ゴールドドラゴン
翌日、僕達はお互いにそれぞれの活動をしようとしていると、緊急の討伐依頼が出されていることがわかった。
お店にある僕達の部屋へと向かうと、役場の人が来ていてかなり焦っていることがわかる。
「どうしましたか?」
レイシアがそう尋ねると、受付の女性が苦悶の表情で説明し出した。
「朝早くから申し訳ありません。今王国は、最悪の事態に陥ろうとしています。どうやら昨日この王国に、黒い竜がやって来たそうで、これを放置すれば最悪の場合国が無くなる事になるかもしれないのです」
「あー、それはこっちで使いたいので、捕獲させてもらったよ」
まだ説明の途中だったみたいだけれど、昨日来ていた竜の話だとわかったので危険はもうないと伝えた。
ポカンとした顔をこちらに向ける女性が、え? って顔をしていた。
「もう捕獲済みなので、心配はないよ」
もう一度念の為にそう言っておく。
それを受けて、とりあえずは危険が無くなったっていうのは、伝わったと解釈できた。
「レイシア、用件は終わりみたいだから、ダンジョンに行っていいよ」
「うん、じゃあ行って来るね」
「行ってらっしゃい」
そんなやり取りをしている間も、受付の女性は固まったままであった。そんな彼女を役場へと送って行った後で、早速ゴールドドラゴン達が住んでいる山へと転移する。
「おー、ドラゴンが一杯!」
着いた場所は、ゴールドドラゴンが群れで生活している場所で、見た感じ三十体以上はいると思われた。
ゴールドドラゴンの中には、色が違う固体もほんの少しだけいる。ドラゴン同士も交流とか、そういうことをしているのかもしれないな~
そんな中で、一際でかいゴールドドラゴンを見付けた。
おそらく、あれがエンシェントドラゴンになるのだろう。手を出すと全部リンクして襲い掛かって来そうで、ちょっとだけ怖い気もするけれど、まあエンシェントドラゴンには防御特化して周りから倒せば、一応は全滅させられるかなって考える。
こちらが相手を値踏みしたり戦術を考えている間、ドラゴン達もこちらを窺っていた。
子供のドラゴンかな?
若いドラゴンが、こちらに威嚇して近付いて来ようとしているのが見えたが、周りのドラゴンが押し止めている。
暗黒竜と同じで一定の知恵はありそうだな。
警戒するドラゴン達にこちらの目的を教えるように、エンシェントドラゴンへとランスを突き付ける。知能があるのならこちらの用件を理解できることだろう。
しばらくの間そのまま向かい合っていると、やがてエンシェントドラゴンが前へと出て来た。
そしてそのまま唐突にドラゴンからの攻撃で、戦闘が始まる。
初めはドラゴンならありふれた十八番の一つで、火球を口の中で作って飛ばして来る攻撃だった。
その火の玉をランスの側面で滑らせて、後方へと受け流していく。普通の武器ならばそこでぶつかって弾けたり、武器が壊れたりするところだけれど、魔法武器ならこういうことも可能だった。
まあ、そうはいってもこのランスの緩やかな曲線とか、微妙に核になる部分に触れないように武器を配置するには、器用度が高くないと駄目だろうけれどね。
火球が効果ないとわかるとドラゴンが次にした攻撃は、ブレスだった。
ブレスの属性は光属性、そのまま受けてもダメージはさほど大きくはないと思うのだけれど、右手のランスを魔法で回転させてそのブレスを受け流す。
それを見たドラゴンは、これも効かないとばかりにブレスを直ぐにやめる。ちょっと唸りつつ次を考える様な間が空き、無詠唱魔法で複数の属性攻撃をぶつけて来た。
「シールド」
それに対して、この世界では持っている人を今のところ見たことがない、無属性の盾を作り出して受け止めていく。
グルルル
属性による相性がない無属性の為、複数種類の魔法全てを、それで防ぎ切る事に成功した。
ドラゴンは愕然としたように、口を開けてこちらを見て来る。
どうやらあちらの攻撃は、ここで一旦終了のようだ。それならば次はこちらの番だな。
そう思うと同時に、転移して相手の懐に潜り込んでのチャージを行なう。
わずかに中心をずらされたチャージは、威力の大半を失いつつも、ドラゴンへと命中した。それと同時にほとばしる電撃で、ドラゴンの動きが一瞬止まり、そこに追撃の左手のランスが叩き込まれる。
ガアアァ
苦痛の悲鳴がエンシェントドラゴンからあがる。
そしてそんな僕を後ろから攻撃しようと迫って来たドラゴンがいた。おそらくは先程の若いドラゴンだろう。
周りを調査のスキルで把握していたので、奇襲に対して予め考えていた攻撃を放った。
「荷電粒子砲」
若いドラゴンの足元へと放たれたそれは少しだけ掠っていて、ドラゴンの絶叫が響き渡った。
グガアアアァァァ
エンシェントドラゴンへの攻撃は、素材にする為に傷が付かない攻撃だったのに対して、後方へと放った攻撃には明確な破壊の意識が込められている。
その攻撃の威力は、ただ掠っただけでも相当のダメージを相手に与えたようだった。
それを見たドラゴン一同は、僕への手出しをやめて、大人しく後ろへと下がって取り囲んでいた円が若干広くなった。
再びエンシェントドラゴンへと意識を戻すものの、後ろから聞こえて来る苦痛の声に、なんとなく集中しきれない。
そこで若いドラゴンへと視線を向けると、掠っただけだというのに、片足の大半が焼け焦げて黒く変色していたようだった。ああ、あれは確かに痛いな。
「ヒールオール」
集中して戦闘をする為にも、そのドラゴンの傷を癒しておく。
目的はエンシェントドラゴンだけなので、他のドラゴンに関してはまあどうでもいいと考えて治療しただけだ。
また襲い掛かって来るのなら、今度は容赦しなければいい。
傷が癒えて大人しくなったドラゴンをそのままに、今度こそ意識を戻す。
ランスを突き付けると、相手も改めてこちらに対して構えて見せた。
その後の戦いは邪魔をされることなく、二人の殴り合いともいえる攻防へと移行していった。
ドラゴンのブレスや魔法などはことごとく防いだので、もう基本となる肉体によるダメージにかけるしかなかったのだと思う。
ただ、武器に込められた魔法を緩和する為に、魔法で防御力だけを高めていたらしく、ほんとに殴り合いって感じだった。こちらとしても相手の体力を削るのが目的だったので、その肉弾戦に応じて挑んで行く。
戦いが始まってから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
空が暗くなり、やがては眩しい朝日が見えて来ても、僕達の殴り合いは続いていた。
それでも誰もその場から離れようとしないそんな戦いも、陽の光が頭上に来る頃に唐突に終わりを迎える。
エンシェントドラゴンが、ゆっくりとふらついて、地面へと倒れたのだった。
ステータスで確認したけれど、まだ死んではいない。
体力を使い、疲れ果てたのだと考えられた。そういえばHPの最大値は表示しているけれど、現在の残りHPの表示とかはなかったなって思う。
まあ残り体力どうこうよりこのドラゴンは、ひょっとしたら人間でいうところの老人だったのかもしれないな。それならば夜通しの殴り合いは相当きつかったかもしれない。
そんな事を考えつつも、ドラゴンの首に首輪を付ける。
「ヒール! 果て無き時空、ここに顕現せよ」
念の為、少しだけ回復をかけた後に、異空間へとドラゴンを送り込む。
そんな僕をドラゴン達は見詰めていた。その視線を受けてやっぱり勇者側ではなくて、どちらかといえば魔王側の人間だなと、改めて思ったよ。
そう思いつつもやめる事はなく、転移して拠点へと帰って来る。
さすがに僕としてもずっと戦闘していろいろと疲れたから、自室のベッドでレイシアが戻って来るまで休ませて貰うことにした。
レイシアが帰って来てから僕達は一緒にご飯を食べ、進化の準備をしてもらう。進化自体は明日の朝から始める予定だ。
僕自身にやれる事は特になかったので、現在進行中のホテルの建設などを見学したり、学校とホテルのマニュアルなどを読み返して、追加する部分とか修正部分なんかを直したりして過ごす。
そして翌日、以前使った進化の為の部屋で待機させてもらった。
壁全面が鏡になっている部屋で、そわそわしながらもその時が来るのを待つ。初めは進化が怖かったのに、魂が壊れないってわかったら案外平気で進化を頼んでしまうなど、随分とお気楽になったものだなって思う。
どれくらいの時間が過ぎたのか、魔法陣が輝き出した。もうこの反応にも大分慣れて来て始まったかくらい感覚になったな。次はどんなモンスターになるのか期待と不安が入り混じつつ、合成の完成を待ってみる。
そして光が止まった後、早速鏡を見て進化後の姿を確認してみた。
「これは、魔人?」
基本的には、前世の自分に大分近い感じだな。
でもやっぱりモンスターで肌の色が青紫、頭に角があり背中には黒い翼が生えていて、爬虫類のような尻尾が生えていた。
一気に魔族寄りになったな~っと思いつつ、これはまた光属性が消えているかもと、ステータスを確認することにした。
《名前 バグ 種族 ヴァルキリー-魔神 年齢 3 職業 創造者
LV 81-86 HP 6135-8611 SP 9719-9961
力 564-759 耐久力 729-826 敏捷 841-861
器用度 546-715 知力 1057-1266 精神 2306-2518
属性 火 水 土 風 光 闇 生命 無 空間
スキル 吸収 腐敗+空間移動-時空干渉 分身 無詠唱 完全回復 憑依 調査 創造 完全耐性 飛行 言霊 守護 自動復活》
種族は、神の方の魔神だったか。
そして、属性はこれで全部そろった感じだね。
スキルは、なんだかごちゃごちゃしているけれど、守護が増えて死んでも復活できるようになったようだ。
これは、どうやら進化の到達点なのかな? 男にもなれたことだし、もうこれ以上に進化をすることもなくなるのだろうな~
さて僕は、誰からの守護を得ているのか・・・・・・?
特に何者かの気配とか感じていないのだけれど? わからないスキルが来たな。
首を捻っていると、レイシアが部屋にやって来た。
「うわー、人型だね」
「ああ、種族は神の方の魔神らしい」
「とうとう神様になっちゃったのね」
「いい方の神様じゃなかったけれどな」
「まあ、でも邪神じゃないだけ、まだましなのでは?」
「あーそれは確かに、そっちは嫌だな。相当イメージが悪い気がする」
レイシアにも姿を見せたことだし、肉体を変化させて人間そのものへと変身した。
鏡で確認してみると、前世の僕にほぼ近い姿だけれど、美化120%って感じになっていた。
これは今さっきの変化での美化したのではなく、進化後の姿から人間以外の部分を変化させただけなので、イケメンになりたくて変えた訳ではない。
進化過程に深層心理でそう思っていた場合は、まあ自分でもわからない部分なので、許して欲しいところだな。それともこの場合は、レイシアの意思が反映するのかな?
「これで普通に人間として、生活できそうだな」
「なんだか、弱そうなイメージがあるね」
僕的には満足なのだけれど、レイシア的にはもう少し頼りがいのある姿がよかったのかもしれないな。
まあ、そこはもやしっ子の現代人なので、許して欲しいかな~
「ついでにレイシアも、ステータスカードの更新しておくか?」
「あ、じゃあお願いするわ」
名前 レイシア 種族 ヒューマン 職業 魂術師
LV 57-65 HP 371-412 SP 781-843
力 34-41 耐久力 30-36 敏捷 58-66
器用度 70-74 知力 136-145 精神 99-127
属性 火 水 土 風 光 闇 生命
スキル 錬金術 無詠唱 指揮官 万能召喚 調理 上位変換(無生物) 進化 拠点魔法陣 意思疎通 亜空間 待機魔法 強化 アルファントの加護 察知(生物) 嘘発見 植物操作 バグの加護(全能力強化)
レイシアのステータスを見て、守護のスキルがどういうものかわかっちゃったよ。
自分に加護があるのではなくて、誰かに加護を与えるって事だったみたいだ。
そして、種族なのだけれど、僕が加護を与えたからなのか魔人になっていた。
こちらで書き込む方式にしておいて、よかったと思う瞬間だったね。
一応、レイシア本人には、教えておいた方がいいのかな?
「あー、レイシア。申し訳ないのだけれど、こっちの方に守護ってスキルがあって、どうやらレイシアを加護の対象にしてしまったみたいなのだが、多分そのせいで種族が人の方の魔人になってしまっている。申し訳ない」
「え? はあ、そうなの」
レイシアは、最初こそびっくりしていたけれど、直ぐにまあいいかって感じになっていた。
反応が薄いというか、環境に適応してしまったのか・・・・・・
こっちの方が慌てていたようだな。よくわからないけれど、これはレイシアだけの反応なのだろうか?
「この強化って、力とかそんなに増えていないけれど、特定の条件で増えるのかしら?」
「うーん、どうなのだろうな、増えているのだけれどカードには出ないってパターンもあるし」
「実際に戦闘とかしてみて、確かめた方が良さそうね」
「そうだな。ここで考えているよりは、そっちの方が早いかもしれないな」
「バグは、今日どうするの?」
「ああ、せっかく人間の姿になれたし、ちょっと冒険者ギルドに行って登録してみようかと考えている」
「あ、それいいね! 今度からは堂々と、人間としていろいろな町に行けるって事だ!」
ええ~。自分が魔人になったことよりも、僕が人間の姿で町に行ける方が反応でかいのか・・・・・・
レイシアの基準がわからないな・・・・・・
「ああ、そうなるね。まあその手始めに身分証にもなるし、ギルド登録ってやつをして来るよ」
「わかったわ、今度一緒に冒険とか行こうね」
「そうだな、久しぶりに普通に人間として、冒険者ってやつをやってみるか~」
「なんだか楽しみだね~。帰って来たら、登録証を見せてね」
「自分のやつがあるだろう?」
「いいの! バグのやつが見たいの」
レイシアはそう言いながら、ダンジョンへと出かけて行った。
さて、こちらも冒険者ギルドに行って来るかな。
今まで寄って来た内の適当な町へと転移した僕は、早速ギルドに向かった。
「すみません、冒険者への登録をお願いしたいのですが、ここでいいですか?」
入って直ぐ空いている受付でそう言った。
「おう兄ちゃん、ここは一般人じゃあ早々勤まらないのだけれど、そこのところわかっているか?」
「ああ、僕は村人じゃなくてこれでも魔法使いなのだけれど、それでも駄目かな?」
「何だ魔法使いだったのか、それならそれっぽい姿をしてくれた方がわかりやすいのにな」
「悪いね、こっちは杖を卒業しちゃって、必要ないから普段着なのだよ」
「ふーん。って事は相当な実力があるって事だな?」
「ああ、多分それなりだとは思っているよ」
「よし、じゃあとりあえず、こっちの書類に必要事項を書き込んでくれ。それが終わったら、一応のテストをするからな」
「わかった」
無詠唱の翻訳を使い、書類に記入をしていった。
「名前はバグっと、変わった名前だな。ああ悪いな」
「いや、僕もこの名前はどうかと思っているから、気にしていないよ」
「じゃあ、こっちに来てくれ。魔力の測定っていうやつをやるからよ」
「はいよー」
受付の男性に付いて行くと、先端に宝玉を埋め込まれた杖みたいな物が中央にある部屋へと連れて行かれた。
これは、どうやって魔力を調べる装置なのだ?
「じゃあ、一応説明するな。お前の攻撃魔法を受けて、この石の部分の色が変わる。その色で魔力の強さを測るので、攻撃魔法を一つも使えない者は、試験を受ける事もできないってことだ。わかったか」
「ああ、でもこれって、壊れたりしないのか?」
「うーん、どうだろうな? 実際に壊した者は、今のところいないって話だから、その心配は必要はないんじゃないか?」
ふむ、人間ならばって話になりそうだから、僕の場合は手加減した方がいいだろうな。
十分の一の力で、魔法をぶつけてみるとするかな。それでも、人間にしては強そうだけれど。
「もうやっていいのかな?」
「ああ、準備できたのなら、もう始めていいぞ」
ゴーサインが出たことなので、無詠唱ファイアアローを飛ばした。威力は予定した通り十分の一にしたものだ。
魔法を受けた宝玉は、初期状態では真っ赤だったのだけれど、限りなく真っ黒な色に染まった。
「ほー、こいつは驚いた。無詠唱なのにここまで高い魔力とは、バグは相当な使い手だな!」
「まあ、よくはわからないが、それなりだって思っていたけれど?」
「大型新人だ。ギルド登録は、こっちからお願いしたいところだぞ」
そう言って、背中をバンバン叩いて来る。
はっきりいって痛くもなんともないので、アニメなんかでよく見る痛いなやめろよってシーンには、ならなかった。
それにしても、ちょっと馴れ馴れしい感じだな。大型新人とか言っていたし、気に入られたってことなのかもしれないが。
そんな感じで、正式にギルドに登録された。
「で、今日は依頼受けて行くのか?」
その言葉にふと時間を見てみると、まだそんなに時間が経っていないことがわかる。レイシアが、ダンジョンから出て来るのに、まだまだ相当な時間があるな。
それなら、軽くなら依頼を受けてもいいのかもしれないな。
「討伐系のリスト、見せてくれるか? 大物でもいいぞ」
「登録したばかりで、張り切っているな。あまり過信とかはしないようにしろよ?」
そう言いつつも、大物リストを差し出して来た。
そこにはちゃっかりと、異形の緊急依頼が載っていた。こっちで倒してもいいのだけれど、あいつは討伐部位がないからな、後日報酬を受け取りに来なければならない。
面倒なので、今回はパスにしておくかな。
他の大物を見ていくと何かと今まで、因縁のあったミノタウロスがあった。これなんかいいかもね。
「このミノタウロスをお願いする」
「了解、じゃあ、サインしてくれ」
サインした後、依頼場所を確認してギルドを後にした。
誰の目もない場所で転移による移動をしてミノタウロスの前に来た僕は、目の前にいるミノタウロスの顔を殴り付けた。
ゴキッ
どうやら一体ではないらしく、あっさりと倒れたこいつの後ろに、後二体のミノタウロスがいるのがわかる。
この世界のミノタウロスって、何でこうも複数でいるのだろう?
そう考えつつ、戦闘態勢をとろうとしていた近い方のミノタウロスの懐に滑り込む。そして放たれるアッパー攻撃。
そしてすかさず横にずれての回し蹴り。
ほとんど同時に鈍い音を立てて壁にぶつかると、ミノタウロス二体は起き上がることが無くなった。
討伐に一分かからなかった、このまま帰ったら目立ち過ぎて駄目だな・・・・・・一旦拠点に帰ってのんびりするか~
そう考えながらレイシアがやっていたように、討伐部位を回収して帰還したのだった。
拠点で暇潰しに、手の空いているパペットとビリヤード対決していると、ブレンダからの通信が入って来た。
『今大丈夫かしら?』
「ああ、問題ないぞ。パペットとビリヤードで戦っているくらいだ」
『あら、声が変わりましたのね。もしかしてまた進化しましたの?』
「ああ、今日の朝に進化した。おそらくこれが最後の進化だな」
『へ~、結局男なのですね。前の方が美人でよかったのに』
「さすがに慣れて来ていたけれど、やっぱり男の方が過ごしやすくていいと思ったよ」
『あらそうなの。さて、それではホテルの件でお話があるのですが、こちらに来てもらってもいいかしら?』
「現場じゃないと駄目な話か?」
『そうでもないけれど、せっかくなので姿を見てみたいじゃない』
「うーん、まあいいか。今はホテルに来ているのか?」
『ええ、こっちのロビーってところで待っていますわ』
「わかった」
パペットにまた今度付き合ってくれと言って、ブレンダのところへと向かった。
「ブレンダ、来たぞー」
そう声をかけると、きょろきょろと辺りを見回した後で、僕の方を見て来た。
「えっと、人間みたいね」
「一応姿は人間そのものに変えてある」
「何か怖いわね。気が付いたら直ぐ後ろにドラゴンより強いモンスターが、人間の振りをして立っているとか・・・・・・」
「あー、それは確かに怖いな」
「で、本当の姿を教えてくれないの?」
「種族は神の方の魔神だったよ。見た目はこの姿に、角やら羽やら尻尾が付いて青くした感じだ」
「へ~。全然強そうじゃないわね。見た目だけなら、子供でも勝てそうな気がして来たわ」
「まあ昔なら、あながち間違ってはいないな。さて仕事の話は?」
「ああそうね、ついでだから直接スタッフの対応を、確認してもらえるかしら?」
「そうだな。わかった」
そう言って僕達は客として、ホテルに入るところからスタッフの対応などをチェックすることにした。
スタッフに駄目出しや注意点、改良点などを伝えていると、時間は夕方頃になったのでブレンダに夕食を勧める。
「一緒に拠点で、ご飯でも食べて行くか?」
「そうね、お付き合いするわ。レイシアさんにも会えるし」
ブレンダを連れて拠点に行くと、既にレイシアが戻っていて、ご飯の準備をしていた。
「こんばんは、レイシアさん」
「こんばんはブレンダ。いらっしゃい」
突然連れて来たので人数が増えてしまい、申し訳なく思った僕は久しぶりに料理を作ることにする。
溶いた卵の中に刻んだ青野菜を少量と、こっちも刻んだ肉を入れて塩コショウで味を調える。そして少量の醤油を入れて素早くフライパンへと流し込み、クルクルと巻いていく。
醤油は似たような豆から、なるべく近い味になるように調節させて作らせてみた。
本職は、デザートなのに、よくがんばってくれたよ。
今は作り方などを横で見ていたので、次からメニューに出て来るだろう。
とりあえず、出来上がった卵料理を皿に乗せて、テーブルに運んだ。
「「いただきます」」
レイシアは、ヴァルキリーになってご飯を一緒に食べるようになってから、こう言って食事するのを聞いて。真似するようになっていた。
ブレンダが、そんな僕達を珍しそうに見ている。
ご飯が終わり、みんながお茶やデザートを楽しんでいるところで、僕は冒険者登録証明書を見せることにした。
「あら、バグもとうとう冒険者になったのね」
「おめでとう! バグ」
ブレンダと、レイシアがそう言って喜んでくれた。
なんでもない事だと思っていたのだけれど、こうやって言われると嬉しく思うものだな。
「ありがとう」
だから僕も、素直に感謝の言葉が出て来た。
「また、みんなで冒険したいわね」
「だね。なんだか学校へ行っていた時が、懐かしくなって来たわ」
「随分時間が経ったけれどレイシアさんはあの頃、落ちこぼれなんて言われていたわよね。今じゃ、最強の冒険者じゃないかってくらい、強くなっているのに」
「最強は、今も昔もバグだと思う」
「バグは、昔も今もモンスターだから、例外よ」
「まあ、僕はどっちでもいいけれどな」
結構昔のことに思えるけれど、僕はまだ三歳・・・・・・そう考えるとそこまで昔ではないのだけれどね~
「そういえばブレンダ、ダンジョン観光の方はどうなの?」
「向こうじゃあ、お客さんが予約で一杯って感じよ」
「へー、でもダンジョンって、そんなに一気に入れるものなの?」
「うっ」
ブレンダが、考えていなかったって顔をした。
「そこはダンジョンに入るのに時間差を設けるから、ある程度は何とかなるよ。実際に稼動してみないと、不具合はわからないけれどね」
「なるほどね」
「ホテルの方は、今日バグに最終確認をしてもらったから、ほとんど準備は整ったわ。だからいよいよ稼動って感じかしら」
「そうだな」
「ブレンダ、がんばってね!」
「ええ、何かあった時は手伝ってね!」
「わかった」
友情だなーって思いながら二人を見ていた。
さて、大分のんびりとしたことだし、忘れないうちにギルドへ報告に行くかな・・・・・・
この日初めてギルドの報酬をもらって、ホクホクと帰って来た。
こんなにのんびりとしていたけれど、早いなって言われたよ。




