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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第十章  新設、王立冒険者養成学校
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体育祭

 今日もレイシアは、ダンジョンへと出かける。

 以前より気にはなっていたので、ちょっと聞いてみることにした。

 「レイシアは、そんなに力を求めて、どうしたいのだ?」

 「もっと強くなって、バグの隣にいたい」

 隣って、いつもいるように思えたのだが、ようは僕並に強くなりたいって事なのだろうな。

 「僕の強さは進化したやつだからそれを抜きで考えれば、もう十分過ぎる程レイシアは強いと思うのだけれどな~」

 そう言っても、レイシアは納得できなそうだった。なので、まあ好きなようにさせておこう。満足できないというのなら、満足できるまでがんばるのがいいと考える。怠けるより余程健全でいいだろうしね。

 さて、では僕は学校へでも行きますかね。

 そしてこの日も、多くの生徒が授業を受けたいと言って来て、その対応などに追われることとなった。

 それにしても他の先生の授業は、そんなに強くなれないのかな?

 一体どういう授業をしているのだろう?

 明日辺り、他の教室でも覗いてみるかと思いつつ、その日は過ぎて行った。


 翌日、早速僕は他の授業風景を覗く為に、冒険者科の教室の一つへと顔を出した。そして漂う緊張感・・・・・・

 えー、この教室で漂う緊張感はなんだ・・・・・・

 「あー、他の教師がどのような授業をしているのか気になっただけなので、いつも通り授業をしてくれ」

 「大丈夫です、いつも通りです!」

 緊張をほぐそうとしたのだけれど、これがいつも通りなの?

 教師だけではなくて、生徒まで緊張しているのが凄く気になったよ。

 その他の教室にも顔を見せてみると、やたらこちらに対抗意識を向けて来る教師がいたり、いちいち間違っていないか確認して来る教師がいたりさまざまだった。

 でも実践派の僕に対して、基礎を座学で説明するだけの教室がほとんどかなって思ったよ。間違いとは言わないけれど、もう少し体を動かしてもいいかなって思えるね。

 そんな風に過ごしていると、久しぶりに王子の方から声をかけられた。

 「あー、バグ。今度クラス対抗の模擬戦をすることになった。ついては、君のクラスにも参加して欲しいとの要望が、教師や生徒達から上がっているのだが・・・・・・どうだろうか?」

 「今の僕のクラスには、生徒はいないぞ?」

 「過去に、君のクラスで学んだ子などどうだろうか?」

 「クラス対抗が決まる前からそういう打診をしていたのならわかるが、このタイミングだと戦力を引き抜くことになるからまずいだろう」

 「やはり難しいか」

 「そうだな・・・・・・配下の者を連れて来るのはどうだ?」

 「ヴァルキリーかね?」

 王子はまだ別人とかと疑っているのか?

 「いや、スライム辺りでも呼んでみるとか」

 「まあ参加してもらえるのなら、何でもいいよ」

 「そうか、じゃあ何かしら考えておこう。ただ、負けたりしても落ち込まないかな?」

 「人生に挫折はつきものだよ」

 何かその台詞には実感がこもっていて、肯定しにくいな・・・・・・

 「はあ、まあ了解した」


 学校が終わり拠点に帰った僕は、早速クラス対抗に向けての眷族を創ることにした。

 パーティーでの参加になるってことだから、まずは六匹のスライムを創るとして、それぞれに役目を与える事としよう。

 LVはそこまで高くなくていいので、それぞれのクラス平均辺りでいいか。

 前衛として盾役とアタッカーは、まずは基本だな。それから盗賊と狩人、後衛で魔法使いと神官が、パーティーバランスの取れたいいパーティーだろう。

 早速創造したスライム達に、連携訓練を施して行く。ただでさえ、スライムという最弱の部類のモンスターなのだから、しっかりとした戦い方を教え込む。

 まあ実際、言われるまでもなく連携して見せたのでかなり安心できたのだけれどね。

 前に出会った野生のスライムは、本当に最弱だったよな。

 知能があるかどうかで、かなり強さは変わって来るようだった。その点で行けば僕の創ったスライム達は、この世界の一般人よりも知能が高そうだ。

 これなら、それなりの戦いをしてくれるからみんな満足できると思う。


 数日後、クラス対抗戦の日。

 僕はレイシアに手伝ってもらって、スライムを会場へと運び込んだ。

 会場はまあ学校のグランドになるのだけれど、そこにクラス毎の陣地があり全校生徒が集合していた。まあ、普通に体育祭だな。

 内容は穏便なものではなく、戦士同士の戦いとか魔法師同士の戦いなど、現代の学校の楽しそうな種目は一切無いけれどもね。冒険者の学校らしくはあるかな。

 他のクラスは全員が、どれか一種目には必ず参加しなくてはならず、一応全員で楽しむ対抗戦にはなっている。負けた生徒が後々いじめられなければいいのだけれどね。

 そうこうしていると、僕のクラスに順番が回って来たようだった。

 最初の出番は戦士の競技で、まあ普通に一対一で戦うようだ。

 僕は戦士スライムを会場まで運んで行った。うちのクラスのスライムには戦士が二匹いるので、ここは相手が盾を持っていることを考え、アタッカーのスライムを送り出すことにする。

 「それでは、はじめ!」

 開始の合図に、スライムが前進を開始する。

 スライムの移動は、ミノムシのようなとてもじわじわとした動きでじれったくなるような移動速度だった。

 相手生徒も焦れたのと、スライム相手に警戒し過ぎだと思ったことで、思いっきり前に出て来た。

 盾を構えて一気に突撃を仕掛ける、シールドバッシュという攻撃だった。

 それに対してスライムは、盾に向かって飛び付いてそこを足場に、触手により鎧の隙間を狙った突き刺し攻撃をおこなっていった。

 対戦相手はまともに当たって盾や剣を取り落として、腹を押さえて床に転がった。

 「そこまで、勝者、バグクラス!」

 ざわざわと外野から生徒達の話す声が聞こえる。大方スライムなのに強いとか、スライムの生態の話とか攻略方法でも話し合っているのだろうな。

 「大丈夫か?」

 僕は床に転がっている生徒を引っ張り起こしながらそう声をかけた。

 「はい、何とか。所詮はスライムって、侮ってしまいました」

 「まあ、盾で前をよく見ていなかったのも敗因だな。相手の姿を見失うのは、致命的な隙を生むからな」

 「なるほど、確かに相手を見ないで突っ込んでしまいました。指摘ありがとうございます」

 「ああ、がんばれ」

 僕は生徒と別れて、席へと戻る。


 「この子達のレベルって、彼らと同じくらいなの?」

 席に着くと、レイシアがそう聞いて来た。

 「今の相手で行くと、相手の方がLVは高かったな。クラスの平均くらいのLVで創ったからな」

 「じゃあ、勝敗は戦い方ってところなのね」

 「実際の話し、LVが一・二個の違いなんてほとんど差が出るものでもないさ」

 「そうだよね」

 「実力が拮抗しているのなら油断は命取り、工夫されたらあっさりやられるなんて事も珍しくない。LVなんて目安にはなるけれど、それが全てじゃないから気にすることもないさ」

 ゲームとかになると、物によってはLVが高いと攻撃が効かなくなるものもあるのだけれどね。こっちの世界では、普通にLVが十個離れていても痛いものは痛いのだ。


 次に順番がやって来た競技は、二対二の戦闘で組み合わせは、クラス次第というものだった。

 「二対二か、なら一匹は盾かな」

 「じゃあ、ここは魔法使いを出してもいい?」

 「ああ、それで行ってみるか」

 僕とレイシアはそれぞれスライムを持って、舞台へと向った。

 さすがに、先のスライムの戦いを見ていたらしく、対戦相手には油断がなさそうだな。

 僕達は会場にスライムを乗せて邪魔にならない所まで下がる。それを見て進行役の先生が合図を送る。

 「試合、開始!」

 今回の対戦相手は、こちらと同じで戦士と魔法使いみたいだった。ただ相手の戦士は大剣という、両手剣を装備しているからアタッカーだな。魔法使いも合わせて、火力で押すチーム構成だと思われる。

 「燃え尽きろ、ファイアアロー」

 先制攻撃は、相手の魔法使いからの火の矢だった。それに対して盾役のスライムの対応は、体内の水分を魔法にぶつけるという行動だった。魔法の火は、それにより鎮火する。

 そして、お返しとばかりに火の矢が、スライムの魔法使いから相手の魔法使いへと放たれる。

 「熱っ!」

 お互いにLVが低いので、そこまでのダメージにはならなかったが、スライムが魔法を使うことに相手は動揺した。そこに盾スライムが飛び跳ねながら前進を開始する。

 「くっ、援護しろ!」

 相手の戦士がスライムめがけて斬りかかる。その攻撃を、盾のスライムは体表面でぬるりと滑らせて受け流した。

 「ちっ」

 そして、大振りに終わった相手戦士に向けて、火の矢が飛ぶ。

 相手魔法使いが、その魔法を相殺しようと魔法を使った。

 「飛沫よ凍れ、フリーズブリッド」

 そしてその魔法が火の矢に届く前に盾スライムが体の一部を切り離して、氷の礫を妨害することによって、相手戦士が魔法を食らうこととなった。

 その後も盾スライムが、剣と魔法を無力化して、魔法スライムがダメージを蓄積して行き、とうとう相手は疲れ果てて座り込んだ。

 「勝者、バグクラス」

 僕達は、意外とがんばった相手生徒を励まして、席に戻って来る。

 「今の戦いは、結構粘られたから少し回復させようか」

 「ええ、いい勝負だったね」

 僕らはそう言い合うと、スライムに体力を回復させるべく食事を与えた。

 これでしばらくすれば、HPもSPも回復するだろう。

 内のクラスはこの六匹しかいないので、まめに回復しなければ体力が持たない。


 その後の一対一と、二対二の戦いが続き、スライムは順調に勝ち進んでいた。

 その中で、ステータスを見てみて、こいつらのLVが上がっていたりするのがわかった。ゲームならPVP、・・・・・・対人戦で経験値を稼ぐことはないのだが、この世界では経験を稼ぐことが可能なのか! いい事を知ったな~

 そして、盾スライムに新たなスキルが付いていたりしたのでその指導もしていく。

 「バグ、成績表を見て来たよ。予想通り、内のクラスが一番らしい」

 「まあ、今のところ負け無しだから、わかりきっていたけれどね。それにしてもこれって学校として、問題ない結果なのかな?」 

 「さあ? どっちにしても出てくれって頼んで来たのは、学校側からだから文句は言われないと思うけれど・・・・・・」

 「教師のひがみとかは、あるかもしれないな」

 「とりあえず、ご飯買って来たわ」

 「ありがとう。これを食べて体力を回復しろよ~」

 レイシアが買ってきた食事をスライム達に与えて、HP・SPの回復をさせる。

 連戦はやっぱりきついな。

 LVが高ければ、もう少しHPとSPが高くなって連戦も平気になるのだけれど、こいつらのLVはまだ生徒達より劣るくらいしかないので、消耗が激しいのだ。

 「もういっそ、回復薬とか作ってもらって、それで回復させるか?」

 「そうしたいところよね。私の力を使っちゃうので、対等って感じはなくなっちゃうけれど」

 「実際のところはモンスターだから、全然対等の条件じゃないのだけれどね・・・・・・」

 「ほんとは、こっちが連敗してもおかしくないくらいだよね。ちょっと不思議だわ」

 「気合が足りないんじゃないか?」

 「知恵が足りないのよ」

 「まあこいつら、野良スライムとの違いは、ほとんど知恵だけだからな」

 「知恵を付ければ、最弱から最強って怖いね」

 「確かに、知恵を上げるポーションでもばら撒いたら、人類が滅ぶな」

 僕達はそんな事を話しながら、スライム達の面倒を見ていた。


 クラス対抗は今三対三と、四対四が行われている最中である。そんな中、一人の女子生徒が内の陣地へとやって来た。

 「先生!」

 「うん? どうかしたか?」

 「どうして私達は、スライムに勝てないのですか? そのスライム達は、私達が勝てないくらい強いのですか?」

 どうやら全然勝てないので、勝てない相手を連れて来たと思われているようだな。

 「強さ的に言えば、こいつらはお前らのクラス内で平均くらいの力しかないぞ。だから本来なら、連敗してもおかしくはないのだけれどな」

 「じゃあ、何で勝てないのですか?」

 「うーん。戦いにひねりがないからじゃないのか?」

 「ひねりですか?」

 「見ていた感じ全員が力押しで、フェイントみたいな変わった戦い方をしている生徒を、一人も見かけないからな」

 「ふむ、ひねりか・・・・・・先生ありがとう!」

 「おう、がんばれよ~」

 元気よく自分の陣地へと帰って行く女子生徒を見送った。

 そして案の定、さっきの少女が、三対三の試合に出て来ていた。ひょっとして苦戦するかな?

 「試合開始!」

 今回僕達が対戦に出したのは、アタッカーの戦士と神官と狩人だった。さっきの少女は、さっき力押しばかりと言ったのにも関わらず戦士に突撃していた。

 早々変わることはないかと思っていたら、剣で攻撃して受け流しているところへ、左手に隠し持っていた槍でスライム戦士に攻撃を仕掛けていた。

 おー、スライムが受け流せずに、ダメージを受けている。

 まあ、その後で直ぐに回復が飛んで来ていたけれどね。

 その後もがんがん押してはいるのだけれど、チームメイトの二人が狩人の攻撃を受けて、神官を止める事ができずに、戦士を削りきることが出来ない。

 それでもがんばった少女は最後に意地を見せて、神官のSPが尽きスライム戦士と相打ちになっていた。チームメイトは結局狩人の攻撃の前にやられて、負けてしまった。

 実質的には、スライム二匹を倒せたって事で、少女はかなりがんばった方だろう。

 初めてスライムに競り勝てたとして、みんなからよくやったと声をかけられていた。まあそれはいいが、こっちは回復作業がとても大変だったよ・・・・・・

 露店を巡ってご飯を買って来て、スライム達に食べさせて、次の順番が来るまでに体調を戻さなければいけない。

 結局今回の対戦で圧倒的に勝ち進みはしたのだけれど、スライムの面倒ばかり見ていた印象しか残らない、そんな体育祭だった。


 疲れたので、しばらくは学校に行きたくないと、僕達はダンジョンに連れ立って篭ったよ。

 ダンジョンから帰って来て、この間からがんばっていたので、レイシアのステータスを確認しておくことにする。


 名前 レイシア  種族 ヒューマン  職業 魂術師-魔導師

 LV 69-73  HP 487-513  SP 905-961

 力 43  耐久力 38-40  敏捷 68-71

  器用度 77-78  知力 152-158  精神 130-133

 属性 火 水 土 風 光 闇 生命

 スキル 錬金術 無詠唱 指揮官 万能召喚 調理 上位変換(無生物) 進化 拠点魔法陣 意思疎通 亜空間 待機魔法 強化 アルファントの加護 察知(生物) 嘘発見 植物操作 バグの加護(全能力強化) 罠察知 祝福


 名前 アルタクス  種族 ハンタースライム-アサシンスライム  年齢 0-1  職業 盗賊-暗殺者

 LV 49-57  HP 409-486  SP 191-216

 力 116-154  耐久力 117-131  敏捷 25-87

  器用度 191-273  知力 46-50  精神 41-48

 属性 水 土 風 闇 生命

 スキル 捕食 腐敗 肉体変化 分裂 自動回復 状態耐性 接近 窒息 張付き 強酸 鍵開け 罠感知 罠解除 罠設置 爆薬化 追跡 狙撃 偽装 触手槍 影渡り 潜伏 強襲


 レイシアは順調に成長中って感じか、そしてアルタクスは進化しているな。

 アサシンになって、一気に敏捷が上がっている。

 試しに走ってもらうと、スライムがそのまま滑るように床の上を移動していた。

 しかもそのスピードは、人間が全力疾走しているくらいに速い。滑らかな動きなので、幽霊みたいな動きに見えるよ。

 職業暗殺者、攻撃に特化したな。

 ここ最近ダンジョンに潜りっぱなしだったので、そっちに進化しちゃったのかもしれないな。まあ、いざという時に頼りになる相棒となるだろう。


 さて、今日はレイシアも一緒に学校へ行くと、ハウラスのステータスにも変化が見られた。

 属性、聖。そういえば、こいつは属性も空欄だったな。

 属性は、結構空欄だという人も普通に存在していたので、そこまで気にしていなかったのだけれど、普通なら聖属性は、光になるはずだよな。この違いは一体・・・・・・?

 「ハウラス、ちょっと来い」

 「あ、先生おはようございます」

 声をかけると、近くに走って来た。なんだか犬のようだな。

 「お前、今日からしばらく神殿で祈って来い。宗教は気にしないで、とにかくいろいろな神殿で祈りを捧げて来い」

 「はあ、また変わった事をさせますね。いいですけど、わかりました行って来ます」

 そう言うと、街の方へと走って行った。何かしらスキルが増えるとかだといいけれどな。

 さてと今日の僕は教室で、希望者を相手に戦術の講義をしていた。いつものスパルタではなく、今日は教室内での座学である。

 なぜかレイシアも一緒になって、座学を受けていたけれど・・・・・・

 とにかくこの間の対抗戦で、例の少女が戦術みたいなことの重要性を理解したらしく、是非に座学をとお願いされたのだった。そんな授業の最中に、ブレンダから連絡が来た。

 『今いいかしら?』

 「あー悪いな、今学校で座学を教えている」

 『へー、なかなか興味深いわね。まあ忙しそうなので、学校が終わったら連絡頂戴』

 「了解、またな」

 そんなやり取りで少し中断しつつも、生徒達にさまざまな状況による、闘い方とかを説明していった。まあ素人考えなので、凄い戦術などはないのだけれどね。

 そんな感じで、今日は一日中戦術の座学を午前に、午後から実際に動きながら教えていって、学校が終わり拠点に帰った後で、ブレンダに連絡をした。

 「待たせたな。犯罪対策の件か?」

 『ええ写真機自体は凄くいい物だと思うので、犯罪取締りの方をいろいろと検討したわ。それで、この写真機に制限は付けられるかしら?』

 「制限か、使用者の限定、後は使用範囲の限定という感じか?」

 『ええ、そんな感じね。こちらは、使用者の限定しか考えていなかったのだけれど、使用範囲も限定できるの?』

 「そうだな水晶などを配置して、その一定範囲でしか使えないっていうのも出来るな」

 『それいいわね、私の保有するお店がある地域のみ、使えるとかならいいかもしれないわね』

 「じゃあ、そんな感じでとりあえず限定させての販売か?」

 『ええ、その方向で考えているわ。後は実際の犯罪者の対応だけれど、私の家の方から専門のチームを作って、罪を犯した者を捕らえようっという話でまとまったわ』

 「ほー、じゃあこっちは少し改良して、パペットをその対策チームに貸し出せばいいってことだな?」

 『ええ、お願いできるかしら?』

 「まあ、上手く行くかどうかはわからないが、対策チームにはがんばれと言っておいてくれ。手始めにこの写真機、カメラって言うのだが、これは何台売り出す?」

 『カメラか・・・・・・そうね、とりあえず五十台お願いできる?』

 「了解、完成したら納品に行くよ」

 『わかったわ、こちらは焼き付ける紙の方を作らせるわね』

 「ああ、それもあったなすっかり忘れていたよ。じゃあまた今度~」

 『ええ、またね』

 早速カメラの生産を始める。とりあえずデザインを二種類、女性用の可愛い物とかっこいい感じの男性用を造る。

 実際には水晶だけ作って、外見をパペットにお願いしているのだけれどね。

 数日後に、この世界にカメラというものが広がって行く。それを見ながら、犯罪に利用されないようにと祈るだけだった。


 さて祈るといえば、ハウラスはどうなったのだろうか?

 しばらくして、ハウラスを見付けた僕はステータスを確認してみた。ディクラムの加護ってスキルが付いているな。

 「なあレイシア、ディクラムって神様を知っているか?」

 「秩序を司っている神様よ」

 「秩序か、あいつは真っ先に乱していそうだよな・・・・・・」

 そう言いつつも、ハウラスを捕まえて話しかける。

 「お前には、ディクラムの加護があるようだ。今後は、ディクラム教に祈りを捧げるといいぞ」

 「はあ、わかりました」

 「レイシア、回復系の魔法って、直ぐ使えるものか?」

 「どうかな? その神様次第だと思うのだけれど」

 「とりあえず、呪文を教えてやってくれ」

 「うん、わかった」

 レイシアは回復の魔法の使い方をハウラスに教える。

 魔法と違って、神官の力は神様から力を借りて効果を得ている。なので神官の回復は、魔法の呪文を覚えるのとは使い方が違うのだそうだ。そのことを教えていっていた。

 しばらくの間、神への祈りの捧げ方心構えそんな面倒そうなことをやった後、ハウラスは初めての回復魔法を使うことに成功した。

 ステータスを確認してみたが、職業は特に変わっていないな? というか空欄のままだった。

 あれ~?

 回復使えるし加護も受けたから、これで神官になったと思ったのだけれど、何でこんなにイレギュラーばかり何だ?

 相変わらず、困ったチャンのままだな・・・・・・

 まあいいか、これで冒険もしやすくなるだろう。

 僕達は、そこでハウラスと別れた。ハウラスはまたダンジョンに潜るという話らしい。

 ほんとに元気なやつだ。


 その後僕達は学校で座学を教えていた。何か授業をするたびに、生徒が増えていくような気がするがまあいいだろう。

 とりあえず単調な動きをしないで、フェイントなどで揺さぶり攻撃するとか。

 魔法ならただ火の魔法で直接狙うのではなくて、水に打ち込んで水蒸気で視界を妨げるなど、いろいろと状況や地形などを利用するようにと教えていく。

 そんな事を教えているとブレンダの現在位置が、かなり国境近くへと近付いていることに気が付いた。

 通信用に持たせている水晶で、ある程度の位置や周りの状況がわかる。

 どうやら面倒事に巻き込まれているようだな。

 確かこちらの方は、戦争になっている隣国との国境線に近かったはずだった。

 ブレンダにくっ付けていた分身体と、教室の自分の位置を入れ替える。

 まああちらは、僕の思考をトレースして、そのまま授業を続けてくれるだろう。

 それよりも、こっちがきな臭いな。

 「ブレンダ、もしかして戦争に参加するのか?」

 「バグ、いつの間に・・・・・・ええ、私はラングローズ家の当主として、戦場に向うように指示されたの。まあ、この為に学校へと通っていたようなものですからね」

 「前に出るのか?」

 「いえ、私の家から連れて来た、騎士と傭兵達を指揮するだけです。敵が私のところにまで攻めて来た場合は、その限りではありませんが・・・・・・」

 「そうか。貴族なら上からの命令には逆らえないな」

 「ええ、ですのでしばらくは帰れそうにありませんわ」

 「何ができるって訳でもないが、少し様子を見させてもらおう」

 そう言うと、ブレンダと一緒に戦場へと向った。

 あまり戦いには干渉したくはないのだけれど、ブレンダとは結構付き合いも長いしな。問題なさそうならさっさと帰って、何かあるようなら、少しだけ手助けしてもいいかなって思った。


 ブレンダの到着した場所は、王国の左翼の一部だった。

 左翼の指揮官からの指示は、到着した現地の戦線維持。敵は既にかなり王国の内部へと侵攻しているようだった。このまま行くと、ブレンダも最前線で戦う可能性が出て来そうだな。

 どれくらいの酷い状況なのかを把握する為に、まずは調査スキルで周辺状況を把握する。

 手に入れた地形、人の配置、そういうモロモロを多目的シートに魔力で描き込んで行く。

 このシート、作って結構役に立っているな。そんな事を考えながらも、おかげで状況が把握できた。

 「ブレンダ、少しいいか?」

 「これから騎士達に指示を出さないといけないのだけれど・・・・・・」

 「それなら丁度いい、騎士もこっちに呼んでくれ」

 「わかったわ。こっちで会議するので、そこで話して」

 集まったみんなの前でシートを広げて、そこに魔力を流し込んで現在の敵の動き、予測できる敵の動きなど表示して行く。 そしていずれ放置したらやばい、最優先撃破目標などを表示、今のうちに叩いておくべきだと説明した。

 「みんな状況はこの通り、五百の歩兵で敵をこちら側へと引き付け、三百の騎兵で挟み込んで敵の殲滅を行います。何か質問は?」

 「これは、正確な情報なのですか?」

 僕という異分子がいて、それを信用できないという話らしい。まあ仕方ないけれどね。

 「信用できないで、見逃すというのならお好きなように」

 そう言って後はお好きにと思っていると、ブレンダがその後の話をしていく。

 「他の人は従ってくれますか?」

 「まあ、この情報が正しかった時を考えると、無視しない方がいいのは確かですかね」

 「では、彼以外は出動をお願いします。貴方は今回の戦い、待機です」

 お互いに疑念があれば、組織行動に問題が出るよね。文句を言った騎士は、戦闘に参加しないことになった。

 「わかりました」


 その後の動きを観察して、次の作戦について考える。

 「ブレンダこの森に来ているのは、多分敵の補給隊だと思う。今のうちに襲撃して荷物を奪い、こっちが夜までそこで補給してから、こっちにいる部隊に夜襲をかけるのがいいと思うぞ」

 「そうね、伝令を出すわ」

 「それなら、現場指揮官に通信用の水晶を渡そう、いちいち伝令を出していたら時間がもったいない」

 「いいの?」

 「後でちゃんと回収してくれればいいよ」

 「わかった、約束するわ」

 それから僕は、左翼を崩そうとしている敵の戦略を、ことごとく崩していく。

 そして逆に、こちらの戦略でもって相手の侵略軍を消耗させるように、味方の前に誘導するようにブレンダの騎士達を移動させた。

 ブレンダが現場に到着してから、わずか一日で侵略軍の戦力をガタガタにできたのは、中々いい出だしだったな。

 「バグ、あなた軍師になる素質もあったのね」

 「まあ、こういうのはそれなりに得意な方だったからな」

 実際に、ここまで上手く操れるとは思っていなかったものの、魔道具やちゃんと指示通り動いてくれる兵士達がいるのだから、ある程度は成功すると思っていた。

 今でこそMMORPG専門だったのだけれど、昔の僕はシューティングでも、アクションでも、パズルでも、シミュレーションでも、戦略ゲームでも、ジャンルを問わず遊んでいたものだ。推理ものは肌に合わなかったかな・・・・・・

 その経験を生かして、調査のスキルと現地指揮官に即時指示を出すという条件が揃えば、これ程有利に物事が運べることは当たり前になって来る。

 ようは、詰め将棋をやっているようなもので、しかもこっちは相手の動きが丸分かりっていう、ズルをしているようなものだった。

 「ここら一帯は、もう危険がほぼ無くなったかな?」

 「ええ、バグのおかげで大丈夫よ」

 「じゃあ僕は帰らせてもらうけれど、あまり無理とかはしないようにな」

 「ええ、一応油断はしないようにするわよ」

 僕らはそう会話しあって、別れることにした。

 その数日後、ブレンダから通信で敵の壊走が始まったので、もう直ぐ帰れそうだという報告が入って来た。

 無事そうでよかったと思うよ。


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