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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第十一章  ダンジョン王国
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 出発した町に辿り着いた僕達は、のんびりとした冒険を終え拠点へと戻る事にした。こちらの成果を教えるついでに拠点にブレンダを招いてハニートーストを食べながら、その後のハウラスの報告を聞くことにする。

 「異形討伐の方は、複数相手でも問題なく倒していけるのがわかったわ。ギルドの方でもそれを確認して、正式に勇者であるという判断を下したみたいね」

 「とうとう決定か。これでハウラスに付き纏われなくてすみそうだな・・・・・・やれやれって感じで、肩の荷が下りた気がするよ。異形退治ができる勇者が現れたのなら、ベテラン冒険者を指導するって話も無しの方向でいいのだよな?」

 「欲をいえば、そっちはそっちでお願いしたいところね。嫌なの?」

 「強くなったやつが悪さをしないとか、戦争に利用されないって保障があるならいいけれどね。そういう可能性があるなら、あまり気乗りがしないな」

 「はあ、そういうことね」

 「バグは、気にし過ぎって気がするよ」

 レイシアはそう言って来るのだけれど、異形を今まで倒せなかったやつらが倒せるようになると、調子に乗って悪さをした場合、止められる奴がいなくなるのが問題だと思うのだよ。

 昔やっていたネットゲームでも、初心者の時は気のいい仲間って感じのやつが、LVが上がって強くなると横暴になったりすることは、結構な確率で起こっていたトラブルなのだ。

 そういうのを見て来ていると、ついつい警戒してしまう。ゲームとリアルでは違うとは思うのだけれど、こっちはモンスターが普通にいる世界で、命の重さがゲーム並みに軽いから余計に心配になって来る。まあネットゲームの場合は、ネット上では操作している本人が特定できないので、やりたい放題って面もあるらしいが・・・・・・バレなければ何をしてもいいって考えの連中とは、仲良くしたくなかったよ。

 「結局カメラの方も、犯罪に使う奴が出始めたって聞いたのだけれど、あまり楽観はしたくないな」

 「そっちね。まさか本当にバグの言っていたようなことに、カメラを使おうって人が出て来るとは、思いもしなかったわよ」

 「人の中にはいい人間がいると思えば、悪いことを考える奴も普通にいるからな・・・・・・」

 「人間不信になりそうね」

 「僕が思うに、僕は半分位人間不信かもな。心の底から信じられるって奴は、そこまでいないよ」

 「「私も?」」

 そこをハモルのかって思わぬシンクロにビックリしてしまった。

 「どうかな、人間の中ではそれなりに信じている。いや信じたいって感じかもな。お前らは、僕の事を何度も合成しているじゃないか、それで完全に信じてもらえるって考える方がおかしいと思うぞ」

 「確かに、それもそうね」

 「うー」

 何か、レイシアは納得いかなそうに唸っているが、まあ放って置こう。

 「とりあえず、バグの言いたい事は、なんとなくでもわかったわ。ケイト先生の方には私から話しておくわね」

 「おー、頼んだ」

 その後は、雑談などしながら僕達は別れた。ブレンダも蜂蜜は相当気になったようで、ちょっと分けて欲しいなって言っていたのだが、こっちもそこまで大量にある訳ではないからな~。でも少しだけお土産に持たせることにした。渡す時に借りが増えたなって言ってやったら、ウッって表情をしていたよ。

 これで今関わっている全てが、ほぼきりが付いた感じだろうか? まあ忘れていなければだけれどね。

 しばらくはのんびりとした日常が味わえるといいな~


 のんびりとした冒険をして来た後なので学校に一度顔を見せ、特に急ぎになりそうな事件などが無いことを確認する。まあ、ついでにハウラスの性格を矯正するよう、各教師に指示を出しておくのを忘れない。

 勇者の心構えとか、そういうのをちゃんと叩き込むように言っておけば、こっちは問題ないだろう。

 思いの他、レイシアと久しぶりに行った冒険が楽しかったので、次の冒険を企画しているので、余計な事はなるべく終わらせておきたかった。

 まあこの企画自体も、レイシアには確認も取っていないから、ちゃんと話しておかないと駄目だろうけれどね。

 今のところ行きたいなって思っているのは、僕も経験集めになる秘境探検って所かな。

 最近はこまごまとした仕事ばかりをしていたので、全然経験を溜めていなかったので、そろそろレイシアに追いつかれそうな気がする。そう思っての秘境探検でもある。

 まあちょうどいい経験になりそうな敵は、いないかもしれないのだけれど、何が待っているのかわからないのが冒険の醍醐味だよね~

 「レイシア、今度は、秘境探検にでもいかないか?」

 「いいよ! どこに行くの?」

 話してみると即答だった・・・・・・レイシアも、一緒に行った冒険が楽しかったのかもしれないな。

 「まだ決めていないのだけれど、いっその事まだ行った事のない国とかで考えている。僕もここらで経験集めしておこうかなって思ってね」

 「ふ~ん。それでいつ頃行く予定なの?」

 「モロモロ予定はまだ立てていないかな。これから場所を決めて、準備ができたら行きたいって感じ」

 「わかった、決まったら教えてね」

 「レイシアの希望みたいなものは、何かないのか?」

 「私は特にないかな。一緒に行ければどこでもいいよ」

 「じゃあ、決まったら声をかけるよ」

 「うん!」

 司書のパペットに情報を聞いて、行き先を選ぶことにした。

 経験を集める為に強い敵がいそうな秘境を選んで、場所などを調べているとそれだけで今日が終わってしまったので、レイシアには明日の出発だと連絡を入れておいた。

 まあそのおかげで、明日は転移して直ぐに現地へと移動できるようになったのだけれどね。


 翌日早速現地に飛んで、僕達は探索を始めた。

 マッピングシートを使い、ジャングルみたいなところを探索していると、早速遺跡らしき物を発見。周りの足跡などを確認すると、人やモンスターが行き来した跡は見られないことがわかった。

 「この出入り口は、使われていないみたいだね」

 「何かしらのモンスターは、いるって話なのだけれどね。別のところにも出入り口があるのかもしれないな」

 「もう少し探してみる?」

 「とりあえず遺跡に入ってみて、不都合がありそうなら、他を探しに行ってみよう」

 「わかった」

 簡単なやり取りをした後、僕達は目の前の遺跡に潜って行くことにした。

 砂埃ばかりの遺跡をグルグルと回り、部屋などを全部回ったのだがもうずっと前から使われた形跡も、何か生き物がいた形跡も発見できずに、大きな黒い扉のある場所にまで辿り着く。

 これまで罠や鍵はどこにもなく、せいぜい仕掛けで開く扉とかがあるだけだった。

 黒い扉は、状態がよく錆びも浮かんでいない綺麗な状態だったので、この先からが本番かなと思わせる雰囲気があった。

 アルタクスが、扉の仕掛けを外す準備ができたと合図をして来るのに合わせて、僕達も気合を入れ直して突入の準備をする。そして扉が開くとなるべく音を立てないように、中へと入って行った。

 そこは、綺麗に掃除もされているわりと広めの部屋だった。

 「いやはや、ここに人間・・・・・・いや同類か? とにかく客が来るのはいつ振りだろうか・・・・・・」

 一目で人外の生き物だとわかる。しかも禍々しい気配をまとっていてどう考えても味方、仲間になるような相手ではない存在だとわかってしまう、そんな魔族がそこにいた。

 ちょっとやばそうな感じがするので、敵対すると仮定して相手のステータスを確認してみる。

 魔人、LVは八十一。ランクで行けばほぼ同格の存在、ただ種族で僕よりは劣るとわかる存在。いくら種族に神が付いていたとしても、長い時を生きて来たと思える存在相手に、絶対に勝てるとは言いきれない。

 「君のような存在が、この遺跡にいるとは思ってもいなかった。僕らはこのまま帰らせてもらうよ」

 やばい雰囲気を感じて、早々に撤退しようと考えたのだけれど・・・・・・

 「久しぶりの客なのだ、会って早々帰ろうなんて言わないでくれよ」

 どうやら逃がす気はないらしい、戦闘準備に構えて見せた。苦戦するのだろうがここは戦うしかなさそうだった。

 レイシアになるべく離れるように指示をする。

 「なるべくなら、戦いたくはないのだけれどな」

 「ふむ、人間となんか何故つるんでいるのかと思えば、呼び出されるなどして使役されている格下の魔族だったか」

 うん? こいつは自分に絶対の自信があって、こっちをたいした事ないとか見下している感じかな? それならまだ、勝機が無くなった訳ではなさそうだな。

 「敵対する意思はないので、帰らせてはもらえないかな?」

 「ここに踏み込んだ人間を、生きて帰らせる訳がないだろう?」

 やっぱり交渉は無理と、ならば戦うしかなさそうだな。最終確認を終えた僕は、日本刀を呼び出して居合いの構えをする。

 「ふむ、君は助けてあげてもよかったのだが、まあ大人しく死ぬといい」

 魔族はそう言うと、恐ろしいスピードでこちらに迫った。

 反射的に放った居合い斬りを、寸前で回避してのける。

 苦戦しそうだという予想は確信に変わった。調査スキルにより周辺の把握をしながら、無詠唱魔法の爆裂で目くらましをして同時に攻撃も仕掛けた。

 爆裂の魔法をことごとくかわす魔族に、自分の爆裂の中に突入する形の居合い斬りを叩き込む。

 「ほう、中々いい動きをするじゃないか」

 しかし、武器を使わせる事はできたのだけれど、あっさりと防がれてしまったようだ。

 それならば、目の前にレーザーで作られた網を展開、相手に対してそれを放った。

 部屋一杯に作ったので、これならば回避はできまい。

 「中々に面白い攻撃ではあるが、私には効かんよ」

 そういう声の終わり部分が、背後から聞こえた。

 「バグ!」

 レイシアが後ろから悲鳴に似た声を上げていたのがわかる。

 相手の位置を調査のスキルで正確に把握していたので、そこにビームでできた刀の居合いを回転しながら叩き込む。

 今まで持っていた刀が、内側から溶かされるようにして出現したビームの刃で、初めて魔族にダメージが入った。

 魔族の腹部辺りに深々と切込みが入っている。

 どうやら一応はこちらの攻撃に反応できていたらしく、武器で防ごうとしたようだったけれど、さすがにビームを防ぐ程の業物ではなかったようだ。攻撃を受けようとしていた大剣の真ん中辺りから先が、切り落とされて床に落ちていた。


 グハッ


 こいつは素早い魔族、ここで一気に畳み掛けないとやばいと考え、さらに攻撃を仕掛けることにした。

 無詠唱による、カマイタチのビームを全方位に発射する。部屋の隅にはレイシアもいるので、このビームは全方位にばら撒かれた後、僕の意思によって誘導できるようにした。

 この魔族も、転移魔法が使えるようだったので、その為の対策も兼ねての攻撃。

 予想していた通り、魔族は消えたと思った瞬間、レイシアの直ぐ後ろへと出現していた。

 おそらくはレイシアを傷付ける訳がないと計算して、安全地帯と判断したのだろう。

 誘導されたカマイタチがそこに殺到した。ちなみに、レイシアが展開していた拠点魔法陣は、魔人が侵入した為に砕かれていた。

 魔人に吸い込まれるようにカマイタチの攻撃が当たっている間に、レイシアと位置を入れ替えるように彼女を守ると、やはり次の策というのかついでというのか、レイシアを攻撃しようとしていた相手の魔法がこちらに向かって撃ち込まれていた。それに精神を活性化させることで抵抗する。

 シールドなどを展開する余裕が無かった為に、せいぜいレイシアと位置を入れ替えて、割り込むことしか出来なかったからだ。


 グゥ


 さすがに同格の魔人、攻撃の威力がかなり高くて僕の魔法抵抗でもそれなりのダメージを受ける事になった。それでもまだ、痛いで済んだ事にホッとする。

 「お前この強さで何故、そんな人間に使われている・・・・・・」

 まだ死んでいなかったか!

 魔族から距離を取って、そちらの様子を窺った。レイシアは、下手に離れると逆に危ないと思い、腕の中に抱いたままにしている。

 「別に、使役されている訳ではない、自分の意思で行動している」

 「そうか、惜しいな」

 そういった瞬間、その魔族の目が妖しく光ったように感じた。

 警戒していた僕は、相手を囲い込むように無属性で作った結界の中に閉じ込めて、魔族の自爆攻撃の威力を封じ込めることに成功する。結界は魔族が死んだ後にひび割れが酷く、砕け散ったみたいだった。


 「何とかギリギリで防ぎきれたみたいだな」

 「強かったね、バグと同じくらい強いモンスターは初めて見たよ」

 「ここは危険過ぎるな。レイシアは撤退した方がいいかもしれない」

 「嫌! 私も戦いたい。さっきみたいな敵は無理でも、取り巻きなら何とか戦えると思う!」

 睨むようにこちらを見て来た。そうだな、まずは情報を集めてそれから判断しよう。

 のんびりとした遊びの冒険をやめて、ここら一帯を調査のスキルで調べ上げる。

 そうすると後二体、さっきの魔族並に強い奴がいるのがわかった。他にも魔族はいるものの、そっちならレイシアも一緒に戦えると判断したが、やはりこの二体だけは先に倒しておかないと危険過ぎる。

 「じゃあ、さっきの奴ぐらい強いのが後二体いるから、それを倒して来たら一緒に来てもいいよ」

 「わかった、ここで部屋の中を調べて待っているわ」

 「うん、じゃあ行って来る」

 「気を付けてね」

 そう言うと、転移でまず手短なやつの方へと跳んだ。


 「君は、妙に人間臭い魔族ですね。誰かに召喚でもされましたか?」

 いきなり転移して来た僕に、少ししか驚かないでそう話しかけて来た。

 やはりこいつも強そうだな。

 一見、紳士的な話し方をするまともそうな奴に見えるが、外見がもう人間の敵って感じの異様な化け物だった。蛸のように触手を一杯生やしており、ぬるぬるとした体をしている。レイシアを連れて来なくてよかったと思ったよ。

 まあ、多分日本の女子のように怖がったりはしないのかもしれないのだけれど、ついついそう考えてしまう。

 「いや味方はしているが、れっきとした自由意志でそうしているよ」

 「なるほど。では我々の敵ということで、行きますよ!」

 律儀にそう宣言して、十本くらいある触手の先に、それぞれ違う魔法の輝きを光らせて襲い掛かって来たよ。

 さっきの奴が魔法戦士っぽい奴なら、こっちの奴は完全に魔法使いって感じの敵だな。そう思いつつも、無属性のシールドを複数展開する。

 だがその展開したシールドが、五つ程あったにもかかわらず、全部砕け散ったのには驚いた。


 グアア


 見通しが甘かったツケが、全身に与えられた激痛で思い知らされる。魔法戦で僕を越えて来た!

 お返しにビームを放って一度距離を取る。僕の放ったビームは、敵の作り出したシールドを十枚程貫通して、奴の体にわずかな傷を付けていた。

 「ほう少々舐めていたようですね、これ程の魔法力を持っている相手は、魔王様をおいて、他に見た事がありません」

 「魔王だと!」

 傷付いた体を癒しながら驚いてそう聞き返した。会話の間に、傷を癒しておかなければ満足に戦えそうにない。現代っ子だから痛みに弱いのだろう・・・・・・痛みで今一集中し切れない。

 「まあ昔の話ですよ。傷を全快されては厄介ですので、無駄話はここまでにして続けましょう」

 チッ、早々上手いこといかないものだな。

 再び魔法を一杯撃ち込んで来るのに対して、合成魔法の防衛要塞を起動。

 周囲を、透明な現代要塞が取り囲んだ。

 これにより、魔法ダメージを何とか防いでヒールオールの回復魔法でダメージ回復を終わらせる。魔法合戦では、勝ち目が薄そうなので、接近戦に打って出た。

 ビームで作られた日本刀を持って、相手の背後に転移して、居合い斬りを放つ。

 後ろに回ったつもりなのだけれどそこにも目があって、完全な不意を突けなかったけれど、居合いのダメージを少し入れることが出来た。

 その代わりに攻撃後に魔法攻撃をもらってしまったので、結果は相打ちになる。

 傷を癒すと、相手も自分を回復して、また魔法を使って来る。厄介だな。

 ビームのカマイタチを全方向に発動してそれを時間差でもって相手に誘導してぶつける。それも、牽制の時に放ったビームと同じ威力を持たせたので、相手はさすがにシールドを使いながら回避行動を取っていた。

 完全にはしとめられそうになかったので、カマイタチの誘導終了と同時にビームの網を相手の回りに展開し、それによって相手を切り刻む。

 転移魔法を使って来るかと身構えていたのだけれど、こいつはどうやら使えなかったようで、シールドで防ぎきれずに細切れにされて動かなくなった。

 一応念の為に調査によって復活して来ないか、再生して来ないかなどいろいろと調べてみたのだけれど、大丈夫そうだったので一息付いた。

 さすがにこのランクの敵は油断できないな。

 この世界に転生して、初めての大ダメージだったんじゃないかな?

 スキルに完全回復を持っていたけれど、痛みが和らぐまでに少しなりとも時間がかかるだけのダメージが来たのは、初めてだったので、正直危なかったよ。

 さて、あまりのんびりともしていられないので、残りの一体のところへと転移で向うことにした。


 「何やら騒がしいと思っていたら、虫が入り込んでいたようだな」

 転移して目の前に現れても、驚きもしない。さすがにこのランクの敵は早々隙も見せないね。

 次のお相手は、鉄鉱石で出来ているのではって感じのごつごつした肌を持った、ゴーレムに近いリザードマンって姿だった。

 「あんたも倒させてもらうよ」

 「ということは、あいつらはやられたって事か、情けない。まあ俺が仇を討ってやろう」

 そう言うと、体を反転して尻尾で殴りかかって来た。それを転移でかわすと共に相手の懐に入り込んで、ビームの居合い斬りを叩き込むけれど・・・・・・斬れない!

 表面を溶かすことはできたのだけれど、ダメージらしいものは与えることが出来なかった。

 こいつは完全に戦士系の敵だな、問題はこいつの防御力をどうにかしないと、倒せないってところだけれど。どうしたものかな・・・・・・

 ビームが効かないので、他の魔法も駄目だろうけれど、一応念の為にいろいろな魔法をぶつけてみる。予想通りというのか、一番攻撃が効いたと思えるのはビームだった。それが、表面を少しだけ溶かした程度って一体・・・・・・

 「くくくっ。俺にそんなちんけな魔法は効かぬよ」

 それならば、削岩機の構造を魔法的に作り出してそれを合成魔法によって、再現する。いい名前が思いつかないので削岩魔法、まんま過ぎる名前だけれどこいつで攻撃を仕掛けた。


 ガガガガッ


 すさまじい振動と轟音を響かせて、魔族の体を削って行く。魔族が慌てたようにその場から移動して、こちらと距離を取った。

 魔法の当たった場所周辺が、ごっそりと削られていた。よし、これならば攻撃が通用するようだ。

 「チッ、なんていう魔法を使いやがる。俺様の肌がボロボロじゃねえか」

 勝機を見付けたので、転移魔法で飛び回りながら、魔族の体をどんどん削っていく。

 その間、魔族が五メートルはありそうな巨大な棍棒を振り回していたけれど、転移魔法の動きには付いて来られないようで、どんどん体が痩せ細っていった。おそらくこいつはその高い防御力にものをいわせて、攻撃を叩き込んでいたのだろうな。こちらの動きに全然付いて来られていないようだ。

 それにしてもこの削れた鉱石、後で何かで使えるかもしれないな。

 そんな事を考えながら相手が倒れるまで飛び回り続ける。

 結局この魔族の体は、核になる部分で動いていたらしく、ゴーレムの魔人とでもいう感じの魔族だったみたいで、体全体が堅い鉱石でできているようだった。

 いい素材が入ったので、核を壊した後で鉱石を拠点へと送り込んでおいた。


 最初に入って来た部屋に戻ると、レイシアが飛び付いて来る。

 「無事でよかった」

 「ああ、心配させたみたいだな。悪い」

 まあ、敵地で一人は心細いだろうね。

 どうも魔王とか言っていたので、ここは魔王城の可能性があるし・・・・・・

 「倒して来た奴らが口にしたのだけれど、どうもあいつら魔王の配下みたいだった。だからここは危険かもしれない」

 「魔王も倒したの?」

 「いや、今のところそれらしい反応はまだないな。あいつらの強さから見て四天王とか、その下の配下の可能性があるかもしれないな」

 「じゃあここは、人間界を攻略する為の魔王軍の砦か魔王城?」

 「その可能性はあると思う」

 「じゃあ、魔王が来る前に撤退かな?」

 「それが一番いいと思う」

 意見もまとまったので、僕達は撤退することにしたのだけれど・・・・・・


 「ここは、魔王城ではあるけれどそれは昔の話だよ」

 背後に気配もなくそいつは現れていた。

 調査のスキルでも、時間が止まった後でやっとその存在に気が付けたくらいで、完全に隙を突かれた感じだった。横には、動きの止まったレイシアがいる中で、僕と奴だけがこの世界で動いていた。

 そいつの方に振り向くと、以前魔王の配下と名乗った、今でも勝てないと感じさせられる黒い鎧の男がいた。

 「返事を聞きに来たのか?」

 「まあ、それもあるかな。どちらかといえばついでともいえる。まずはこちらの用件を伝えておこうかな。この城に残っている魔族を掃除して欲しい」

 「確か、お前は魔王の配下だったのではなかったかな? 何故味方を倒そうとする?」

 「簡単な事だよ、味方じゃないからだ。現在、魔王の配下は僕しかいないのだよ。前にも言ったと思うけれど、騙まし討ちで殺されてしまったからね。それとここの魔王は、僕の魔王様の敵だった存在でね。魔界に帰れなくてここに閉じ込められてしまったただの生き残りでしかない。変に動き回らないうちに、掃除してしまった方がこちらにも都合がいいのさ」

 「それを僕にやれと?」

 「経験稼ぎに来たのだろう? 丁度いいと思うけれどね」

 確かに、ボスランクの敵は排除したものの、まだいる魔族達も相当に強いから、僕にとってもいい経験値にはなるだろう。

 「まあ、確かにな」

 「さて、せっかく会ったのだし、返事を聞いてもいいかな?」

 「僕が魔王軍に入ったら、レイシアと敵対することになるのだろう? だったら答えはノーだ」

 僕の答えに、何故だか微妙に何言っているのだって感じの気配が伝わって来た。人間っぽいしぐさで首をかしげている。

 「うん? 別に望むのなら一緒に来ても問題はないよ」

 「は? レイシアは、人間だぞ?」

 「魔王様も、元は人間さ。だから問題はない」

 「魔王様が人間? どういうことだ?」

 詳しい話を聞かなければいけない気がした。

 「もし魔王の配下になるとして、僕に何をさせたいのだ?」

 「基本的には、魔王様の護衛だね。後は、いずれ現れる勇者様に倒されるのが魔王軍の役目だ。まあ、人間を襲うことも当然、魔王軍だからあるけれどね」

 「勇者に負けるのが、決まっているのか?」

 「ああ、君にわかりやすく言えば運命だね。これは運命で決まっていることなんだ。もちろん魔王様もこの運命を知った上で、魔王になったよ」

 「自分で、選んで魔王になったってことか?」

 「ああ、彼には人間を導く役目があって、その役目の果てに勇者にやられる運命が待っているのだよ」

 「最初から、詳しく説明してくれないか?」


 それで聞き出した内容は、大体こんな感じだった。

 魔王軍には役目があって、人間同士が争い腐敗し始めた時に世界に現れて、人類共通の敵となることで人々の心をまとめあげる。

 負の感情が行き過ぎた人間を、異形へと変えて世界から間引きしつつ、人間同士が争っている場合ではないと自分達で判断ように仕向けて、最終的には全ての元凶としてやられるのが魔王の役目なのだそうだ。

 そして魔王の配下はそれを支えたり、必要であるならば人間を間引く役目があるそうだ。

 まあ勇者次第では、魔王の配下は見逃されることもあるそうなので、絶対に死ぬとは限らないのだけれど、勇者がそれを許すことはほぼないだろうって言う話だった。

 そんな訳で、別に無理にレイシアと分かれて、敵対しろって話ではないのだそうだ。

 望むのならば一緒に魔王軍に入ることも、魔王軍には入らないけれど近くにいるということもできるのだそうだ。

 はあ~。結構魔王軍って、ゆるいのだな・・・・・・

 「ちなみに、レイシアと相談するのはありか?」

 「そうだね、勝手に決められないってことなら、相談してもいいよ」

 「じゃあ、相談させてくれ」


 時間が動き出して、近くに鎧の人がいるのを見てびっくりしているレイシアに、今の状況を説明した。

 「一緒に行きたい。バグが行くなら魔王軍でもいいよ」

 そう言うレイシアの答えに、結局は僕次第かと思う。

 正直なところモンスターになる前から、人間っていうものに少し嫌気はさしていたのだ。

 ただ、今の環境に不満は少なくて判断ができないことも関係している。結構仲良くなった奴だっているのだよね・・・・・・ブレンダとかさ。

 「魔王軍に入るのって、今直ぐか?」

 「いや、今は君達ががんばったおかげで少し平和になってね、しばらくはこのままでいいかって感じになっているよ」

 「じゃあ魔王軍に入っても、しばらくはこのまま生活しても構わないってことかな?」

 「うん、それでもいいよ。君達が魔王軍に来たいのなら直ぐに来ても構わないし、まだ人間達と暮らしたいのならお声がかかるまでは好きにしているといい」

 「そういうことなら、受けてもいいかな」

 「じゃあ、私も!」

 「それならいずれ君達には魔王軍で働いてもらう。魔王様から声がかかるまで、好きに暮らすといい」

 そう言うと、その男は目の前から消えていなくなっていた・・・・・・


 その後、他の脅威がなくなった遺跡で、経験稼ぎを兼ねた探索をすることにした僕に、レイシアは聞いて来た。

 「結局バグは、何で魔王軍に入ったの? メリットがあった?」

 「正直、メリットはないな。でも、魔王こそがこの世界で本当の平和を造っているっていうのは、僕的にはポイントが高いかな。まあ、ひねくれた考え方なのだけれどね」

 その後、僕達は遺跡を隅々まで調べて回って、資料になりそうな物を根こそぎ拠点へと送り、持ち出せそうにないものは、カメラで撮影して帰ることにした。


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