卒業シーズン
冒険から帰って来ると、学校の生徒達が初級ダンジョンをクリアして、中級ダンジョンに入って行っているという報告が待っていた。
確かこの国の兵士は、初級ダンジョンをクリアできないって話ではなかったか?
そう思いつつも、まあ悪用されることがなければいいかなと思ったりもする。
魔王軍的な立場で行けば、そんなに強くなってくれるなって言いたいのかもしれないけれどね。それでも、やめろとは言われていないので、別に問題ではないのだろうな~
そう思いつつ、一応レイシアと一緒に中級ダンジョンへと、様子を見に行くことにした。
無茶をしているようなら、連れて帰らなければいけないだろう。そう思って中に入ったのだけれど、普通にベテランの冒険者に混じって、活動できているようだった。
まだまだ拙さのようなものはあるものの、帰れって言う程の未熟さは見当たらない。
ボスまで行ってみたものの結局実力に相応しくないパーティーはいないようなので、安心して拠点へと戻って来た。
さて学校もホテルも特に問題はないし、LV差がなくなって来たのでレイシア専用のダンジョンに僕も潜って、一緒に経験値でも集めて行こうかなと思う。その前に、ステータスを更新しておくかな。
《名前 バグ 種族 魔神 年齢 3-4 職業 創造者-魔王軍特技四天将
LV 86-87 HP 8611-8667 SP 9961-10012
力 759-760 耐久力 826-828 敏捷 861
器用度 715 知力 1266 精神 2518-2520
属性 火 水 土 風 光 闇 生命 無 空間
スキル 吸収 時空干渉 分身 無詠唱 完全回復 憑依 調査 創造 完全耐性 飛行 言霊 守護 自動復活》
名前 レイシア 種族 ヒューマン 職業 魔導師-???
LV 73-75 HP 513-525 SP 961-979
力 43-44 耐久力 40 敏捷 71
器用度 78-79 知力 158-160 精神 133-135
属性 火 水 土 風 光 闇 生命
スキル 錬金術 無詠唱 指揮官 万能召喚 調理 上位変換(無生物) 進化 拠点魔法陣 意思疎通 亜空間 待機魔法 強化 アルファントの加護 察知(生物) 嘘発見 植物操作 バグの加護(全能力強化) 罠察知 祝福
名前 アルタクス 種族 アサシンスライム 年齢 1 職業 暗殺者
LV 57-63 HP 486-508 SP 216-221
力 154-156 耐久力 131 敏捷 87-91
器用度 273-276 知力 50 精神 48-50
属性 水 土 風 闇 生命
スキル 捕食 腐敗 肉体変化 分裂 自動回復 状態耐性 接近 窒息 張付き 強酸 鍵開け 罠感知 罠解除 罠設置 爆薬化 追跡 狙撃 偽装 触手槍 影渡り 潜伏 強襲 人化 複製
今回はそれ程経験が稼げていないので、そこまでLVが上がっていない。
それでも一応変化があったな。なんか職業がやたらとかっこいいって思える。
ちなみにこの職業は自動で判定されるから、レイシアの職業が思いっきりバレたらやばい感じになっていたので、慌てて誤魔化してみたよ・・・・・・
実際の表示は、魔王軍特技副官だったりする。
後は、LV差があるのでアルタクスがそこそこ上がっていて、スキルもよくわからないものが手に入っているな。人化っていうのは多分人型になれるのだろうけれどね。
しばらくは、自分の強化をすることにした。
進化してLVも九十に近くなってもまだ、勝てない相手がいることに気が付き、ここで満足しては駄目なのだということがわかったし、正直LV九十九・百を超えてもまだ先があるのかどうかも知りたくなったという好奇心もある。
幸いというかレイシア達も、もっと強くなりたいと思っているようなので、一緒に強くなっていきたいなと考えたのだ。
ダンジョンに篭り始めてから何日目か、王子の方からそろそろ次の入学について、準備を始めるとの連絡が来た。
もう一年経つのかと思いつつも僕とレイシアは、入学試験用の森のダンジョンを造る為に指定された場所へと、移動して行った。
造るのは、ダンジョンマスターのやったような本格的なものではなく、素人のお遊びみたいなものでもいいらしく、ごっこ遊びのような順路を造って罠っぽもの、モンスターぽいものなどを並べて行くような感じだった。
僕達に求められたものは、実際の冒険ならどこで気を付けなければいけないのかとか、ここで何に気を付けるべきなのかとか、この先へ行くのは正しいのかとかの判断できるのか考えられるのかを試すコースを造る事らしい。
要求されたからにはやってやろうじゃないかとレイシアと作戦会議をして、まずは多目的シートに全体のコースなどを描き、実際のダンジョンだったらこうだみたいなやり取りをして会場を造り上げて行った。
数日をかけてコースを造り上げた後王子に見てもらい、試験の日時が国中に告げられることになった。
今では、マグレイア王国の殆どの街にブレンダの店が有り、そこに即日通信できる設備があるので、王都から各町に話が行き、そこから町長が各村へと話を広めるのだそうだ。
何気にブレンダがこの国を牛耳っていないか? ふとそんな事を思ったよ。
まあそれはともかく試験当日になり、国中から冒険者志願の人達が試験会場の森へとやって来たのだけれど、その人数はおおよそ四百人くらい。予想を遥かに超える人数が集まった為に、予定していた宿泊地に用意した簡易宿泊施設などが全然足りなくて、僕達はその対応に追われた。
まあ日本と違って土地だけは広いので、後は簡単に寝泊りできるテントを準備したらいいのだけれどね。
それでもそのテントが足りないのと、今あるテントの設営などに多くの人手が必要だった。
だから足りなくなったテントの補充をするのを引き受けた、とはいっても女性型パペットに発注しただけだけれど。出来たテントから運び出し、レイシアと一緒になってどんどん配置して行く。
今日はブレンダも手伝いに来ていて、今は受験生達に待っている間の配給をしていた。
王子は学校の教師陣を引き連れ、来た順番に試験を開始していた。自分の学校に入学して来る生徒なので、自分で選びたいってところなのだろうね~
さて、ダンジョンの試験を終わった受験生達は次に学校へと移動して、簡単な筆記試験を受けたら開放される。
そのまま帰ってもいいし、設営されたテントで一泊してもいい。
試験結果は、後日ブレンダの店に結果を張り出すことになっていて、受かった者だけ入学に必要な物等をその場で教えてもらい、入学式当日から学校の宿舎に入ることになっている。
王都に住んでいる者は、宿舎に入らなくてもいいそうだ。
慌しい日も大きなトラブルはなく過ぎて行き、僕達はまたダンジョンで経験稼ぎをすることにした。
結局試験に受かった者達の人数は、百人くらいだという話だった。
これで学校に通う人数は二百人ちょっとになるのだけれど、そういえば卒業ってどうなっているのだ?
今期の生徒達は、もう中級ダンジョンに潜っているっていう話なので、あいつらは卒業させちゃっても、もう問題ない気がするのだけれどな~
今度王子に会ったら聞いてみるか。そんな事を考えながら、ダンジョンでモンスターを倒していた。
試験が終わり合格者も選んで余裕ができたのか、後日王子に会うとまさしく今期の生徒をどうするかの話を相談された。学校の運営などしたことがないので、何を持って卒業にしたらいいのかが、わからないのだそうだ。
「こういうものは、必要な知識を全て学んだら終わりになるのだろう? 冒険者はどこまで学べば終わりになるのだ?」
まあ確かに、これだけ知っていればもう充分みたいな基準は難しい判断だよね。実際には細かいところまで含めるならば、果てなく学んでいかないと生きていけないと思うし、まあ妥協点だろうね。
「それなら、初心者ダンジョンをクリアできた者は、卒業の資格有りというのはどうかな?」
「そうね、あのダンジョンがクリアできたのなら、もう冒険者の初心者は終わりだと思うよ」
僕の意見に、レイシアも賛成した。
「なるほど、確かに初心者を卒業したのなら、もう普通の冒険者になったという訳か。でもそれはパーティーの仲間がクリアしたらになるのでは? 自力でクリアするのとは、また違って来そうなのだが・・・・・・」
「まあそれでも、クリアできたという過程の知識は学べているのだから、そこまで拘らなくてもいいのではないかな? なんなら、卒業生が学校に戻って来て、学び直せるって感じにしてもいいだろうし」
「ふむ、なるほどな・・・・・・それではそちらの方向で、他の教師達とも話し合って決めてみるよ」
「ああ、がんばれ」
これから相談って事は、僕達と最初に相談して教師陣にはしていなかったのか。
こっちは自国の民じゃないからプライドが傷付かないので相談できたとか、そういうことなのかな?
同じ学校関係者なのだから、もっと意見とか言い合えばいいのにな。それとも教師の方が王子の身分に遠慮して、意見を出さないのだろうか? まあなんとかなりそうだし、後は任せておけばいいかもしれないな。
後日、正式に卒業についての話がされて、まだ初心者ダンジョンを攻略できていない少数の生徒達が慌ててダンジョンに潜って行く姿が見られるようになった。
日本でいけば、あの子達は落第って事になるのかな~
それにしても一年で卒業の学校か、中々ハードな学校だな。
「そういえばレイシアが通っていた学校も、一年で卒業なのか?」
「いえ、私達の学校は、二年だったわ」
「でレイシアは、二年生だった?」
「うん。バグがいなかったら冒険者になれなくて、そのまま資格も失って学校から追い出されていたかもしれない」
「二年間勉強して一定評価がもらえなければ、冒険者として認めてもらえないのか。まあ命がけの職業だから、そんなものなのかな?」
「そうだね。私の場合はまだ一年目で追い出されなかっただけ、ましだったと思う」
「一年目でも落第者が出るのか・・・・・・結構厳しい条件なのだな。とすると、こっちの学校は今のところは落第者がいなくて、優秀なのかな?」
「そうだね、結果だけを見るならそうなのかも」
「まだ、学校自体が出来て一年だから、まだまだ判断できないところだろうね」
「そうね」
その後の話になるのだけれど、冒険者の資格発行という形にする為に、マグレイア王国にギルドが設立されることになった。ギルド員は正式にギルド本部からリンデグルー連合王国のブレンダの店を経由して、こちらに来てくれることになっていて、初心者ダンジョンの難易度などを判断した後、登録証を発行してもいいかどうかの判断がされるという話になった。
来てくれるギルドの人は一般人なのだそうで、ダンジョンには僕達が護衛として入ることになり、ダンジョンをくまなく回って判定してもらう。
その結果、このダンジョンをクリアできる実力があるのなら、冒険者の資格を与えても問題ないと言われて、生徒達の卒業準備が整った。
まあそこからのギルドの人達は、百人近くの生徒の登録で忙しそうだったのだけれど、登録書の準備が整った時点で学校側の卒業式が企画された。
卒業式とはいっても、現代日本のような涙を誘う式などではなくて、登録書を渡し簡単におめでとうと言って、お別れになるようなやけにあっさりとしたものだった。
何だこれ、もっとこう友達同士また会おうねとか、そういうやり取りがあってもいいと思うのだけれど。
なんとなく冷めた対応をする人達だなって思ってしまったよ。
そう考えるとレイシア達の卒業式が、あっさりしていたのも別段簡単にしたからではないのかもしれないな~
まあそれはおいといて、この学校には騎士科が存在していたのだけれど、冒険科の卒業に合わせる形でこちらの方も、王宮へと正式に迎えられるようになった。
こちらの方は、実際の騎士の人達が直接に試験をおこない、実力不足と判断されたら騎士見習いとされて、しばらくはこき使われるのだそうだ。
幸いにも今期の卒業生で、見習いになる生徒はいなかったようで、学校側としてもホッとしていた。
そんな訳で、今の学校内には卒業できなかった一部の生徒が残っていた・・・・・・
人数にしたら一パーティー、六名の生徒である。
彼らは、冒険者になりたいと思って学校へ通ってはいたものの、そこまで本気で取り込んでいなかったようで、学校入学当初と能力的にほぼ変わりない状態だったりした。
今彼らは教員室に呼ばれていて、教師達に今後の話をされている最中だった。僕達も一応教師として立ち会うように言われてしまったのでここに来ている。
「こういう結果になってとても残念ではあるのだけれど、君達は今後どうしたい?」
「えっと、冒険者になりたいです」
「この一年、他の生徒はがんばってみんな無事に冒険者になれたのだけれど、君達は何故がんばらなかったのかな?」
「すみません」
「で、どうするのかな?」
「えっと、どうしたらいいのでしょうか・・・・・・」
生徒も教師も、困ってしまったようだ。
「えっと、本気かどうかを確認してみてはいかがでしょうか?」
グダグダしていたのでそう提案してみた。なんとなく生徒からは、本気で冒険者になりたいって気合を感じなかったので、ここで話し合っても意味がないと思われた。
「具体的にはどうすると?」
「どうも彼らは冒険者ってものに憧れているだけで、自分達がそうなりたいと思っているようには思えない。なので、入学テストで使った試験をやらせて、適正を見てみたらどうかと」
「ああ、じゃあそれでいってみますか」
生徒達は嫌そうにしていたのだけれど、結局は試験を受けることになり、適正は殆どないと判断された。
造られたコースの上をただ歩くだけで、一応造り物とはいえ罠とモンスターの役割を持つ仕掛けがあっても、ただ避けて歩くだけだった。
せっかく造った試験のコースを、馬鹿馬鹿しそうに歩かれてこっちの方がやる気を無くしたよ。
やっぱり人間百人もいれば、こういう人達も中にはいるものなのだろうね~
「どうも彼らは、冒険者になりたいと考えていないようですね」
「そうみたいですね。ということは退学になるのでしょうかね?」
それはそれで、本人達にも聞かないといけない気もするのだが、結果が予想されるよね。
そんな訳で判断を王子に任せる事にして、僕達は引き上げることにした。僕達以外の教師達もさっさと撤収して、次にやって来る生徒達の準備を始めるのだそうだ。
さて一方無事に卒業して、念願の冒険者になった卒業生なのだけれど。
残念ながら、マグレイア王国のギルドには依頼がなかったりする。まあその結果、当然のように彼らは冒険を求めてリンデグルー連合王国のギルドを目指して転移して行った。
そこで実際に依頼を受けて、冒険者らしい生活を送って行くのだろうね。向こうからは、ベテランの冒険者がこちらに来て、中級ダンジョンへと潜り、こちらからは初心者冒険者が向こうで依頼をこなしている。
まあ、こういう国の付き合いみたいなものも、いいのかもしれないと思ったよ。
僕達は、生徒達が迷惑をかけていないか確認する為に、ギルドへと向った。
「あれって孤高の乙女のレイシアさんじゃないのか?」
ギルドに入った瞬間、目ざとい冒険者がレイシアを見付けてそう言って来た。一年以上ここには来ていない気がするのだけれど、やっぱり女性の冒険者っていうのは目立つものなのかもしれないな~
昔の癖なのかレイシアが依頼表を確認しに行ったので、僕もそれに続きながらギルド内の様子を窺う。
多くの冒険者が、僕の実力を測ろうとする視線を向けているのがわかるが、まあこっちは無視する。
生徒達は依頼を見ていたり受付に集まっているなど、混雑を起してはいるもののそれ程迷惑にはなっていないだろうと判断した。しばらくは様子見だな。
「ねえ、バグ。この依頼やらない?」
「うん?」
依頼を見ていたレイシアが、剥がして来た依頼表を見せて来た。
内容はどうって事もない討伐依頼で、倒すモンスターはフォレストジャイアント、特に惹かれる要素はなさそうな依頼だな。まあでも、生徒達が依頼を受けているのを見て、自分もって感じになっただけなのかもしれないし、受けてもいいかなって思った。
「僕は構わないよ」
「じゃあ、受けて来るね!」
そう言って受付に向うレイシアの後を、のんびりと付いて行く。
依頼表にサインをした僕達は、早速冒険へと出かけるのだった。
ユニコーンに乗って現地の森へと移動した僕達は、森に入る前に野営をして一泊、朝に森へと入って行く。
レイシアはしきりに周りで何かを探していて、見付けると収穫していた。どうやら薬草の類かな?
錬金術で使う素材集めも兼ねた、討伐依頼って感じなのかもしれないな。レイシアの代わりに周りを警戒しながら進むことにするかな。
よく考えたら僕達の中には、盗賊はいても狩人がいないので、森での敵の発見とか難しいかもしれないなって思う。今までは調査のスキルとかで困らなかったのだけれど、相手も動き回っているのだとしたら、スキルを使わないで探すのは、大変かもしれない。
こういう時は逆転の発想で、相手の方から来てもらうっていうのも、ありかもしれない。そうレイシアに言うと・・・・・・
「確かにそうだね。じゃあ音でも鳴らしながら歩いてみる?」
「そうだな、後は普通に喋っていてもいいかもしれないし、そんな感じで行ってみるか?」
「うん」
とりあえず音の鳴る物として、鈴を創り出して僕の腰と、レイシアの腰にそれを取り付けた。
「何か、綺麗な音がするね、これなんていうの?」
「これは鈴って言うやつかな、これを一杯付けたやつで、歌の合間に鳴らせる楽器みたいな物にすることもあるよ」
「へー」
「後は、森などを歩く時にこれを付けておくと、熊とかに人がいることを教えて、向こうに避けてもらったりとかにも使うかな。まあその前に、モンスターが寄って来そうだけれどね」
「確かに、実際今の私達はそれでモンスターを呼び出そうってしているものね」
「使いどころだろうね」
薬草を探しながら、レイシアは腰の鈴を気に入ったようでわざと鳴らして楽しんでいた。
「ところでその草は、何になるのだ?」
「これはHPとSPの回復ポーションになる薬草だよ。一杯あっても困らないから、ついでに集めておこうかと思ってね」
「なるほど、確かにあって困ることはないな」
やっぱり補充も兼ねていたようだな。
鈴の音に誘われてたまに狼や、ゴブリンなんかがやって来るのを、片手間に倒しながら僕達は進んで行った。
薬草も充分に採ることができたのだけれど、中々目的のフォレストジャイアントが見付からないので、鈴で誘い出すのと狼を出してこちらから探す感じで、森の中の探索を進めることにした。
「そういえば、こいつらに会うのも、久しぶりだな~」
「確かに、最近はあまり出していなかったね」
久しぶりに銀色の狼達と会った気がした。
昔は気に入っていたのか、しょっちゅう出していたのにね。そう懐かしく思いながらしばらくすると、狼が何かを見付けたようだった。
辿り着いた場所は、何者かが食べ散らかした食べ物が、散乱した場所だった。
足跡などからここが、フォレストジャイアントの拠点だと思われたので、少し離れた場所で、帰って来るのを待つことにした。今度は、隠密行動になるので、腰の鈴を外しておくことにする。
夕方頃になり、森の中がすっかり暗くなってしまった頃、地響きが聞こえて来てモンスターが帰って来たのがわかった。数は三体で、それぞれの手には、森の動物と思われる獲物を持っていた。
そこまで警戒する程のモンスターではないので、早速突撃の指示を出した。
アルタクスもいたので、それぞれが一体を倒して、討伐部位を回収する。
レイシアも、この程度の敵ならば魔法を使う程ではなかったようで、日本刀での接近戦をしていた。
ふむ。以前は上手く習得できなかったのだけれど、LVの上がった今ならひょっとして居合い斬りも習得できるかもしれないな。まあ覚えても、力任せになるかもしれないのだけれどね。
ちゃんとした武芸としての技を使えたら、いいのにな~
無事にクエストが完了した僕達は、ギルドへと帰っている途中で、黒い鎧の男が前方にいるのを発見した。もう面倒だから黒騎士って名前にしておこう。僕達が黒騎士の前で止まると、話しかけて来る。
「やあ、少し仕事を頼みたくてここで待たせてもらったよ。ギルドを参考に依頼形式にしてみたので、受け取ってもらえるかな?」
そう言いつつ、羊皮紙を差し出して来る。
「しばらくは、普通に生活していてもいいのではなかったかな?」
受け取りはしたのだけれど、文句を言ってみる。
「まあこれは、君達の普通を守る為でもあるかもしれないね。そのままにしておけば、いずれこの国を巻き込む事件が起こる可能性がある。あくまで可能性であって絶対ではないよ? だから一応依頼ではあるが、嫌なら好きに断ってくれてかまわない。詳細は載せてあるので、後は選んでくれ」
黒騎士はそう言うと、目の前から消えていなくなっていた。
とりあえず、大事になる前に何とかしようって事なのだろう。内容を確かめる為に羊皮紙を開いて中を確かめて見ることにした。
「日本語じゃんか!」
横からレイシアも覗き込んでいたのだけれど、日本語で書かれていたのでレイシアには何が書いてあるのか、読むことができない様子だった。まあ、僕からしたらこちらの文字などが、翻訳の魔法無しでは読めないのと同じだよね。
それにしても黒騎士は一体何者だ? 疑問に思いつつも内容を確かめてみた。
内容はこの国の隣国に当たる国で、権力を利用しやりたい放題やっている大臣がいるという。
その大臣の排除が依頼だった。
手段などは問わないとなっていて、改心させてもいいし単純に倒すのでもその国の法で裁くのでもいいらしい。
大臣のおこなって来た事についても、まあよくもここまでやって、国王とかから罰を受けたりしないものだなと言いたいようなことが並んでいた。
予想される今後の事態としては国民の反乱、それに対して武力による鎮圧。さらに増長した大臣が異形に変わると共に、恨みを募らせた国民も異形化して国が一つ滅ぶのだそうだ。
僕達に被害がというのはその異形になった者達が、周辺の国に散らばることで混乱が広がる可能性があるので、僕達もそのままでいれば面倒なことになるよといったことのようだった。
これはなるほど、依頼してもらえたのはありがたいことかもしれない。
黒騎士も言っていたようにあくまで予測であって、確実に起こることではないのだけれど、ここは依頼を受けてもいいかもしれないなと思ったよ。
まあそれでも一応、レイシアには話しておこうかな。ギルドに向かいながら、レイシアに依頼の内容を教えていった。
「バグはこの依頼受けるのよね?」
「ああ、やってもいいと思っている」
「じゃあ、私もやる!」
「副官だものな」
「それでその大臣、暗殺するの?」
「一番楽で簡単なのは、それだろうな~」
「じゃあ、捕まえる方向で考えている?」
「まだはっきりとは考えていないけれど、まずは証拠みたいなものを掴んで、国王辺りの意見を聞きたいかな」
「国王が裁くなら、それに任せるって感じ?」
「まあ、そっちの方が国民にとっても、今までの恨みが晴らせていいと思う。いきなり死にましたじゃあ、恨みの晴らしどころがないからな」
依頼表には国民は恨みによって異形になるとあったので、なるべくならそういう負の感情も、どうにかしたいと思ったのだった。
僕達は、ギルドで報告を済ませた後、拠点にて黒騎士の依頼の前準備を始めることにした。
出来れば正体を隠して行動したかったので、黒騎士にちなんで黒い衣装を女性型パペットに用意してもらう。これは、レイシアの分も用意させた。
仮面はドワーフ型のパペットに依頼して、かっこいい物を作ってもらう。
それと同時に司書パペットにも依頼して、大臣についての情報を集めさせた。今頃アサシンパペットが動いてくれているだろう。
情報が揃うまで、その情報を確実にわからせる為の物品の確保などをすることにする。他にも嘘を見抜く魔道具や、自白させる為の魔道具なども用意する。
全ての準備を終わらせるとレイシアを連れて、大臣の前に転移しそれと同時に大臣ごと国王の前に転移した。
大臣を逃がさないように押さえ込んで、国王に話しかける。
「突然だと思うが、失礼する。この大臣がこれまでおこなって来た悪事の証拠を持って来た。陛下に大臣を裁くことを願いしたい」
突然現れてびっくりしている国王に、そう話しかける。さてさて、ちゃんと話を聞いてくれるかどうか・・・・・・レイシアが証拠となる品々を、国王の前に並べて行く。
国王はとりあえず、それらを確認しているようだった。
ちゃんと話を聞いてくれる良い王様かなと思われた時、国王はこう言った。
「我に大臣を裁くことはできない」
「それはどうしてでしょうか?」
「こういう事だ、馬鹿者が!」
突然大臣が叫んだと思ったら、その場に強い力を持つ何者かが現れて、襲い掛かって来た。
どうやら大臣は、権力以外にも直接的な力を用意していたようだった。
魔族を呼び出して、使役する魔法の指輪といったところだろうか?
襲い掛かって来た魔族の首を握って動きを封じる。それと同時に、大臣からのその指輪を奪い取った。
「魔族よ、お前は自分の意思でこの者に付き従っている者か?」
「ふん、そんな訳があるものか。魔法さえなければ、こんなやつにいいように操られたりはしないものを!」
指輪の支配から解かれた魔族が、そう返事をして来る。
「な、何者なのだ貴様らは!」
切り札を失くし、なおかつ今まで縛り付けていた魔族の殺意に晒された大臣が、怯えるようにそう言って来た。
「陛下、これでもまだ裁けないのかどうか、返答を聞かせてもらおう」
「いや、その魔族さえいなくなるのならば、大臣を裁くことはできよう」
「大臣は、死刑かな?」
「ああ、今まであまりにも横暴を繰り返し過ぎていた。まず間違いないであろうな」
「では裁判ののち最後の処刑は、この魔族がおこなってもいいかな?」
「その後は、暴れるのではないのか?」
今だ大臣を殺そうとしている魔族に、こちらの話を聞くのかどうかちょっと疑問だったけれど、一応命令しておくかな?
「おい魔族、お前にこの大臣の処刑を任せるが、その後人間に危害を加えないことを誓えるか?」
「ふん、何故そんな事を誓わなければいかん」
あー、せっかく復讐の機会を与えてやろうと思ったのだけれど、やっぱり暴れるやつだったか。
「そうか、せっかくチャンスを与えてやろうと思っていたのに残念だよ」
そう言うと、魔族の首を握り潰すように力を込め出した。すると魔族が慌てて降参して来る。
「わかった、わかった、言う通りこの大臣さえ殺せるならその後は大人しく帰る、それでいいのだな?」
「何だ話が通じるなら、初めからそう言えばいいのに」
そう言って、首から手を離した。
「陛下、この通り最後はこの魔族の手でよろしくお願いします」
「ああ、わかった。言う通りにしよう」
逃げようとする大臣を捕まえて魔族に渡し、国民にもわかるように公開裁判の後そのまま処刑する段取りを付けて、事件の解決と判断した。
本当はそのまま帰りたいと思っていたのだけれど、魔族が暴れないかどうかいまいち確証がなかったので、一連の顛末が終わるまで見守る事にして、魔族がいなくなることでようやく帰ることができた。
ふむ、思い返してみれば、これはこれで僕にお似合いの仕事だったかもしれないな。
裏から悪党を倒して回れるのだから、そこまで悪い依頼でもなかった。依頼料はないけれどね・・・・・・




