらうぞ」

 「もし、しっかりした形になった時には、マグレイア王国にも見せに来てもらえるか?」

 「もちろんだとも、楽しみにしておれ!」

 僕達はそんな話をしながら今回の実践で発見できた問題点を指摘して、朗読する場合に台本と呼ばれる物を作るという案を出した。後は、声優という職業に求められるものが何かとか、どういう能力が求められるかなども話し合う。

 そんな打ち合わせが済むと、それぞれに帰ることにした。

 この時お邪魔した団員達はこの時の経験を生かして動きだけではなく声でも見る者を引き込み、それなりの知名度のある劇団として名前が売れ出したと、その後に教えてもらった。

 いずれマグレイア王国にも演劇を見せに来るらしいというので、その時がとても楽しみになったよ。


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