英雄の足跡
第十三章 英雄の足跡
さてさて、難民の方はどうなっているかな~
運動場へとやって来ると、中には誰もいない状態だった。ということは全員が仕事を見付けて、新たな生活を始めたって事でいいのかな? 確認の為に町長の家に向うことにする。
「失礼する」
「ああ、バグさん、レイシアさんいらっしゃい。ちょうどいいところに来てくれました」
「何かありましたか?」
「問題とかは特に無いです。国の方からの警備兵が来ていたので、兵士詰め所の方へ一応案内はしたのですが、一応話をしておいた方がいいのかなと思いまして」
「なるほど、ありがとう。それで難民の方だが、全員働き出したのかな?」
「ええ、司祭様達が根気よく話しかけてくださいまして、今では普通に働いているみたいです。今のところ村人とも揉めたりなどの報告も無いので、順調かと思いますよ」
「わかった。それでは兵士の方に行って見よう。司祭達は、おそらく近いうちに帰ることになると考えておいてくれ」
「はい」
町長の家を出て、今度は兵士の詰め所へと向う。
「やっと町として落ち着いたみたいだけれど、あまり人の気配がない感じだね」
「まあ難民がもっと来る事を想定して、千人規模の町として造ったからな。そんな町に住民が四百人しかいなければ、寂れた感じに見えても仕方ないかもしれない」
「そうだね」
真新しい町並みに、住民がちらちらとしか出歩いていないのは、まるでゴーストタウンにでもなったかのような印象を受けたりする。難民自体はあまり増えて欲しくないところだけれど、町に活気が出る程には人数が来て欲しいなんて、身勝手な感想を抱いてしまうな。
「まあ今はあちこちで戦争も起こっているから、住民はもう少し増えるとは思うけれどね」
「そうだね」
そんな会話をしながら詰め所までやって来た。
「失礼するよ」
「うん? ひょっとして貴方がバグとレイシアか?」
「ああ。そういうそちらは、この町の警備責任者でいいのかな?」
「そうだ。今後は我々がこの町をしっかり監督管理して行くので、お前らは手出ししないでもらおうか」
「上からどう説明を受けて来ているのだ? まあよくわからんが、この町で何か問題を起すようなら、お前らでも処罰の対象になるからよく覚えておいてくれ」
「そっちこそ。我々に逆らうとどうなっても知らんぞ」
あまり質のいい人材は、廻してもらえなかったようだな。仕方ないので司書パペットにこの町の監視をお願いしておくことにした。問題が起こった時には、僕の手が空いている時にはこっちに報告してもらって、忙しい時にはイオルドに動いてもらうことにしよう。
どうせ事件が起こらない限りは兵士なんか無用な存在なので、とりあえずはこのままにしておくことにする。レイシアは不満そうな顔をしていたけれどね。
「さて、大体やる事は終わったから、レイシアはダンジョンにでも行って来るか?」
「バグはこの後どうするの?」
「こっちは紙のダウングレードの開発と、ヤーズエルト専用ダンジョンを創るよ。時間が空いたら、僕も少しダンジョンに潜ろうかな」
「うーん、わかった。じゃあちょっと行って来るね」
「ああ、気を付けてな~」
そう言ってレイシアを送り出した後、ホーラックスにダンジョン製作を指示して、拠点に戻ると伐採パペットとダウングレードの紙の開発を始める。最初のパペットも、かまってやった方が良いかな? そう考えてついでに開発に混ぜてやることにした。
ダウングレードの目標としては、材料の消費量を抑え人件費なども抑えられて、大量に生産できれば問題がない。その結果できあがった紙は、少し草の色が残っていて薄緑色をしていた。
これはこれでなかなか趣があって良い感じじゃないかな? その代わり、薄くてちょっと破れやすいかもしれない。ぎりぎりインクが裏に透けないって感じの厚みしかないな。
今まで作っていた紙と違い、水に濡れると使い物にならなくなるところも、安っぽい感じがする。ただ、量産に関してはほぼ全ての工程が自動の機械ですんでしまうように作れそうだったので、コストがかなり抑えられそうだった。
逆にこの紙だと、給料を捻出するのがかなりきついかもしれないね。上手いこと採算を出さないと草の栽培の方にしわ寄せが行ってしまう可能性が出て来て、そっちで頭が痛くなるかもしれないな。
まあ、物は試しだ。一般人用の本を実際に作ってみよう・・・・・・
町の中心近くに建てられている工場で今まで稼動していなかった機械を使って早速本を刷り上げることにする。今現在この工場では人手が足りないので、稼動しているラインは二つの機械でしかない。今後もっと増えると思って合計で機械を八機用意してはいるのだが、工場がフル稼働するのはまだまだ先だと思っている。
そんな工場内の一つを、低コスト用の紙を作る機械と印刷用の機械と連結させて、紙作りから印刷まで、人手を使わないでおこなえるように改造して行く。
そして刷り上った紙を一度自分の目で確かめて問題が無さそうなのをチェックした後で、実際に本の形に仕上げてみる。こっちの本は、一般人用なので、革張りの表紙ではなく、厚紙のように少し厚めの紙でできた表紙にしてみた。
中の紙が今までより薄いので、イメージ的にいけば同人誌っぽい作りになったかもしれないが、そこが余計に一般向けって感じになっている
さて、今の工程を顧みるに、この本にはどれだけの値段を付ければ採算が取れるかな? ページ数も少なめに百ページにして作り上げて、大体銀貨にして七枚くらい。安くし過ぎても生産者がきつくなるので、銀貨九枚くらいと見ておけばいいかな?
一応値段なども決まったことなので、ブレンダに見せておくことにした。
ブレンダの屋敷の書斎に移動してみたのだけれど、どうやら不在のようだね。水晶から今どこにいるのか見てみると、これはどこだ? かなり離れた、はっきり言ってしまえば他国に行っているみたいだな。
分身体を通してブレンダの周りを窺ってみると、どうやら地下牢みたいな所に捕らえられているように推察できる・・・・・・ってことは、ひょっとしてステータスがらみか発明品がらみで誘拐されたってところかもしれないな。
あっちもこっちも問題ばかり起こるものだ・・・・・・。
とりあえず拷問されたりとかは無さそうなので、レイシアと打ち合わせをすることにしよう。拠点へと戻りまずは司書パペットにブレンダのいる場所の情報収集を指示することにした。
「レイシア、聞こえるか?」
レイシアには、通信用の水晶は渡していないのだけれど、僕の加護を受けているので、神と信者みたいな感じで言葉を交わすことができる。
『あれ? バグ? どうしたの?』
初めての通信、いや交信なのでレイシアも戸惑っているのかもしれないな。まあそれはおいといて、レイシアにとってもブレンダは大切な友人だろうから、早めに対策をしないといけない。
「どうやらブレンダが誘拐されたようだ。拠点に戻って来てくれるか?」
『直ぐに戻る!』
言い終わると直ぐに転移したのだろう、息を切らせながらも拠点へと戻って来たようだった。
テーブルに多目的シートを広げて、ブレンダが捕まっている国の位置情報に周辺の地図、司書パペットが調べてわかった事などを表示させる。
僕としても見るのが初めてなので、とりあえずは情報を頭の中に叩き込みつつ、適度にブレンダの様子も探っておく。今のところブレンダに異常は見られず、ただ薬で眠らされているだけのようだった。
情報で確認して見る限り、誘拐されたのは二日前のことで、今までずっと他国まで輸送されていてついさっき地下牢に入れられたところらしい。輸送距離に対して、異様な速さで移動されたようだけれどどうやらそのからくりは、こちらからその国に流れている川を利用した為であるらしい。
以前戦争状態となり、今でもにらみ合いを続けている国からのちょっかいならまだ理由も直ぐにわかりそうなのだけれど、こっちはどんな理由でブレンダを誘拐したのだか今はわからないな。
ただ今回の騒動はどこかの組織がという感じではなく、その国そのものの指示で誘拐を計画されたという情報が入って来ていた。それならば手荒な扱いは受けない可能性があるので、まだ少し安心できる。
「バグ、今直ぐに助け出そう」
「今助けても、相手の狙いがわからなければ、何度でもやって来ると思うぞ」
「でも、早くしないとどんな目に合わされるかわからないよ!」
「ブレンダが今どんな状態かは、ちゃんと見えている。今は地下牢にいて、薬によって眠らされているようだ」
「でも・・・・・・」
「それなら、先にアルタクスを送り込んでおくか?」
「お願い!」
レイシアがそういうので、アルタクスを地下牢に転移させる。毛布に偽装して、周囲を監視しているのが確認できた。
「今、毛布に偽装して周囲の警戒に入った。これで少しは安心か?」
「うん。でもこれからどうするつもりなの?」
「まずはブレンダの屋敷に行って、脅迫状とかそういうものがないか探る」
「わかった」
いつもとは違い屋敷の前に転移した後、門番に名前を告げてブレンダの次に身分が高そうな者のところへ案内してもらう。通された応接室で待っていたのは、従兄弟を名乗る男であった。
「君がバグとレイシアか、確かブレンダの学友だったか? それで何の用かな? 今はブレンダが誘拐されて大忙しなのだがな」
「忙しいと言いながら随分と余裕があるようだが、ブレンダがいなければ魔道具の買い付けができなくて大変なんじゃないのか?」
「お前、ひょっとして誰が作っているのか知っているのか!」
「知っていたらどうだって言うのだ? ブレンダを助ける方が先だと思うが」
「それは執事が手配しているから任せておけばいい。こっちは取引を継続しなければいけないんだ。何か知っているのなら教えろ。契約を切られてからでは手遅れになる」
「契約はブレンダ個人と結ばれているという話だから、ブレンダの家の者が引き続き契約しようと言っても、無駄だと思うぞ」
「そんなことは、こちらで交渉するからいいのだ。契約を渋られたら契約金を上乗せしてやればよいだけのことだ。それよりもさっさと教えろ!」
「バグ、どういうこと?」
「単純な話だ、この従弟様はブレンダを賊に売った張本人って事だよ」
「なっ! お、俺がそんな事をするはずがないではないか。下賎な庶民の分際で、でたらめを言うと容赦しないぞ!」
「レイシア、屋敷の執事達を呼んで来てくれ」
「わかった」
「お前達、何を勝手なことを!」
レイシアを捕まえようとして足を踏み出した従兄弟を睨み付けると、従兄弟は真っ青な顔をして大人しくなる。いくら鈍い人間でも、殺意を込めた視線を間近で浴びせてやれば、本能的に動けなくなっても仕方がないというものだ。
「バグ、連れて来たよ」
「じゃあ、そいつのポケットを漁って見てくれ」
「それでは、失礼して私が探させてもらいます」
長年ここで働いていたのだろうと思える初老の執事が前に出ると、今だ震えて動けずにいる従兄弟のポケットを一つ一つ探って、中に入っている物を出して行った。
「これはブレンダお嬢様の金庫の鍵!」
「おそらくそれは、魔道具が保管されていた金庫の鍵だろう。他にもいろいろと重要な書類なんかも入っていたんじゃないのかな?」
「ち、違う、それはその男がポケットに入れたんだ。そいつが俺に濡れ衣を着せようと企んだのだ」
この期に及んで、従兄弟が言い逃れしようとする。
「なあ、お前はどういう風に死にたい?」
そう言うと今だ動けない従兄弟にすっと近付き、その首に捕獲用に作った首輪を取り付ける。
「正直に言わないのなら、お前の指を一本一本モンスターに食べさせて行くぞ」
首輪に設定された恐怖の魔法が、従兄弟の想像力を増幅させて、実際にそのような妄想を抱かせているに違いなく、従兄弟は恐怖の悲鳴を上げた。
「いいのか? ブレンダに関した情報をさっさと言わないと、お前は未来永劫モンスターの餌として生き続ける事になるぞ?」
「言う、言うからもうやめてくれ~~!」
悪党としては三流なのだろう。たいした抵抗もなく、わりと直ぐに観念したようなので、首輪を外してさっさと喋るように促がした。
従兄弟の語った内容は、二週間前からブレンダの情報を聞きに黒いローブの男が現れるようになって、ラングローズ家の次期当主にしてやると言われて、言われるがままに情報を喋ったのだそうだ。そしてローブの男はブレンダと水晶にしか興味を示さなかったようなので、ブレンダを薬で眠らせた後、水晶とブレンダの部屋の金庫の鍵の在処を交換すると言われたので、取引に応じたらしい。
金庫の中には次期当主として必要な書類もあるので、それを使って当主になればいいと言われたそうだ。まあ、肝心の魔道具の取引に関する資料は、一切なかったらしいが・・・・・・
水晶自体はブレンダを自分の国の貴族にする手間賃として持って行くという話で、お互いに悪くない取引になったと言っていた。その水晶はブレンダとは別ルートで馬車に乗せられて移動中らしい。
相手についての情報は何の手がかりもなく、執事達が慌てているようだけれど、こっちにはわかっていたのでそこは問題ではなかった。
多目的シートを広げて新たな情報がないかどうか確認して見ると、ブレンダを誘拐した国はリンデグルー連合王国に借りを作りたくなくて、勇者に代わる戦力を得る手段としてブレンダのステータスを知る力に目を付けたという感じらしい。
周辺二ヶ国から嫌われているって言うのは、何かありそうだな・・・・・・。まあとりあえず背後関係とかよりブレンダを助ける必要はあるだろうけれどね。
問題は冒険者として乗り込んでもいいものかどうかだな。できれば正体を隠して問い詰めたいところだけれど・・・・・・面倒だし、結局のところ誘拐なんて強硬手段をとったのだから、こっちも遠慮する必要が無いはずだ。
「堂々と行って、堂々と帰って来るか~」
「うん!」
僕達はブレンダが捕らわれている大貴族の屋敷がある町の前に転移した。
門は兵隊が守っていて破壊すると死人が出るかもしれないので、ちょっと横にずれて町を囲っている壁を破壊することにした。
「アースボム。シールド」
壁を町側に破壊すると巻き込む可能性があるので、内側から外に向けて吹き飛ばして行く。壊れた壁の破片が飛び散っていたけれど、予測して展開してあったシールドによって跳ね返しながら出来た穴を潜って町の中へと進入した。
「ブレンダがいるのは、あっちだな」
レイシアにもわかるように、指で示して大きな屋敷を目指すことにする。途中僕達を捕まえようと衛兵達がやって来たのだけれど、シールドが展開したままなので、こっちを押しとどめる事ができずにそのまま跳ね飛ばして屋敷まで移動して行く。
「ここが、ブレンダを誘拐した奴の屋敷だな。ってことはこっちに敵対行動を取った奴だから、この先は遠慮することはないだろう」
「わかった。遠慮なくブレンダを助けさせてもらう。部隊召喚、ゴーレム」
レイシアの求めに応じて現れたゴーレムの数は三十体以上。さすがにこの数相手に立ち向かって来る兵士はいなかったのだけれど、これゴーレム多過ぎじゃないかな? 普通に横一列に並んで歩かせるだけで、この町は潰れると思うよ・・・・・・
そう考えていると、ゴーレムが屋敷の外周を取り囲み、数体のゴーレムが屋敷を破壊していった。ふむ、それなら屋敷の中から逃げるやつも捕獲可能か。でも隠し通路があるな。調査のスキルで抜け道を見付けた。
「アースボム」
いくつかある隠し通路を爆破して塞いでおく。これでレイシアの包囲網は完璧だろう。よほどの凄腕なら、ハイデングで隠れていられるかな?
調査スキルでブレンダの様子を見てみると、屋敷の貴族がこっちの目的を察して、ブレンダを連れ出そうと考えていたのか、地下牢の前にやって来ていた。そしてそれをアルタクスが邪魔してブレンダに近寄れなくしている。
「アースフォール、グラビティ」
地面をぶち抜いて地下牢へ続く道を作ると、牢屋の前にいた貴族と兵士を重力で押さえ付けたので、僕達はそこへと降りて行くことにした。
「誘拐犯共、邪魔するぞ」
「ブレンダは、返してもらうわ」
そんな感じで気楽に声をかけながら目の前に現れた僕達を見て、貴族が何か言って来る。
「貴様ら、こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」
「ほー」
レイシアは、貴族を無視してブレンダの元へと向ったので、こっちはこっちで貴族の相手でもしていようかな。
「我が国が総力を上げれば貴様らの国など、一ヶ月も持たず潰せるぞ」
「あっ、勘違いしているのか。僕はリンデグルー連合王国とは何の関係もないから、好きに潰していいぞ」
「な、何!」
「だから、僕はリンデグルー連合王国には住んでいないってば。ブレンダは確かにそこの貴族らしいけれど、僕らは普通に友達なだけで、別に貴族だから付き合っているとかそういう繋がりもないな」
「友情ごっこでこんな事をしでかしたとでも言うのか!」
「いや、それも違うかな。普通に知り合いを誘拐するあほにむかついただけだ。貴族様は何でも権力で思い通りにしようとするからな。それならこっちも好きに暴れさせてもらってもいいだろうって考えただけだよ」
「ふ、ふざけているのか!」
「ふざけているのはそっちだろう? 誘拐は犯罪、そんな子供でもわかることが何故わからない? そんなだからこんな目に合っているっていうのに、まだ理解できていないなど救いようがないな」
「私をどうする気だ?」
「そうだな、どうして欲しい? 僕と敵対したのだからそれなりの報いは受けてもらいたいところだけれど・・・・・・」
「殺せ」
「お前の命など僕には興味がない。まあ、ここの王様に警告しておけばいいか。次は無いぞってね」
レイシアの方を見ると、ブレンダはまだ眠ったままのようだった。レイシアは自分だけなら魔道具で転移できるのだけれど、ブレンダは飛ばせないから、先にブレンダの屋敷にでも飛ばしておくかな。
「先に帰っておくか?」
「うん」
「じゃあ、また後で行くから、先に帰っていてくれ」
「うん。また後でね」
二人を転移させるとこちらも周りの兵士もろ共、国王の元へと転移する。
「突然だが、お邪魔するぞっと」
「何者だ!」
転移して直ぐ、近衛騎士達が此方へと走って包囲しようとして来るので、まずは力の差を見せておく事にするかな。
素早く懐へと入り込んで、全員を一撃のもとに吹き飛ばして行く。近衛騎士があちこちの壁にめり込んで気絶しているのを確認して、国王の方へと向くと隣に立っていた宮廷魔法使いらしい男が魔法を唱え出した」
「荒ぶる炎よ、彼の者を焼き払え、ファイアストーム!」
僕の足元には大貴族も倒れているのに、お構いなく範囲攻撃魔法を使って来た。さすがにこんなのであっても死なせるほどではないと考え、無詠唱魔法でファイアストームを止めることにする。
(アイス)
魔法発動と同時に氷付けになったファイアストームが、彫刻のように王座の間に出現する。
「えっと、まだ抵抗するかな?」
「何者だ」
今まで成り行きを窺っていた国王が僕に問いかけて来た。
「ただの冒険者だよ。喧嘩を売られたから警告しに来た」
「喧嘩だと?」
「そこの貴族が僕の友人を誘拐したのでね、次は無いって警告だよ」
「ブレンダ嬢の事か」
「知っていると言うことは、お前が命令したということかな?」
「この国では今、怪物の被害に苦しんでいる者達がいるのでね、その対策を考えるのは国王としては当然であろう?」
「対策を立てるのは確かに良いが、手段が悪い。どんな大義名分を言おうが犯罪は犯罪だ。国のトップを気取るなら、もっと平和的な手段を考えろ」
「では、お前が怪物を退治しろ。そうすれば、相応の報酬と謝罪をしよう」
「偉そうに命令するな、退治して欲しいのなら自分の非を認めて、頭を下げてお願いしろよ」
「お前に退治できるのか?」
「町丸ごと怪物になっていようが、僕には関係ない。まあ町も消し飛ぶがな」
「ならば頼む、怪物を倒してくれ」
「陛下、おやめください! こんな得体も知れぬ者などに!」
国王が軽く頭を下げただけで、その場で意識がある者達が止めに入っていた。普段は慕われている王様なのかもしれないな・・・・・・
「それがお前の誠意か? そんな軽く頭を下げるだけで、ほんとに真剣にこの国の為に頼んでいるつもりか?」
「貴様、国王陛下に向かってなんと無礼な!」
「先に無法を働いておいて、よくそんな口が聞けるな!」
その場にいる者達全員を転移で異形のいる場所に飛ばす事にした。まだこちらの力が理解できていないようなので、まずは目の前で異形を一体、実際に倒して見せる事にする。
「怪物が、たったの一撃で・・・・・・。しかも素手で倒せるなど・・・・・・お前は化け物か・・・・・・」
「つくづく礼儀知らずな国だな」
「申し訳なかった・・・・・・今までの非礼、どうか許して欲しい。そして厚かましいお願いだとわかっているが、どうかこの国を救ってくれ」
周りと違い、国王だけは地面に額を付けてそう言って来た。
転移でもう一度王座の間に移動して、国王に言う。
「僕は冒険者だ、それ相応の報酬はもらう。怪物達の情報を寄越せ」
そう言うと多目的シートを広げて、この国の地図を表示させる。
「今直ぐに情報を持って来い。後この者に支払う報酬と謝罪金を用意しろ。ぐずぐずするな!」
国王がそう命じると、周りの文官らしい者が慌てて走り去って行った。そして国王自身も少し知っているのか、地図を見ながらこことここって感じで、怪物のいる場所を指差して行く。その場所に魔力を流して記録して、他に漏れがないか文官が持って来た情報と、司書パペットの情報を合わせて記録していった。
「すまないが、討伐確認に一人連れて行ってくれないか?」
「そうだな、そっちの方が面倒がなくて手っ取り早い」
「助かる」
情報が出揃ったので、おまけの一人を連れて各地を転移して回り、異形を倒して戻って来る。
「終わったぞ。ちなみに、ブレンダの方にも謝罪はするのだろうな? あっちでは従兄弟が一人、人生を狂わされていたようだが?」
「わかった。考えられる限りの謝罪を用意して、ブレンダ嬢には届けるようにする。それと今回の報酬と謝罪だ。受け取ってくれ」
「さっきも言った事だが、ほんとに次はないと思え。理解できずに喧嘩を売って来たのなら、この国は地図から消えることになると思えよ」
「以後、気を付ける事にしよう」
そう言った国王を確認した後、輸送中の馬車より奪われた水晶を取り出して、ブレンダの屋敷へと転移した。




