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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第九章  新たな力
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技術提供

 またしばらくの間、僕らは依頼をこなして拠点でのんびりという生活を繰り返していた。

 共闘依頼の報酬も、かなりの追加料金がもらえた。まあ、それでも依頼の達成ランクが低いものだったみたいなので、大金という程ではないのだけれどね。

 次の進化素材については、情報が今のところ無いままだ。そんな中ブレンダから連絡が入って来た。

 『今いいかしら?』

 「拠点でのんびりしているから、問題ないぞ」

 『そう、ならよかったわ。まず以前渡された日本刀って武器について、どれくらい作ることができるのか聞いてもいいかしら?』

 「うーん、数って話になるといくらでも? 多いと時間はかかることはあるかもしれないけれど、資材は部屋一杯に溜め込んであるからな」

 『それじゃあ、とりあえず五十本お願いしてもいいかしら? 報酬は、日本刀一本に付きレシピいくつかしら?』

 「正直、日本刀の価値とレシピの価値がわからないからな~。料理のレシピ以外にも、人間の文化的な本とかでもいいぞ。僕は人間のことをよく知らないから、知識が増えるのは歓迎できるからな」

 人間のって言い回しはしたけれど、実際は異世界の知識が足りないのだよね。まあ、どっちも似たようなものだろうけれど。歴史はもちろん常識だってわからない。今だに金銭感覚すらないからな~

 『商人とかには、向いていないわね。わかったわ、損をさせないように考えてみる』

 「多分、向いていないっていうのとは違うぞ、単純に面倒で金に興味がないだけだ。やる気になるなら、人間をまとめて破産させるくらい頭を使うよ」

 『それは怖いわね。確かにあなたの頭はかなりいいみたいだから、余計な事を考えないように、こっちで何とかするわ』

 「任せる~」

 『それともう一つなのだけれど、いいかしら?』

 「何だ?」

 『勇者のパーティーからの代理依頼って形なのだけれど。勇者以外のメンバーの武器を生産して欲しいんだそうよ』

 「何故そんなのを僕に頼む?」

 これまた、おかしな依頼が来たものだな~。それに、有名ドワーフの鍛冶師とかならわかるが、そこでどうして僕が出て来るんだ?

 『魔法武器を作って欲しいって話だったわね。魔法の武器の製造は現在の技術じゃあ出来ないのよ。遺跡などで発掘して、それが自分に合っていない場合、売るか、武器に自分を合わせる必要があるのよ。そこであなたは、彼らに合う武器が作れるかもしれないって話で、その依頼が来たって話らしいわ』

 「それって、誰が僕なら作れるって吹き込んだ?」

 迷惑な話っていうのもあるけれど、僕が魔道具やら、武器などを作れると知っている人間は、そもそもがいないはずなのだ。精々がレイシアの知り合いに作れる者がいるという曖昧な可能性の情報しかないはずだ。

 だとするとブレンダとか、ランドル達からもれた可能性があるな。

 『正確には、私がその伝手に話ができるって情報を、お父様が勇者パーティーに話してしまったのよ。申し訳ないわ』

 「ちょっとお前の父親は邪魔だな。少し会わせてもらってもかまわないか?」

 『バグ、何をする気なの?』

 「人の秘密を勝手に言いふらしている馬鹿を黙らせるだけだよ。今この時もどこの誰に情報をペラペラ喋っているか、わかったものじゃないからな」

 『殺すっていう話じゃないのね?』

 「さすがにブレンダの父親だからな、今は殺そうとは思ってはいない。会ってみて、排除するべきと思ったらわからないけれどな」

 『わかったわ、少し時間をもらってもいい?』

 「いや、今からそちらへ行く」

 そう言うと、ブレンダの水晶の座標を確認して、その場に転移した。もちろん重ならないように周囲は水晶を使って確認済みだよ・・・・・・スプラッタはごめんだからな。

 「父親のところへは、僕だけで行こうか? それとも立ち会うか?」

 「立ち会うわ、こっちに来て」

 ブレンダに案内されて、屋敷の中を移動して行く。

 使用人と思しき人達が、僕を見て驚いた表情を浮かべて道を空けて行った。まあ羽が生えた人間なんて、怖いだろうな。

 しばらく歩き、一つの扉の前でブレンダは止まった。少し深呼吸をした後、扉を叩く。

 「お父様、ブレンダです、今お時間よろしいでしょうか?」

 「ああ、ブレンダか入りなさい」

 「失礼します」

 そう言うと、ブレンダは扉を開けて中へ入り、自分もそれに続いて扉をくぐった。中に入ると、中年の男性がこちらを見て、びっくりした表情をしている。

 「ブレンダ、その者は何者だ!?」

 声に緊張がみられるな。敵か味方か判断がつかないのだろう。

 「お前が私の情報を、好き勝手にばら撒いていると聞いて、文句を言いに来た者だ」

 そう言うと、ブレンダは少し下がって邪魔をしないようにした。

 「わしはお前など知らぬぞ」

 「私もお前の事など知らぬし、知る必要もない。ただベラベラとお喋りする者には苛立たしいものがあるからな、今後私に関して、一切喋れなくさせてもらう」

 「何を言っている?」

 「私はレイシアにスキルカードと銃器を授けた者だ。今後、私が魔道具や武器等を作れる事や取引などのやり取りに、お前が一切かかわる事を禁止する。私に関して噂話、名前、何かそれに該当するものの話をしたり行動を起こした場合は、お前には神の裁きを与えよう。そうだな心の臓を握られ、潰される痛みを覚えるくらいが丁度いいか?」

 「な、何を言っている! 貴様モンスターか!」

 「私は神の使者、レイシアを守護する守護天使である。邪な心で、かの者に近付くことを私は許さない!」

 そう言うと言霊と幻術を使い、その男性の心に余計な事をできなくする制約と、神の幻影を見せた。

 LVが高くない普通の人なので、どちらのスキルにも抵抗することなくかかり、これで一応はこれ以上の余計な事はなくなると思われる。

 あー、でも既に喋っちゃった人は、どうしたらいいのかな?

 この中年のおっさんに、縁が切れたと言わせたらいいかな? とりあえず何もしないよりはいいかも。

 「さて、お前が今までにばら撒いた情報について、後始末を自分でして貰う。できうる限り早急に、縁が無くなったと知らせて、これ以上の情報の拡散を食い止めよ」

 こんなものかな?

 まあ、後々何かあればその都度対応しようかな。僕はブレンダを連れて、部屋を出て行った。

 「ブレンダ、後で父親がどう過ごしているか、しばらく見ていて、報告してくれるか?」

 「そうね、わかったわ。勇者のパーティーの方はそれでどうする?」

 「そうだな、そっちは魔王とか倒してもらいたいから、一応今使っている武器と同じものでいいので用意してくれれば、何か魔法をかけておこう。無茶じゃないなら、こんな風に使いたいとか、希望を聞いてもいいかもしれないかな」

 「わかったわ。じゃあ、いろいろと失礼をしたことも含めて、報酬に上乗せするようにするわね」

 「ああ、頼む。とりあえずは日本刀五十本かな~」

 「そうね、こっちはレシピとか、いろいろがんばって集めてみるわ」

 「ああ、じゃあまたな」

 そう言って、拠点へと帰った。

 早速日本刀を鞘付きで五十本作るようにパペット達に指示を出す。

 それぞれの工程を流れ作業で始めるパペット達を見て、楽しんで作業する姿に満足する。生き生きしていて充実しているのがわかる。


 昼夜を問わずゴーレムが日本刀を作る。さすがにいちいち金属を捏ねる必要がある為か、量産のスピードはそこまで高くなさそうだった。まあ、でも本来なら、月単位は軽くかかる物だから、異常な程のスピードで、完成させているのだけれどね。

 後、生産できて凄く楽しそうだったので、そこまで急がなくてもいいって言うのはやめて、そのまま続けさせることにした。それに、どうせ受注は五十本ではすまないだろう。

 そんな中、ブレンダから連絡が来る。勇者の方の話かな?

 『今いいかしら?』

 「ああ、大丈夫だぞ~」

 『まずはそうね、報告からしましょうか・・・・・・父なのだけれど、あれから何度か胸を押さえて苦しそうにしているところを、見かけるわ。一人の時もそうだし、来客中でもそういうことがあったわね。ですので父は病気ということで、引退して私が後を継ぐことになりそうよ』

 「それは、おめでとうと言うべきなのかな? 謝るべきなのかな?」

 『こちらとしても、微妙なところだわね。そこで私が家督を継いで当主になった後の話だけども、前に見せてもらったコンロとか、販売させてもらってもいいかしら? 利益を出して家の者達に力を見せなくてはいけないのよ』

 「ふむ、あれなら別に問題はないぞ。まあ日本刀もそうだけれど、量産するにはそれなりの時間がかかるけれどな。それでもいいなら、コンロの方はかまわないぞ」

 『そう、ありがとうね。後は勇者パーティーの方なのだけれども、こちらに見本の武器が用意できたわ。希望は全部聖属性の魔法がかかっていればいいそうよ』

 「じゃあ、とりあえず武器を見に行くよ」

 そう言うと、ブレンダのところへと向かった。


 「よっ!」

 「武器はこれね」

 「じゃあ一度持って帰って作って来るよ。他に何かあるか?」

 「今回のところは特にないわね。日本刀はいくつくらい生産できた?」

 「今は、十本くらいかな」

 「さすがに早いわね。じゃあ、十本ずつでいいので納品頼める?」

 「じゃあ、こっちの武器を作ったら一緒に持って来るよ」

 「わかった、じゃあまた後でね」

 「おう!」

 拠点に帰って来ると、勇者パーティーの武器の生産を先に作らせる。しばらく待っているとドンドン出来上がって来る。

 相変わらずいい装飾の出来だな。そう思いつつも聖属性の魔力を込めていった。後は保険として、僕の意思でなまくらになるようにしておこう。

 自分はモンスターだから、いつ襲いかかられるかわからないからな。こういう細工は必要になって来るだろう。

 完成した日本刀と合わせてブレンダの家に跳ぶ。

 「持って来たぞー」

 そう言いつつ、ブレンダに武器を渡した。

 「ありがとう、じゃあこちらも、まずはデザートの道具一式がこれね。それとこれが今わかる範囲でのデザートのレシピよ」

 そう言って、道具とレシピを渡された。

 デザートの道具は、結構量があるのだな。まあ、いろいろ細かい作業とかしていたからな~

 「じゃあ、今日はこんなところか?」

 「ええそうね、また十本くらいできたらお願いね」

 「ああ、わかった」

 「こっちはいろいろな本を集めてみているんだけれど、もう少しかかりそうなの。だから少し待っていて欲しいかな」

 「まあ、急いではいないからいいぞ」

 「ありがとう、じゃあまたよろしくね」

 「またな!」

 こうして拠点へと戻って来た。

 今回は、簡単な交換作業だったので、空いた時間に依頼をこなしに行った。まだギルドの職員や中にいた一般人などは、僕に慣れないみたいだったな。

 そして依頼から帰って来た後で、デザート用の専門パペットを創ってみる。

 必要な道具などは時間がある時に、他のパペットが必要分作ってくれるだろう。それでレシピにあるものと、そのレシピからデザートパペットが独自に発展させたものを作ってもらいたいものだな。日本にあるデザートも捨てがたい。

 しかしデザートは、生物なので作り置きができない。なのでその時に食べたいデザートを選べるようにメニュー表の作成をした方がいいかなって考え、昔使っていたアサシンバジリスクの革を使って、デザートの絵と簡単な紹介を載せられるメニュー表を作ってみる。

 水晶で内容を変えられるようにしておいたので、メニューの変更は、デザートパペットに任せるようにした。こんなものかな~

 その日から休憩時間にお茶をする時は、デザートを選んで作ってもらい、それを食べながらのんびりとするようになった。


 ギルドでの依頼を受けて、討伐を大分繰り返して来て、町の方でも僕の存在に慣れてきた頃。

 コンロの生産と日本刀を作ってはブレンダに渡していて、それが広まって来たのか、この町でも噂を聞くようになって来た。

 それでもまだまだ数は少なくて、相当手に入りにくいという噂で、ブレンダのところには予約が殺到しているのだそうだ。

 一時は工場でも作って大量生産でもしてやるかなって思ったりもしたのだけれど、道具の類って早々壊れないから売れなくなったら、大量のパペット達が作りたくても作れないって、苦しむ事になりそうだよな・・・・・・だから工場の計画はなかったことにして作れる分だけ納めるようにした。

 宿代もいらなくなっているので前程、お金を稼いだりする必要もないからな~

 勇者パーティーも各地で活躍しているようで、例の異形が出ると、勇者パーティーを呼んで倒すようになったみたい。まあ、この辺りの異形はレイシアが倒しているから、こっちには来ないと思うけれどね。

 そんな明るい話も出て来て、町の雰囲気も少しは明るくなって来た頃、ついに魔王によって町が滅んだという噂が伝わって来た。せっかく明るい話題で雰囲気が良くなると思っていたのに厄介な・・・・・・

 町自体はこの国ではなくて、隣の戦争をしている方だったのだけれども、それによって少しだけ明るくなった雰囲気は、また暗くなってしまった。

 噂を聞き付けた勇者達は、討伐へと向かうつもりだったようだが、相手国がそれを望んでいないとかで、まだこの国の中にいるらしい。

 僕にはあまり気にするような話ではないのだけれど、まあ勇者くらい迎え入れて、魔王を討伐してもらえばいいのにな、とは思ったよ。


 『今、いいかしら?』

 討伐と、生産をしながらの毎日を過ごしていると、再びブレンダが連絡して来た。

 「いいぞ、何だ?」

 『やっぱり、ステータスカードの技術を使わせて欲しいのだけれど、一部だけでも駄目かな?』

 「一部っていうのは?」

 『例えば、冒険者ギルドだけ使えるようにするとか、特定の個人だけ、更新作業ができるとか・・・・・・そんな感じかしら?』

 「ギルドっていうのは、あまり賛成できないかもしれないな。悪用するような人が出て来そうだから、あまり広めたくはない」

 『じゃあ、特定の個人の方はどう?』

 「そうだな、ブレンダになら使わせてもいいと思うけれど、それだと負担が凄くなるかもしれないぞ。他に教えてもいいかなって人間は、今のところはレイシアくらいしかいないな」

 『ケイト先生とかは?』

 「惜しいって感じではあるが、まあ残念ながら教えたいとは思わないな」

 『結構厳しいわね、まあいいわ、私だけでも技術提供をお願いしてもいいかしら?』

 「まあ構わないが、下手をすれば裏の組織とかに誘拐されかねないぞ?」

 『ちょっと! 怖いこと言わないでよ・・・・・・。でもそういうことも、実際にありそうなの?』

 「まあ、ステータスの有効性がわかって、それがどう転ぶかってところでそういう騒動も起こるだろうな」

 『だから公開したくないって事になるのね?』

 「まあな。ギルドの場合は、ステータス関係の独占で、変な特権階級とか作りそうだしね」

 『そうね、逆らえばステータスの更新ができなくなるってなれば、逆らえなくなるのか・・・・・・』

 「そうだな。闇の組織の場合は、誘拐して更新しなければ拷問って感じで、自分の組織の強化を企むって感じだと思う」

 『うわー、聞けば聞く程ありそうに思えて来るわね。少し考えてみるわ。バグは一応準備だけしておいて貰えるかしら?』

 「わかった」


 そのしばらく後のこと、ギルドに依頼を見に行くと、緊急依頼を発見した。

 内容を見ると、この町の近くの平原に突然穴が開いて、そこからモンスターが出て来ているという話だ。

 今はまだ入り口での攻防になっているのだけれど、穴の奥にどれ程のモンスターがいるのかがわからないので、調査と討伐をするという内容であった。

 ちなみに共闘する訳ではないのだけれど、複数のパーティーを募集しており、穴の攻略は早い者勝ちって感じらしい。

 「緊急依頼を受けたいのですが、他のパーティーはもう出発していますか?」

 レイシアは、受付で依頼手続きをしながらそう質問した。

 「朝一で出発しているパーティーもいますので、何組かのパーティーは既に穴に入って行っていますよ」

 「そうですか、じゃあ急いでいかないとだね」

 「行ってらっしゃいませ」

 受付に見送られて、僕達も早速穴に向かった。

 そして、外にはモンスターが出て来ていないのを確認し、中へと入って行く。

 出入り口は、掘られたばかりのような感じで、地面が軽く踏み固められた感じ。

 ここも、他のパーティーが既に突入しているからか、敵などの姿が見当たらなかった。道なりにそのまま進むと、十字路になっているところへと出た。足跡から判断するとどこも人が通った形跡がある。どっちに進むかは運任せだな。

 「とりあえず、全部を回るか。最深部を目指すかどっちがいい?」

 僕は調査スキルによる地図を見ながら、レイシアの考えを聞くことにした。穴の中にいる敵などは、そこまで強くなさそうなので、この依頼はレイシアにほぼ丸投げでいいかなって考える。

 ただ、レイシアは方向音痴なので、ちゃんと誘導しなければいつまでもぐるぐる回って、出て来られなくなる。カーナビのようにばっちり誘導してあげよう。

 「じゃあ、できるだけ敵を倒せる方向で」

 ふむ、経験値稼ぎってことか。

 「じゃあ、まずは左から行こう」

 「わかった」

 僕達は短いやり取りで方針を決めて、なるべく敵との遭遇率の高い場所を移動していった。

 途中で他のパーティーとかとすれ違う時もあったのだけれど、特に揉めることもなく無難に? やり過ごせる。

 「おお! 孤高の乙女も来ていたのか。お互いがんばろうな!」

 こんな感じだった。

 もうこの町ではレイシアのことは知れ渡っているのかもしれないな。まあ異形討伐は、全部こっちに来ているみたいなので、それも仕方ないのかもしれないけれど・・・・・・


 そんな中、ふと隠し部屋があるのを発見した。

 ただし、その部屋にはどこからも扉などがなくて、完全な密閉空間になっているみたいで、中にはぽつんと人がいるようだった。

 「変な場所がある」

 どうするのがいいのか判断ができなかったので、レイシアに相談することにした。

 「どんな場所なの?」

 「まず、密閉された部屋で、出入りする為の場所がどこにもない。隠されているとかそういう意味じゃなくて、その部屋に通じている通路自体が存在していない。でも、そんな部屋の真ん中に、人間がいるみたいだ」

 「それは、確かに変ね。バグなら転移で行けるのでしょう? もしかして誘われているとか?」

 「いやそれだと、僕を誘う為だけに、このダンジョンを造った感じになるじゃないか」

 「後回しにして、とりあえず依頼の討伐を終わらせる?」

 「そうだな、じゃあ先に討伐を済ませるか」

 あまりにも奇妙過ぎるので、僕らは保留にしてモンスターを探すことにした。

 どれくらいの時間が経過したのだろうか。穴の中のモンスターをほぼ倒しつくした後、ここにはお宝になりそうな物が何もなく、本当にモンスターのみがいる、そういう場所だったのがわかる。

 特に遺跡とかではなかったみたいで、最近になって急遽掘って造られたみたいな洞窟だった。

 「さて、一応は全部回ったみたいだけれど。隠し部屋はどうしようか?」

 「念の為に行ってみる? 中にいる人は、まだそこにいるのかな?」

 「いるみたいだな」

 「じゃあ、とにかく話を聞きに行ってみましょうか」

 「わかった」

 そう言うと、レイシアを連れて隠し部屋へと跳んだ。


 「タイムストップ」

 部屋に入った瞬間に聞こえて来たおそらく時間を止める魔法に、しまったって思った。だけれども、魔法の抵抗に成功したのか、僕は動ける事を確認できた。

 「ようこそ隠し部屋に。江本隆志君を歓迎するよ」

 そして部屋の中を確認する前に聞こえたその言葉に、びっくりして相手を見た。

 少し小柄な人間と思われる人物が、真っ黒な全身鎧を着込んでいる。まあ、相手の姿形はどうでもいい、何故僕の名前を知っている?

 「順を追って説明していこうか・・・・・・まずこちらには、今現在において君にして欲しい事も、望む事もない。その上で、今後この世界で生きて行くうえで、気が向いた時に私の元へ来ることを望む。時期は十年後でも、二十年後でも、百年後でも構わない。君にとって、この世界が不愉快なものになったのなら、私の主の仲間になりに来て欲しいという、スカウトかな」

 スカウト、なるほど。

 僕について、何もかもを調べているってことだろうか?

 ひょっとしたら、こいつもステータスを確認とかできるのかもしれない。それならば、名前なども知ることができるだろう。

 「何故僕を選んだ」

 強敵かもしれないと、周りを窺う。

 下手をすれば、魔王とかその手の者かもしれないな。レイシアは、初めの魔法で石の様に固まったまま動いていない。部屋の中は、急遽作られた穴の中とは違い、綺麗な造りをしていた。

 「もう予測できているようだね。今の魔王様には、手駒となる者が存在していない。皆騙し討ちで殺されてしまったからね。だから相応の実力者を探しているといえばいいかな? まあ、はっきり言ってしまえば、嫌なら来なくても構わない。その娘とどう過ごして行くのかはわからないが、好きなだけこの世界を楽しんでみるといいだろう」

 こいつが魔王の手下か何かなのだとしたら、言っている意味がよくわからないな。

 それになんだか魔王、魔族らしさが見当たらない。邪悪な気配や殺意、敵愾心、そういったものを感じない。

 「もう行っても構わないのか?」

 「ああ、今日は顔見せに来ただけなので、行っていいよ。次に会う時は、味方か敵かになるだろうけれどね・・・・・・それでは、今回の人生が、悔いの残らないものになることを祈っておくよ」

 男はそう言うと、まるでそこには元々いなかったかのように消えていなくなっていた。

 「綺麗なところだけれど、誰もいないね」

 後ろから聞こえて来た声に、レイシアにかかっていた魔法が解けたことを理解する。

 「何もなさそうだから、帰ろうか」

 とりあえず拠点へ帰ることにして、そうレイシアに話しかける。

 どうやら、魔王ルートはなくなってはいても、魔族の一員になって人類滅亡しようってルートは残っていたらしいな。

 今はそんなこと、微塵も考えていなかったけれどもね。それでも勇者サイドに回ったとしたら、いずれあいつと戦わなければいけないということはわかった。

 正直、勝てる気がしない。

 どっちサイドにも行かずに、のんびりと暮らしていきたいと思う僕がいた。


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