ダンジョンマスター
さて、いよいよレイシア専門ダンジョンだなって思っていると、ブレンダから連絡が来た。
『なんだか、面白い事を始めたって聞いたんだけれど』
挨拶も無しで、唐突にそう言って来た。
「ダンジョンの事か?」
『そうよ、何で誘ってくれないのよ』
「そう言われても、思い付いて直ぐ始めたっていうか眷属に投げっぱなしで、詳細を把握していない状態だからな~」
『私も混ぜなさいよ!』
「それは、冒険者としてって意味か? それともダンジョンの運営に関してか?」
『両方!』
「運営に関しては、さっきも言ったように造れと言っただけで、後は眷属が勝手にやっている。参加は、一般の方なら参加できるかもしれないが、レイシア専用の方は多分無理だぞ足手まといになる」
『こっちにダンジョン造ってよ』
「造った後、内部のダンジョンの手入れを誰がするのだよ」
『こっちで手入れできるようにできない?』
「お前にモンスターを造り出すスキルがあるのか?」
『それは、無いけれど・・・・・・』
「罠を直すスキルも無いよな?」
『無いわ』
「じゃあ、ダンジョンを運営できないから、精々一般参加って感じくらいじゃないのか? それも、当主になったのだから早々ダンジョンに潜ってもいられないと思うのだが?」
とうとう黙ってしまった。少しだけ、アドバイスでもしておくか?
「そうだな、今ブレンダが関われるとしたら。店の運搬施設を利用して、そっちからこっちに人員を移動させる感じで客を呼び、子供用ダンジョンで楽しんでもらうツアーとかかもしれないな」
旅行代理店みたいなものをすれば関われるだろう。
「こっちの宿泊施設とかと提携でも結べば、泊り込みで遊ぶお客さんとかも出て来るんじゃないか? でもって視察とかでLVの高いメンバーを集めたら、ダンジョンに一回くらいは潜れるかもしれないな」
ここら辺りが、妥当なところだろう。
正確にいえば、運営の参加とかも不可能ではない。
ダンジョンマスターと、生産パペットをブレンダ用に創ればいいだけだが、そこまでする必要はないだろう。
ブレンダの方が完全に管理外になるから、どこまでもバランスを崩される可能性がある。だから運営は任せられない。
世界のバランスを変えてしまう可能性を、他人に与えるつもりはなかった。
『じゃあ、それお願いしてもいいかしら?』
「まあ、細かいところはおいおい詰める感じで考えよう。そっちは宿泊施設と提携するなり、自分で宿を造るなりやれることをやってくれ」
『了解よ、もう少し話をまとめたらまた連絡するわね』
「わかった」
話も済んだし、レイシアのダンジョンにでも行きますかね。
今回のダンジョンも、僕は手を出さないことにしてレイシアを見守る事にした。
レイシアと、アルタクスも結構LVに差があるのだけれど、ちゃんとやっていけるのか少しだけ不安なのだよね。がんばって欲しいところだ。
ダンジョンに入って直ぐ、前のダンジョンと違って地形が単調じゃあなくなっていることに気が付いた。
鍾乳洞になっていたり水晶があったり、他にもいろいろありそうだな。そう考えると鉱石が取れたりとかもするのかな? 経験稼ぎだけじゃなくて、素材集めにもいいかもしれない。
出て来るモンスターも、地形に合ったやつが出て来ている感じだ。
アサシンバジリスクなども、ダンジョンの中にはいて、油断すると石化されてしまう。
レイシアは、考えていた以上の厄介さに一度拠点に帰還することを決めた。専用のダンジョンなので、無理しないで少しずつ攻略するのもいいのかもしれないな。
戻ったレイシアは、錬金術でわかる範囲の状態回復薬と耐性アップの薬を作り、HPとSPの回復薬なども作っていく。足りない素材は、周りの森などに採りに行ったりもしていた。結構自然はある方なので、薬草とかを集めるにはいい国のようだな。
「ねえバグ、ステータスの更新をお願いできる?」
「わかった」
少しでもダンジョン攻略に役立てる為か、ステータスも更新していくようだ。
名前 レイシア 種族 ヒューマン 職業 魂術師
LV 55-57 HP 334-371 SP 706-781
力 33-34 耐久力 30 敏捷 57-58
器用度 69-70 知力 132-136 精神 96-99
属性 火 水 土 風 光 闇 生命
スキル 錬金術 無詠唱 指揮官 召喚武器+部隊召喚+食材召喚-万能召喚 調理 上位変換(無生物) 進化 拠点魔法陣 意思疎通(動物)+意思疎通(植物)+ 意思疎通(精霊)- 意思疎通 亜空間 待機魔法 強化 アルファントの加護 察知(生物)
ちょこちょこっと上がっているな。後、同系統のスキルがまとまった感じだし、整理されたのかな?
レイシアはステータスを見て、戦術でも考えているのか、ぶつぶつ言っていた。
しばらくしてから、レイシアが言って来る。
「これから行くと、時間遅くなっちゃうから、ダンジョンは明日にするね」
「そうだな、今日は準備期間でいいと思うよ」
いろいろ悩んでいる感じなので、今日のご飯などは、デザート用に創ったパペットにお願いした。
簡単なものなら、この子でも作れるだろうからね。
あっさりとした食事を食べた後、お茶とデザートも食べてその日はのんびりと過ごした。
そして次の日、レイシアはダンジョンの入り口で攻略準備を開始する。
「召喚、ケルベロス。召喚、ケンタウロス。強化」
新たな召喚と、最初から強化した状態で進むのか。気合入っているなって思ったよ。
そして突入後は、マッピングシートを確認しながら昨日見付けた、察知のスキルを使って敵を確認しながら進んでいた。まあこれって生物ってあるので、トラップやゴーレムみたいな魔生物とかには反応しないと思うけれどね。とりあえずは、お手並み拝見かな。
そして昨日てこずったアサシンバジリスクがいる場所の手前で、石化抵抗の薬を使う。
対策がされていれば、厄介なアサシンバジリスクもほとんど雑魚という感じで倒され、レイシアはどんどん先に進めるようになった。
そしてやはりというか、レイシアが一番手間取ったものは迷宮区画で、マッピングシートを見て確認しているのだろうけれど、中々出口を見付けられないので、アルタクスがマップを確認して指示を出していた。
僕の時はマップが無くて、壁に印を付けながら移動していたな~
後ろから見ていて、そんな事を思い出していたよ。
ここにも徘徊している敵が出て来ているのだけれど、そっちは察知のスキルがあるから問題なく倒していた。
敵の強さは出て来て、最低のやつが中級ランクのモンスターだった。
大物になると蛇型のドラゴンとか、神獣じゃないのかっていう麒麟なんかも出て来ていた。さすがにこのての敵になって来ると、レイシアも総力戦といえる感じの戦いになって来る。
龍の場合などはゴーレムが三十体は出て来ただろうか、それらが押さえ込んでケルベロスが喉元へと喰らい付き、ケンタウロスが、頭に攻撃を仕掛けてダメージを蓄積させていた。
アルタクスも強酸を吐き出したりして支援する中、レイシアが銃による攻撃を加えつつ、最後は日本刀を脳天に突き刺して止めを刺していた。
この龍も、狭いダンジョンじゃあなければ、もう少し厄介な相手になっていたのだろうな。もしそうならレイシアでは勝ち目はないだろうが・・・・・・
麒麟との戦闘では、考えてみれば初めてになるのではと思われる、下僕の死亡が確認された。
今までドラゴンとか、いろいろな大物と戦って来たけれど、よくみんなを無事に生き残らせていたものだと改めて感心したよ。
死亡が確認されたのは、ゴーレムが数体とアラクネ、そして今まで壁役などをしてくれていたクインリーだった。
さすがは神獣と呼ばれるだけあって、レイシアの方の被害が相当なものになっていた。
「リザレクション!」
初の戦死者を前に、あまりにもレイシアが泣いていたので、試しに蘇生魔法を使ってみようと考える。ゲームとかだったら召喚魔法で呼び出した下僕は、使い捨てって感じなのだがな~。やっぱ現実とは大違いだよ。
復活の魔法・・・・・・一応これでも神の使いであり、属性に光と生命を持っていたので、出来るのではないかって考えていたからね。それに眷属などを創造する事もできるので、死んだばかりならばまだ魂も呼び戻せそうな気がした。
帰るべき肉体も存在したからか、下僕達は息を吹き返してレイシアがまた泣いていた。
そんな感じで疲労が蓄積し過ぎていたので、今回の冒険はここで中断して拠点へと帰ることになった。
レイシアは、次のダンジョン攻略を二・三日後にして、拠点のお風呂でのんびり疲れを癒している。
そういえばお風呂は温泉を引いて来ていたので、疲れた時には効果的だったな。
のんびり過ごすと決めたので、僕らは連れ立って町をぶらぶらすることにした。城下町も、最初に来た時よりも随分と活気が出て来ていて、明るい雰囲気になっている。
僕らを見る目も初めと比べるとまるで正反対、今では気軽に挨拶をしたり雑談をしてきたり、中には相談事を持ちかけてきたりもしている。
「レイシアさんバグさん、どちらでもいいから、うちの馬鹿息子を貰ってやってくれないかね~」
たまにそんな事を言ってくる老婆なんかもいたりする・・・・・・
僕は男だって言ってやりたいところだけれど、この姿では仕方ないよね・・・・・・まあそれ以前に人間じゃないのだが・・・・・・
実際の話しスライムだった時は性別など無かったので、こっちの世界では男だと言い張れない気がするのは、この体に馴染み過ぎたせいなのかな?
最近では、そこまで進化したいって気があまりしていなかったりする。
進化素体が、全然見付けられないっていうのもあるけれどね。やっぱりドラゴンばかり集めるのが、手っ取り早そうな気がするな~
「これは、レイシアさんとバグさん、こんにちは」
ぶらぶらしていたら、町でばったりと王子に出会ったよ。そういえば、王子も初めはかなり警戒して態度も横柄だったな。
今では、馴れ馴れしい程に気さくになっていたりする。
「こんにちは」「よう」
一応王子だから、軽く挨拶を返しておく。まあ、王子にする挨拶ではないかもしれないけれどね。
護衛の兵士が不満顔をしているので、まあ言いたい事はわかった。相手は王子なのだから敬語を使えとか、敬意を持って接して欲しい感じだろうね。はっきり言って面倒だ。
「今日はお休みですか? でしたらご一緒しても構わないか?」
「まあ、構わないぞ」
レイシアと一瞬視線を交わした後、一般ダンジョンの方の話も聞きたいし、構わないかと思ってそう言った。
「ダンジョンの方、どうだ?」
「ああ、モンスターよりも罠にてこずっているな。モンスターも、集団だと中々倒せないって話だったか。最奥まで到達できたチームはまだいないという報告が上がって来ている」
「あのダンジョンの難易度は、まだ初心者なのだがな」
「まあ、うちの国は弱小って言われていたからな」
「サリラント王子、弱小とは聞き捨てなりませんよ!」
王子の身も蓋もない発言に、護衛の兵士が意見して来た。さすがに騎士としては、弱小と言われるのはプライドが許さないのか・・・・・・まあ、事実がどうであれ納得できないのだろうな。
「本当の事だろう?」
「初心者ダンジョンで、てこずるようでは、弱小と言われても仕方ないような気がするな。一般人に負ける兵士っていうのと変わりないからな~」
事実だと言う王子の意見に賛成する。
「それは一部の兵士だけで、兵の中には腕の確かなものも大勢います!」
あー、プライドを刺激しちゃったかな?
でも事実は事実と認めないと、強くはなれないのだよ・・・・・・王子もやれやれって感じでその兵士をなだめている。
「王子、この護衛達は腕の立つ方なのか?」
「まあ、それは王族直属の近衛だからな」
「じゃあ少しだけ外の世界の強さってものを、教えてあげるのもいいかもしれないな。兵士達の訓練所とかで模擬戦でもしてみようか?」
「ふむ、たまにはそういうのもいいかもしれないな。こっちだ、付いて来てくれ」
そう言って歩き出した王子に、僕達も付いて行く。しばらく歩いて、王城の中の兵士達の宿舎などがある辺りに到着すると、非番と思われる兵士達が訓練しているのがわかった。
「とりあえず、一対一でやってみようか?」
そう言うと護衛の口を出していた兵士が、自分がって感じで前に出て来た。
それを見ていた他の護衛達と訓練していた兵士達が、見学に集まって来る。王子も一緒にいたので、気になっていたみたいだな。
「じゃあ、アルタクス。行って来い」
僕が行くまでもないので、アルタクスに相手させる。
「スライムだと、どこまで馬鹿にする気だ!」
案の定文句を言い出した護衛に、言ってやる。
「あのな、不満があり自分に自信があるのなら、口より先に証明して見せてから言ってくれ。子供の駄々っ子に付き合うのは面倒なのだ」
「くっ、ならこのスライムを倒したら、お前に相手してもらうぞ」
「いいよ」
言い合いが終わるのを待って、王子は模擬戦開始の合図を出した。
「それでは始め!」
ハッ!
護衛兵士の、気合の入った先制攻撃。
スライムなど正面から易々と倒せると考えている攻撃だった。つまり何の捻りもフェイントなどもない、力任せの一撃・・・・・・これが近衛騎士の器なのか?
その攻撃が紙一重でかわされて、反撃の平手打ちが胴体に叩き込まれる。
ペチンッ
少々間の抜けた攻撃に見えたのだけれど、護衛の兵士は腹を抑えてうずくまり、立ち上がれなくなった。
「勝負あったのではないかな?」
僕の声に、しばらく固まって状況を見ていた王子が慌ててこちらを向く。
「ああ、スライムの勝ちだ・・・・・・」
「このように、お前達は弱過ぎる。まあこのスライムは特別製だがな。他に異論や、自分なら勝てると思っている人がいるのなら対戦してもいいが、どうだ?」
スライムにも勝てないという現実に、兵士達は呆然としてそれ以上の反論や、文句などは出なかった。
僕達は王子も連れて、再び町をのんびりと歩き出した。
「実際問題、冒険者養成学校の初心者を相手にしても、この国の兵士では勝てないかもしれないな~」
「そこまで弱いのか・・・・・・」
「今日見てみた感じそう思う。前からおかしいなとは思っていたのだがな。討伐の依頼があれほどもあって、それを誰もこなせないっていうのはわざとなのか武力放棄していたのか、後は博愛主義者で例え相手がモンスターでも、殺してはいけないとか言っているのかと考えたよ」
王子は苦笑いしている。王子も結構楽観的というか人事みたいな感じだよな。
「この国、私じゃなくても簡単に落とせるよな?」
そう言うと、さすがの王子ものんきにしていられない感じの表情をしていた。
「いっその事、この国にも冒険者養成学校を造ってみるのはどうだ?」
「なるほど、戦力強化の為にもそういう施設はやはりあった方がいかもしれないな」
僕達はそんな話を、露店で買った骨付き肉みたいなものを食べながらしていた。
学校を造るのはいいけれど、教師が必要になって来るから、そう簡単にはいかないだろうな。
ブレンダに相談したら、教師の派遣とかも、何とかなるかもしれない。
まあ同じ戦いでも、兵士と冒険者は全然別物になって来るけれどね。
その後も町をぶらついて、美味しそうな店を見付けては、買い食いをする間王子はずっと付いて来た。
周りの護衛は複雑そうな顔をしているけれど、文句も言わないで仕事をしている。その日はそんな感じで過ぎて行った。
数日をのんびりと過ごした後は、気合を入れたレイシアはダンジョンへと入って行った。
僕はそれには付いて行かないで、ブレンダとの打ち合わせに出かける。今回のレイシアは、経験集めって感じでダンジョンに向かったので、下僕がやられるような無茶とかはしないだろう。
「おはよう、バグ」
「おはよう~」
お店の応接室で、僕達は向かい合って話をする。
目の前には紅茶と、デザートが数種類用意してあり、準備万端って感じだ。
「早速なのだけれど、マグレイア王国には、大規模な宿泊施設が存在していない事がわかったので、こちらで宿を建てる事に決まりました。場所はこの店とは違い町の中でもダンジョン寄りの場所を計画しているので、転送用の魔道具を別に用意して欲しいのですけれど、いいかしら?」
「そうだな、それくらいはいいよ。魔道具は対になっているから、そっちにも設置しないといけないけれどね」
「それは逆に嬉しいわ。お店の方は、裏方の搬入用として設置されていたので、お客さん用の入り口は欲しかったのよ。じゃあ次ね。宿泊施設の建築にも、パペット達を貸してもらえるのかしら?」
「まあ、特には問題ないかと思う。建てている間、納品が遅れるかもしれないけれどね。建物はどれくらいの規模の物を建てる予定なのだ? そこまで人が来そうにないって思ったのだけれど」
「そうね。今のところダンジョンに行ってみたいって希望は、結構な数だってわかっているので、百人規模の宿屋になればって思っているわ。従業員も、こちらで手配するつもりではいるのだけれど、こちらの国でも募集をかけさせてもらうわ」
町の地図をバジリスクの革を使った多目的シートに描き出すと、ブレンダに見えるように置く。
これは、売り物とかではなくて、僕個人の雑用に用いる為に作った奴なので、裏に板などはなくぺらぺらの布のような感じで、折り畳んで持って来ていた。大きさは、何にでも使えるようにとかなり大きめで、目立たないように繋ぎ合わせて作られている。女性型パペットが縫ってくれた物だ。
そのシートにスキルの調査で町の地形を把握して、それを魔力で投影したら即席のマップが出来上がる。
「どこら辺りで、どれくらいの土地を用意したのだ?」
「えっと、ここ、こんな感じで」
ブレンダも、シートに魔力を流し込んで、今回の宿泊予定地の部分を白く塗りつぶした。
ふむ、百人規模と言っていたのだけれど、用意した土地はかなりの大きさだな。
「何か、これだけの大きさだと、千人規模の宿が出来そうなのだけれど、縮尺間違ってないか?」
「間違いないわよ。これでも私が自分で、土地の買い付けをおこなったのだから」
「ふむ、そうするとこの宿屋って、平屋の一階建てか?」
僕としては、複数階のホテルっぽいのを予想していたのだけれど、民宿みたいな感じにする予定だったのかな?
シートのマップを消して、ホテルと民宿を描き出した。そういえばこっちの世界で見る建物って、基本は平屋の方が多いかもしれないな。城や教会何かしらの塔みたいなものは、何階かあるようだったけれど。
「僕はこっちのホテルって言われている宿を想像していたのだけれど、こっちの民宿タイプだったのか?」
「何これ、ホテルですって? 民間で、こんなの建てちゃっていいのかしら?」
うん? 日照権とか建物の高さの規定とか、何かしらの建築ルールがこの世界にはあるのか?
確かに周りの日照権は、考えてなかったな。そうすると、あまり高くするのはまずいか。
「何かしらルールがあるのなら、王国に許可を取らないとだな。平屋にするか?」
そう言って、庶民じみた宿屋の方のイメージをブレンダに指差して見せる。
「初めは平屋の方を考えていたのだけれど、こっちのホテルってちょっと気になるわ。このイメージの絵をもらえるかしら?」
僕は、B4用紙くらいの大きさの革を取り出して、そこにホテルの完成予想図っぽいものを描き出す。
「これでいいか?」
「これ、いいじゃない! 関係各所にちょっと見せてみるわ」
描き出したのは最初のホテルの半分の高さ、五階建てくらいの建物にした。日照権の問題だけじゃなくて、こっちには消防車とかレスキューとかも無いだろうし、あまり高い建物だと火事とかの救助作業などで、問題が出て来るかもしれないからな。
それから細々としたやり取りをしてお昼を軽く食べた後、僕達は子供用のダンジョンの視察に向かった。
のんびり歩きながら、ブレンダと会話をする。
「ダンジョンだけれど、レイシア用のやつは、やっぱりお勧めできない感じだったよ」
「難易度高そうなの?」
「レイシアが何度も途中で帰還している。レイシアの今のLVは五十七くらいだったかな」
「そんなにLV高かったの・・・・・・じゃあ、中級用のダンジョンをこっちに造ってもらえないかしら? 今回の旅行に、冒険者達も呼ぼうかと思っているのよ」
「こっちに移住でもさせるつもりなのか?」
「そうね、それが許されるなら、私はこっちに来たいわ」
ブレンダは貴族で、当主にもなったのだ。他国に移住など出来ないだろうな。
中級ダンジョンか、まあ造ってみてもいいかもしれないな。
ホーラックスを呼び出す。突然僕の隣に現れた魔王風の男にブレンダはビックリしていたが、とりあえず用件を伝えよう。
「ホーラックス、ダンジョンをもう一つ運営する事は可能か? 出来れば、難易度を中級にしたものを増やして欲しいのだが」
「我が主よ、あと一つ二つは問題ない。しばしパペット達をお借りする」
「ああ、頼んだ」
そう短いやり取りをした後、ホーラックスは転移して行った。
「しばらく、ダンジョンの方にパペット達を使うよ。宿はまだもう少し先でいいよな?」
「ええありがとう、バグ。それにしても、今の凄い威圧感だったわね。今でも体が震えているわ」
「ああ、一応あれでも正真正銘の魔王になっているからな。ステータスを見たら、種族が魔王だったよ」
「魔王を創り出すって、貴方ほんとに何者っていいたいわね・・・・・・。つくづく規格外だわ」
そんなやり取りをしてから、僕達は子供用ダンジョンを探検して来た。
ブレンダにはとても気に入ってもらえたようで、これはいいって感じで喜んでいた。
僕は今回の視察で、いい絵だなって思われる風景を何枚か、B4くらいの革に描き出しておいて、それをダンジョン紹介にでも使えるかなって考え、ブレンダに渡してみた。
その後雑談をしながら店までを歩き、上機嫌でブレンダは帰って行った。
レイシアがダンジョンから帰って来たのは夕方頃、デザート用パペットに軽いご飯を作ってもらい、レイシアを出迎えた。
どうやら、最後のボス部屋には到達できたようだけれど、ボスにホーラックスが出て来て勝てなかったようだった。
レイシアが無事に帰って来られたのは、ホーラックスが僕の眷族で、レイシアを仲間だと認識しているからである。
一応手を抜いた戦いはしないらしいのだけれど、死なない様にがんばってくれているようだ。
魔王でやられ役なのに、とてもありがたいことだった。
機会を作って、なにかねぎらってあげないとなって考える・・・・・・




