生産強化月間
宿屋に帰って来て、レイシアが温泉を堪能している間、僕は拠点に来ていた。
鍛冶、大工、細工は、大体できるようになったけれど裁縫がほとんど手付かずなので、そっち系の魔法生物などを創造しようと思ったのだ。
まずは素材について、蚕のような虫とかを探すのは難しいかと思い、もう自分で魔法生物として創っちゃった方がいいかと思ったのだ。アラクネ達を見ながらそんな事を考えていたよ。
「魔生物作製!!」
現れたのは、木できた蜘蛛のような生き物。蜘蛛パペットという感じかな?
イメージとしては、森などに行って植物などを食べ、それを体内で分解さまざまな糸に作り変える。作る糸の種類によっては、食べるものを動物に変えたりもするって感じかな。
それで戻って来た拠点で、糸を排出する。一応周りの魔力を吸収して、魔力を乗せた糸なんかも作れるように考えてみた。
さてイメージ通り機能してくれるかどうか、とりあえずご飯を食べさせる為に外へ行かせよう。
その間に、糸だけでは駄目なので、今度は同じような魔法生物の創造だ!
「魔生物作製!!」
イメージは羊。蜘蛛に似て今度は草原で草を食べ、綿毛を育てる羊型パペット。
こっちも今は丸裸なので、まずは草原でご飯を食べて来させる。上手く行くといいな~
まずは素材作りの子達の創造はできた、上手く行っていたら量産して、一杯加工できるようにしよう。
そして今度は加工用のパペットを創らないとね。
「魔生物作製!!」
初めは鶴の恩返しとか考えて鶴って思ったのだけれど、あれって童話だから機織できていたけれど、普通に翼では細かい作業ができなくて裁縫仕事に向いていないよな・・・・・・
危なく無意味なパペットを創るところだったよ。
だから捻りもなく女性型のパペットをイメージした。今まで作ったパペットに比べてちょっと繊細かなって姿に、髪の毛みたいなのが生えていた。
これで魔法生物の創造は完成かな。後はこの子が加工に使う、機織機とか編み棒かな。
ドワーフパペットに指示を出し、わからない機構部分は、魔力で加工を促がすようにした。
後は、素材が集まってからだなっと思っていると、女性型パペットが暇そうにこっちを見ていた。
「ごめん早く創り過ぎた・・・・・・蜘蛛達が帰って来たら、とりあえず糸束と布の生地を作るようにしてくれ・・・・・・」
じっとこっちを見ていたパペットに、無計画過ぎたなとちょっと心苦しく思った。
創造されて生まれた道具のような存在であっても、自我というのか使命というのか役割を持たされて出来た彼ら彼女らは、何かしら役に立とうとがんばってくれる。
創造した者として、満足してもらえるように仕事を与えていかないといけないな・・・・・・
蜘蛛と羊はその後、かなりの時間をおいてやっと帰って来て、蜘蛛は予定通り糸吐き出し羊も毛で丸々としていた。
あー、蜘蛛はいいけど、羊は毛を刈らないといけないじゃないか・・・・・・
ここはやっぱりバリカンか?
まあとりあえず、道具はちょっと待ってもらって先に蜘蛛を量産するか。素材作るのにそれなりの時間がかかりそうなので、三十匹程作っておこう。
「魔生物作製!!」
・・・・・・創った瞬間、アラクネの大群思い出したよ・・・・・・
わらわらといると、気持ち悪いな。羊も先に作っておくか。ついでだしね。
「魔生物作製!!」
羊は控えめの十匹にしておいた。さてパペットが、早く仕事くれって感じに睨んでいるので、バリカンを作って毛を刈ってもらおう。
まあ目が無いので、そんな感じって思うだけだけれどね。
ゴーレムと協力してバリカンを作製した。それをパペットに渡すと、早速ガリガリとやり始める。何気に女性パペットって考えたからか、プレッシャーが半端ないな・・・・・・多分怒らせると怖い。ヤンデレじゃないことを祈ろう。
ある程度切りが付いてのんびりすると、レイシアが温泉から帰って来たので、一度戻ることにした。
今まで女性とはあまり関わって来なかったので、詳しくイメージはできなかったとは思う。それにしても見た目はばっちりって思ったのに、何であんな性格に出来てしまったのだろう?
裁縫なので、大和撫子って感じのイメージだったような気がするのだけれどな~。そんな事を考えていた。
「バグ。そういえば、バグの拠点に温泉って出来たの?」
「ああ、出来たぞ」
「一度、拠点を見せてもらってもいい?」
「多分いいと思う」
「何で多分?」
レイシアは首をコテンって傾けてそう言って来た。
実のところ、前回の空気の無い空間にしてしまったことで、僕自身予測がつかいない環境じゃないのかって心配なのだ・・・・・・。まあ、ここは正直に話しておくべきか? 覚悟がいるしな・・・・・・
「拠点を作り始めた頃なのだが・・・・・・深く考えていなかったこともあって、拠点内の空気が無いことに気が付かなかったのだよ」
「それって、拠点に行ったら死んじゃうってこと?」
「前はな」
「今は?」
「今は空気を創る木を持って来た。だけど、見落としがそれだけってこともないかもしれなくてね。ちょっとばかりお勧めできない」
「さすがに勇気がいるわね」
「だな」
「でもいつかは行きたいって思っていたし。危なかったら直ぐ戻してくれるなら行ってみたいよ」
「うーん、じゃあ行ってみるか?」
「行きたい!」
おそらく、問題は空気だけだよな? 何かやばかったら即魔法を使おう・・・・・・そう決心して、いよいよレイシアを拠点へと転送するのだった。
「結構広くて、いろいろ物があるのね」
「ああ、体とか問題なさそうか?」
そう聞くと、レイシアは深く深呼吸してその後体を動かしたりして、頷いてから返事した。
「大丈夫みたい。空気もなんだか新鮮な気がするよ」
おお、トレントの眷族がばっちり働いてくれたようだ!
トレントよ、褒めてやるぞ。
そう思っていると、部屋の隅に置かれた鉢植えのトレントが、嬉しそうに揺れた。
あー、こっちは魔法生物じゃなくて、眷族だから心が繋がっているのか。ふむ、もう一度そっちを見ながらよくやったって感謝しておく。パペットも、繋がりがあるからこっちの意思とかは伝わっているみたいだな。
「部屋も幾つかあるのね。それにゴーレムとか、パペットがいる。後、羊と蜘蛛?」
「こいつらは、ここで生産をしてもらっているのだ。レイシアが持って行ったパペットに渡した剣とか。このゴーレムが造った。後フライパンとか鍋とか」
「へ~」
「あっちにいる丸いパペットは、木工や細かい細工とか作っている。で、あそこで羊の毛を刈っているのが、さっき創った子で、裁縫系をやらせようって思って今、準備しているところかな」
「あ、この部屋は工房なのね」
「ああ、奥に資材部屋がある。後でこいつら魔法生物の待機部屋みたいなのを作ろうかなってちょっと考えているかな」
「へ~。あ、それで温泉は?」
「それはこっち」
レイシアが覗き込んでいた工房部屋から離れ、一番最初の部屋であるリビングから行けるお風呂場に案内した。
普段は温泉探しとかもさせているパペットが、今日は中にいたようだ。丁度いいから紹介もしておくかな?
「このパペットは温泉が枯れた時とかに、他のところと繋げて常に入れるように、風呂を管理しているよ」
「おお! ほんとに温泉作っちゃったのね~。今度から使わせてね」
ふむ。入り浸るとかだと、僕が寝ていたりした時がやばかったりするのかな?
魔法生物達の家の他にも、僕とレイシアの部屋でも造るのがいいかもしれないな。よし、今度作っておこう。
「じゃあ、ちょっと待っていて、転送用の水晶作って来る」
そう言うと、資材置き場からお手頃な水晶を取り出しそれに魔法をかける。
効果は以前、学校に配置した水晶と同じで、僕とレイシアに反応してここに送り込む魔法だ。
魔法のかかったそれを、ゴーレムに渡し開閉できるケースを作ってもらう。ドワーフパペットには、それの装飾とネックレスになるようにチェーンを作らせた。
これで水晶の入ったロケットのペンダントが出来上がる。
まあ作業が大変なので、少々時間はかかったけれどね。せっかくなのでドワーフパペットには、このチェーンをいろいろなサイズとかで生産してもらおう。何かで使えるかもしれない。
ちょっと生産で時間がかかっている間、レイシアは温泉に入っていた。まだ布系の生産が始まったばかりだからタオルとか無いよ・・・・・・それもいずれ作らないとだよな~
まあそんな感じで無事レイシアに、拠点を初お披露目ができた。
そういえば、女性を家に呼ぶとかそういうイベントには縁がなかったな。まあ彼女とかではないので、そこまではドキドキしないですんだよ。
あるいはこのドキドキは、人が暮らして行ける環境だったことのものかもしれないな~
拠点から戻ってレイシアが部屋で寝ている間、僕はまず魔法生物達の為の広場を作った。
イメージは草原。ここは地下なので、ところどころに柱を作り、なるべく広い空間で造ってみた。
芝生のような草を配置、これは一部でこれから増やしていって、この部屋全体に行渡らせようと思っている。一応羊の餌にもする予定。
そして奥の方には、種類の違うさまざまな草を植える予定。こっちは蜘蛛が食べる用だ。ある程度はここで管理したいな。
その為の園芸用パペットを作ろうと思っている。いや、それよりも何かしら、人間に化けられる眷族がいいかな? そんな都合のいい眷属は手に入らないか・・・・・・
まあ、初めはパペットにお願いしておこう。
資材が一杯で暇がある時とかに、伐採していたやつがここの栽培をしたら丁度いいかもしれないな。ここなら、伐採後の苗木も作れそうだしね。
じゃあ、ここの出入り口近くに場所確保してもらって、ドワーフパペットに自分達の家を建てさせよう。蜘蛛と羊は草原で生活させればいいからな。まあ、パペット達に家とか部屋が必要なのかは疑問があるけれど、一応人権のようなものは守ってやらないとだよな。
後は自分達の部屋を造るかな。
こっちはリビングから行けるようにするのと、扉を開けられるのは自分だけって感じのセキュリティでいいかな。緊急時は女性型パペットのみ入室を許可にして、後は本人が招けば中に入れる感じで十分だろう。
内装はとりあえず、リビングにあるベッドを自分の部屋に運び込むくらいにしておいて、後は今度かな。
一応落ち着いたので、今日はこのまま眠ることにした。
翌朝、僕らはギルドへといつもの依頼を確認しに移動した。そうすると、声をかけて来る人がいたよ・・・・・・
「孤高の乙女レイシアさん、おはようございます」
「おはよう」
呼び名付けると、長いな! 何でいちいち呼び名付けるのだろうか?
この世界の人の、ノリみたいなやつなのかもしれないな。
「共闘依頼の際は、お世話になりました。こちらはパーティーだったにもかかわらず支援していただけて、その上朝食までほんとにお世話になりました」
そういえば、左側にいたパーティーのリーダーだったか? 名前は確か、ビルスだったかな?
「いえいえ」
「お世話になりっぱなしでこんなことを聞くのも、申し訳ないのですが・・・・・・あの時使っていた料理道具って、どこで売っていた物なのか教えてもらえませんか?」
「鍋ですか?」
「いや、鍋の下で火を出していたやつとか、水の出るやつとかです」
「あれらは、特注品なので売っていませんよ」
「じゃあ、作製者の情報を売ってもらうことはできませんか?」
「そっちは、絶対に無理かも」
魔道具の取引か・・・・・・そういえばブレンダに会っていなかったから、魔道具とかの値段とか全然把握していなかったな。
これらは売ると、どれくらいの値段で売れるものなのかな?
ちょっと興味はあるな。なので、レイシアにちょっと聞いてみようかなって思う。
「レイシア火を出すやつ、コンロって言うのだけれど、値段付けるならいくらだ?」
レイシアは、少し悩む感じで目の前のビルスに話しかける。
「すみませんが例えばの話し、火が出る方はコンロって名前らしいのですが、あれに値段があるとしたらどれくらいの価値でしょうか?」
レイシアも、わからなかったらしく、そう聞いていた。
「そうですね・・・・・・詳細がちょっとわからないのではっきりはしないんですが、金貨で十五枚くらいではないかと思っているんですが」
「結構高いんですね。例えばその値段で売っていたら、お金はあるんですか?」
「あー、ぎりぎりかな。申し訳ない。」
「一応あれは魔道具なので、もう少し値段がすると思いますよ」
「そうですね今回は諦めます。話を聞いてくれてありがとうございました」
そう言うと、ギルドから出て行ってしまった。
金銭感覚がないからわからないけど、結構な値段で売れそうだな~
ギルドで鑑定とかしたらどうなのだろうな? 確か遺跡とかの魔法のアイテムとかを鑑定する仕事もしていた気がするし、試しに聞いてみるのも面白いかもしれないな。
「レイシア、コンロをギルドで鑑定してもらうのって、できるか?」
「多分できると思うよ、鑑定料を取られるかもしれないけどね」
「あー、タダじゃないのか、じゃあパスかなー」
「それなりに稼いでいるから、鑑定料くらいは問題ないと思うけれど、どうする?」
「知ってみたいって気持ちはあるかな」
「わかった、ちょっと頼んでみるね」
そう言うと、レイシアは、受付へと向かった。
「そういえば依頼はいいのか?」
「お金に困ってはいないから、一日くらいは問題ないよ」
「そうか、じゃあ頼む」
そう言うと、レイシアが嬉しそうに微笑んで、ギルドの受付に移動して行った。
「すみません、鑑定をお願いしたいのですが、いいですか?」
「はいはい、品物はどういった物でしょうか?」
「えっと特注で作られた魔道具なのですが、価値が知りたいので値段を出してもらいたいのですが」
「なるほど、では鑑定課の方へご案内しますね。付いて来てください」
そう言うと受付の女の人が案内してくれるようで、階段を上がって、ギルドの二階にある一つの部屋の前まで案内される。そして扉を開いて中へと声をかけていた。
「鑑定依頼お願いします~」
そう受付の人が言って、こっちにも声をかけて来た。
「じゃあ、中へどうぞ」
「はい、ありがとうございました」
中へ入ると、部屋の中はいろいろな物で溢れていた。独特の雰囲気のあるわりと小さな部屋だな。その真ん中に大きなテーブルがあり、男の人が座ってこちらに椅子を勧めていた。
「お邪魔します」
レイシアはそう言うと、椅子に大人しく座る。
男の人は、何やら作業をしているようで、しばらくはそのまま待っていた。
少し時間が経ち、切りが付いたのか男の人がアイテムをしまってこちらに話しかけて来た。
「お待たせしたね、早速鑑定したいアイテムを見せてくれるかな?」
「はい、これです」
レイシアは持っていたコンロを、テーブルに乗せる。置かれたアイテムを男は見ながら話しかけて来る。
「これは出土品ではないね、どういったことを鑑定したいのかな?」
「えっと、これは知り合いに特注で作ってもらったものなのですが、その人がこのアイテムにどれくらいの価値があるのか、知りたいというので値段がわかればと思って来たのですが・・・・・・」
「なるほど、では使い方などは把握できていますか?」
レイシアはアイテムの使い方を、その人に伝えて、僕達は鑑定結果を待つことにした。
それなりに待たされた後に、僕らは鑑定の結果を聞く。
「えっと大体金貨にして、四十枚から、五十枚の価値になると思われます」
という評価が出た。
ただ残念なことは、その金額が高いのか安いのかの判断ができないってことだった・・・・・・
鑑定料を支払った後受付に戻って、簡単な依頼を受けてそっちに移動している間に、値段について話を聞くことにした。
「結局、コンロは高かったのか? いまいち物の価値がわからなくて、ピンと来ないのだけれど」
「金貨四十枚だとして、一般的な宿泊施設だと銀貨一枚くらい。金貨が一枚で銀貨百枚なので、四千回宿に泊まれるかな。ご飯を付けるともう少し値段行くんだけれど、大体何もしなくても五年から七年くらいは、仕事をしないでも暮らしていけるかもしれないね」
「おー、大金だな!」
「だね」
「レイシアって、単独でドラゴン倒したりしているのだから、もう依頼受けなくてもいいくらいは、お金稼いでいるのではないのか?」
「うーん、多分そうかもしれないね。でも体が鈍ったら、いざお金が必要になったって時に稼げなくなるよ」
「確かに、ごもっともです」
なるほどね。そこまでセコセコお金を稼がなくてもいいけれど、いざって時の為に稼ぎつつ、体も鈍らないようにってことか。ほんとに大人だな!
そして魔道具を売れば、いくらでもお金が稼げるということもわかった。
そんな事を話しながら、僕達は特に苦労もしない依頼を終わらせるのだった。




