生産職の本気
僕達は観光しながら拠点の自分の部屋の環境を整えたり、ちょっとした依頼をこなしたりして、四日程を過ごしていた。
拠点全体の強化や模様替えとかいろいろパペット達にやらせてみたら、凄い勢いで立派な拠点へと作り変えて、美術品みたいな置物みたいな物まで配置したりしていた。生産者って半端ない!
思わず呆れてしまう程、内装は豪華なものになっていたよ。
もういっそのこと、こいつらでダンジョンとかでも作ったらいいんじゃないのかな?
なんなら魔法生物を生み出す水晶とかでも作れば、モンスターも配置できるし・・・・・・そんな風に思っちゃったよ。
まあそんな事をしたら、魔王ルート一直線だろうけれどね・・・・・・
とりあえず自分の部屋は、納得できる感じに仕上がったので、共同スペースの方は好きに弄らせておこう。
後々の為に、好きなだけ生産できる環境を整えてあげれば、あいつらも落ち着くはずだ。
ちなみにレイシアの部屋は、使えるものは使えとでもいうようにパペットに注文しまくったベッドとか、そういうのが配置されている。俗に言うお姫様ベッド・・・・・・。天蓋が付いているやつだな。
箪笥とかも、装飾が凄く高貴な感じの白塗りの箪笥だった。パペット達も嫌がるどころか、ノリノリで作っていたよ・・・・・・
僕は生産向きだとか前に思ったけれど、あれが本物の生産者だって思ったね。とにかく妥協しないのだ・・・・・・
まあ、そんな部屋に仕上がっている。
今は部屋も共有スペースも大体仕上がって落ち着いたみたいなので、冒険活動の方、依頼を受けて移動しているところだった。
今回の依頼は久々の大物で、レイミーが大きくなった感じのモンスター、ようはでかい恐竜退治に来ている。
緊急ではないらしいのだけれど依頼額はなかなかよかったので、経験値稼ぎもかねて受けることにした。僕はなるべく手を出さないようにして、今回の依頼は進める予定だ。
前はパーティーとか組んでいて人目があったので、手を出さなかったのだが、ソロになってちょっと手を出し過ぎているのかもって思ったのだ。
だから僕無しで、どこまでできるのかを確かめる意味でも、大物をレイシアだけで倒しに来てみた。
依頼にあった森まで町からユニコーンに乗って十四日目、今までで一番の遠出の依頼なのかな? 毎日拠点に帰って温泉に入っていたりするので、疲れもしないで移動できて準備は万全だったりする。
「召喚、ウルフ」
まずは狼での探索が始まった。
ちなみに、頭にシルバーって付けていないけれど、出て来ているのはあの子達だったよ。
森に入って一日目は、出会うモンスターが雑魚ばかりで途中で拠点へと帰還した。
二日目はちょっと大きめのやつとかも出て来ていたけれど、目的の恐竜ではなかったので、素材などを回収してそのまま拠点で二泊目を過ごした。
三日目こそはと気合を入れて探索に望んでみると、どうやら手がかりを発見したようで早速追跡が始まった。
レンジャーの能力はないので、隠密行動みたいなものはできなかったけれど、狼が風上に行かないように移動してくれたので、何とか見付からないで恐竜を補足する事に成功する。
「拠点魔法陣! 召喚、クインリー。召喚、フェンリル」
防御を固めつつ、先制攻撃が始まった。
クインリーと、フェンリルが魔法で恐竜のHPを削って行く。まだこの段階では恐竜は元気一杯で暴れていた。見ていたところ攻撃の威力が足りないのと、手数が微妙な感じだな。
しばらくしてレイシア本人も参加して魔法を撃ち込んでいたのだけれど、手ごたえがあまりにも少ないからか、ちょっと余裕がなくなってきた感じ。
「召喚、アイスゴーレム!」
まだまだ押されていないけれど、長引きそうなので新たな下僕が参戦して行く。
数は三体で、恐竜に取り付こうとしてみたり、そのまま殴りかかったりを三方向からおこなっている。
手数としては適切な感じになったかな。恐竜の硬い鱗に、どこまでのダメージが与えられているのかが、疑問なところだけれど攻撃手を氷で固めているので、冷気で動きを鈍らせる目的は上手く行っていそうな気がする。
まだまだ始まったばかりって感じで、油断はできないけれどね。
恐竜は正面で戦っていたクインリーを中々倒せなくて、次第にじれて目標をレイシアに切り替えて突撃を仕掛けて来た。
ここからは中盤って感じだな。
クインリーが行かせまいってするのだけれど、相手が巨体過ぎてとうとう振り切られてしまう。ゴーレム達も取り付いていたけれど、そのまま引きずられてしまったようだ。さすが恐竜力持ちだな!
ガン!
恐竜は魔法陣に激突して弾き飛ばされたのだけれど、今まで強固だった魔法陣も微かに揺らいだのがわかった。
このランクの敵になって来ると、レイシアの魔法陣も絶対安全ではなくなって来るみたいだな。
レイシアもちょっとびっくりしているね。
それでも動きの止まった恐竜に、追いついた下僕達がまた攻撃を始めたので、少しずつでもHPは削れていると思う。
「永久に凍れ、アイスボール!」
中盤戦、魔法陣が破れない恐竜は幾度もの氷系攻撃に晒され、体温低下による動きの低下が目に見えてわかって来た。
そこまで来たら、もう終盤だな。
後は油断しないで、逃がさないように行動すればいずれは勝てるだろう。
「召喚、ゴーレム」
レイシアは止めを刺す為に、さらに三体のゴーレムを投入した。
アイスゴーレムは体に取り付いて動きを封じ、ノーマルのゴーレムが殴り込む。
フェンリルも魔法から直接攻撃へと攻撃方法を切り替え、喉元に噛み付いていた。
HPの低下によってか巨体がふらついて横倒しになり、今まで動きを押さえることを優先していたアイスゴーレムも、攻撃に移りここで全力攻撃。無事に討伐が完了したのだった。
「お疲れ様!」
「ありがとう!」
討伐部位の回収が終わって、拠点にて休憩しながら今回の反省会&お疲れ会を始めた。
ここならモンスターが襲って来ることもなく、ゆっくりとできるので、疲れを癒しながら会話などができる。
「まずは反省点かな。おそらくだけれど、クインリーは以前の実力でも召喚できていたので、最大級のモンスターではないと思われる。常に自分が呼べる最大級のモンスターを理解しておくことは、戦術の基本になると思うので、普段から属性毎に呼べるモンスターなどを調べておくことをお勧めする。
次に相手によって複数の下僕獣を呼ぶのか、最強の一体だけを呼ぶのか、そういう判断も普段からやっておくのがいいかと思う。後は大分能力も上がってきているだろうから、使える攻撃魔法と支援魔法、強化魔法を確認するといいかもしれないな」
「そうね、じゃあ早速だけど、ステータスの更新お願い」
「わかった」
ついでに自分のも見ておくかな。
《名前 バグ 種族 シャドウエレメンタル 年齢 2 職業 魔導王
LV 75-76 HP 4691-4713 MP 9006-9036
力 219 耐久力 583 敏捷 589
器用度 227-228 知力 914-916 精神 1926-1929
属性 火 水 土 風 闇 生命 無
スキル 捕食+生命吸収-吸収 腐敗 肉体変化 分裂 無詠唱 自動回復 状態耐性 憑依 影渡り 調査 眷属作製 合成魔法 魔生物創造 鍛冶 木工 裁縫 細工 魔法耐性》
名前 レイシア 種族 ヒューマン 職業 魂術師
LV 46-49 HP 269-294 MP 581-633
力 31-32 耐久力 27 敏捷 52-53
器用度 63-64 知力 97-100 精神 86-89
属性 火 水 土 風 光 闇 生命
スキル 錬金術 無詠唱 指揮官 召喚武器 調理 上位変換(無生物) 進化 部隊召喚 拠点魔法陣 意思疎通(動物) 意思疎通(植物) 食材召喚 亜空間 待機魔法
なんだかスキルが統合された? スキルが結構増えて来たから減らそうとか、そういうことかな?
でも吸収って、今までのと何が違うのだろう? 今度調べてみないとだな。
そしてレイシアも、スキルが増えているな。
「待機する魔法って、何かしら?」
「普通に考えると、魔法を使って直ぐ放つのではなくその場で維持しておいて、後で放つとかそんな感じじゃないか?」
「なるほど、使い方次第では、使えるのかしらね」
「そうだな、ちょっと特訓みたいなのがいるのかもしれないな」
さっきの反省会でも言っていて思ったのだけれど、ちょっと聞いておくかな。
「後、聞きたいことができたのだけれど、いいかな?」
「何?」
「ちょっと前にも思っていたのだけれど、この世界に存在するモンスターを、全部載せた本みたいな物ってどこかにないかな?」
「本ね。まず一般には販売とかされていないわ。ギルドや王立図書館で見ることはできるかもしれないけど、完全版は見られないかも。ギルドで持っている場合は、一部のモンスターだけかもしれないかな」
やっぱりこの世界はそうそう情報を集めることはできないか。
もういっそうのこと、自分で情報収集の魔法生物でも創ってしまうか? その場合は、相手のLVを上回る魔法生物を創らないと、情報集めは難しいだろうけれどね。
まあ、何かしら後で考えてみるか。
「後はゆっくり調べて行こうか」
「そうね、そろそろお腹も空いて来たし今日は疲れたからギルドで報告して、ついでに食堂でご飯でも食べましょうか」
「そうだな、じゃあ行こうか」
僕らは討伐場所ではなく、レイシアが泊まっている部屋に移動した。拠点を経由することで、再移動場所を変更することができるのだ。
僕なら影で移動するので、拠点に寄らなくてもいいのだけどね。
レイシアの場合、一度拠点に移動して戻る時に、先に指定しておいた所へと移動できる。
移動できるところに宿屋を登録しておかなければ、できなかった技ともいう。ちなみに学校も登録されているので、木のところへと飛ぶことはいつでもできる。
僕らは宿から出て、ギルドへと向かった。
到着したギルドはいつもよりちょっと騒がしい雰囲気で、職員の一部は忙しそうに走り回っている。緊急依頼でも出ているのかもしれないね。
レイシアもそう思ったのか、依頼の張り出してある場所へと移動して、緊急依頼を探した。
だけれども、特にそういう依頼は張り出されていない。まだ依頼にする程の情報が集まっていない、これからって依頼なのかもしれないな~
「先に、依頼完了でいいんじゃないか?」
「うん、そうする」
レイシアは依頼完了を報告する為に、受付へと向かった。
「依頼を完了しました、こちらが討伐部位になります」
「確認させてもらいます。確かに、報酬を用意しますのでお待ちください」
男の受付の人は、そう言うと奥に一旦移動した。
ちょっと長めの待ち時間があって、受付の人は戻って来る。新人さんなのかもな~
「お待たせしてすみません。こちらが今回の報酬になります。それとレイシア様には、共闘依頼での追加報酬があるみたいなのですが、今は時間大丈夫でしょうか?」
レイシアは受付に見えないようにお腹に手をやっていた。副音声を当てるのならご飯食べたいだな。
「ええ、構いません」
「では、応接室へご案内しますので、こちらへ移動をお願いします」
受付の人に案内されて、僕らは移動した。
レイシアは、未練がましく食堂の方へと顔を向けた後、大人しく従っていたけれどね。
応接室でしばし待たされた後、以前共闘依頼で現場指揮をしていた人が部屋に入って来た。
「待たせてすまんな。わしもこういう面倒なのは、あまり好かんのだか、どうしても形式に拘るやつが多い、とりあえず、追加の報酬を渡そう。確認してくれ」
レイシアが大人しく受け取って結構多いと、ボソリと呟いていた。
「で、ここに呼んだのは、それとはまた別の話があるからなのだが、聞いてもらえるか?」
「何でしょうか?」
「多分、薄々気になっていると思うが、今ちょっとした事件が発生している。ギルドから指名の依頼という形で、君に依頼を受けて欲しいっていうのがここに招いた理由だ」
「はあ、それで依頼の内容というのは何ですか?」
何かもったいぶっている感じだな。余程危険な依頼とかなのかな?
「レイシアさんは、ミュンセルンという町で、怪物に変わった村人五人と戦ったというのは、本当の話かな?」
聞いた瞬間その話か! って思ってしまった。
「ええ」
レイシアも、嫌なことを聞いたなって感じの表情を浮かべている。
「奇跡的に逃げてこられた冒険者の話では、森の中の洞窟に山賊二十名がいて、その討伐に向かったそうなんだが、その全員が化け物になって襲って来たのだそうだ。
初めはかなり強いという話だったんで、上級のパーティーの一つが討伐に向かったんだが、どうやら誰も帰って来られなかった。次の討伐では上級のパーティーが共闘して討伐する事になり、参加したパーティーは五つというかなり本気を出した構成であったが、同じく全滅したと思われる」
うわーって気分になったよ。そして同時に、そんなのを相手にしろというのかって気にもなった。
「それを私に一人で行って来いと?」
レイシアも、落胆したような気分でそう言った。
「駆け引きなどをしても、時間の無駄だから答えははいだ。たださすがにギルド内でも無謀過ぎるという意見が出ていて、あんたを含めた共闘パーティーで討伐しようという方向で、話は進んでいる」
他の人がいたら、僕にとっては邪魔だな。かえって足手まといだと思う。
「以前戦って、五人より一人でも増えたら、勝ち目が無いと思ったって言ってくれ」
こうなったら依頼自体引き受けない方向を、模索するのがいいかもしれないな。軽く頷いたレイシアが答える。
「以前に私が戦った怪物はとても強くて、五体だったからぎりぎりで何とかなる戦いでした。それにさらに一体追加ですと、まず勝ち目は無いかと思います」
「ふむ、なるほど・・・・・・では他の冒険者を使って、何とか五体ずつあなたの前に連れて行くのはどうかな?」
思わずレイシアに言った。
「それは他の冒険者が確実に死ぬ上に、確実性が無いって」
「他の冒険者が確実に死んで、しかも確実性が無いと思います」
レイシアがそう答えると、また少し考えた後、再び言って来た。
「現状ではそれ以外の手がないので、できるかどうかではなく、やってもらいたいというのがギルドの方針だ」
つまり捨石にするのも、仕方ないということか・・・・・・
「レイシアがいなくなった後の事を聞いてくれ」
「私が死んだ後は、どうするつもりですか?」
「その場合は、総力戦になるな。初心者でも前線に出てもらうことになる」
何が何でもやらせるって感じだな・・・・・・
「国にでもやらせろっていうのはどうかな?」
「でしたら、軍隊を出してもらうのは?」
おそらく駄目だろうなと思いつつも、そうレイシアが聞いてくれる。
「国にも掛け合ったが、今は忙しくて、兵を回せないと言って来た」
「では、私が拒否したら?」
「それはあまりお勧めできんな。他の冒険者から恨まれるかもしれんよ」
逃げ道が防がれたか・・・・・・
じゃあ、僕一人で戦うのが一番かもしれないな。
とりあえず、他の冒険者は邪魔だからいらないって言わないとだな~
「ここまでの状況だと、もう他の冒険者は邪魔なので、単独で行かせて貰うって言ってくれ」
レイシアが微かに震えて、頷く。
「状況が酷過ぎるので私だけで行きます」
「一人で大丈夫だと?」
レイシアは、苦笑いしながら答えた。
「大丈夫じゃなくて、どっちも変わらないです。場所はどこですか?」
現場指揮官は、地図を取り出してここだと指差した・・・・・・
僕達はそれを確認した後、直ぐに応接室を出て行った。食堂で食事をしながら僕らは話し合う。
「今回は、僕だけで行った方がいいかもしれないな。数が多過ぎる」
「じゃあ、近くまでは一緒に行く」
「まあ、戦わないならそれでもいいよ」
結局、勇者よ魔王を倒して来いって感じになったな。どこで勇者フラグを立ててしまったのか・・・・・・




