温泉の町、ポロリはないよ
「孤高の乙女 レイシアさん、領主のデュッセマーニさんがお呼びですよ」
ギルドでそう声をかけられたのは、あれから一週間も後の事だった。
もういい加減、領主のことは、忘れて移動しようかと話し合っていたので、やっとかと思ってしまった。まあ、やっとお声がかかったことだし、さっさと報告を聞いて、温泉へ行こう。
そんな感じで、僕達は領主の屋敷へと向かった。
「冒険者のレイシアです、失礼します」
そう言って、レイシアは応接室に入った。
「お待ちしていました。こちらへどうぞ」
そう領主に言われてソファーへと座る。
「あの村へと向かった冒険者と、様子を窺いに行った兵士の遺体が、村の周辺で発見されました。村に住んでいた者達も、遺体で発見されたのですが、五人程行方がわからなくなっているようです。おそらくその五人って言うのが、あなた方が見たというモンスターになっていたということですね」
「そうだと思います。以前山賊の討伐依頼でも、頭と呼ばれていた者が目の前で怪物の姿に変わりました。今回見た怪物も、それと似た姿をしていましたので」
「そうですか。それでは何かその変化について、わかることはありませんか?」
「残念ながら、前触れと呼ばれるものも、特に気が付きませんでしたので」
「わかりました。では今回の危険手当についてですが、脅威度がどの程度なのか詳しくわからないものなので、とりあえず妥当と判断した金額を用意させてもらいました。そしてこれからのことなのですが、同じような怪物が現れた時の為に、しばらく専属で雇われる気はありませんか?」
「申し訳ないのですが、私は別の町に行く予定ができてしまったので、お断りさせていただきます」
まあ僕らの予定って、遊びだから緊急じゃないのだけれどね~
「ちなみにその予定は、変えることができませんか? 依頼という話ならこちらの方からギルドの方へ連絡をして、別のパーティーへ変えてもらえるよう話を付けることができますが」
「いえ、ギルドは関係がない予定なので申し訳ないですが、今回はここまでということで」
「そうですか。残念ですが仕方ないですね。ちなみに、行き先を聞いてもかまいませんか?」
「かなり南の方まで行く予定です」
「そうなると、緊急事態になったとしても、直ぐは戻って来られないということですね?」
「そうなります」
「ではいつかでかまいませんので、機会があればこの町にも立ち寄ってください」
「わかりました。ではまたいつの日か」
結構粘られた感じではあったけれど、僕らはその日のうちに町を出て南へと移動を開始した。
南へ進むこと五日目、僕らは拠点魔法陣を展開して野営しているところを野盗達に襲われた。
直ぐに起きて部隊召喚でウルフを召喚してみると、シルバーウルフが二匹と普通の狼が十匹程出て来て、一方的な狩が始まった。
ちなみに野盗の中の一人がこちらに到達したのだけれど、魔法陣の中に入れずに狼に襲われていた。その他にも矢が飛んで来ていたけれど、魔法陣に弾かれていた。
「部隊召喚、かなり使えるわね」
「だな、それとこのシルバーウルフってやっぱり、進化したやつ?」
「ええ、あの子達」
とうとう群れのボスになったのか。お前達も成長しているのだな~
野盗は、ちょうどいいスキルの検証の相手になった。
ちなみにその他のスキル検証だと食材召喚は、確かに呼んだ物が出て来ていたけれど、どこか合成された感じの物が出て来た。野菜の場合、二つ並べると寸分も違いが見付けられなかったり、肉だと赤身と脂身が全然混じっていなくて、赤身に脂身を付けましたって感じだった。
僕らはこれを、謎肉、謎野菜と呼ぶことにした。
ちなみに味は、天然ものより遥かに美味しかったよ。作られた物だとして、それがかえって余計な獣臭さがないということだったのかな? 野菜は癖のある苦み臭みが一切なくて、甘く感じる程だった。
ちなみに調味料なんかも呼び出せたので、塩コショウなどでしっかりと味が付けられたから、普段食べていたものよりも、美味しいご飯が食べられた。
まあ僕は食べなくてもよかったのだけどね。レイシアが一人で食べるのはつまらないとか寂しいとか言うので、一緒に食べるようにしている。
日本で人間をやっていた時は一人暮らしをしていたので、こうやって一緒にご飯を食べるというのは、それはそれでいいものだなって思ったよ。
さらに南の方へ三日程進むと前方に町が見えて来た。今日はここで宿に泊まる予定だ。
ちなみに移動用に呼び出したついでにユニコーンにも進化のスキルを使ったら、角が立派になった。変化といえば後は体がちょっと大きくなったくらいかな。種族名はエリートユニコーンだって。進化してくれたので移動の速度が少しだけ速かったよ。
町で補充する物は今の僕らにはない為、今日は露店などを巡って、一泊だけしてそのまま南下することになっている。
おそらくこの町にもギルドはあると思うが、今回はパスになった。
特に依頼を受けることもなく、予定通り通り過ぎて南下する。
のんびりとユニコーンに乗って移動していると、旅行気分になるな。
まあ仕事がないので完全な温泉旅行ではあるのだけれど、それはレイシアだけで僕の場合は生産活動だった。
それにしても、これから採りに行く金属は、どんな名前なのだろうか?
今でも僕や工房で加工をしている魔法生物達も、自分達の作っている金属がなんなのか、誰もわかっていないという適当さ。壊れなければいいやってノリだった。
温泉のある町へと着いたのは、それからさらに六日程経った後で、レイシアは早速温泉へと入りに行ったようだな。
ならばこちらも珍しい鉱石を求めて、早速山脈へと影渡りする。
いろいろと切り立った山を散策して、よさそうなところでパペットを呼び寄せ、採掘作業を任せると工房へと移動した。
しばらく待っていると新しい素材や、宝石なんかも送られて来る。
鉱石をゴーレムに加工させて、宝石は手先の器用なドワーフパペットに磨かせる。
その間に今回は細工のスキルを使用して、アクセサリーの作製を試す為に、デザインを考えていた。
自分で作ると芸術性のあるものができないので、ここはドワーフパペットに任せる。
最初の作品は指輪にした。まあ正確には僕の作品とはいいがたいのだけれどね。
仕上げは、取り付けた宝石に魔力をこめて、魔法のリングにする。
装備者の周辺に溢れている魔力を取り込み、その魔力を使って身体能力を上げる。
これは常時発動型ではないので、必要なら強化って念じる感じかな。こういう魔法のアイテムって実際の話、どれくらいの価値があるものなのだろうな~
機会があればブレンダにでも聞いてみたいものだな。作った後で、指輪を見ながらそんな事を思う。
レイシアはまだ温泉に浸かっているみたいなので、今度は料理関係の道具でも作るかな。
レイシアは最近野宿をすると、毎回料理を作るようになった。
殺人料理キャラでなかったことが、嬉しい限りだね。だからレイシアが料理するのは歓迎できるので、ちょっと便利道具の作製をすることにした。
僕にも食べさせてくれるから、何かしら手間を省く道具でもと考えていたので、この機会に作ってみることにする。
レイシアも、便利な四次元ポケットを手に入れていたし、いろいろ作ってもかさばる事もないので問題ないだろう。ということで、まずはフライパン。テフロンの焦げ付かない洗うのも楽って、あれを魔法で再現してみる。これが有ると無いとで結構違うよね!
ちなみに大まかな形などを僕が作り、ゴーレムがさらに形を整え装飾をドワーフパペットが施す。
テフロン加工の部分で再び僕が魔法加工をして完成させるという工程を経ていた。フライパンなのに、無駄に豪華なやつができたよ。
お次は火だね。これは水晶をセットして、摘みを捻ると火力調整ができる感じで造ってみた。水晶には魔力が必要なので、四次元ポケットにしまうと、魔力の補給ができないから、もう一つ指輪を作り、そこにはめ込んで普段は魔力を回復させるという感じかな。
今度の指輪は僕が作り、台座をドワーフパペットに頼んだ。
後必要なのは水かな。こっちも指輪でいいや。
ゲームなどでよく魔法の壷などが出て来るので水瓶とか考えたけれど、あれは持ち上げるのが大変そうだと考え直し、もう指輪に(水よ出ろ)って念じたら出るのでいいだろうと考える。
おそらくそっちの方が、使い勝手がいいはずである。
水分なんかは空気中にあるので、それを集める感じの魔道具でいいだろう。まるっきり水分のないところなんか、あるのだろうか? まあ、その時は使えないと思うけれど早々行かないよね・・・・・・
あ! うっかりしていた、冷蔵庫も欲しいな。
これはレイシアの分と僕ので、二つ造ろう。
自分の方は大型の冷蔵庫で、設置型でいいや。レイシアの方は、可愛い一人用の小さなやつでいいかな。
これは水晶を埋め込んで、魔法が使える人が補充するタイプで作り上げる。レイシアのも、魔力を注いで冷却機能を働かせるタイプ。
後は鍋の類を、大きさを変えて幾つか作って終わるかな。
包丁なども欲しいか。ここら辺りの物は魔法を使う物ではないので、パペット達に作らせればいいだろう。
そんな感じで結構楽しんで生産活動をしていた・・・・・・
温泉から出て来たレイシアと合流して、今日の宿屋の部屋へとやって来る。そこで料理道具の数々をレイシアに渡す。
「一杯作ったね~」
レイシアは、嬉しそうにそれらを一通り見た後、触っていった。
どの道具が、どういう風に使うのかも順番に説明していき、終わる頃には大興奮って感じだった。これ程喜んでもらえると、作ったかいがあるってものだな~
その日はそうやって過ぎて行った。
僕達はしばらくの活動拠点を、この町にすることにして、朝起きるとギルドに向うことにする。
何気に温泉付きの宿が気に入ったようで、当分ここを動きたくないみたい。そういえば僕の拠点には、お風呂が無いな。いっそのこと、拠点に温泉を引こうかな~
よくよく考えてみると、自分が使う訳でもないのに、こういう設備を次々と作っているのはどうしてだろう?
自分でもちょっと不思議な気もするのだけれど、充実してからレイシアを拠点へと招待しようって考えているからなのだろうか? 多分、そうなのだろうな~
とりあえず、依頼の確認だ。
緊急依頼の類は今のところ出ていない。だからのんびりとした普通の依頼を受けることにした。
今のレイシアにとって、普通の依頼は作業のように終わらせるだけって感じになって来ている。まあ選んでいる依頼が討伐系だからっていうこともあるのだろうけれど、拠点魔法陣と部隊召喚を使うことによって、今まであった接近される危険性が、ほぼ無くなった事が大きく影響しているのだろう。僕はそう判断した。
この町に来て三週間程が経った頃、ギルドで緊急依頼を発見した。
内容は、レイミーという比較的小さな蜥蜴を討伐するというものだ。
住処を潰さないと、レイミーの襲撃は収まらないらしく、とにかく数多くの冒険者の手が必要になるという説明が書いてあった。
共闘の依頼だね。ゲームとかでもそういうクエストがあったな。夏休みとかの大型連休に、みんなでイベント戦闘をするとかそういう類の。
レイシアは受付に行って、この依頼を受けていた。多分手間はかかるけれど、危険は少ない依頼だろうと予測できる。
僕らは依頼を受けた後、早速集合場所へと向かった。
集合場所へは乗合馬車が常に出ていて、冒険者がそれにぎゅうぎゅうに詰まって移動しているのがわかる。はっきりいって乗りたくないな。
そんな訳で僕らはユニコーンに乗って、乗合馬車に付いて行った。まあ、ちょっとばかり目立っていたけれど、どうせ共闘したらレイシアの召喚はばれるから、早いか遅いかの差でしかない。
集合場所は、乗合馬車で二時間程走った辺りに設営されていて、ここからまた別のところへと移動して行くようだった。そして到着早々、僕らは現場監督をしていたちょっと怖そうな男に呼ばれる。
「そこのお嬢さん、こっちへ来てくれ」
なんだろうと思いながらも一度ユニコーンは送還して付いて行く。おっさんの前に来るといきなり作戦を説明された。
「まずはこの地図を見てくれ。これからこの山をグルッと囲むように包囲しなくっちゃならんのだが、お前さんは自前の馬があるようだから先行して、ここから一番遠いこの部分へと向かって欲しい。後は確認だが、お前さんは一人で行動しているのか? そして単独で大丈夫なのか?」
「配置については、わかりました。私はいつも一人で行動していたので、問題ないと思います。戦力としては、私は召喚を使うので厳密には一人きりってこともないです」
「なるほど、せわしなくてすまんが準備が出来次第向かってくれ。おそらくレイミーのやつらは直ぐに山を降りて来る、あまり時間がなさそうだ」
「じゃあ、早速向かいます」
僕らはユニコーンを再度呼び出して、早速配置場所に向かって走って行くことにした。予定場所を調査のスキルで確認して、大体ここかなって所に拠点魔法陣を配置する。
「部隊召喚、ウルフ。部隊召喚、グリフォン」
今回は手数がいりそうなので、部隊を二つ呼び出している。
グリフォンの方は一匹だけ大きいのがいて、そいつがリーダーみたいだった。種族もそのままグリフォンリーダーってなっている。
ここは山の斜面にある岩場なので、空を飛べた方が機動力を生かせていいかもしれないという判断で出してみたらしい。狼はレイシアの趣味かも? ゴーレムを出すのは、今回相手が素早いという話なので無しになった。
「召喚、パペット」
本陣の護衛などさせるのに、パペットが呼ばれて来た。こっちは余裕があったら、居合いをさせてみたいのだろうな。
準備が万全になったので、レイシアは料理道具を取り出して、お茶を入れてくつろいでいた。
他の冒険者もまだ来ていなくて、敵もいない寂しい場所でのんびりすること一時間くらい、敵の第一波と思われる集団が僕らの右上の方に来るのを、調査スキルが発見した。
「レイシア、僕らの担当じゃないと思うけど、右の方に敵集団だ」
「せっかく発見できたからグリフォンに行ってもらうね」
「じゃあ、討伐が終わったら討伐部位を回収しないといけないので、こっちに運ぶように指示出しておいて」
「もちろん、それは言っておくよ」
グリフォン達は直ぐに右上の方に飛んで行った。
頭の中に表示される情報を見ていると、なんか戦略ゲームを見ている気分になって来るな。指示だけ出して、その指示の結果だけをこっちで見ているって感じのやつ。
グリフォン達は意外と手間取っているのか、倒して来るのに時間が少しかかった気がする。拠点に帰って来たグリフォン達が、魔法陣の中で休息を取っていた。
多少傷を負っていたのが、みるみると治っていく。
ほー、拠点って凄いな。レイシアはその間に討伐部位を回収していた。
初めは蜥蜴に興味がなくて、あまり意識を向けていなかったのだけれど、やることもなくて回収作業を見てみたら・・・・・・
「ってこれ恐竜じゃんか! レイシア、これは狼だときついと思うぞ」
思いっきり肉食恐竜の小さいやつだった。
「わかった。送還、ウルフ。じゃあ、代わりに何を呼べばいいかな?」
グリフォンでぎりぎりか、正直侮ったな。クインリーが部隊で来てくれれば、オーバーキルできるのだけれどな。
「クインリーの部隊は無理だよな?」
「多分無理」
「だよなー」
肉食獣には肉食獣とか? でも、恐竜は結構強いから並のやつだと、負けるからな。
「アラクネとかわかるか? 下半身が蜘蛛で、上半身人間のやつだけど」
「それ知っているよ。部隊召喚、アラクネ」
うあー、蜘蛛がわらわら出て来たよ・・・・・・
自分で言っておいてなんだけど、あまりいい景色ではなかったな。
ただ僕の知っているやつと、少し違っていて女の上半身じゃなかった、なんか人型に近いってだけで、女性かどうかも怪しいものが乗っていた。一応知能があるのか、独自の言葉を喋っているな。
やっぱりリーダー格の一匹だけ、ちょっと形が違っているのがいる。
他が灰色っぽいのに、そのリーダーは赤い。でもって、レザーアーマーみたいな物を着て槍なんかを持っていた。
ふむ、槍か・・・・・・
作るのにそう時間はかからないかな。そう判断して、工房のゴーレムに槍の作製を発注した。
次の敵が来るまでに間に合ったようで、完成したって知らせがあって早速槍を受け取り、その槍の先に炎属性の魔力をこめる。よし、全ての準備が完成したぞ!
ステータスを見てみると、クイーンアラクネと表示されたリーダーに、その槍を渡す。
おお、気に入ったのかぶんぶん振り回している。
前に持っていた槍は、部下が使っていた。
同じように振り回していたので、これ喜んでいるんじゃなくて、手に馴染ませているのだとわかった。喜んでいると勘違いしたのがちょっと恥ずかしいな。やっぱり意思疎通できない相手は苦手だ・・・・・・
微妙な気分になっていると、周りにはまだ冒険者は来ていないが、敵の第二派がやって来るのがわかった。今度は拠点の左を掠めるような進路で突撃して来ている。
おー、思ったよりも足が速いな、下り坂だから加速しているだけ? まあなんにせよ、アラクネ達が迎え撃ちに行った。糸を吐き出し魔法を唱えて、武器を持っているやつが動けないやつを蹂躙して行く。
「レイシア、右の方にも敵が来ているみたい」
「じゃあ、またグリフォンに行ってもらう」
さっき、ちょっと手間取っていたのが気になったので、少し支援した方がいいなと判断して魔法をかけることにした。
「ちょっと強化する。アタックアップ! いいよ」
「うん」
攻撃力を強化しておいたので、さっきよりは早く倒して来てくれるだろう。
アラクネが戦闘終了する頃、左側からやっと冒険者の一団がやって来るのが見えて来た。その冒険者集団は初め、アラクネの集団を見てギョッとしていたけれど、その中でレイシアがのんびりとお茶を飲んでいる姿を見て、警戒しながらも近付いて来た。
お隣さんが配置についた頃に、右からグリフォンが屍骸を持って帰って来る。それを見ながら、お隣のリーダーらしき人がこっちへやって来た。レイシアはそれを立ち上がって待って出迎える。
「お待たせしてすみません。今回のレイミー討伐に協力する、ビルスっていいます。よろしく」
「私もレイミー討伐に参加している、レイシアっていいます、よろしく」
「うん? 君があの孤高の乙女のレイシアさんか、それは心強い!」
うわー、とうとう噂が追い付いて来たよ!
今後騒がしくなるかもしれないな~。レイシアはさすがに呼び名のことを自分だと理解したようで、微妙な表情を浮かべていた。
「では、お互いがんばりましょう!」
男はそう言い残して、パーティーのところへと帰って行った。
討伐部位の回収をしたレイシアは、なんだか不満そうにもう一度お茶の準備をして、一服していた。
その後、思い出したようにやって来る敵を倒しながら待機していると、右からも冒険者の一団がやって来た。
こっちも、アラクネとグリフォンが固まっているのを見てビクッとしていたけれど、魔法陣の中心でお茶を飲んでいるレイシアを発見して、挨拶をしにやって来た。
「遅れて申し訳ない。ワイクルスという、今回はよろしく頼む」
「レイシアです、こちらこそよろしく」
右から来た男は、簡潔に挨拶を済ましてさっさと帰って行った。
今の人は呼び名とか言わなかったな、知らないのかどうでもよかったのか。まあ、とりあえずは冒険者達の配置も、あらかた終了したみたい。やれやれと思っていると、調査のスキルにまずい状況が映るのがわかった。
「なあレイシア。上のレイミーの住処を担当していた冒険者達、どうも全滅しちゃったみたいなのだが、こういう時ってどうするべきかな」
「全滅したら、どうなるのかな?」
「集合場所にいた怖い顔の人は、襲撃が止まらないとか言っていたよな」
「お隣さんにも、聞いてみた方がいいかな?」
「僕達だけで話しているよりは、いいかもしれないな」
「そうね、ちょっと行って来るよ」
「あいよー」
そういうやり取りをして、左の冒険者達のところへと向かった。右の方は、あまり愛想がよくなかったしね。
「すいません、上のレイミーの巣の討伐に失敗した場合って、どうなるのかわかりますか?」
「レイシアさん。ああ、その場合は本部が確認した後に、別の冒険者を雇って討伐するまでひたすら我慢になるんですよ。上にはクイーンがいて、上級冒険者じゃないと危な過ぎて手が出せないものでね。私らみたいな中級のパーティーは、ここで我慢するしかないですね」
「そうですか、わかりました」
簡単に情報を集めると、直ぐに持ち場に戻る。サボっているとか言われたくないしね。
「いろいろと、面倒そうだな」
「そうね、とりあえずご飯でも食べる?」
「お付き合いしよう!」
こんな状況だけどレイシアはのんきに料理を作り、アラクネやグリフォンにもご飯を配って、たまに左右の討伐を手伝う。
左右の討伐の手伝いっていうのは、夜間もやって来るレイミーの襲撃に対応する為である。
レイシアはソロなので、拠点魔法陣の中で寝ていたのだけれど、やって来る敵には部隊召喚された下僕が対応していた。それでこちらは問題がなかったのだけれど、左右はそうはいかない。
視界が悪い中、篝火を焚いて交代で休憩をしているみたいだったのだけれど、どうしても対応に遅れが出て来る為に、苦戦しがちだったのだ。そこでこちらの下僕達を左右の応援に回していた。
そんな感じで、その日が終わった。
「バグ、おはよう」
「おはようレイシア。疲れとかなさそう?」
「ええ問題ないわ。朝食作るね」
そう言うと、早速レイシアが朝食を作り始めた。
辺りに漂い出した美味しそうな空気に触発されたのが、両隣からお腹の鳴くグゥッて音が聞こえた。
苦笑いしたレイシアは、多めにご飯を作ってお隣さんにお裾分けしていた。まあ、美味しいのだけれど材料は謎素材だから、栄養が取れるものなのか不安ではあるけれどね~
お隣さん達は疑いもしないで、美味しい美味しいと食べていた。それを見てまあいいかって思う。余分な食料なんかないので、どうしても謎食材を使わないと駄目だったからな。まあ肉だけはレイミーから取れたけれど・・・・・・
「さてと、このままずっと状況が変わるのを待ち続けるのも、暇だよね」
「温泉にも入れないしね」
「ああ、それもあったな」
「じゃあ、上に突入?」
「いや、その前に、物事には手順っていうのがあるから、集合場所にいた現場指揮官との話が先かな」
「調査してからとか言われるかもよ」
「言われたら倒して来るので、その後で好きなだけしてくださいって言えばいいよ。言うことを言って行動しないと、面倒事に巻き込まれるかもしれないからね」
「そうしたら移動したらいい」
「まあずっといる訳じゃないし、ある程度ここの温泉が楽しめたら、別の温泉を探せばいいよな。何ならいつでも入れるようにするよ」
お風呂を造ったら、拠点に誘ってもいいかもしれないな。
「なら、さくっと終わらせて温泉に入ろう!」
「おー」
ノリでそう言ってしまった。僕は入らないけれどね。
「召喚、ペガサス」
僕らはお隣にこの場を任せて、現場指揮官のところへ飛んで行った。
グリフォンとアラクネがいるので、何も問題はないだろう。
「失礼します。今回の依頼に参加している者ですが・・・・・・」
「うん? 君は一番遠いところを担当していた冒険者じゃないか。依頼放棄かね?」
ちょっと睨み付けて来たよ。まあ所定の位置にいないと、包囲が崩されかねないから仕方ないのだろうけれどね。
「いえ、上で住処の掃討作戦をしていた冒険者が、昨日全滅したようなのでその報告と、もしよければこれから私が討伐に行ってもいいものかという話をしに来ました」
「何、それは本当かね! 念の為、その情報を知りえた経緯を教えてくれたまえ」
あー、言い訳の打ち合わせを忘れていたよ。
「敵迎撃の為、早期発見用のグリフォンが、見ていたのでわかったと言ってくれ」
僕はレイシアにそう囁いた。軽く頷くと説明を続ける。
「担当場所での迎撃に、グリフォンを使っていたのですが、その子が上で闘っていた冒険者を見ていたみたいです」
「ほう、なるほどまあいいだろう。それで昨日パーティーが全滅したって話だか、それでも一人で大丈夫だと?」
「はい、問題ないと思われます」
「時間も惜しい、口だけではないことを証明して来たまえ」
「それでは、行ってきます」
僕らは、そのままペガサスに乗って山頂へと向かった。
現場に着くと、クイーンレイミーがこちらを発見したらしく、警戒と威嚇をして来る。飛べないから、威嚇以外何もできないしね。小さいレイミー達がその場でジャンプしているのはちょっと可愛かった。
まあ、普通に襲って来るので、安全だからそう思えるだけだけれど。
「それじゃあ行きますか」
「ええ!」
「スパイダーネット」
魔法発動と同時に、地面に降り立つ。
「拠点魔法陣! 召喚 パペット!」
「じゃあ、こっちもパペットを出そうかな」
レイシアの前に、日本刀を持ったパペットが、僕の前にはチェーンソーを持ったパペットと、粉砕機を持ったパペットが出て来る。
「行って!」
レイシアの掛け声で、僕のパペットも一緒に突撃して行った。そして思わず目をそらせる。
レイシアもさすがに目をそらせた。
チェーンソーはやっぱり凶悪だったよ・・・・・・武器にしてはいけない道具だったな・・・・・・
拘束されなかったレイミーとクイーンレイミーが、こっちに襲い掛かって来たけれど、魔法陣に弾かれている。
魔法陣の結界を破る程の力がないなら、僕はこのまま見ていればいいか。後はレイシアに任せよう。さすがに少しばかり魔法陣が明滅しているものの、持ち堪えている感じだな。
「凍て付く刃を、アイスソード」
レイシアは、クイーンレイミーに魔法攻撃を加え、小さいのはパペットに任せることにしたみたいだ。
しばらくその状態が続き、魔法陣をどうしても突破できないと悟ったクイーンレイミーは、パペットを襲い出す。
でも、それはあまりにも無謀だった。反撃に居合い斬りを受けて、あっけなく両断されてしまったレイミーは、程なく全滅した。
戦闘が終了したので、まずはクイーンレイミーの討伐部位などを集めて、現場指揮官の元へと向かった。
「ただいま戻りました」
「早かったな、まだ三時間も経っていないが・・・・・・空を飛べるというのは凄いものだな。では、証拠を見せてもらえるかな?」
レイシアが亜空間から討伐部位を取り出すと、ちょっと亜空間にびっくりした後、討伐部位を確認して頷いた。
「確かに確認した。これで今回の依頼は終了になる。一応念の為、君の名前を聞いてもいいかな?」
「レイシアといいます」
「そうか、後日依頼料に今回の追加報酬を加えて渡すので、ギルドの方に来てくれ。今日のところはこれで帰ってもらっていいぞ」
「わかりました。それでは失礼します」
現場指揮官は、その後冒険者への合図に発光信号みたいなものを打ち上げていた。
次々に上がるそれをみながら、レイシアは下僕を送還して町へと帰って行くのだった。
レイシアが温泉を楽しんでいる間、拠点にお風呂場を設置、そして温泉管理パペットを創造した。
彼の役目は、温泉が枯れるなどした場合別の温泉を探してここの風呂場とリンクさせて、常に温泉を味わえるようにすることである。
なので世界中を旅して回って、温泉を見付けるのが暇な時の彼がする仕事になった。
ついでに鉱石や水晶などの素材の場所も探査のうちにしておいた。
これにより、工房は資材に困らなくなるだろう。そんなに一杯物は作らないだろうけれどね。
やろうと思えば、工場もできちゃうだろうな。段々と整っていく拠点を見て、満足感が湧いて来る。
やっぱり生産は楽しいなと思ったよ。僕は全然作っていないけれどね!




